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暦「火憐ちゃん、ごめん」




2 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:26:14.12 ID:1i2XHQMk0
火憐と月火。

栂の木二中のファイヤーシスターズ。

僕の妹達。

彼女達の事を語るのは少しだけ難しいかもしれない。

何故、と問われても、その質問にすら答えるのは難しい。

だけど、敢えて言わせて貰うと。

言いたく無い、と言うのが正解なのだろうか。

3 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:27:11.63 ID:1i2XHQMk0
昔の思い出なんて物は、時間の経過によって記憶の奥底に封じ込められるのも仕方が無い物だ。

けど、絶対に忘れてはならない思い出もある筈なのだ。

例えば、戦場ヶ原に誘われた初めてのデート。

あの日の夜空を忘れる事は無いだろう。

例えば、八九寺と初めて会った日の出来事。

あいつとのやり取りは今でも僕の日課(実際には毎日会っている訳でも無いが、気持ち的に)である。

例えば、神原の左腕。

大事な後輩、変態ではあるが。

例えば、千石との再会。

形は望まれた物では無かったが、確かにあれは思い出なのだ。

例えば、羽川に助けられた事。

羽川が居なければ、僕は今頃。

例えば、忍との最初の出会い。

背負わなければならない、忘れる事なんて出来ない。
4 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:27:53.33 ID:1i2XHQMk0
と、色々思い出して見た物の、怪異絡みの事が殆どである。 僕の青春って一体なんなのだろう。

まあ、そんな感じで忘れてはならない物と言う事は必ずある。

他にも色々とあるが、思い出していたらキリが無さそうなのでここらで一度、今回の話とは関係無い者の話は辞めよう。

そう、あくまでも今回は僕の妹達、火憐と月火の話だ。

これもまた、忘れてはならない話。

思い出、とは違う話。

付け加えて言うならば、シリアスな話。

蜂に刺された火憐。

不如帰の月火。

そんな二人の妹の、忘れてはならない物語。

正確に言えば、僕が忘れてはいけない物語。
5 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:28:28.54 ID:1i2XHQMk0
その日は何故か、いつもより早く目が覚めた。

夏のせいか、はたまた先日までの戦いのせいか、それとも僕にも規則正しい生活リズムが身に付いたとか。

最後のはねえな。 不規則な生活を普段からしているのに、いきなり規則正しいリズムになれるんだったら誰も苦労なんてしないだろう。

羽川でもあるまい。

いや、そもそも羽川なら不規則な生活なんてしないか。
6 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:32:10.59 ID:1i2XHQMk0
とにかく。

一応理由を付けるとしたら、たまたまと言う事になるのだろう。

それ以外に理由なんて見つからないし、そうするのが理に適っている。

つまり今日、僕は普段より早く目を覚ましたのだ。
7 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:32:46.22 ID:1i2XHQMk0
さて、時計からするといつもより三十分は早く起きているらしい。 どうした物か。

寝起きですぐに勉強、って感じでも無いしなぁ。

いや、これは頭を動かすのが嫌とかでは無く、回らない頭を回しても却って逆効果になるんじゃないか、と言う僕の判断に寄る物だ。

だから勉強が嫌と言う訳では無い、決して。

さてさて、それならば何をしようか?
8 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:33:23.87 ID:1i2XHQMk0
二度寝でもしようか。

時間がある時の二度寝程、気持ちが良い物は中々無い。 だが、それは止めた方がいいか。

いつもなら三十分後には妹達が起こしに来る筈なので、二度寝をしても目覚め方を最悪にするだけで良い案だとは言えないだろう。

ならばどうする?

たまには、妹達を出迎えるのも良いだろう。

とびっきり、優しく。
9 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:33:51.63 ID:1i2XHQMk0
忍「おい、お前様よ」

暦「うわ、起きてたのかよ」

びっくりした、朝から心臓に悪い事をしてくれる吸血鬼だな。

心臓に悪い事をしない吸血鬼、と言うのも変な響きになるか。

なら、やっぱり心臓に悪い事をする吸血鬼。 こっちの方がしっくり来る。

忍「何をくだらない事を考えておるのじゃ」

暦「いやいや、忍も心臓に悪い事をする吸血鬼と心臓に悪い事をしない吸血鬼だったら、前者の方がしっくり来るだろ?」
10 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:34:35.39 ID:1i2XHQMk0
忍「……お前様が何を言っているのか、儂にはちと分からんが」

忍「違うわい。 その今考えてる事より少し前の方じゃ」

少し前? 何か考えていたっけ、僕。

こんな言い方をすると、常に何も考えていないただの馬鹿に見えてしまうだろうから、何か考えていたのだろう。

僕は常に何も考えていないただの馬鹿では無いのだ。

暦「っとすると、羽川の事か!」
11 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:35:48.12 ID:1i2XHQMk0
忍「……わざとやっておるじゃろ」

暦「おいおい忍、僕が人生に割く考え事の内、半分は羽川の事だぜ」

暦「つまり、忍が言っているくだらない事ってのも羽川の確率が五十パーセントなんだよ」

でも、羽川の事をくだらないって、例え忍だとしても許せない事態なんだけど。

忍「妹御の事じゃ」

僕に付き合うのが疲れたのか、忍はとっとと話を詰めてきた。

もう少し付き合ってくれても良いだろうに、付き合いの悪い吸血鬼も居たものだ。

暦「なあ、忍」

忍「なんじゃ、お前様よ」

暦「付き合いの悪い吸血鬼ってどう思う?」
12 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:36:29.82 ID:1i2XHQMk0
僕がそう言うと、忍は凄惨に笑い、こう言った。

忍「一瞬で死ぬか、じっくりと死ぬか、どちらでも好きな方を選んでよいぞ」

どっちにしろ死ぬじゃねえか!
13 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:37:20.72 ID:1i2XHQMk0
閑話休題。

つまり、忍の言う『くだらない事』とは、僕が考えた妹達を出迎える方法の事だろう。

その結論に素早く辿り着き、発言する事でなんとか死ぬのは免れた。

ぶっちゃけ、忍とガチバトルになっても僕が死ぬ事は無いと思うけどな。

暦「それで、どうしてくだらない何て思ったんだ?」

忍「前にも言った様に、お前様の感情の変化は儂に伝わってくるんじゃよ」
14 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:37:51.91 ID:1i2XHQMk0
忍「その感情から察するに『ああ、どうせまたくだらない事を考えておるな』との結論に儂は辿り着いたのじゃ」

暦「随分と失礼な吸血鬼だな」

失礼じゃない吸血鬼と言うのも、面白いけど。

暦「なあ、忍」

忍「失礼じゃない吸血鬼はどう思う。 等と言ったら分かっておるな?」

暦「いやいや、全然そんな事は思ってないよ。 マジマジ」

暦「えっと、つまり」

暦「僕がこれからしようとしてる事は、くだらない事じゃないって事を言いたいんだよ」
15 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:38:18.42 ID:1i2XHQMk0
忍「現在進行形でくだらない事をしておるがの」

忍の口から現在進行形、なんて言葉が出てくる方が個人的には驚きだ。

一体いつ、こいつは学んでいるのだろうか?

忍「まあ、お前様がそこまで言うからには……さぞ、くだらない事では無いのじゃな?」

忍「断言しておったからの、くだらない事では無いと」

忍「それこそ恐らく、妹御達の将来に関わるかもしれん程にな」
16 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:39:40.99 ID:1i2XHQMk0
むむむ。

忍の奴め、無駄にハードルを上げやがった。

忍「ほれ、早く言ってみせよ」

僕の焦りが伝わったのか、忍は嫌らしくにやにやと笑っている。

暦「一応確認しておくけど、もしくだらない事だったらどうするんだ?」

忍「蹴る」

なんだ、それだけか。

今の忍は肉体的には八歳児と変わらないし、それならまあ、くだらない事と思われてもいいよな。
17 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:40:15.08 ID:1i2XHQMk0
暦「起こしに来る妹達を驚かせるんだよ、何か罠を張って」

凄惨とは言えない物の、笑顔を作りながら忍に言った。

直後。 蹴られた。 脛を思いっきり。

暦「いってええええええ!!」

八歳児に蹴られて蹲る僕。 これはこれでありか?

忍「やはりくだらん事じゃったか。 聞いて損したわい」

忍「お詫びにゴールデンチョコレートを三つじゃ!」

なんだよそのお詫び。 というか、僕は、特にお前が不利益を被る事なんてしていないが!
18 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:40:42.36 ID:1i2XHQMk0
忍「それで、具体的にはどう驚かせるのじゃ?」

ノリノリじゃねえか、この吸血鬼。

暦「なんだ忍、手伝ってくれるのか」

忍「手伝うと言うよりは、眺めておる感じじゃな」

暦「そうかよ、まあ期待はしてなかったけどさ」

暦「よし、それじゃあ早速取り掛かるとしよう」

と何か壮大な仕掛けをする様な感じで言ってみたが、僕が取った行動はとても単純な物である。
19 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:41:11.65 ID:1i2XHQMk0
つまり。

クローゼットの中に、閉じ篭る。

忍「こんな所に隠れて、どうするんじゃ?」

暦「どうするって、それだけだよ」

忍「これのどこに驚く要素があるんじゃ、お前様よ」

何を言っているんだ、忍の奴。

驚く要素だらけで、挙げだしたら枚挙に暇が無いではないか!

暦「まず、あの妹達は僕を起こしに来るだろ?」

忍「その前提じゃよ、起こしに来なかったらどうするんじゃ?」

暦「いや、それは無い」

即断。 断言。

忍「……お主、よっぽどじゃな」
20 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:41:41.09 ID:1i2XHQMk0
忍「まあよい、それで起こしに来たとして、その後は?」

分かってないなぁ、こいつ。

暦「考えてもみろよ、忍」

暦「居る筈の兄が居ないんだぜ? それがどれだけの驚き要素に溢れている事か」

暦「多分、あいつらは」

暦「『兄ちゃんがいない!』『お兄ちゃんがいない!』って顔を見合わせるんだ、最初に」

暦「それで、その後は泣き叫びながら家中を捜すんだよ」

暦「そこで僕が颯爽と登場」

暦「『どうしたんだい、火憐ちゃんに月火ちゃん』」

暦「『何か嫌な事でもあったのかい?』って感じで」
21 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:42:14.16 ID:1i2XHQMk0
忍「今のお主、ドむかつくぞい」

ドむかつくってなんだよ。 新しい言葉を作るなよ。

忍「それに、最後の台詞も、あのアロハ小僧を思い出させて、むかつき度が増すのう」

別に、真似した訳じゃないんだけどなぁ。 自然にやった事が忍野に似ていると言われると、少しだけど嫌な気分になってしまう。

別に、忍野が嫌な奴って訳でも……あれ、あるか。

暦「はは、忍ちゃん。 元気良いね」

暦「何か良い事でも-----」

忍「ほれ」
22 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:42:48.01 ID:1i2XHQMk0
暦「いってええええええええええええ!!」

台詞を言う前に蹴るなよ! せめて言い終わってから蹴れよ!

と言うか、ほれってそんな可愛い台詞と同時に出すべき蹴りの速度じゃなかったぞ!

暦「同じ場所を蹴るとは、成長したな……忍」

それに、よくあんな体勢から蹴りを出せたな。

一応言っておくが、僕と忍はクローゼットに押し込まれている形である。

忍「予想以上にくだらんかったわい……もう一人で勝手にやっておれ」

そう言い残すと同時に、影の中へと忍は姿を消していった。

全く、勝手に計画に参加して、勝手にノリノリで、勝手に僕の脛を蹴って、挙句の果てには勝手に寝やがった。
23 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:43:14.30 ID:1i2XHQMk0
ゴールデンチョコレートの数が三つから二つに減っているのにも気付かずに、馬鹿な奴め。

でも、よくよく考えたら奢らされる事が前提になっている時点で、馬鹿な奴は僕の方かもしれない。
24 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:43:44.83 ID:1i2XHQMk0
閑話休題。

妹達を驚かせる為に、未だに僕はクローゼットの中で身を潜めたままだ。

忍との無駄なやり取りもあったせいで、そろそろ丁度良い時間なのでは無いだろうか?

携帯を開き、時刻確認。

あれ? おかしいな。

僕が言っている【おかしい】と言うのは、あまり時間が経過していなかった。 と言う意味ではない。
25 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:44:10.51 ID:1i2XHQMk0
その逆。

【既に妹達が起こしに来る時間から三十分程過ぎていた】

おかしい、携帯の時計が狂っているのか?

いや、それも無い。 先程、部屋に置いてある時計と僕の携帯の時計が指している時間は一緒だった。

厳密に言えば、一分や二分くらいのずれはあったと思うけど、さすがに三十分はずれていなかった筈。

なら、何故?
26 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:45:53.01 ID:1i2XHQMk0
すぐ頭に過ぎったのは、つい先日の事。

暴力陰陽師、影縫余弦。

そもそも、そもそもだ。

例外にしておく、とは言った物の、その言葉のどこに信用性があったのだろうか。

面倒臭いガキに付き纏われない為、嘘を付いた可能性だってある筈じゃないか。

なら、今。

二人は? 僕の妹達は?

月火は言わずもがな、狙われる危険性はかなりある。

そして火憐も、その場に居たとしても、あの陰陽師なら関係無く、やりそうである。

僕が取るべき行動は。
27 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:46:22.47 ID:1i2XHQMk0
暦「火憐ちゃん! 月火ちゃん!」

気付けば、さっきまでの驚かせようと言うわくわく感は、焦燥感に変わっていた。

クローゼットの扉を勢いよく開け、続いて部屋の扉も壊れんばかりの勢いで開く。

階段を駆け下り、二人を捜す。

見当たらない。

両親が居ないのは、恐らく仕事に出ているからだろう。

けど、僕や火憐や月火は、夏休みの真っ最中である。

なのに、見当たらない。
28 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:46:49.44 ID:1i2XHQMk0
と、ここでふと思い付く。

もし、ただ出掛けているだけだとしたら、僕の焦りっぷりは、それはもう滑稽なのではないか。

その思いから、半ば祈りながら玄関へと足を向ける。

二人の靴は---------あった。

つまり、家からは出ていない。

なら、どうして姿が見えないのだろうか。

まさか、まだ寝ているのか?
29 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:47:17.55 ID:1i2XHQMk0
一度降りた階段を上り、火憐と月火の部屋の扉を勢いよく開ける。

ここで、二人が居れば僕はとても安心できたのだが……部屋はもぬけの殻だった。

暦「……くそっ!」

やはり、二人の身に何かがあったのかもしれない。

家の中は全て捜した……よな?

いや、一つだけ、一つだけ捜していない場所がある。

僕は思い出すのと同時、その場所へと足を向けた。
30 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:50:07.48 ID:1i2XHQMk0
気付くべきだった。

『それ』をする前に、僕は気付くベきだったんだ。

その行為を指し示している物的証拠はいくつもあった。

火憐がいつも着ているジャージだとか、月火の部屋着でもある着物とか。

それにもっと早く気付いていたら、こんな事にはならなかったのに。

でも、言い訳をさせてもらうと、そこまで頭が回る状況じゃなかった。

勿論、それは僕だからではなので、この状況に追い込まれているのが、知っている事は知っている羽川であったり、頭の回転が異常に早い月火であったり、そういった奴なら『なあんだ。 そういう事だったのか』で済んだだろう。
31 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:51:18.44 ID:1i2XHQMk0
しかし、僕はその二人では無い。

前置きが少し長くなってしまったが、結論から言うと、火憐と月火は見つかった。

本人達からしてみれば、何をやっているんだこの兄は? との感じだっただろう。

つまりは、火憐と月火は仲良く朝風呂に入っていたのである。
32 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:51:45.74 ID:1i2XHQMk0
以下、回想。

僕が唯一捜していない場所。

阿良々木家の風呂。

脱衣所に入り、風呂場の扉へと手を掛ける。

中の電気は付いていたが、そんな事は気にもせず、勢いよく、僕は扉を開いた。

暦「火憐ちゃん! 月火ちゃん!」
33 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:52:14.20 ID:1i2XHQMk0
すると、目の前には壁が広がっていて……

壁、とは言った物の、冷静に見ればそれは人だった。

もっと冷静に見れば、それは僕の妹だった。

でっかい方の妹、阿良々木火憐だった。

火憐「何しとんじゃ、こらあ!!」

一瞬だけ、ぽかんと効果音が出そうな表情をした火憐は、すぐさま鬼の形相(比喩ではなく、本当に鬼の顔だった)をし、僕の顔面を殴りつける。
34 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:52:42.75 ID:1i2XHQMk0
効果音を付けるとすると、パチンとか、バチンとかでは無く、ドゴン! と言った感じだ。

エクスクラメーションマークが付くほどの、そんな感じの鉄拳制裁である。

僕のせいだと言っても、明らかに手加減無しの攻撃はぶっちゃけかなり痛い。

今すぐにでも泣き出して部屋に閉じこもりたかったが、あくまでも僕は火憐の兄であるので、それは情けなさ過ぎて頑張って堪えた。

暦「よ、良かった……無事で」

僕は薄れ行く意識の中で、最高に格好良い台詞を吐く。

月火「どうみても変態だよ。 お兄ちゃん」

そんな月火の優しい言葉を聞きながら、僕は文字通り意識を失った。
35 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:53:37.57 ID:1i2XHQMk0
回想終わり。

そんなこんなで、現在、僕は自室のベッドへと横たわっている。

一応言っておくが、意識を失っている間に勝手に歩いて自分の部屋のベッドへと横たわったとか、今までのが全て夢だった、なんて事は無い。

最後の情けなのか、正義の心からなのか、火憐と月火が僕を部屋まで運んでくれたのである。

火憐「あははは。 兄ちゃん、死んだんじゃねえかと思ったぜー」

死ぬほどの攻撃を兄に加えるとは、末恐ろしい。

月火「でも、火憐ちゃんのストレートを正面から顔に食らって、何事も無いって凄いよお兄ちゃん! 誇っていいよ!」

妹に顔を殴られる時点で、誇れる気がしない。

と言うか、殴られた時に変な音したし、多分鼻の骨とか折れてたんだろうけどな!

全然何事も無くねえよ!
36 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:54:10.07 ID:1i2XHQMk0
暦「にしても、どうして火憐ちゃんも月火ちゃんも、今日は起こしにこなかったんだ?」

話題を百八十度変える。

このままでは兄の威厳もあったもんじゃないからな。 ナイス方向転換だ。

火憐「んー、あー、あれ?」

最初に口を開いたのは火憐で、その口振りからして、どうにも僕が期待する答えは得られそうに無かった。

暦「月火ちゃん、どうしてだ?」

月火「んー、どうしてだろう?」

暦「どうしてだろうって、僕が聞きたいんだけど」
37 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:54:38.75 ID:1i2XHQMk0
妹が起こしに来なかった理由を問い詰める兄。 責め立てる兄。

我ながら、なんて理不尽な奴なのだろうと思う。

思うだけであって、改めようとは思わないけど。
38 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:55:15.18 ID:1i2XHQMk0
火憐「いやあ、あたしは何となく覚えてたんだけど」

言い訳、では無さそうだ。 どうやら本当になんとなくは覚えていたらしい。

月火「ええ、火憐ちゃん覚えてたの? 私、すっかり忘れてたよ」

月火「と言うか、覚えてたなら言ってよー」

火憐「悪りい悪りい。 でも、いっつも月火ちゃんの方から起こしに行こうーって言うじゃん? だからすっかり忘れてたんだよなぁ」
39 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:57:42.24 ID:1i2XHQMk0
ふむ。

つまり、火憐はなんとなく覚えていて、月火は綺麗さっぱり忘れてた。 と言う事になるのか。

それにしても、火憐がいつもなんとなくでしか覚えていない事が軽くショックである。

暦「ま、いいか」

暦「次から気をつけろよ、我が妹達よ」

随分と上から目線。

火憐は「はーい」と気持ちよく返事はした物の、月火は「なんで上から目線なの? ねえねえ、お兄ちゃん、どうして?」との返事だった。

月火のは返事と言うより、文句と言った方が正しいか。

僕はその返事には返事を返さず、目を瞑って夢の世界へと旅立とうとした。

火憐「おい、寝ようとしてるんじゃねえよ兄ちゃん」

月火「そうだよ、私達の前で堂々と二度寝するなんて、ゴミも同然だよ。 お兄ちゃん」

どうやら、二度寝はやっぱり、不可能である。
40 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/05(金) 14:58:09.34 ID:1i2XHQMk0
僕はこの時、何故、微妙なズレに気付かなかったのか。

気付かないのも無理は無いのかもしれない。

だけど、それでも。

この時に気付けていたら、結末は変わっていただろう。

それが、良い方向か悪い方向か、どちらに行くかは分からないけれども。

別に、この日と限った訳でも無い。

最低でも次の日に気付けていたら、と今更後悔する。

そうすれば、僕の妹達は。

傷を負うことは無かった筈なのに。


火憐リーフ 開始
47 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:12:27.15 ID:4Ue2Nw/k0
朝のやり取りはすっかり頭の隅に追いやり、僕は現在、街中を散歩中である。

いや、散歩中と言うのは語弊がある。 正しくは忍のドーナッツを買いに行く最中だ。

忍「もっと早く歩けんのか」

暦「別に走ってもいいけど、着く前に体力が尽きるから結果的に遅くなるぜ。 それでも

いいのか?」

忍「ならいっそ、吸血鬼化をして……」

こええよ! そんな簡単に血はあげたくねえよ!

暦「とにかく、別にドーナッツは逃げないだろ。 何もそんな焦らなくても」

忍「儂は我慢と言う言葉が嫌いなんじゃ。 今すぐにでも目の前に持ってこんか」
48 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:12:53.98 ID:4Ue2Nw/k0
そりゃ、そうだろうなぁ。

なんといっても、伝説の吸血鬼なのだから。

五百年の中で、多分、我慢なんて一回もした事が無いんじゃないだろうか。

暦「とは言っても、今すぐと言うのは無理だから、後十分くらいは待ってくれよ」

忍「仕方ないのう……ならば、儂はDSでもやっておく事にするかのう」

そう言い残し、伝説の吸血鬼、もとい八歳児の幼女は僕の影の中へと姿を消して行っ

た。

僕の影の中、どんだけ快適空間になっているんだろう。
49 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:13:26.60 ID:4Ue2Nw/k0
まあ、丁度良く一人になれた事だし、先ほど頭の隅に追いやった事を考えて見るか。

朝の出来事、妙な違和感は少しある。

だってそうだろう。

今まで一度だって、例外を除いて朝に起こしに来なかった事等、無いのだから。

火憐も月火も忘れている感じだったけど(火憐は若干覚えていたが)月火が忘れると言う事が妙な違和感だ。

もしかして、僕は知らない内に、あいつらに嫌われる事でもしたのだろうか。
50 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:14:02.13 ID:4Ue2Nw/k0
うーん。

胸は揉んであげてるし、定期的にパンツは見てあげてるし、火憐に至っては歯磨きしてあげてるし。

特に嫌がられそうな事、無いんだけどなぁ。

「何をどう捉えたら、それが嫌がられない原因だと思うんですか。 阿良々木さん」

後ろからそんな声がする。 顔を見なくとも誰か分かる。 間違いない、僕の愛しの。

暦「はちくじいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

八九寺「やめてください。 変態がうつります」

いつにも増して、冷たい八九寺だった。
51 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:14:41.37 ID:4Ue2Nw/k0
暦「と言うかお前、今僕の名前を噛んで無かったよな。 そうかそうか、ついにお前も」

八九寺「アレレ木さん、でしたっけ」

暦「もう手遅れだ。 さっきお前は、しっかりと僕の名前を呼んだんだからな」

八九寺「失礼、噛みました」

しかとだ、僕がなんと言おうといつもの流れに持って行こうとしている。

そのしかとっぷりは見事で、ついつい僕も流されてしまう。

暦「違う、わざとだ」

八九寺「ええ、わざとです」

暦「いつもの流れじゃなかったの!?」
52 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:15:15.27 ID:4Ue2Nw/k0
どうにも、今日の八九寺は僕に対して冷たいようである。

八九寺「それで、アレレ木さん」

暦「もういいよ、アレレ木でいいよ」

八九寺「さっきの言葉を聞く限りですけど、妹さんに嫌われる理由ははっきりしているじゃないですか」

暦「何? 僕のどの行動が問題なんだ」

八九寺「全てです」

全否定かよ!
53 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:15:42.55 ID:4Ue2Nw/k0
暦「いやいや、でもさ」

説明中。 朝からの一連の流れ。

暦「って訳で、その後の態度とかは別に普通だったんだよ」

八九寺「顔を殴られる時点で普通とは掛け離れていると思いますが……」

八九寺「ですけど、理由はなんとなく分かりましたよ」

暦「本当か八九寺! 是非教えてくれ」

八九寺「アレレ木さんはシスコンなので、嫌われて当然かと」

なんだよそれ、僕はシスコンじゃねえぞ。
54 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:16:10.28 ID:4Ue2Nw/k0
それにアレレ木ってまだ続いてるのか。 まさか、一生って事は無いよね。

暦「百歩譲って……いや、千歩譲って僕がシスコンだとしよう」

八九寺「その場合、阿良々木さんは譲られる側と言う事になりますね」

良かった、阿良々木さんに戻った。

いやそうじゃない、譲られる側っておい。

暦「でも、それならもっとド派手に嫌われてもいいんじゃないか? って思うんだ」

八九寺「そこが駄目なんですよ、阿良々木さん」

八九寺「まずはソフトに、次第にハードになっていくんです」
55 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:16:54.28 ID:4Ue2Nw/k0
八九寺「そうですね、例えるなら」

八九寺「一発殴るという行為を一年間繰り返し、ある日を堺にそれが十発に変わる」

八九寺「と言った感じですね」

暦「怖いよ! 僕の妹達はそんなんじゃねえよ!」

八九寺「だって、いきなり十発級の攻撃をしたら、阿良々木さん生きていられないではないですか」

八九寺「ここはそうですね、妹さん達の優しさに感謝するべきですよ」

暦「八九寺さん、八九寺さん、僕何か悪いことしましたっけ」

八九寺「悪いことの塊が何を言っているんですか」
56 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:17:22.30 ID:4Ue2Nw/k0
暦「でもさ、でもさ」

暦「やっぱりそれにしても、前からずっとやっている事だし、いきなりってのは変じゃないか?」

八九寺「真面目に言いますと、それは私には分かりませんよ。 実際に会ったことは無いですしね」

八九寺「ですが、阿良々木さんにこう言うのは少し酷かもしれませんけど」

八九寺「知らずの内に、ストレスや嫌な思いと言うのは、貯まっていく物ですよ」

八九寺はいつになく真剣な顔つきで、僕にそう言った。
57 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:18:17.17 ID:4Ue2Nw/k0
暦「ストレス、ねえ」

八九寺と別れ、本来の目的でもあるミスタードーナッツへと向かう。

真っ先に思い出されるのは、羽川翼。

障り猫。

あいつも、僕が気付かぬ内に、かなりのストレスを溜め込んでいた。

でも、火憐や月火に限って……ストレスねえ。

無い、と断言するのは簡単だけど、とてもそれは出来ない。

羽川の例があるし、案外そういった物は気付かれにくい物なのだ。

気付かれにくいし、気付きにくい。
58 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:20:12.24 ID:4Ue2Nw/k0
暦「帰ったら一回、話して見るかなぁ」

とは思う物の、たかが朝起こしてくれなかっただけで話し合うと言うのは、何だか若干きもい。 我ながら。

火憐だったら多分「妹にいつまでも依存してんじゃねえよ、気持ち悪い兄貴だな」と。

月火だったら多分「何々、お兄ちゃんは私達に起こして貰えなかった事でそんなに悩んでいるの? 仕方ないなぁ、全く」と。

やはり、まだそんな深刻に考えるべき問題じゃないよな、これって。

八九寺にも言われたが、さすがにそこまで行くと、自分でもシスコンなのではと思ってしまう。

断じて、それは無いけれど。
59 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:20:44.72 ID:4Ue2Nw/k0
一旦これらの問題は棚上げしておくことにする。 また明日からは起こしに来てくれるだろうし。

僕が変に考えていたら、逆にあいつらは正義のなんちゃらかんちゃらで絡んでくるに違いない。 いつも通りで居よう。

そう決意をし、ミスタードーナッツへと辿り着く為に、道路の角を曲がる。

丁度目の前に、人が一人。

それは僕が、よく見知ったシルエットだった。

暦「お、戦場ヶ原」

僕の彼女、戦場ヶ原ひたぎ。
60 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:21:15.18 ID:4Ue2Nw/k0
暦「おーい」

手を振りながら声を掛ける。

戦場ヶ原「……?」

そんな僕を不審な目で見つめながら、少しだけ首を傾げていた。

おいおい、彼氏に対してその態度はちょっと酷くないか。

距離は少しずつ縮まっていく。

暦「おい、戦場ヶ原」

目の前まで距離が詰った時、僕はそう声を掛けた。
61 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:21:46.98 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「ええっと、すいません。 どちら様でしょうか」

いつもの戦場ヶ原さんだった。

暦「さすがの僕も、そういきなり来られると心に込み上げてくる物があるんだけど」

戦場ヶ原「それは大変ですね。 それでは失礼」

ああ、そうですね。 失礼しました。

暦「おいこらあああ!」

僕の真横を通り過ぎ、このままでは本当に帰宅しそうな勢いの戦場ヶ原の肩を掴み、その足を無理矢理止める。
62 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:22:25.58 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「あら、これはこれは。 ただの変人かと思えばただの阿良々木くんじゃない」

暦「ただの阿良々木くんってなんだよ、阿良々木くんにただのもただじゃないのもねえよ」

戦場ヶ原「そうね、ただの変人ね。 ごめんなさい」

暦「変人にもただのもただじゃないのもねえからな!」

戦場ヶ原「そう言われればそうね。 ではこうしましょう」

戦場ヶ原「変人の阿良々木くん、こんにちは」

暦「もう変人でいいです」

戦場ヶ原「それで、変人の阿良々木くんはどうしてこんな所に?」

暦「ん、ああ。 忍の奴にドーナッツを奢る約束をしててな、それを買いに行く途中なんだよ」

戦場ヶ原「ふうん。 ロリ奴隷に随分と優しいのね、変人の阿良々木くんったら」

戦場ヶ原「ああ、そうか。 変人だからこそよね。 ごめんなさい」
63 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:22:59.13 ID:4Ue2Nw/k0
暦「言動を見る限り、どう考えてもお前の方が変人だからな」

戦場ヶ原「まさか、そんな事、ありえる訳無いじゃない」

暦「ああ、そうだな、そうですね」

暦「それで、戦場ヶ原は何でこんな所に?」

戦場ヶ原「私がいつ、どこに居ようと、勝手じゃない」

暦「……まあ、そうだな。 プライバシーって奴もあるしな」

戦場ヶ原「野暮用よ、野暮用」

戦場ヶ原「羽川さんに頼まれて、わざわざこんな街の郊外まで届け物を持って行って、今はその帰り道ってくらい野暮用よ」

暦「プライバシーも何もねえな!」
64 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:23:37.78 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「ふふ、それより勉強は捗ってるのかしら?」

暦「ぼちぼちって感じかな」

戦場ヶ原「ぼちぼち? 私と羽川さんが教えてあげているのに、ぼちぼち?」

暦「あ、いえ。 ぼちぼちと言うより、ぶっちぶちって感じです」

戦場ヶ原「そう、ならいいわ」

ぼちぼちとぶっちぶちにどこまでの差があるのか、僕には少し分からない。

まあ、でも、戦場ヶ原がそれで納得したなら良いのだろう。
65 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:24:05.20 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「あらいけない、そろそろ行かないといけないわ」

暦「ん? この後にまだ用事あるのか?」

戦場ヶ原「ええ。 暇人の阿良々木くんとは違って、詰め詰めのスケジュールなのよ、私は」

暦「そりゃあ、ご苦労様です」

そう言い、働き者の戦場ヶ原に敬礼。

戦場ヶ原「……一つ、聞きたいんだけどいいかしら」

暦「僕に答えられる事なら、どうぞ」

戦場ヶ原「阿良々木くんは、ど忘れとかそういうのって、ある?」
66 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:24:49.24 ID:4Ue2Nw/k0
ど忘れ? んー、どうだろうか。

暦「まあ、あるんじゃないか? そう言われると、昨日の夜飯だってすぐに思い出せる自信も無いし」

戦場ヶ原「そう、ならいいわ」

戦場ヶ原「それでは、さようなら。 暇人の阿良々木くん」

戦場ヶ原は最後の最後まで戦場ヶ原だった。
67 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:25:27.20 ID:4Ue2Nw/k0
閑話休題。

こうも知り合いに連続して会っていると、本来の目的を忘れてしまいそうである。

忍には十分だけ待てと言ったが、もう既に三十分くらいは経っているのでは無いだろうか。

暦「忍、起きてるか?」

影に向け、話しかける。

暦「……おーい」

忍「……なんじゃ、お前様なんてもう知らん」

いじけていた。 元怪異殺しの威厳なんて殆ど残っていない程に。
68 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:26:01.98 ID:4Ue2Nw/k0
暦「悪かったって。 ゴールデンチョコレート五個にしてやるから、勘弁してくれないか」

僕がそう言うと、忍は両手の内側を僕に向ける。 降参のポーズの様だ。

暦「降参?」

と、聞くと。

忍「十個じゃ」

と、答えた。

くそう。 今月のお小遣い、もう殆ど残っていないのに。

また月火から巻き上げるか、仕方ない。
69 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:26:30.69 ID:4Ue2Nw/k0
一応誤解があるといけないので、言っておくが、この巻き上げると言うのは、ただ単に借りると言うだけの事である。

普通に『借りる』と使うと、兄として些か情けないので『巻き上げる』と言う表現を使っているのだ。

暦「分かった。 ゴールデンチョコレート十個、それで手打ちだ」

忍「おっけーじゃ! さすがは我が主様、気前がいいのう!」

一瞬にして機嫌は回復していた。

吸血鬼ってのは、機嫌の回復も早いのだろうか。
70 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:27:20.19 ID:4Ue2Nw/k0
ドーナッツを無事に(?)食べ終え、現在は帰宅途中。

話が変わるが、アニメやら漫画やらで、知り合いと連続して会う描写と言うのが結構あるのは分かるだろうか?

見ている側としては「いやいや、そんなのねえから!」と思うのだけれども。

特に何て言うか、友達すらほとんど居ない僕からしてみれば、その数少ない友達に偶然連続で出会う事なんて、それこそ奇跡みたいな物なのだ。

だってそうだろ?

日本の人口は確か一億人程だったと思う。 そこから偶然にも数人と連続して会うだなんて、奇跡以外の何物でも無いんじゃないだろうか。
71 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:27:59.35 ID:4Ue2Nw/k0
日本全国、と言ったら少し大袈裟だったかもしれない。

しかし、町一つの人口としては約一万人程の筈である。

その中から友達に会うにしても、かなりの確率になると言う事だ。 計算は得意じゃないのでどんな確率かは分からないが。

羽川だったらこんな時、ずばっと確率なんて導き出してしまうんだろうな。 いやあ、さすが羽川さん。
72 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:28:28.45 ID:4Ue2Nw/k0
まあ、それでも。

友達になれる程、近くに住んでいる者同士なら、ある程度の確率の上乗せはあるとは思うけど。

とにかく、どうしてこんな話をしたかと言えば、それはもうとても単純な物である。

単純明快。

僕に、その奇跡の様な確率が訪れたからだ。
73 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:28:58.78 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「やあ、阿良々木くん」

忍野メメ。

年中アロハ服のおっさん。

忍の名付け親。

人を見透かした様な奴。

専門家。
74 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:29:51.08 ID:4Ue2Nw/k0
暦「……忍野? どうして」

忍野「まあまあ、積もる話もあるだろうね。 ただどうして居るのかって言われれば-----」

忍野「阿良々木くんなら、何故かは分かるんじゃないかな?」

僕が、何故か知っている?

忍野が戻ってきた理由?

暦「知らねえよ。 何か忘れ物でもしたとか?」

忍野「あはは、まあ、そうだね」

忍野「忘れ物と言えばそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
75 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:30:34.21 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「ただ、僕はいつでも中立さ。 そこのバランスを保つ為なら、そこに僕は居るんだよ」

忍野「分かるかな? 阿良々木くん」

暦「……さあな」

暦「つうか、僕に用事があったのか? それとも僕とは全く関係の無い用事なのか?」

聞いてから気付く。

僕と全く関係の無い用事だとしたら、忍野はわざわざ僕の前に姿を見せなかったんじゃないか、と。
76 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:31:28.79 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「あれ、おかしいな。 てっきり用事があるのは阿良々木くんの方だと思ったんだけど」

忍野「ま、いいや。 阿良々木くんがそう言うなら、そうなんだろうね」

暦「言ってる事が良く分からないぞ、忍野」

僕の方から忍野に用事? そんな物、ある訳無いのに。

むしろ、居ない時の方が用事があったと言うべきだろうに。

忍野「とにかく、さ」

忍野「僕はしばらく、あの学習塾廃墟に居させて貰うから、何か用事が出来たらいつで

もおいで」
77 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:32:09.82 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「出来たら、では無く……思い出したら、なんだけどさ」

忍野はそう言いながら、意味深な笑顔を作る。

暦「分かった。 色々お前と話したい事はあるけど」

暦「今は優先すべき事があるからな、暇な時にでも顔を出すよ」

忍野「そうかい、じゃあ待ってるよ。 暇人の阿良々木くん」

そう言うと、忍野は来た道を戻り、僕の前から姿を消した。

なんだろう、僕はそこまで暇人に見えるのだろうか。
78 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:32:48.03 ID:4Ue2Nw/k0
暦「忍、起きてるか?」

忍「起きておるよ、会話も聞いておった」

暦「……そうか。 なあ、どう思う?」

忍「と言われてものう。 儂にもあいつの考えている事は分からんからのう」

忍野は何を思って、戻ってきたのだろうか。

こうもあっさり戻って来られると、あの別れもなんだか虚しく感じてしまう。

暦「今のが怪異……僕自身が生み出した怪異って可能性は、あるか?」

忍「まあ、そうじゃな……」

忍「人の形を真似る怪異は少なく無いが、今のがそうだとは思えんのう」
79 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/06(土) 14:33:14.54 ID:4Ue2Nw/k0
暦「やけにはっきり言うんだな。 どうしてそう思う?」

忍「怪異は、そこに居ると思うから居るんじゃよ」

忍「お前様は、心のどこかでアロハ小僧に会うのを望んでおったのか?」

暦「それは……無い、かな」

深層心理まで問われると、さすがに自信が無いけど、僕が思うに多分、別段忍野との再会は望んでいなかった筈だ。

忍「じゃろうな。 それならばあやつは怪異では無く」

忍「本物のアロハ小僧、忍野メメじゃよ」


第三話へ 続く
84 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:40:10.41 ID:4LedjiWP0
さておき。

忍野に問い質したい事は山ほどある。

具体的に言えば、貝木の事や影縫さんの事や、戻ってきた事や。

けれども、僕は先程も言ったように、優先すべき事があるのだ。

忍野との話し合いより、優先すべき事柄。

それは恐らく、他の何よりも優先しなきゃいけない事。

言いすぎか。
85 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:41:07.56 ID:4LedjiWP0
つまりは、僕の言っている優先すべき事とは。

月火からお金を『巻き上げる』事である。

忍のせいで、今月のお小遣いもほとんど吹っ飛び、財布はすっからかんである。

すっからかんとは言った物の、小銭は多少入っているのだが、それこそジュースの一本でも買えば文字通りすっからかんになるだろう。

それくらい、すっからかんである。

お金が無ければあんな本やこんな本すら買えない、つまり優先すべき事なのだ。

もし万が一にでも、僕の到着が一分遅れたせいで、月火の財布もすっからかんになっていたら、それこそ一大事だ。
86 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:42:13.84 ID:4LedjiWP0
大事な役目。 月火の財布をすっからかんにするのは、僕の大事な役目だ。

こう言うと聞こえはよくなるが、やっている事は妹からお金を借りようとする兄である。

そんな事を考えながら、やや足早へと自宅へ向かったのが功をなしたのか、気付けば目の前に阿良々木家が。

問題は、二人がファイヤーシスターズ的活動で外出中の場合だろう。

そうすれば僕には打つ手が無くなってしまう。 所謂、詰みの状態である。

この嫌な予感をすぐにでも払拭したく、玄関の扉を僕は開いた。
87 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:43:24.09 ID:4LedjiWP0
第一確認、二人の靴。

火憐の場合は、衝撃を吸収する所か衝撃を跳ね返すと言われている靴なので、見た感じはすぐに分かる。

月火の場合は、あいつは変に洒落ているので、無駄に保有している靴は多い。

つまりはこの場合、火憐の衝撃を吸収する所か衝撃を跳ね返す靴があれば、二人は在宅中と言う事になる。

あの二人、阿良々木火憐と阿良々木月火は良くも悪くも、二人でワンセットなのだ。
88 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:43:58.60 ID:4LedjiWP0
暦「火憐ちゃんの靴、火憐ちゃんの靴」

一応断っておくが、別に火憐の靴が好きなわけでは無い。

暦「お、あったあった」

無事発見。 何事も無く、火憐の靴は存在していた。

つまり、二人は今現在、家の中に居る。

一度、火憐の靴を手に取り、間違いないかを確認する。

念のため。

じっくり三十秒ほど確認し、間違いはどうやら無さそうだった。
89 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:44:34.03 ID:4LedjiWP0
その靴を戻す前に、一度匂いを嗅いで、再度確認。

暦「よし、大丈夫だ。 火憐ちゃんの匂いだ」

一応断っておくが、火憐の匂いを嗅ぎたかった訳では無く、ただの確認である。

確認作業。

証拠の示し合わせ。

と、ここで。

「……兄ちゃん帰ってたのか」

との声が聞こえた。
90 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:45:34.60 ID:4LedjiWP0
状況整理。

まず、声の発信源の特定。

この家の中で、僕の事を『兄ちゃん』と呼ぶ奴は誰か?

両親は共に、僕の事は名前で呼んでくる。 なので除外。

それに、兄ちゃんと言うからには恐らく、僕より年下の存在だ。

つまりは、火憐か月火。 そのどちらかになるだろう。

月火は僕の事を『お兄ちゃん』と呼ぶ。

しかし、さっき聞こえた声からすると、お兄ちゃんでは無く『兄ちゃん』だった。

つまり、月火も除外。
91 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:46:09.93 ID:4LedjiWP0
と、すると。

ゆっくり顔を上げ、声の主を確認する。

分かりきっている事だった。 目の前に居たのは阿良々木火憐。 でっかい方の妹だった。

暦「や、やあ、火憐ちゃん。 ただいま」

火憐「ん、おかえり」

火憐「つうか、玄関で何してんだ?」

暦「玄関? 何を言ってるんだ火憐ちゃん。 家の中に入るには、玄関を通らなければいけないだろ? そんな当たり前の事を言うなんて、どうしたんだい火憐ちゃん」

火憐「いや、あたしは玄関を使わない時あるけど」

マジかよ、じゃあお前、どこから家に入ってるんだよ。
92 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:47:13.17 ID:4LedjiWP0
火憐「二階の窓とか、使うだろ?」

いやいやいや。 そんな当たり前の様に言われると僕がおかしいみたいじゃないか。

むしろ二階の窓から家の中に入るってどんな状況だよ、空き巣かよお前は。

火憐「それより、兄ちゃんは玄関で何をしてるんだ? 見る限りだと、あたしの靴をまじまじと見つめている気がするんだけど」

暦「ん? ああー! これかこれか!」

暦「これはな、つまりは火憐ちゃんを守る為にやっていた事なんだよ」
93 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:47:51.66 ID:4LedjiWP0
火憐「おいおい。 兄ちゃんに守られる程に弱くねえぞ、あたしは」

暦「それでも守りたいって思うのが兄の役目だろ? 火憐ちゃん」

火憐「……まあ、兄ちゃんがそう言うならそうなんだろうけど」

暦「そうそう。 だから靴の匂いを嗅いでいたのも火憐ちゃんを守る為なんだよ」

火憐「え、兄ちゃん。 あたしの靴の匂いを嗅いでいたのか」

失言。 そこまでは見られていなかった。
94 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:49:01.14 ID:4LedjiWP0
暦「ん? ああー! 当たり前だろ、火憐ちゃん!」

暦「世界どこへ行っても、兄は妹を守る為に靴の匂いを嗅いでいる物なんだよ。 知らなかったのかい? 火憐ちゃん」

火憐「それは知らなかった! さっすがあたしの兄ちゃんだぜ」

僕の妹は馬鹿だった。

まあ、そのお陰で助かったんだけどな。

もし、この場に月火でも居たら、弁解の余地なんて絶対に無かった。

あれ、月火? 火憐と常に行動してる筈なんだけど、そう言えば先ほどから姿が見当たらない。
95 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:49:39.13 ID:4LedjiWP0
暦「火憐ちゃん、話は変わるけど、月火ちゃんは?」

僕がそう聞くと、火憐はあからさまに目を背け、小さく言った。

火憐「……しらねー」

余りにも素っ気無く、不審に思ったが戸惑ってしまった僕は、火憐が二階にある自室に向かって行くのを止める事は出来なかった。

暦「どうしたんだ、火憐ちゃんの奴」

とにかく、火憐が知らないと言うのなら、多分月火は家に居ないのかもしれない。

二人でワンセットのあいつらが別々に行動を取っているのは、それは大いに珍しいが……

まあ、あいつらもそろそろ別行動を取るべきだし、何も僕が口を出す事でも無いか。
96 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:50:37.90 ID:4LedjiWP0
月火の事だから、他の友達とでも遊んでいて、一人放置された火憐のご機嫌が斜め、と言った所だろう。

我ながら名推理である。

とは言った物の、いきなり別行動を取らされた火憐が少し、本当にちょびっとだけ可哀想ではあるので、後で久しぶりに遊んでやるか。

まあ、とにかく一度、風呂にでも入りたい気分なのだけれど。

そう思い、リビングへと足を向ける。

二人が別行動を取っているからには、僕の優先すべき事はどうやら達成困難な様である。

月火が遊びに行っていると言う事はつまり、今日辺りにでもあいつの財布はすっからかんになってしまうだろうから。

くそう。 月火の財布をすっからかんにするのは僕の役目であるのに!
97 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:51:03.19 ID:4LedjiWP0
と、思った直後。

目の前に、人影。

僕よりも小さい、人影。

和服に身を包んだ、人影。

月火だった。
98 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:51:45.19 ID:4LedjiWP0
暦「あれ? えーっと、あれ、何でだ」

月火「どうしたのお兄ちゃん。 暑さにやられた? それとも私の可愛さにやられた?」

暦「暑さにやられた」

月火「少しは悩んでよ。 プラチナむかつく」

まだ使ってたのか、それ。

いやいやいやいや、それよりだ。
99 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:52:21.85 ID:4LedjiWP0
暦「つうか、月火ちゃん、家に居たの?」

暦「てっきり、居ない物だと思ってたんだけど」

月火「はい? はいはいはいはい? 何々お兄ちゃん、私が家に居ちゃ駄目なの?」

暦「違う違う、違うから落ち着いてくれ月火ちゃん、とりあえずその手に持っているハンマーを置いてくれ」

月火「じゃあほれ、理由をどうぞ。 くだらない理由だったらこのハンマーで頭をコツンってしちゃうからね」

絶対にコツンじゃなくてゴツンだろ、それ。
100 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:53:23.88 ID:4LedjiWP0
暦「いやさ、さっき火憐ちゃんに会ったんだ。 ああ、家の中でな」

暦「その時に「月火ちゃんは?」って聞いたら「しらねー」って言うからさ、てっきり月火ちゃんは出掛けてる物だと思っていたんだよ」

月火「ふうん? でもさ、お兄ちゃん。 私達が別行動取ると思う?」

暦「思わねーけど。 でもそれなら、火憐ちゃんは教えてくれたって良いだろ? リビングに居るとかさ」

月火「まあ、そうだねぇ。 それにはちゃんとした理由があるんだよ」

暦「そうなのか?」

月火「うん、そうなのだよ」
101 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:53:49.60 ID:4LedjiWP0
暦「……」

月火「……?」

月火「どうしたのお兄ちゃん、黙っちゃって」

暦「その理由を言えよ! 今のは明らかに月火ちゃんが理由を語る流れだったからな!」

月火「もう、分かってないなぁ。 お兄ちゃんは」

月火「乙女の秘密を探るなんて、なってないよ。 なって無さ過ぎて死んだ方がいいよ」

暦「僕の命、大分軽い扱いだよな。 前から思ってるけど」

暦「まあ、そうか……つまり、あれか」

暦「女の子の日って奴か」
102 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:54:21.70 ID:4LedjiWP0
ドスン、と音が聞こえた。 僕の腹の辺りにハンマーがめり込んだ音だった。

暦「な、何するんだよ月火ちゃん……」

月火「普通、それ言わないからね。 私の前だからこれだけで済んでるんだよ? むしろ感謝して欲しいくらいの物だよ」

暦「そ、そりゃ……ありがとう」

妹にハンマーで殴られ、お礼を言う兄の姿がそこにはあった。

月火「それに、そう言う訳じゃないんだよー」

暦「あれ、違うのか?」
103 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:54:58.39 ID:4LedjiWP0
月火「うん、私も良く分からないんだけどさぁ。 お兄ちゃんが家を出て、ちょっと後からなんだけど」

月火「なあんか、機嫌が悪そうなんだよねぇ。 刺々してると言うか、そんな感じ」

よく分からないが、それがつまり、女の子の日って奴じゃないのだろうか。

でも、僕が家から出て少ししてからって事だから、違うのかな?

月火がそう言うなら、多分そう言う事なのだろう。

暦「ふうん? でもさっき会った時は、別に普通だったと思うんだけどなぁ」

暦「月火ちゃんが何かしたんじゃないのか?」
104 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:56:04.18 ID:4LedjiWP0
月火「ないない、あり得ないよ。 お兄ちゃん」

月火「私が火憐ちゃんと喧嘩すると思う? 冗談にもならない冗談だよ。 全くもう」

暦「まあ、確かに、そうだよな」

だとすると、だとするならば。

何があったのだろう、と思ってしまう。

月火にも原因が無く、火憐がそんな原因も無く月火の事を「知らない」等と言う訳も無い。
105 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:56:30.43 ID:4LedjiWP0
ファイヤーシスターズの片割れでもある月火にさえ、分からない原因。

僕にはとても、見等が付く筈が無かった。

暦「あれ、でもお前さ。 さっき理由を知っているみたいな雰囲気出してなかったか?」

月火「うん、それが?」

さぞ当たり前の事の様に、聞き返してくる。

暦「それがってな……知っているなら教えてくれよ、月火ちゃん」

月火「私が言っているのは心当たりまでだよ。 あくまでも予想って訳」

予想、ね。
106 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:56:57.69 ID:4LedjiWP0
暦「それでも良い、教えてくれ」

月火「仕方ないなぁ。 ま、でもお兄ちゃんの頼みだしね、教えてあげよう!」

やけに上から目線だな、このチビ。

月火「と言ってもさ、原因は少なからず……いや、多大にお兄ちゃんにあるんだけどね」

暦「僕に? それなら尚更聞かなくちゃいけないな、その月火ちゃんの予想」

月火「うん、じゃあ語ろう。 語りつくしてあげよう」

月火「私が予想するに、多分火憐ちゃんは」

月火「瑞鳥君に振られたんだよ」
107 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:57:29.01 ID:4LedjiWP0
暦「瑞鳥君? 誰だそれ」

月火「知っているでしょ、お兄ちゃん。 火憐ちゃんの彼氏を居ない物にしないで」

暦「いや、誰だそれ。 知らない知らない。 まず、それは人なのか?」

月火「人だよ、歴とした人だよ。 変態じゃない分、お兄ちゃんより人だよ」

暦「ああ、そうか。 その瑞島君って言うのが人なのは分かった。 後、僕は変態じゃない」

月火「分かり辛い間違え方しないで。 音が出るならまだしも文章なんだから、瑞島君じゃなくて瑞鳥君だよ。 後、お兄ちゃんは変態だよ」

暦「で、その瑞鳥君ってのは誰だ? 月火ちゃんの言葉からするに、どうやら火憐ちゃんのストーカーらしいけど」
108 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:58:18.01 ID:4LedjiWP0
月火「私の発言のどこをどう取ったらそうなるのか、一日掛けて問い質したいよ」

月火「瑞鳥君は火憐ちゃんの彼氏でしょ。 ちなみに私の彼氏は蝋燭沢君ね」

暦「そんなついでで、僕の精神に攻撃を加えるのはやめろ、月火ちゃん」

暦「納得したくないけど、ここは納得しておかないと話が進まないし、渋々納得するよ。 瑞鳥君の事」

暦「それで、その瑞鳥君がどうしたって?」

月火「ほんっとーに、私の話何も聞いてないよね、お兄ちゃん」

月火「その瑞鳥君が、火憐ちゃんの事を振ったんじゃないかって思ってるんだよ。 私はね」

月火「それで火憐ちゃんは機嫌が悪いんだ。 どう? この名推理」
109 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 19:58:55.55 ID:4LedjiWP0
暦「そうか、そう言う事か。 それはそうと月火ちゃん、その瑞鳥君の住所と電話番号を教えてくれ」

月火「両方とも知ってるけど、知ってどうするの?」

暦「僕の火憐ちゃんを傷付けた責任を取らせる。 死と言う形で」

月火「怖いよお兄ちゃん。 主に僕の火憐ちゃんって断言する辺りが恐ろしいよ」

月火「でもさでもさ、お兄ちゃんは火憐ちゃんに彼氏が居る事、納得してなかったんでしょ? なら今回の事は、大きな声で言えないけど、お兄ちゃんにとっては良いお知らせだったんじゃない?」
110 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 20:00:11.94 ID:4LedjiWP0
暦「確かにそうだけど、いや、これ以上無い程に良いお知らせだけど、それとこれとは話が別だ」

暦「火憐ちゃんは僕の妹だ。 泣かせるのは例え誰であっても僕は許さない」

月火「お、今のは少し格好良い台詞だね」

暦「もし瑞鳥君が本当にそんな事をしたら、僕は火憐ちゃんと付き合わなければならない」

月火「今ので台無しだ。 これ以上無いくらい台無しだ。 むしろ台すら無くてただの無しだ」
111 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 20:00:52.45 ID:4LedjiWP0
閑話休題。

暦「それで、月火ちゃんの言いたい事は分かった。 つまり、火憐ちゃんは振られたショックでああなったって言いたいんだな?」

月火「うん、そうだよ」

暦「でも、僕に多大な原因があるって言うのは、どういう意味か教えてくれないか」

月火「言わなきゃ分からないの? 全くもう、これだからお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。 全くもう」

月火「おっぱい揉んだり、キスしたり、歯磨きしたり、押し倒したり、してるからじゃないのかな?」

暦「あ、やっぱりそうか」

月火「自覚あったの!? それが今日一番の驚きだ、月火ちゃん的に」
112 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 20:01:29.09 ID:4LedjiWP0
月火「とにかくさ。 そう言うのがあったから、関係がギスギスしちゃったんじゃないかな?」

なんと、完全に僕のせいじゃないか。 むしろこれ、僕以外の誰にも責任無いじゃないか。

暦「でもさ、歯磨きはまだしも、おっぱい揉んだりキスしたり押し倒したりって月火ちゃんにもやってる事だぜ」

月火「すごい発言だね。 公共の電波じゃとても流せないよそれ」

暦「それなのに、月火ちゃんは別に、蝋燭君とギスギスしたりってのは無いんだろ?」

月火「人の彼氏を勝手に略さないで」

月火「ま、私は分別付くしね。 そこが火憐ちゃんとの違いだよ」

月火「なんだったら、お兄ちゃんが後十人居ても、蝋燭沢君とはギスギスしない自信があるんだよ。 私には」

ただの浮気性じゃないのか、それ。
113 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 20:02:00.66 ID:4LedjiWP0
月火「とにかく、今回の事はお兄ちゃんが原因だよ。 だからほら、ほらほら」

そう言い、月火が僕の背中をぐいぐいと押す。

こう言うと聞こえは良いのかも知れないが、実際はハンマーでぐりぐりと僕の背中を押しているだけである。

暦「え、何々。 家を出て行けって事?」

月火「お兄ちゃんがそうしたいなら、それでもいいけどさ。 その前にやる事あるでしょ?」

月火「悪い事をしたら、まず謝らないと。 言うのと言わないのとじゃ、全然違うんだからさ」

妹に諭されてしまった。

まあ、だけど、言っている事に間違いは無い。

僕は、火憐に謝る必要がありそうなのは確かだから。
114 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/07(日) 20:02:27.75 ID:4LedjiWP0
暦「よし、分かった。 火憐ちゃんにしっかりと謝って、仲直りしてから正式に付き合うよ。 ありがとう月火ちゃん」

月火「突っ込み場所が丸で囲ってある感じだね。 敢えて突っ込まないけど」

月火「とにかくほら、頑張ってね」

よし、やってやろう。

僕も男だ。 取るべき責任はしっかりと取らなければ。

火憐と付き合うのは予想外だったけど、まあいいか。

まあいいか。 で済まされる問題なのかは分からないが、まあいいか。

暦「待ってろよ火憐ちゃん、責任は必ず取ってやるからな!」



第四話へ 続く
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/04/07(日) 21:42:56.64 ID:GA20SlX50
月火ちゃん可愛い
121 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:52:59.08 ID:6FQjVbKd0
暦「火憐ちゃん、許してくれ!」

勢いよく扉を開け、勢いよく土下座。

火憐「あ? 何してんだよ、兄ちゃん」

暦「見ての通りだよ。 火憐ちゃん」

暦「僕のせいでお前が彼氏と別れる事になって、それに僕は責任を感じているんだ」

暦「だから、その責任を取らせてくれ。 火憐ちゃん、僕と付き合おう」

暦「勿論、火憐ちゃんが嫌ならそれまでだ。 僕は大人しくこの家を去るから」

畳み掛ける。 こう見えて、意外と火憐は押しに弱いのだ。
122 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:53:36.70 ID:6FQjVbKd0
火憐「は? うーん?」

火憐「悪りい。 兄ちゃんが何を言ってるのか、さっぱり分からねーぜ」

火憐「でも、まあ兄ちゃんと付き合うってのは悪い話じゃねえな。 にしし」

と火憐は返し、僕に笑顔を向けてくる。

火憐「けど、あたしには彼氏が居るしなぁ。 さすがに浮気はできねえし、兄ちゃんには悪いけど断らせて貰うぜ」
123 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:54:42.63 ID:6FQjVbKd0
暦「ん?」

火憐「ん?」

状況整理。

三十分掛け、僕と火憐は何故こうなったのかを話し合った。

火憐「ってことは、つまり兄ちゃんはさ、あたしが瑞鳥君と別れて、それが機嫌が悪い原因? って思ってたのか?」

暦「うん。 そうだけど……違うのか?」
124 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:55:25.29 ID:6FQjVbKd0
火憐「あははは。 ほんと、兄ちゃんは面白いな。 全然違う、かすりもしてねえよ」

暦「なら、どうして火憐ちゃんは機嫌が悪いんだ? 少なくとも、僕のせいでは無さそうだし」

火憐「ん、ああ。 色々あってな、ちょっと虫の居所が悪かったんだよ」

暦「色々、ね」

暦「お前も色々悩む事ってあるんだなぁ」

火憐「兄ちゃんのそう言う発言が、色々の原因だったりするんだよ」
125 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:57:05.33 ID:6FQjVbKd0
暦「なに? マジかよ。 じゃあやっぱり僕と付き合おう火憐ちゃん」

火憐「兄ちゃんが気を付ければいいだけだろ。 それに実の兄と付き合えるかよ! 今思ったけどさ」

暦「実の兄に処女を捧げようとした奴が何言ってるんだ。 説得力の欠片も無いぞ」

火憐「処女は良いんだよ。 それとこれとは話が別だろ?」

僕がおかしいのだろうか。 何をどう考えても処女の方が重いだろ、それ。

火憐「それはそうとさ、兄ちゃん」

暦「ん?」
126 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:58:12.43 ID:6FQjVbKd0
火憐「虫の居所って言葉、やけに面白いよな」

暦「別に僕はそう思わないけど」

火憐「だって、虫がどこに居ようと関係ねえだろ? なのにそんな些細な事を気にするなんてどんな臆病者だ! って話」

暦「ことわざなんてそんな物だろ。 それを言ったら火憐ちゃん、猫の手も借りたいってことわざも随分な話だとは思わないか?」

暦「だって、実際に猫の手を借りたところで効率が落ちるだけだろ。 あいつら怖いし」

火憐「あたしは怖いとは思わないけどなぁ。 まあでも、効率が落ちるのは間違い無いね」

火憐「そう考えると、随分変な言葉だよな。 ことわざって」

暦「比喩が多いしな。 でも、それが良くもあるって事じゃないか?」
127 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:58:48.77 ID:6FQjVbKd0
火憐「かもな。 それはそうとさ、今ふと思ったんだけど、才色兼備ってのはあたしの為にある言葉だろ」

思った事を言わずには生きていけないのか、こいつは。

少なくとも、その言葉がことわざでは無く、四文字熟語の時点で才は消え去るけどな。

火憐の奴、いつからこんな馬鹿になったんだろうなぁ。

火憐「なんか、兄ちゃんがあたしの事を馬鹿にしている気がするんだけど」
128 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 14:59:29.31 ID:6FQjVbKd0
暦「ん? 僕が火憐ちゃんの事を馬鹿にするだって? 何を言ってるんだよ」

暦「僕が今まで、火憐ちゃんの事を馬鹿にした事あったかい? 生まれてこの方、ただの一度も無いぜ」

火憐「……そうだよな! 兄ちゃんは心にも無い事、言わねえからな!」

良かった、馬鹿で。

暦「しかし火憐ちゃん、才色兼備ってのは頭脳明晰で、容姿端麗でって事だぜ。 分かってるか?」

火憐「勿論分かってるさ」

何だよその疑いなき笑顔は。 火憐ってここまで自分が好きな奴だったのか。 まあ、意外と言えば意外だけど。
129 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:00:18.46 ID:6FQjVbKd0
暦「ま、火憐ちゃんがそう言うなら別にいいけどさ」

火憐「兄ちゃんもそう思うだろ? なあなあ」

暦「お、思うから。 思うから頬擦りやめろよ! 本当にやめて!」

火憐「ちぇっ。 折角の妹からの頬擦りなんだから、もっと喜べよ。 殴るぞ」

気軽に暴力発言するな! もうそれ、脅しの領域だからな!

火憐「にしても、あたしが才色兼備だとすると、兄ちゃんは何になるんだろうな?」
130 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:00:45.88 ID:6FQjVbKd0
まず、火憐が才色兼備かどうかを議論したい。 一分もあれば終わる議論だろうけど。

暦「僕か。 僕は何でもいいさ、そんな称号に拘る男じゃないんでね」

火憐「ふうん。 じゃああたし目線から勝手に決めるけど、いいか?」

良くねえだろ。 たった今、そんな称号には拘らないって言ったけど、火憐に決められるのは良くねえよ。

火憐「そうだな。 うーん」

そんな僕の考えは虚しくも届かず、既に火憐は僕に相応しい名誉ある称号を考え始めていた。
131 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:01:32.64 ID:6FQjVbKd0
火憐「風前の灯かなぁ。 兄ちゃんにぴったりだ」

もう少し悩めよ。 絶対ふと思いついただけだろ。

というか。

暦「え? 何、僕もうすぐ死ぬの?」

暦「つうか、何でまたことわざに戻ってるんだよ。 四文字熟語の流れじゃなかったの?」

火憐「んー? どっちでもいいじゃん」

火憐「それに、火は消える前が一番燃えるだろ? 褒め言葉だぜ、兄ちゃん」

暦「そんな一瞬の輝きの為に僕を殺そうとするんじゃねえよ! しかも、風前の灯にそんな隠された意味なんてねえからな!?」
132 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:03:06.98 ID:6FQjVbKd0
暦「もっと他のにしてくれ。 良い言葉なんて、他にいっぱいあるだろ」

火憐「んだよ、何でも良いって言ったのは兄ちゃんの方だぜ?」

むぐぐ。

確かにそうは言ったけれども、風前の灯って。

火憐「仕方ねえなぁ。 じゃあ他のにすっか」

暦「ああ、そうしてくれ。 火憐ちゃん」

火憐「とは言っても、既に考えてあるんだけどな。 兄ちゃんにぴったりの言葉」

やけに自信たっぷりに、火憐はそう言った。

いや、こいつはいつでも自信の塊みたいな物だけど。

どうせまた、思いつきなんだろうなぁ。
133 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:04:24.90 ID:6FQjVbKd0
暦「ふうん。 あまり期待はせずに聞いてやろう。 その言葉とは?」

火憐「へへへ、兄ちゃんにぴったりの言葉、それは」

火憐「両手に花。 これしかねえな!」

ばーん。 と効果音が付きそうな感じで、火憐は腕組みをしながら、そう僕に宣言をする。

暦「火憐ちゃん、一応聞いてやろう。 仮にも名誉ある言葉を僕に付けてくれたんだしな。 火憐ちゃんが何故、その言葉を僕に付けたのか聞いてやろう」
134 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:05:02.43 ID:6FQjVbKd0
火憐「ん、何だよ兄ちゃん、分からねえのか? 小学生でも分かる理由だぜ」

火憐「あたしと月火ちゃん。 両手に花だろ?」

暦「火憐ちゃんと月火ちゃんの事は分かるよ。 そりゃ、僕の妹達だしな。 でもな火憐ちゃん、それと両手に花って言葉にどう繋がりがあるんだ?」

火憐「物分りの悪い兄ちゃんだな。 あたしと月火ちゃんが花で、それを持ってるの兄ちゃんって訳だよ。 分かったか?」

暦「ごめん、全然分からない。 全く分からない。 むしろその式をどう解けば火憐ちゃんと月火ちゃん=花って答えになるのか教えて欲しい」
135 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:05:32.98 ID:6FQjVbKd0
火憐「あ? あたしと月火ちゃんは花じゃないって言いたいのか? おい」

問い詰められた火憐が出した答えは単純な物だった。

つまりは脅し。 脅迫である。

暦「あ、ああ。 まあさ、火憐ちゃん落ち着けよ。 確かにそうかも知れない。 需要がある層から見れば、確かに僕は両手に花とも言えなくも無いかもしれなくも無い」

背後から首を閉めれらながら、妹のご機嫌を取る兄貴。

火憐「幸せだろ?」

暦「うん。 幸せ。 とてもとても幸せ。 僕って何でこんな幸運なんだろう。 僕一人でこれだけの幸運を使って良いのだろうかって位、幸せだなぁ」
136 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:09:14.02 ID:6FQjVbKd0
こんな、威厳も何も無い兄貴なんて、探してもそうそう居る物じゃないだろうな。 鏡を見れば居るんだろうけど。

火憐「なんか白々しいぞ、兄ちゃん。 おりゃ」

殴られた。 結局肯定しても殴られた。 理不尽だ。

暦「すぐに暴力に訴えるなよ! お前の殴りって、冗談抜きで結構なダメージだからな!」

火憐「ああ、そうだったのか。 それは悪い事をしたよ兄ちゃん、ごめん」

んんん? てっきり、いつものノリで言ったんだけど。 思いの外、申し訳無さそうな顔を火憐がしている。
137 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:10:30.73 ID:6FQjVbKd0
暦「まあ、何もそこまで落ち込まなくても……次から気を付ければいいしな」

火憐「うん。 次からは殴るのは止めるよ。 蹴る」

暦「結局暴力かよ!」

火憐「あはは。 やっぱ、兄ちゃんと話してると楽しいな」

火憐「てか、さっきのあたしが花ってのも冗談だぜ? 一応言っておくけどさ」

火憐「さすがのあたしも、花って感じじゃねえしな」
138 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:11:08.57 ID:6FQjVbKd0
暦「ふうん。 けど、僕的には月火ちゃんの方が花って言葉は似合わないと思うけどな」

火憐「んー? あたしよりもか?」

暦「うん。 だって月火ちゃん、あんな女子女子してるのにあれだぜ。 花っつうより、爆弾だよあれは」

月火に聞かれでもしたら、それこそ爆発しかねない爆弾。

火憐「へえ。 あたしよりも似合わないって事は無いと思うけどな、それでも」

暦「そうか? そうは言っても、火憐ちゃんって意外と女子っぽい所とかあるじゃん」
139 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:11:51.56 ID:6FQjVbKd0
火憐「は? へ? あたしが? 兄ちゃん頭でも打ったのか?」

暦「いや打ってねえけど。 だって、前に月火ちゃんの服を借りてた……火憐ちゃんが勝手に借りてただけだけどさ。 あの時は、結構見た目的には花って感じだったじゃん」

火憐「……なんか、兄ちゃんにそう言われると体がむず痒いな」

暦「なんだよ、褒めてるんだぜ。 火憐ちゃん」

火憐「そうなんだろうけどさ。 うーん。 まあ、そうだな」

火憐「こういう時は、あれだな」

火憐「ありがとう、兄ちゃん」
140 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:12:20.63 ID:6FQjVbKd0
素直な分には、良い妹だよなぁ。 これが多分、僕が月火より火憐の方が花って言葉に相応しいと感じる要因なんだろうな。

火憐「兄ちゃんも、女子女子してて花って言葉、似合うと思うぜ」

ああ、僕の妹は結局馬鹿だった。 つうかこいつ、僕の事を逆に馬鹿にしてるんじゃねえか。 そう考えるとさっきまでの褒め言葉を返して欲しい。 利子付きで。
141 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:13:00.09 ID:6FQjVbKd0
閑話休題。

暦「とりあえずさ、何か僕に出来る事があったら言ってくれよ。 暇じゃなければ手を貸すぜ」

火憐「ふうん? 兄ちゃんがそうやって言うのはかなり珍しいな。 いつもだったら何があっても手伝ってくれないだろ」

火憐「こう言うのはあれだけど、何か裏があるんじゃねえかって思っちゃうぜ」

暦「僕が? まさか。 火憐ちゃんの為なら火の中水の中、いつでも駆けつける兄だぞ? 僕は」

火憐「火の中水の中ね。 なら、兄ちゃん。 一つ頼みがあるんだよ」
142 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:13:31.59 ID:6FQjVbKd0
暦「早速だな。 いいぜ、引き受けてやるよ」

火憐「内容も聞かずにか? 大丈夫かよ、兄ちゃん」

暦「この兄に任せて置け。 とは言っても、月火ちゃんを倒して来いとかは無理だけどな」

火憐「月火ちゃん、そうだな。 月火ちゃんか」

なんだろう。 火憐の出す雰囲気が、少しだけ暗くなった気がする。

しかし、ここまでシリアスな空気が似合わない奴も居ないよな。

火憐「兄ちゃん、あたしの頼みってのはさ。 月火ちゃんの事なんだよ」

暦「月火ちゃん絡みか。 それってやっぱり、火憐ちゃんがさっき言っていた『色々』ってのに含まれているのか?」

火憐「多かれ少なかれ、って感じかな。 勿論、月火ちゃんのせいでは無いと思うけど」
143 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:15:44.93 ID:6FQjVbKd0
月火ちゃんのせいでは無い『と思う』か。

暦「ま、いいさ。 それで月火ちゃん絡みの頼みってのは?」

火憐「ああ、その話だったな。 実はさ、兄ちゃん」

火憐「月火ちゃん、何か悩んでいるっぽいんだよ。 だから、話だけでも聞いてあげてくれないか?」

暦「月火ちゃんもかよ。 ファイヤーシスターズは悩みが多いんだな」

火憐「まあな。 だってそりゃ、正義の味方だぜ!」

あまり関係ないだろ、それ。
144 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:16:12.64 ID:6FQjVbKd0
暦「別にいいけどさ、それこそ火憐ちゃんが聞いてあげた方が良いんじゃないか? 僕と月火ちゃんより、火憐ちゃんと月火ちゃんの方が仲いいだろ?」

火憐「そうか? あたしから見りゃ、兄ちゃんと月火ちゃんってかなり仲良いと思うぜ。 けど、どっちの方が月火ちゃんと仲良いかって言われると……そうだな、あたしの方が良いんだろうけど」

ええー、マジかよ。 今度から気を付けよう。

火憐「でもさ、仲が良いから言えない事ってあるだろ? 変な感じになっても嫌だしさ。 だから兄ちゃん、ここは一つ、頼むぜ」
145 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:16:40.92 ID:6FQjVbKd0
仲が良いから言えない事。

怪異。

吸血鬼。

至極もっともな話だった。

暦「分かった、火憐ちゃん。 その頼み、引き受けるよ」

と、ここで着信。
146 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:17:35.30 ID:6FQjVbKd0
暦「あ、悪い。 出ていいか?」

火憐「確認する事じゃねえだろ。 兄ちゃんの電話を止める権利はあたしにねーよ」

ふうん、そっか。

僕は一度、部屋から出て、電話を取る。

説明。

電話主は戦場ヶ原ひたぎであった。
147 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:18:06.20 ID:6FQjVbKd0
内容はどうやら「暇人の阿良々木くん、どうせ暇でしょ? 暇人なのだから暇よね。 そうと決まれば今から出かけるわよ」との事で。

暦「は? え? 今から? 何をしにどこに?」と聞き返すと。

「羽川さん絡みよ。 それに」と言い、少しの間があって、戦場ヶ原は。







「忍野さん絡みでもあるわ」と言った。
148 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:19:07.38 ID:6FQjVbKd0
暦「火憐ちゃん、悪い」

部屋に戻り、開口一番、僕は火憐にそう言った。

火憐「ん? 別に話の途中で電話を取ったくらいで、あたしは怒るほど短気じゃねえぞ。 月火ちゃんでもあるまいし」

ひと言余計とはこの事か。 間違えても月火ちゃんの前では言わない方が良い台詞である。

暦「いや、まあそれも悪いとは思ってるけど。 そうじゃないんだ」

暦「火憐ちゃんの頼み、明日でもいいか? 少し用事が入っちまった」
149 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:20:10.36 ID:6FQjVbKd0
火憐「ん、頼み? ああ、月火ちゃんの事か」

火憐「いいぜ、お願いしてるのはあたしの方だしな。 兄ちゃんには断る権利もある訳だし」

そうは言ってもな、お前。 断ったら間違い無く暴力振るうだろ。 お前の攻撃、結構洒落にならないからな。

暦「断らねえよ。 僕が断ると思うか?」

暴力を振るわれても、振るわれなくても、結局は断らないんだけれども。

火憐「あはは。 そうだな、兄ちゃんにもしっかりと正義の血は流れているんだしな」

嫌な血だな、おい。 それに、僕のは正義の血なんかじゃない。 僕に流れているのは。

ただの、吸血鬼の血だ。
150 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:21:16.71 ID:6FQjVbKd0
暦「悪い。 それじゃあちょっくら出掛けてくるよ」

火憐「おう。 気を付けてなー」

との言葉を受け、扉を閉める。

正確に言えば、閉めようとした。

もっと正確に言えば、閉まる直前。

火憐「……大丈夫だよな、多分」

との声が、聞こえた気がした。
151 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:22:04.12 ID:6FQjVbKd0
何か言ったか? と聞く事も出来ただろう。 しかし、生憎、僕にそこまで時間的余裕は無かったのだ。

なんといったって、あの忍野が僕と羽川と、それに戦場ヶ原まで呼び出すなんて、多分只事では無いのだから。

今までに一度も無かったパターン。 だからこその危機感。

だけれども。
152 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/08(月) 15:23:17.88 ID:6FQjVbKd0
この時、本当に僕が警戒しなければいけない事は別にあったのだ。

他にも、一度も無かったパターンがあったのに。

気付かなかった。

気付けなかった。

気付こうとしなかった。

誰に何て言われようとも、これは確実に僕の責任である。

今だから言えるけれど、その時の僕に、今の僕はこう言いたい。

「本当に馬鹿なのはお前だよ。 阿良々木暦」

第五話へ 続く
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/04/08(月) 22:06:20.99 ID:zmApaRON0
阿良々木さん相変わらずの妹LOVEだな
だがそこがいい
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/09(火) 00:14:09.31 ID:zBpkD7uxO
話が動き出したね。
これは期待をせざるを得ない。
乙。
160 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:24:43.95 ID:XFcid8lQ0
忍野「やあ、久しぶりだ。 委員長ちゃんにツンデレちゃん」

忍野「阿良々木くんはさっき会ったから、さっき振りか」

僕と戦場ヶ原と羽川。 一度集まった僕達は、特に会話も無く、忍野の元へと向かった。

そして今、目の前には僕が知っている忍野メメが居る。

暦「忍野、何か用事があって集めたんだろ? 一体何の用事だよ。 一応、僕にもやらなきゃいけない事があるんだけど」

忍野「はは。 気が早いなぁ、阿良々木くんは。 そこら辺、変わらないよねぇ」

忍野「まあ、いいけどさ。 それじゃあ阿良々木くんのお望みどおり、用件に入るとしようか」
161 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:25:23.40 ID:XFcid8lQ0
忍野「もっとも、委員長ちゃんは大体分かってるんじゃないかな? 君は頭良いしね、阿良々木くんと違ってさ」

余計なひと言である。

戦場ヶ原「羽川さんが大体分かっている? それは本当なの、羽川さん」

と、戦場ヶ原の問い。

羽川「うん。 大体、だけどね。 そんな難しい事では無いよ」

暦「悪い、僕には皆目見当も付かないんだけど」
162 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:25:49.86 ID:XFcid8lQ0
忍野「そりゃそうだ。 阿良々木くんと委員長ちゃんじゃ頭の出来が違うしね。 でも、だからと言って阿良々木くん、何も思いつめる事は無いさ。 安心してくれ」

暦「忍野、ちょっと黙ってろ」

暦「それで、羽川。 その大体ってのは何だ?」

羽川「繋げるだけだよ。 まず第一に」

羽川「忍野さんが、何故ここに戻ってきたのか。 だね」

何故、と聞かれても。

僕は忍野じゃあるまいし、あいつの考えている事なんて分かる訳が無い。 いつだって。
163 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:26:16.96 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「……なるほど、そう言う事ね。 思ったより厄介な事なのかしら」

どうやら、戦場ヶ原にはその『大体』と言う物が何か分かった様である。

僕の頭の回転が遅いってのもあるだろうけど、それでもこの二人と一緒に居ると、どうにも僕は惨めで仕方ない。

戦場ヶ原「あら、どうしたの阿良々木くん。 そんな惨めな顔をして」

その考えを読んだ様に、戦場ヶ原はとても楽しそうな顔で、そう言った。
164 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:26:46.43 ID:XFcid8lQ0
暦「そこまで惨めな顔はしてねえよ」

戦場ヶ原「それは失礼。 元々だったわね」

暦「お前の言葉は殆どが余計な言葉だよな!」

戦場ヶ原「では、そんな惨めな阿良々木くんに優しい優しい私が教えてあげるわ」

戦場ヶ原「ヒントその壱・何故、忍野さんは私達を集めたのか」

暦「何故、って……忍野じゃないんだから、分からないだろ」

戦場ヶ原「まあ、それはそうね。 もし忍野さんがとんでもない変態だったなら、私達を監禁する為に集めたのかもしれないわね」

戦場ヶ原「それでも、阿良々木くんを呼んだのは趣味が悪すぎると言う事になるけれど……」

暦「もう何も言いません。 続けてください」
165 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:27:15.34 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「ふふ。 それじゃあヒントその弐・忍野さんは何故戻ってきたのか。 これはさっき羽川さんも言っていたわね」

忍野が戻ってきた理由、それと忍野が僕達を集めた理由。 つまり、その二つは繋がっていると言う事か。

暦「でも、それなら別にわざわざ集めなくても良かったんじゃないか? 僕と忍野は昼間に会っているんだし。 なあ、忍野」

と忍野に聞いたが。

忍野「……」

話す気は無い様だった。
166 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:27:46.32 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「それには何か理由があるんでしょうね。 それについては私も分からないわ。 羽川さんもよね?」

羽川「だね。 それは多分、本当の所を知っているのは忍野さんだけなんじゃないかな」

暦「ふうん。 そうか」

戦場ヶ原「それで、どう? そろそろ頭の回転が悪い阿良々木くんにでも分かったんじゃないかしら?」

暦「悪いな。 頭の回転が悪すぎて、全然分からない」

戦場ヶ原「だと思ったわ。 そんな阿良々木くんに、ヒントその参」

戦場ヶ原「忍野さんは、何の専門家?」
167 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:28:17.16 ID:XFcid8lQ0






-------怪異。






170 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:30:02.11 ID:XFcid8lQ0
暦「そう、か。 そう言う事か」

暦「忍野が戻ってきた理由。 僕達を集めた理由」

つまりは、そう言う事なのだろう。

暦「忍野、話してくれ。 今、何が起きているんだ?」

忍野「お。 やっと喋っていいのかな。 黙れって言われたから黙ってたんだけど、実際黙るって結構辛いよねぇ」

忍野「その分、忍ちゃんは尊敬するよ。 まあでも、今は随分とお喋りになってるみたいだけどさ」
171 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:30:31.07 ID:XFcid8lQ0
一体、どこからそんな情報を仕入れて来るんだよ。 お前は。

忍野の前で忍が喋った事なんて、一回も無い筈だぞ。 それこそ、あのゴールデンウィークの時以来。

忍野「それじゃあ本題に入るけど、いいかな」

戦場ヶ原「はい。 むしろこのまま本題に入らないまま解散するかと思ったくらいですから」

どんな集合だよ。 ただの嫌がらせじゃねえか、それ。

忍野「っは。 ツンデレちゃんは相変わらずだね。 まあいいんだけど」

忍野「それじゃあ本題。 この町が危ない」
172 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:31:00.29 ID:XFcid8lQ0
と、忍野は口調を変える事無く、そう言った。

暦「この町が危ない……? どういう意味だ、忍野」

忍野「そのままの意味さ。 とは言っても、さすがにこれは説明しないとね。 順を追って話すよ」

忍野「まず、この町に忍ちゃんがやって来て、ここら辺一帯が不安定なのは知ってるよね? さすがにそこから説明は面倒だし、知っていると思って続けるよ」

忍野「それが恐らくは原因だと思う。 んで、そのせいで呼び出しちゃったんだよ」

暦「呼び出したって、何をだ?」

忍野「怪異さ。 それも、とびっきり性質の悪い奴でね」
173 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:32:50.98 ID:XFcid8lQ0
本当の所、忍野にはここで、とてつもなくくだらない事を言って欲しかった。

関わらないのなら、関わらない方が良い。 それが、怪異。

結局また、怪異か。 それに、とびっきり性質の悪い奴と来た物だ。

忍野「それと、ああ。 その前に、さっき阿良々木くんが言っていた事の説明をしようかな」

忍野「ええっと、何だっけ。 何で昼間会った時に、説明しなかったか。 だっけ?」

忍野「簡単な話さ。 その時はまだ、問題視するレベルでは無かった」

忍野「とは言っても、厄介なのには変わり無いからね。 今回のはバランスを著しく狂わせる。 そんな怪異さ」

忍野「だからこうして、戻ってきたって訳だよ。 分かってくれたかな?」

忍野「そして今、早く解決しないと、ちょっとマズイ事になりそうなんだ。 だから君達を呼んだって事さ」
174 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:33:24.32 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「なるほど」

忍野の言葉を受け、戦場ヶ原が納得した様子で首を縦に振っている。

戦場ヶ原「つまり、その怪異を殺す為に、私達にも手伝えって事ね」

そう言う事か。 なるほど、それなら忍野が戻ってきた理由も、僕達を呼び出した理由も納得行く。

暦「ま、忍野には恩があるしな……手伝える事があるなら、手伝うよ」

僕がそう言うと、忍野は嫌らしく笑い、口を開く。
175 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:33:57.42 ID:XFcid8lQ0
忍野「おいおい、ツンデレちゃんに阿良々木くん。 何を言ってるんだい? そんな元気良さそうにさ」

忍野「何かいいことでもあったのかい?」

戦場ヶ原「どういう意味ですか。 私達はあなたの……忍野さんの手伝いをするから、集められたんじゃないんですか?」

忍野「うん。 そうだよ。 それは間違い無い」

忍野「でもさ。 君達、勘違いしてるんじゃないかな」

暦「勘違い? どういう事だよ、忍野」

忍野「だって、君達がする手伝いってのはね。 僕に情報を与える役目って所なんだから」
176 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:34:25.54 ID:XFcid8lQ0
暦「情報を与える? 僕達はそんな、与えられる情報なんて持っていないぞ」

忍野「今はまだ、そうかもね。 ただ、簡単な事だよ」

忍野「普通に生活して、普通に遊んで、ああ。 阿良々木くんは受験勉強中だっけ? なら前者の二つは無理か」

忍野「ま、阿良々木くんは除くとしてさ。 その中で何か『違和感』を感じる事があったら、教えてくれればいいんだよ。 それ以上でもそれ以下でも無い」

羽川「で、でも。 私達は怪異を知っています。 出会っています。 他にも、何か出来る事があるんじゃないですか?」

忍野「無いよ。 一つも無い」
177 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:34:55.63 ID:XFcid8lQ0
暦「なら、何だよ。 僕達は忍野とお喋りする為に頑張れって言いたいのか?」

忍野「お喋り、ね。 面白い表現だなぁ。 やっぱ、阿良々木くんは面白いよ」

忍野「けどさ、もしかして阿良々木くん。 いや、ツンデレちゃんや委員長ちゃんも、かな?」

忍野「僕達全員で協力して、その怪異を倒すか殺すか消すか。 そう言う風に考えていたのかい?」

忍野「だとしたら、そうだね。 そんな君達に僕はこう言うだろう」

忍野「自惚れるなよ」

忍野「ってね」
178 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:35:30.60 ID:XFcid8lQ0
暦「別に、そんなつもりはねえよ。 ただ、僕達はもっと手伝える事があるんじゃないかって思ってるだけだ」

忍野「それが自惚れてるって言うんだよ。 阿良々木くん」

忍野「君達はただの一般人だ。 まあ、阿良々木くんは中途半端に人間って形になるんだけど」

横で、戦場ヶ原の視線の鋭さが増した気がした。

忍野「それでも、今回はそれだけなんだよ。 君達に出来る事は」

忍野「まあ、もっとも。 僕は君達の意思を止める権利は無いけどさ」

忍野「でも。 これだけは言っておくけど、君達は死にたいのかい?」
179 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:36:07.68 ID:XFcid8lQ0
そんな訳、あるか。

死にたくて死にたくて生きている奴なんて、居る訳無い。

それこそ、忍の奴だって、吸血鬼時代……最後は僕に助けを求めた。

皆、生きたくて生きているんだ。

忍野「返答が無いって事は、違うと受け取るよ」

忍野「それならこれが最後だ、よく聞いておいてくれよ」

忍野「何か『違和感』があったら僕に報告する事。 これは些細な事でも構わない」

忍野「次に、君達は多分、出会う事は無いと思うけど、もし会ってしまったら絶対に近づかない事。 死にたいなら別だけど」
180 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:36:41.01 ID:XFcid8lQ0
忍野「それと最後。 これはツンデレちゃんや委員長ちゃんじゃなくて、阿良々木くんに対して言っておく言葉だ」

忍野「阿良々木くん、君さ。 かなりヤバイよ」

最後に忍野は、いつもの様に笑いながら、僕にそう言ったのだった。
181 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:37:10.12 ID:XFcid8lQ0
その後、戦場ヶ原と羽川は先に帰らされ、僕は一人、忍野に呼び止められる事となった。

もっとも、戦場ヶ原は僕を連れ戻そうと、必死に忍野と言い争いをしていたけれど(とは言っても、忍野の性格からして、戦場ヶ原が言い合いで勝てるとは思えなかった)
182 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:37:42.79 ID:XFcid8lQ0
そして忍野に色々と質問をされ、僕の方も色々と質問をして。

現在はベッドに横たわっている。

勿論、あの廃墟のベッド(ベッドとは名ばかりで、実際は机を繋げただけ)では無く、正式な、ちゃんとした阿良々木家のベッドである。

暦「にしても、あいつは説明不足にも程があるよな。 毎回毎回」

忍「あの小僧にも小僧なりの考えがあるのじゃろ。 儂にはさっぱりじゃがな」

暦「考えか。 まあ、そうなんだろけどさ」

暦「でも、忍野が教えてくれたのって、結局は僕に何かが起きるかもしれないって事だろ? その何かさえ分からないと」

忍「分かった所でどうこう出来るとは思えんがのう。 それこそ、結果が出てからじゃろ」

暦「そっか。 まあ、忍野にすら何が起こるか分からない程の物だし、忍の言うとおりだな」

暦「分かった所で、僕達の力じゃどうこう出来る物では無い。 その通りだ」
183 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:38:17.71 ID:XFcid8lQ0
以下、回想。

暦「それで、僕がヤバイってのはどういう意味なんだよ。 戦場ヶ原達を先に帰らせて……余計、心配掛けるんじゃないか?」

忍野「かもね。 けどそれで良いんだよ。 そっちの方が阿良々木くんも嬉しいだろ? 心配して貰えるなんてさ」

暦「んな訳ねえだろ。 心配させたく無いんだよ、僕は」

忍野「ははは。 本当に優しいよね、阿良々木くんは」

暦「話を戻すぞ、忍野。 それで、僕に何が起きるんだ?」

忍野「阿良々木くんの方から話を逸らしたのに、酷い話だなぁ。 全く」

忍野「ま、いいんだけどさ。 それじゃあ二人っきりになれたし、本題に入ろうか」
184 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:38:47.87 ID:XFcid8lQ0
忍野「ああ、正確に言えば、二人と一匹かな。 それこそどっちでも良いけど」

と忍野は言い、笑って僕に続ける。

忍野「ぶっちゃけて言うと……何がどうヤバイのかは分からないんだよ」

暦「……は?」

忍野「ただ、なんとなく嫌な空気を阿良々木くんが纏ってるだけって話さ。 自覚は……無いか。 その調子じゃ」

暦「別に、僕はいつも通りだぜ。 忍もいつも通りだ」

忍野「まあ、怪異なんて気付かなければそれまでだし、それもそれで良いんだろうけどさ。 けど、今回は話が別だ」
185 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:39:14.64 ID:XFcid8lQ0
暦「……どういう意味だ。 何が起きてるか知ってるんじゃないか? 忍野」

忍野「いやいや、知らないよ。 だけどね、阿良々木くん」

忍野「嫌な予感ってのは大体当たるんだよ。 特に僕の場合はさ」

忍野「今回はそんなパターンだ。 だから阿良々木くんに警告しているんだよ」

警告。

忍野が言うと、確かに僕にとってはそれはもう、かなり重大な物に聞こえた。
186 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:40:21.51 ID:XFcid8lQ0
忍野「巻き込むのは好きじゃないんだけどなぁ。 本当は阿良々木くんや委員長ちゃん、ツンデレちゃんが何も知らない内に終わってるのが一番だったんだけど」

忍野「まあ、そうもうまくは行かないらしい」

暦「なるほど。 頭の回転が悪い僕でも、大体の事情は分かったよ」

暦「それで、僕にどうしろって言うんだ? 何に気を付ければいけないのか分からないのに、ただヤバイってだけ言われても、嫌がらせとしか思えないんだけど」

忍野「ん? ただの嫌がらせだよ。 阿良々木くん」

暦「……」

忍野「ははは。 そんな怖い顔しないでくれよ。 冗談に決まってるじゃないか」

忍野「さっきも言った様に、阿良々木くんは何か気付いた事があったら教えてくれればいい。 それだけさ」

忍野「本当に些細な事で構わない。 いつもと違う事を教えてくれればいい」
187 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:41:28.43 ID:XFcid8lQ0
いつもと違う事。

暦「……そう言われると、二つ気になる事があるんだ」

忍野「ふうん。 何かな?」

暦「まず、忍野。 お前が戻ってきた事だよ。 それがいつもと違うパターン」

忍野「あー。 確かにそう言われればそうだ。 お見事だよ阿良々木くん。 まあ、それは特に問題では無いんだけど」

忍野「僕は問題を解決しに来た側だぜ? まさかその僕が怪異だって言いたいのかい。 阿良々木くんは」

暦「そうとは言ってねえよ。 忍野がバランスを保持する為に来た事は分かっているさ」
188 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:42:03.79 ID:XFcid8lQ0
忍野「そうかいそうかい。 ま、そうなんだけどね。 んじゃあその事は解決したとして、もう一つはなんだい?」

暦「まあ、これは別に気にする事でも無いだろうしさ。 ただ、いつもと違うっちゃ違うんだけど」

暦「毎朝起こしに来る妹達が、起こしに来てくれないんだよ」

忍野「そりゃ、大変だ。 嫌われちゃったのかい」

忍野「と言うか阿良々木くん。 朝くらい自分で起きなよ。 もしかしてシスコンなのかな、君は」

暦「シスコンでは無い。 だから言ったろ、別に気にする事でも無いって」
189 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/09(火) 14:42:29.94 ID:XFcid8lQ0
忍野「そうでもない。 些細な事で良いんだよ。 それはそうと阿良々木くん」

忍野「阿良々木くんにとってさ、その妹ちゃん達が起こしに来ないってのは、それほど異常な事なのかい?」

暦「そうじゃなきゃ、わざわざ言わない。 一応、今まで無かった事だしな」

忍野「……そうかい。 よく分かったよ、阿良々木くん」

暦「本当にこんな事で良いのかよ。 もし妹達が起こしに来ないのが怪異の仕業だったら、それこそ性質の悪い怪異ってのは納得だ」

忍野「はは。 僕には阿良々木くんを更正させる怪異と思えるけどな」

暦「ほっとけ」

回想終わり。


第六話へ 続く
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/09(火) 16:23:11.01 ID:uWaoMFSuo
乙乙!

グイグイ引き込まれる
196 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:07:02.47 ID:LcnCiymQ0
朝、目が覚める。

どうやら、今日も自然と起きれたらしい。

少しだけ期待しながら時計に目を移すと、妹達が起こしに来る時間はとっくに過ぎていた。

暦「……今日もか」

だが、今思えば。 あいつらはあいつらで悩んでいる事があるらしいし、それを考えると昨日と今日、起こしに来なかったのは納得できる。 とても、こんな物が怪異の所為だとは思えないし。

火憐の問題や月火の問題は、今日中に解決できるだろうか。 とは言っても、内容すらまだ聞いていないし、なんとかするとも言えないけれど。
197 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:07:43.74 ID:LcnCiymQ0
というか、今までこんな風になった事は無かったと言うのもあり、僕もどうすれば良いのか分からないってのが正直な所なんだけどな。

とりあえず、でっかい妹……火憐とは昨日話したので、今日は小さい方の妹、月火と話さなければなるまい。

昨日の朝は随分と慌てたせいもあって、朝から大分手痛い攻撃を喰らってしまったからな。

だが、今日は違う。 妹達が起こしに来ない理由も分かってるから、二日連続の失敗等、しない予定である。

あくまでも予定。 念の為。
198 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:08:10.95 ID:LcnCiymQ0
思い立ったが吉日。 まあ、火憐程の行動力は僕に無いので、大分ゆっくりした動作だったかもしれない。

暦「おーい。 月火ちゃん居るかー?」

階段を降りながら、月火の名前を呼ぶ。

少し待ってみたが、返事は無かった。

また風呂にでも入っているのだろうか?

一応の確認、玄関の靴。

暦「あれ、おかしいな」

一足見当たらない。 月火の靴は多分あるのだろうけれど(何足かあると言っても、そんなに大量では無いので、一応は把握しているつもりだ)火憐の靴が見当たらなかった。
199 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:09:19.58 ID:LcnCiymQ0
うーん。 どうした物か。

と言うか、昨日との逆パターン(って言っても、実際には二人とも家に居たんだけどな)

月火が家に居て火憐が出掛けているって、あいつらが変な事に首を突っ込んでいるパターンじゃねえか。 本格的に厄介だぞ、それ。

とにかく、やはり一度、月火とは話す必要がありそうだ。

家には居るっぽいし、まずはどこから探そうか。

と考えた所で、リビングへと向かう月火の姿が見えた。
200 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:09:50.74 ID:LcnCiymQ0
なんだよあいつ、さっき呼んだのが聞こえてなかったのか? 風呂に入っていた訳でも無さそうだし。

その月火の後を追う形で、僕もリビングへと入っていく。

いつもなら、ソファーにだらしなく寝そべっている月火だが、今日は意外にも、ちゃんと座っていた。

と言うか、やけに静かだな、あいつ。

一人でも騒がしい奴なのに。

暦「おーい。 月火ちゃん」

少々離れた位置から声を掛けてみる。

が、無反応。
201 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:10:17.96 ID:LcnCiymQ0
何か考え事か? 似合わない似合わない。 柄にも無く、神妙な顔付きなんてしちゃって。

とは言っても、悩み事ね。 あいつの抱えてる悩み事ってなんだろうな。

僕が想像できる範囲だと、良い服が無いとか、後はそうだな……僕に構ってもらえないとかだろうか。

んー。 それにしてもだけど、こう、大人しい月火ってのも中々に珍しい。

表情もなんか、深刻そうと言うか、悩んでいると言うか、そんな感じ。

姿勢は正しいし。 正直な所、切り取った絵みたいな雰囲気だ。
202 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:10:43.82 ID:LcnCiymQ0
あれ、でもこれってさ。 いつもがだらしないと言うか、うるさいと言うか、そんな感じだからそう思うってだけの話なのか。

なんだよ、僕の褒め言葉を今すぐ返しやがれ、月火の奴め。

と、理不尽な怒りを月火にぶつけた所で(ぶつけたと言っても、頭の中で。 実際に言ったら吸血鬼化していなければ多分危ない)少しいたずら心が働いた。

いつもやられている分、仕返ししようと。

具体的には、驚かせてみようと。

思い立ったが吉日。 便利な言葉だな、これ。
203 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:11:10.16 ID:LcnCiymQ0
結論を出した僕は、月火に気付かれない様に後ろからそっと近づく。

音を立てない様に、そっと近づいていく。

月火の後頭部が目の前に迫った所で、僕は足を止めた。

つうか、よく気付かないよな。 どんだけ警戒心が無いんだよ。

んで、近づいた所で何をしようか。 驚かせようとは思った物の、内容までは考えていなかった。

んー。 まあ、とりあえず胸を揉んでみるか。
204 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:11:40.65 ID:LcnCiymQ0
即決即断。

背後からそっと腕を伸ばし、一気に月火の胸へと手を伸ばす。

月火は結局、僕の手が胸に触れるまで、存在すら気付いていなかった様だ。

月火「え? なになになになに!?」

がばっと立ち上がり、後ろを振り返る月火。

暦「よう。 おはよう月火ちゃん」

爽やかな、朝の挨拶である。

月火「へ?」

月火「だ、誰? なんで私の家に入ってる訳? 死ねっ!」

僕の爽やかな挨拶の返しに、月火がとった挨拶は、僕の顔を掌打で打ち抜く事だった。

つか、いきなり死ねとか。 火憐の貫手並にありえない。
207 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:13:31.51 ID:LcnCiymQ0
時間経過。

こんな感じで、なんとか二日連続の失敗は避けられたと言う訳だ。

僕の中では、こんなのは失敗に入らない。 本人が失敗だと思わなければ、それは失敗では無いのだ。

火憐の言っていた「自分が負けだと思わなければ負けでは無い」 みたいな。

暦「いきなり酷い挨拶だな。 月火ちゃん」

月火の攻撃だけあって、僕の回復は幸いにも早く、昨日みたいな事にはならない。

多分、火憐の攻撃だったら昨日の二の舞、もしかしたらもっと酷い事になっていたのだろう。
208 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:14:27.06 ID:LcnCiymQ0
月火「よくそんな台詞が言えるよね。 棚上げってこう言う事を言うのかな。 勉強になったよ、お兄ちゃんありがとう」

暦「そんな今にも攻撃してきそうな体勢で、ありがとうなんて言われても全く嬉しく無い」

月火「にしても、いきなり何? 結構普通に驚いたんだけど」

結構普通にってどっちだよ、はっきりしやがれ。

暦「いやいや、月火ちゃんがあまりにも隙だらけだったからさ。 ついな」
209 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:15:01.69 ID:LcnCiymQ0
月火「いやいや。 つい、で後ろからおっぱい揉まないでよ。 お兄ちゃん、どんだけ妹のおっぱいを揉むのさ」

暦「朝からおっぱいおっぱい言うなよ、下品だぞ」

月火「お兄ちゃん。 その台詞もう一度言ってくれるかな。 録音しておくから」

暦「え? 録音してどうするんだよ。 そんなに僕の声が聞きたいのか?」

月火「聞かせるのはお兄ちゃんだよ。 お兄ちゃん物覚えが悪そうだから、同じ事をした時に聞かせるんだよ」

暦「僕は自分のした発言についてはしっかり記憶しているぞ。 今まで忘れた事なんて無い」

月火「ふうん。 その発言すら忘れていたら、意味無いけどね」
210 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:15:43.28 ID:LcnCiymQ0
月火「というかさ、誰のせいだと思ってるの? 未来の為に、お兄ちゃんはここで仕留めておくべきだよ。 やっぱり」

暦「まあまあ。 それはさておき、さ」

月火「私としては、たっぷり時間を掛けて話したいんだけど。 家族会議物だよ」

暦「お前ら、また何か問題に首を突っ込んでないか?」

月火「綺麗にスルーしたね。 まあいいけどさ」

良いのかよ。

月火「それより、問題って?」
211 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:17:09.03 ID:LcnCiymQ0
暦「火憐ちゃんが居ないんだよ。 いつものパターンからして、大体お前らが問題事を抱えてる時だろ、これって」

暦「抱えてるっつうか、首を突っ込んでるって言うのが正しいんだろうけど」

月火「別に問題は抱えてないけど。 それよりも一ついいかな、お兄ちゃん」

暦「ん? どうした」

月火「火憐ちゃんって、誰?」
212 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:17:42.48 ID:LcnCiymQ0
今、何て言ったこいつ。

暦「おいおい。 さすがに冗談がきついぜ、月火ちゃん」

暦「火憐ちゃんは火憐ちゃんだよ。 分かるだろ?」

月火「へえ。 お兄ちゃんの彼女?」

暦「な、何言ってるんだ。 僕の妹で、お前のお姉ちゃんだろ、月火ちゃん」

月火「知らないけど。 もしかして、お兄ちゃん。 脳内で妹を作ってるの? そんな酷い事になる前に私に相談してよ!」
213 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:18:18.46 ID:LcnCiymQ0
月火「大体……あれ?」

月火「火憐ちゃん……そうだよね。 お兄ちゃんの妹で、ファイヤーシスターズで、火憐ちゃん」

月火がこめかみを押さえながら蹲る。

暦「おい……月火ちゃん、大丈夫か?」

その月火の背中を摩り、顔を覗き込み、様子を伺った。

顔色は、あまり良い様には見えない。
214 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:19:04.69 ID:LcnCiymQ0
月火「うーん。 おかしいなぁ。 火憐ちゃんは火憐ちゃんだよね。 お兄ちゃんの妹だ」

暦「どうしたんだよ、月火ちゃん。 本当に大丈夫か?」

月火「ごめん。 何で忘れていたんだろ、私」

暦「忘れていた? 火憐ちゃんの事を?」

どういう事だ。 あんだけ仲が良いのに、忘れるなんて。

月火「うん。 最近、ど忘れって言うのかな。 多いんだよね」

月火「と言うかさ、正直な話だけどさ」
215 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:19:37.23 ID:LcnCiymQ0
月火「さっき、お兄ちゃんが私のおっぱいを揉んだでしょ? 後ろからいきなり」

ただの朝の挨拶。 ただの朝のスキンシップをそう言われると、ただの変態みたいだな、僕。

月火「その時もさ、一瞬誰か分からなかった。 だから本当にびっくりしたよ」

暦「誰か分からなかったって、それってもう」

ど忘れって話じゃない。 明らかにおかしい。

病気? それとも、月火の体内に宿っている怪異のせいか?
216 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:21:06.59 ID:LcnCiymQ0
いや、違う。

僕には心当たりがあるじゃないか。 それも昨日、忍野から聞いているじゃないか。

そう言う事としか考えられない。 これが、怪異の所為だとするならば。

でも、おかしくないか? 僕自身に起きる筈なのに、何で月火が。

暦「とにかく、月火ちゃん」

言っていいのか、駄目なのか。

迷っていられるかよ、くそ。
217 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:21:41.00 ID:LcnCiymQ0
暦「そう言うのに詳しい奴が居るんだよ。 今からそいつと会ってくるから、大人しく待っててくれ」

月火「そう言うのってどういうの? お兄ちゃんの言ってること、ちょっと意味が分からないんだけど」

暦「ちゃんと説明する。 全部、しっかりと」

月火「そっか」

月火は短くそう言い、続けて何回も、小さく、小さく繰り返していた。

月火「…… じゃあ信じてみようかな」

暦「ああ。 お前のお兄ちゃんを信じろ。 なんとかしてやるから」

安請け合い。 本当に解決できるなんて、保証できないのに。

けれど、月火の暗い顔は見ていたくなかった。 そんな顔は似合わねえよ、お前。

月火の方も多分、あまり期待はしていないのだろう。
218 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:22:14.21 ID:LcnCiymQ0
だが、信じると言ってくれた。 僕の事を。

ならそれだけだ。 やれるだけの事をやってやる。

それで何も解決できなかったのなら、月火の怒りは全部僕が受け止めてやる。

とにかく、今は急がなければ。 急いで、忍野の所へ。

暦「よし、じゃあ僕はちょっくら出掛けて来る。 すぐに戻るからな」

そう声を掛け、自転車の鍵を取り、玄関へと向かう。

その僕の背中に、月火から声が掛かった。
219 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:22:40.40 ID:LcnCiymQ0
月火「私、やっぱり変だよね」

振り向き、僕は言う。

暦「いつも変だろ、月火ちゃんは。 だから別に気にする事なんてねえんだよ。 月火ちゃんはいつも通り、だらだら過ごしとけ」

月火「そっかそっか。 いつも変か。 でもそれを言ったら、お兄ちゃんも変って事になるけど、良いのかな」

暦「そりゃそうだろ。 なんつったって、僕達は兄妹なんだからさ」

月火「おっけーおっけー。 話は分かったら、早く行ってきなよ、お兄ちゃん」

月火「でも、なるべく早くしてよね。 私だって」

月火「お兄ちゃんとか火憐ちゃんの事、忘れたくないよ」
220 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:23:09.98 ID:LcnCiymQ0
その言葉を受け、僕は一目散にあの廃墟へと向かう。

まだ、昼を少しだけ過ぎた所だ。 忍野が今居るかも分からないけれど、とにかく急いで報告をしないと。

自転車を必死に漕ぐ。

くそ、僕自身に何かが起こるかと思って油断していた。 まさか月火に影響が出るなんて。

必死に、必死に自転車を漕ぐ。

その時。
221 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:23:39.94 ID:LcnCiymQ0
暦「うおっ!」

目の前に影が飛び出してきた。 急ブレーキを掛けながら、なんとか避けられたが。

暦「悪い! 大丈夫か?」

しかし、その影は僕の見知った知り合い。 いや、友達。

八九寺「危ないじゃないですか。 何を考えてそんな飛ばしているんですか。 阿良々木さん」

いつものネタは仕掛けて来なかったが、今、そう呼んで貰えたのは正直な所、嬉しい。

暦「は、八九寺か。 大丈夫か?」

八九寺「阿良々木さんに轢かれる程、鈍くさくはないです。 車には勝てませんが」
222 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:24:10.89 ID:LcnCiymQ0
暦「重いよ! その自虐ネタ重過ぎるだろ!」

八九寺「これからはこれを持ちネタにしようと思っているんですよ。 ですので宜しくお願いします」

暦「返しが難しいネタを持ちネタにするんじゃねえよ。 普通にいつものネタでいいだろ」

八九寺「マンネリと言うのもありますしね。 いつまでも同じネタでは飽きられてしまいます」

暦「まだ公衆の面前で披露していないネタに、マンネリも何も無いと思うが」

八九寺「そういう油断が、一番危ないんですよ。 やはり阿良々木さんとはコンビを組めそうに無いですね」
223 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:24:42.11 ID:LcnCiymQ0
暦「え? 僕達コンビを組む予定とかあったの?」

八九寺「うまく行けば、今年中にはデビューできた筈です」

暦「マジかよ。 じゃあそのチャンスをみすみす逃したって訳か」

八九寺「ええ。 残念ながら」

八九寺「ですが、まだ次のチャンスはあります。 ですので頑張りましょう! 阿良々木さん!」

暦「おう!」
224 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:25:14.32 ID:LcnCiymQ0
閑話休題。

八九寺「それはそうと、阿良々木さん」

暦「ん?」

八九寺「随分と急いでいる様子でしたけど、何か用事でもあるんですか?」

暦「ああ、そうだった。 忍野に会いにいかないといけないんだよ」

八九寺「忍野さん、ですか。 でも、あの人はこの町から出て行った筈では?」

暦「それが昨日、ふらっと戻ってきてさ。 今はあの廃墟に居るんだ」

八九寺「へえええ。 あの人も随分と変わり者ですね。 わざわざ戻ってくるなんて」

暦「まあ、事情があるんだけどな」

八九寺「……あまり、良い事情だとは思えませんけれど」
225 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:25:44.07 ID:LcnCiymQ0
暦「全く持ってその通り。 なんでも結構マズイ状況らしいぜ」

八九寺「なるほど。 それで相も変わらず、阿良々木さんはそれに首を突っ込んでいる、と」

暦「ま、そうなるな」

暦「お前も、変な奴とかに会ったらすぐに逃げろよ。 その辺、八九寺ならすぐに分かるだろ?」

八九寺「そうですね。 では、これから阿良々木さんと出会ったらすぐに逃げる事にします」

暦「言うと思ったぜ。 だから僕はこう返す」

暦「逃げる間も無く捕まえてやる!」

八九寺「ふん! 望む所です!」

と、よく分からない勝負の約束をした。
226 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:26:28.77 ID:LcnCiymQ0
暦「んじゃ、僕はそろそろ行くよ。 急いで忍野と話さないといけない用事があるんだ」

八九寺「分かりました、それではまた……」

八九寺は、最後まで言い切る前に、言葉を打ち切る。

暦「おい、どうした? 別れの挨拶くらいしっかり言えよ」

八九寺「いえ、あの。 すいません」

八九寺「どちら様でしょうか?」
227 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:27:30.16 ID:LcnCiymQ0
くそ、くそ。

あれから、何度も八九寺に話しかけたが、結局最後の最後まで僕の事を思い出す事は無かった。

僕と話した人間が、僕の事を忘れる?

いや、でも。 月火は僕の事を思い出してくれた。

それに、月火は火憐の事も忘れていたんだ。

既にもう、何がどうなって、何が起きているのか分からない。

あの時の八九寺の顔。

本当に、僕の事を忘れていた。

今まで話した事も全部。 跡形も無く。
228 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:28:28.05 ID:LcnCiymQ0
人に忘れられる事は、こんなにも辛い事だったのかよ。

暦「……そうだ、戦場ヶ原」

あいつなら、僕の事を覚えている筈だ。

そりゃ、そうだろ。

だってあいつは、忘れる事を嫌う。

もしも、忘れる原因が僕と話す事だったとするなら、この行為は危ないかもしれない。

だけど、そうであろうと。

今は、僕の事を覚えている人と、話がしたかった。

自転車を一度止め、携帯電話を取り出す。

電話帳から戦場ヶ原の名前を呼び出し、通話ボタンを押す。

一回、二回、三回目のコールの途中で、電話は繋がった。
229 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/10(水) 13:28:56.20 ID:LcnCiymQ0
暦「もしもし、戦場ヶ原か?」

僕はこの時思い知る。

人との思い出すら、記憶すら、怪異の前ではなんの意味も持たない物なのだと。

戦場ヶ原「……すいません、どなたでしょうか? 携帯に登録されていたので、知り合いなのかもしれませんが、覚えが無くて」

なんて。

僕の彼女は、そう言ったのだから。


第七話へ 続く
238 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:06:09.27 ID:nU8S8t1b0
その後、羽川や神原や千石に電話をしてみた物の、結果は全て同じ。

つまり、全員が僕と言う存在を忘れていた。

どうすれば良いんだ。 忍野に会えば解決できるのか。 もう、皆の記憶は戻らないのか。

僕自身、多分相当焦っていた。

だって、そりゃそうだろ。 つい昨日まで、何事も無く話していた友達が、全員僕の事を忘れているんだから。

とにかく、とにかくだ。

まずは、忍野に会わなければ。

会って、話さなければ。

何が起きて、どうなったのか。

もう頼れる奴は、あいつしか居ないのだから。
239 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:06:54.47 ID:nU8S8t1b0
忍「お前様よ。 少しは落ち着かんか」

暦「忍っ! 分かるか? 僕の事が分かるか?」

僕の影から忍が現れる。 迂闊にも、一番最初に確認するべき忍の事を僕が忘れていたなんて、とんだ皮肉である。

忍「何を言っておる。 儂を誰だと思っとるんじゃ。 お前様の事なら全て分かるわい」

暦「良かった……もう、どうにかなっちゃいそうだったんだよ。 忍が覚えていてくれて良かった」

忍「ふん。 たかが忘れられたくらいで慌てすぎじゃよ、お前様は」
240 : ◆XiAeHcQvXg [sage]:2013/04/11(木) 13:07:46.68 ID:nU8S8t1b0
暦「そうは言ってもさ。 いきなり前触れも無く、忘れられるなんて……結構辛いぞ」

忍「儂には分からん感情じゃな。 まあよい」

それもそうか。 忍も伊達に五百年生きている訳じゃない。

こいつに思い出とか、友達が居たのかは分からないけれど、そいつらは全員忘れていったんだ。 忍の事を。 死と言う形で。

忍「それより、今すべき事は分かるか? お前様よ」

暦「分かってる。 忍野に会う、だろ?」

僕がそう言うと、忍は溜息を付き、口を開く。

忍「馬鹿か貴様は。 本気で言っておるのか?」
241 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:08:25.56 ID:nU8S8t1b0
暦「どういう意味だよ、忍」

そう聞いた僕の顔をじろりと睨み、忍は続けた。

忍「まず、おかしいと思わんのか? 何故、あの小僧は戻ってきたのか」

暦「そりゃ、あれだろ。 この町に怪異が出たから……」

忍「それだけだとは思えんのう。 この儂には」

忍「まあ、もっとも。 儂の予想が絶対に正しいとは言えんが」
242 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:09:17.32 ID:nU8S8t1b0
暦「それだけじゃない、他の理由……」

暦「つまり、忍野が何かを隠しているって事か?」

忍「もしくは」

忍「あやつ自体が怪異。 と言う事じゃよ」

忍野自身が、怪異?

暦「でも、昨日……忍は違うって言ってただろ? あいつは正真正銘、忍野だ。 って言ってたじゃないか」

忍「確かにそう言ったのう。 だが、それはお前様が生み出した怪異。 と言うパターンに置いての話じゃよ」
243 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:09:56.34 ID:nU8S8t1b0
暦「えっと。 って事は」

忍「他の誰かが生み出した怪異ならば、話は別じゃ」

暦「つまり、最初からずっと、あいつは怪異って事か? あのゴールデンウィークの時から」

忍「たわけ。 あの時は正真正銘、ただのアロハ小僧じゃよ」

ただのアロハ小僧って、すごい言葉だな。

忍「しかし。 こんな偉そうに言ってみた物の、今のアロハ小僧が怪異と言うのも、確定では無いがの」

暦「忍でも、分からないのか?」

忍「分からん事も無いが、この町はどうにも、その辺りの匂いが強すぎるんじゃ。 長い時間一緒におれば分かるが、大して一緒におった訳でも無いしのう」
244 : ◆XiAeHcQvXg :2013/04/11(木) 13:10:37.40 ID:nU8S8t1b0
暦「そうか。 そうだよな。 それに、昔程の力もある訳じゃないしな」

暦「それで忍、そういう怪異に心当たりは?」

忍「人の形を真似る怪異。 言い出したらキリが無い程おるよ」

忍「それに、その質問は愚問じゃよ。 我が主様よ」

忍「心当たりがあるから、儂がわざわざ出てきておるのが分からんのか?」

暦「はは。 それもそうだな」
245 : ◆XiAeHcQvXg [sage]:2013/04/11(木) 13:11:23.54 ID:nU8S8t1b0
忍「話を戻すぞい。 一番確率がありそうな奴……一番ありそうな怪異と言えば」

忍「ドッペルゲンガー。 これはお主も知っておるじゃろ?」

暦「ドッペルゲンガー? 随分と最近の話の気がするけど、そんな怪異も居るのか?」

忍「怪異は生きておるんじゃ。 噂になった時点で、存在するんじゃよ」

暦「……確かに、吸血鬼だとかもその類なんだよな」

暦「それで、そいつはどういった怪異なんだ?」

暦「僕が知っている限りじゃ、自分とそっくりな影がある日現れて、そいつと会うと死ぬってくらいだけど」

忍「ふむ。 そうじゃな、そういう説が一番流れておる」

忍「だが、怪異としての奴は違う」
248 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:20:00.79 ID:nU8S8t1b0
忍「これもあの、アロハ小僧の受け売りじゃが」

忍「呪い。 呪いによって出てくる怪異じゃ」

忍「前髪娘の様な、の」

暦「呪い……か」

忍「そして、呪いが掛けられた対象の、もっとも苦手とする人物の姿で現れるんじゃよ」

苦手とする人物、か。 なるほど、それなら忍野の姿と言うのもかなり納得できてしまう。

忍「ドッペルゲンガーの目的は一つ。 呪われた対象を-----殺す事じゃ」
874 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/25(木) 10:47:54.45 ID:+P9v2xqH0
暦「殺す、事。 はは、まるでレイニーデビルみたいだな、それだと」

忍「似て非なる物と言った所じゃよ」

忍「レイニーデビルは対価を求めるじゃろ? 魂と言う名の対価を」

忍「それに、あの悪魔は何も殺す事だけが目的では無いしの」

忍「しかし、ドッペルゲンガーは対価を求めないんじゃ。 現代風に言うならば、無償の殺し屋、と言った感じかのう」

暦「でも、それならどうして、すぐに僕を殺さないんだよ。 ぶっちゃけ、忍野とやり合ったら勝てる気しないぞ」

249 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:21:32.22 ID:nU8S8t1b0
僕がそう思うのも無理はない。

ゴールデンウィークの時、僕がかなり苦労して、なんとか退けた吸血鬼ハンター達。

ドラマツルギー。 エピソード。 ギロチンカッター。

あいつらの攻撃を忍野は、一人で全て受け切ったのだ。

忍「少しは頭を使わんかい。 ドッペルゲンガーと言えど、その化けた姿や形だけでは無く、性格や趣味、そして行動から考え方まで、全て一緒なんじゃよ」

忍「唯一の違いと言えば、呪いを掛けられた対象を殺す。 と言う、明確な目的がある事。 じゃがの」

暦「なるほどな。 つまり、簡単に解釈するならば、忍野が本気で僕を殺そうとした時と、一緒の行動を取るって事か?」

忍「その通り。 理解が早くて助かるのう」

罵倒されたり、褒められたり、どっちなんだよ。
250 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:22:36.56 ID:nU8S8t1b0
忍「じゃが、これもあくまで仮定にすぎん。 それだけでは説明できん事も起きておるしのう」

暦「説明できない事……皆の記憶喪失、か」

忍「とにかく、儂が言いたい事は一つじゃ」

忍「白と確定する前にあやつと会うのは危険。 と言う事じゃよ」

けど、ならどうしろって言うんだ。 忍野には頼れないとなると、僕はどうすれば。

本当に、忍野は怪しいか? あいつの言葉、どう考えても本物にしか見えなかったけど。

今起きている事。 僕自身に起きているとは、言えない。
251 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:23:35.45 ID:nU8S8t1b0
暦「……分かった。 とにかく一度、家に帰る」

暦「月火ちゃんにはもう少し、我慢してもらおう」

暦「けど、一つだけ約束してくれ、忍」

忍「なんじゃ、お前様よ」

暦「あいつが怪異だとしたら、僕は間違いなく倒しに行く。 その時は、協力してくれるか」

忍「何を言っておるんじゃ、儂には断る理由など無い」

暦「そうだったな。 ありがとう、忍」

忍「カカッ。 礼には及ばんよ」
252 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:24:01.91 ID:nU8S8t1b0
その時、匂いがした。

花の匂いの様な、そんな感じ。

今まで嗅いだ事の無い物だったけれど、なんとなく、僕にはそれが花の匂いだと『分かった』。

「……ん。 待て、お前様!」

それだけ言い、---は忽然と姿を消した。
253 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:24:39.93 ID:nU8S8t1b0
そして、僕は家に帰る。

月火が待つ、家へと。

その道中、僕の知らない奴が、声を掛けてきた。

何やら大きな荷物を抱えて、まるで旅の途中の様な、そんな大荷物。

そして、随分と気さくに、そいつは言う。
254 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:25:09.39 ID:nU8S8t1b0
「おいおい、-----。 どこに行くんだよ」

「つうか、どこから来てるんだ? あっちには面白い物なんてねえだろ」

「はあ? なんだよおい、喧嘩売ってるのか?」
255 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:25:37.25 ID:nU8S8t1b0
ん。 なんだか焦っている、のか?

最近、世の中には変な奴が増えたよなぁ。

いきなり絡んでおいて、喧嘩売ってるのかって、僕は特に買いもしなければ売りもしない。

との事を言うと。

「そうかよ。 結局、皆そうなんだな。 -----も」

と言い、僕の前から姿を消した。

若干、顔が青ざめていたのが気になるっちゃ気になるが、それだけだ。

ここら辺は随分と治安が良いと思っていたけれど、案外そうでも無いかもしれない。

まあ、どこの町だってそんな物かもしれないが。
256 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:26:11.20 ID:nU8S8t1b0
そのまま家に付き、玄関の扉を開く。

暦「ただいま」

月火「お、遅かったね。 それで、どうだった?」

暦「ん? どうって、何がだよ」

月火「あれ、何がだっけ?」

変な奴がここにも居たか。

暦「まだ寝惚けてるのかよ、月火ちゃん。 ちゃんと勉強しないからだぜ」

月火「はい? お兄ちゃんよりはしてるけど、それにお兄ちゃんよりは落ちこぼれていないけど? むしろ成績、上の方だしね」
257 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:27:17.98 ID:nU8S8t1b0
暦「ちげーよ。 僕が言ってるのは人生の勉強の事だ」

月火「お兄ちゃんに人生の勉強を教えてもらっても、絶対役にたたないね。 むしろ逆効果だよ」

暦「ほう。 言っとくが、僕の話は参考になるぞ。 これは保証しよう」

月火「ふうん。 へえ。 そうなんだ。 で、どういう風に参考になるのかな? お兄ちゃん」

暦「そうだな、まずは妹とのスキンシップの仕方とか、そう言った事の参考になる」

月火「いや、どう考えてもそれ、参考にならないでしょ。 現在進行形で失敗の形として表れてるよ」
258 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:27:51.20 ID:nU8S8t1b0
暦「分かってないな。 月火ちゃん」

暦「だって、月火ちゃんは僕の事、好きだろ? 結果は表れているじゃないか。 成功って形で」

月火「え、なになに。 よく聞こえなかったんだけど。 もう一回言ってくれるかな?」

暦「だって、月火ちゃんは僕の事、好きだろ? 結果は表れているじゃないか。 成功って形で」

月火「うわ、むかつく程にリピートしたね」

月火「で、なんで私がお兄ちゃんの事が好きなお兄ちゃんっ子みたいな扱いをされてる訳?」
259 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:28:16.35 ID:nU8S8t1b0
暦「え、違うのか?」

月火「好きか嫌いかで言われれば、そりゃ好きな方にはなるけどさ。 でも、その度合いを数値で表すと」

月火「百が限界だとして、零が平均ね。 マイナスになると嫌いの方向になるとしてだ」

暦「うん。 八十くらいだろ?」

月火「自信たっぷりに言うその顔がむかつくよ。 ほどよくむかつね、その顔」

月火「私の中では、十四くらいかな。 お兄ちゃんなんてその程度だよ」

暦「ひくっ! いくらなんでも低すぎるだろ! せめて二十にしない? キリがいいしさ」
260 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:29:03.03 ID:nU8S8t1b0
月火「そう? じゃあ十で良いかな。 四捨五入して」

暦「やめろよ! 無理矢理繰り上げて二十にしてくれ!」

無理矢理と言う言葉を使って、自分で少し悲しくなる。

月火「まあ、とにかくさ。 私の中でのお兄ちゃん好き度なんてその程度だよ。 分かったかな?」

暦「ぐぬぬ」

暦「で、でも待てよ月火ちゃん! それならどうして『毎朝僕を起こして』くれるんだよ」
261 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:29:43.21 ID:nU8S8t1b0
月火「へ? 私がお兄ちゃんを起こす? いつ?」

暦「ん? んー。 あれ、無かったな、そういえば」

月火「そうだよ。 全くもう、私に起こして欲しいの? ならそう言ってくれれば良いのに」

暦「ん。 起こしてくれるの? やったー」

月火「うん、良いよ。 だからさお兄ちゃん、何か簡単な物でいいから、武器に使えそうな物、用意しておいてね」

暦「武器? どうしてまた、何か退治にでも行くのかい。 月火ちゃん」

月火「明日の朝から出動だよ。 お兄ちゃんの睡魔と戦って来るんだ」

暦「そ、そうなのか。 ああ、でもやっぱり月火ちゃん。 兄として妹に起こされるってのは少しあれだし、やっぱり自分で起きるよ」
262 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:30:32.60 ID:nU8S8t1b0
月火「ふうん。 そっか、それは残念だ」

月火「ま、別にいいけどさ。 そろそろご飯だし、お風呂入っちゃってね」

暦「一緒に入るか?」

月火「絶対嫌。 お兄ちゃんと入るくらいなら、雨の日に外で体を洗った方がマシだよ」

そこまでかよ。

暦「そこまで拒否られると、さすがに傷付くぜ」

月火「どうせ傷の一つや二つ、増えても変わらないでしょ」

暦「まあ、それもそうかもしれないけど! 『たった一人の妹』なんだから、もう少し優しく接してくれよ!」

暦「一応言っておくが月火ちゃん、お前が今より更にチビだった時は、僕と一緒にお風呂とか入ってたんだからな」
263 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:32:29.57 ID:nU8S8t1b0
月火「知ってる。 それが私の人生、最大の失敗だからね。 忘れられないよ」

最大の失敗かよ。 ならそうだな、その失敗を作ってあげたお兄ちゃんに感謝しろよ、月火。

だってそれが最大の失敗なら、この先もっと大きな失敗なんて無いだろ。

月火「とにかくさ。 ちゃっちゃとお風呂入っちゃってよね。 じゃないとご飯にならないし」

暦「はいはい。 分かったよ」
264 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:34:30.36 ID:nU8S8t1b0
玄関先での随分と長い無駄話を終え、僕は一人、風呂場へと向かう。

月火「そーいえばさ、お兄ちゃん」

その背中に、月火が再び声を掛けてきた。

早く風呂に入れと言う癖に、僕と話したがる月火に免じて、渋々振り向く。

暦「んー?」

月火「今日、不審者に会ったんだよ。 それも家の中で」

暦「落ちが見えた。 僕は不審者じゃねえぞ」
265 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:34:58.33 ID:nU8S8t1b0
月火「いやいや、そうじゃなくってさ。 真面目な話」

暦「へえ。 真面目な話ね。 月火ちゃんの口からそんな言葉が出た時点で、既に真面目な話だな」

暦「で、それはどんな不審者だったんだ?」

月火「その失言については見逃してあげるよ。 特別サービスで」

月火「それで、よく分からないけど、私の名前を知ってたんだよ。 お兄ちゃんの名前も」

暦「そりゃ、月火ちゃんの友達じゃねえのか? お前、友達いっぱいいるじゃん」
266 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:35:25.86 ID:nU8S8t1b0
月火「多いけど、さすがの私も友達の顔なんて忘れないよ。 だから今日のは不審者なんだよ」

暦「つうか、マジで知らないんだったらやばいだろ、それ」

暦「何もされなかったのか? 月火ちゃん」

月火「されなかったって言えば、されなかったんだけど」

月火「でも、されたと言えば、されたって事になるのかなぁ」

暦「そっか。 大丈夫だった……んだよな? 何か変な事をされたりとかは、無かったんだよな」

月火「それは平気。 と言うか、お兄ちゃんの心配っぷりが恐ろしいよ」

暦「普通だろ? 知らない奴が家の中に居るとか、ホラーかよ」
267 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:35:52.37 ID:nU8S8t1b0
月火「うーん。 まあ、そうなんだけどさ」

月火「その人、なんか怖くなかったんだよね。 よく分からないんだけど」

暦「僕だったら絶対叫び声あげてるぞ……」

月火「私もそうだよ。 叫びそうになったんだけど」

月火「何ていうか、必死……って感じだったんだよね」

暦「必死? 目的がわからねえな、そいつの」
268 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/11(木) 13:36:52.99 ID:nU8S8t1b0
月火「うん。 何を言ってるのか分からなかったし。 一応、私もかなり驚いてたから、ほとんど覚えてないんだけどね」

月火「でも、名前は覚えてる。 こう言うのもあれだけど、良い名前だったよ」

暦「そこまで話し合ってるお前が驚きだぞ。 僕としては」

暦「それで、何て言ってたんだ? 名前」

月火「えっとね」

月火「あららぎ、あららぎかれん。 そう、言ってた」


第八話へ 続く
277 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:05:19.92 ID:bRAFU2f40
あららぎ、かれん。

どこかで、聞いたか?

いや、そんな訳無いだろ。 あららぎってのはつまり、阿良々木だよな。

珍しい苗字だとは思うし、聞いていたのなら僕が覚えている筈だ。 阿良々木かれん、なんて名前を『忘れる』訳が無いじゃないか。

直後。

頭痛。 激しい頭痛。

とてもやり過ごせる物じゃない、頭を押さえ、倒れそうになる。
278 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:05:51.79 ID:bRAFU2f40
倒れるのはなんとか回避できたが、とてもじゃないが立って居られない。

今まで経験してきた中で、多分トップクラスの頭痛だろう。

羽川のもこんな感じだったのだろうか?

羽川、翼。 頭痛?

なんで僕は『羽川に頭痛が起きたと思っている』んだ? そんなシーン、見たことも無いのに。

疲れているのか。 そう言えば、今日はやけに体がだるい。
279 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:07:04.05 ID:bRAFU2f40
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! 大丈夫?」

僕の肩を掴み、そう声を掛けてくる奴が居た。

月火「大丈夫? 頭痛いの?」

まるで、小さい子供に言うように話掛けてきていたのは、月火だった。

ああ、そうか。 僕は月火と話している途中だったのか。

暦「大丈夫、大丈夫だ。 月火ちゃん、僕は大丈夫」

月火「とてもそうは見えないんだけど、本当に?」
280 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:07:38.95 ID:bRAFU2f40
暦「ああ。 突然、頭痛がしてさ。 今はもう治まったから」

本当はまだ少しだけ痛むが、月火には余計な心配を掛けたくなかった。

このままでは、救急車をでも呼ばれてしまいそうだ。 もし、そうなったら僕の友達にも心配を掛けてしまうだろう。

月火「なら、良いんだけど。 疲れているんじゃない?」

暦「かもしれねぇ。 ごめん月火ちゃん、今日はちょっと寝る事にする」

月火「うん。 それが良いよ。 お兄ちゃんの事だから、一日寝ればすぐに治るから」

暦「もはや突っ込む気すらしないな。 まあ、僕は寝るよ」

月火「お大事に。 何か用があったら呼んでね」

月火「私に出来る事あったら、してあげるからさ。 貸しは高くつくけどね」
281 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:08:10.59 ID:bRAFU2f40
暦「そうか。 ありがとうな、月火ちゃん」

そう言い、未だに肩に手を置く月火の頭を撫で、立ち上がる。

頭を撫でるついでに、立ち上がるついでに、胸を揉んでおいた。

月火「……その自然な動作はすごいよ。 尊敬に値するね」

月火も慣れてきたのか、あまり面白いリアクションは見られない。

うーん。 もっと違う事をしなければ、これ以上面白いリアクションは望めないかもしれないな。

僕も、次に打つ手を考えておかなければ。
282 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:08:36.66 ID:bRAFU2f40
暦「言っておくが月火ちゃん、今のは貸しだぜ。 これで月火ちゃんには貸しが出来たという形になる」

月火「妹のおっぱいを揉む事によって、貸しを与える兄ってどうかと思うよ。 むしろ全世界探しても、ここにしか居ないと思う」

と、いつもの無駄なやり取りが始まりそうになった。

別に僕自身、既に頭痛は殆ど治まっていたので、始めても良かったんだけれど、月火の方が「それじゃあ、ゆっくり休んでね。 おやすみ」と言う物だから、渋々自分の部屋へと向かう事になってしまった。
283 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:09:21.36 ID:bRAFU2f40
さておき。

今は自室のベッドへ横たわっている。

特にする事も無く、したい事も無い。 なのだが。

ただ寝るだけってのも、案外辛い物なのだ。

部屋の中を照らすのは、窓から差し込む月明かりだけであった。

その明かりが、部屋に置いてある物に当たり、影を作り出している。

影。
284 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:09:48.72 ID:bRAFU2f40
暦「あれ」

気付けば立ち上がり、窓を背中に、自分の影を僕は見下ろしていた。

暦「おーい」

とか、言ってみたり。

まずいな、やはり僕は疲れているのだろう。

こんな、自分の影に向けて話しているのを月火にでも見られたら、多分あいつはこう言うな。

「うわ、お兄ちゃん。 友達が少ないとは知っていたけれど、まさかそんな、自分の影と話す程寂しかったんだね。 今度からは私が相手になってあげるから、言ってね」

とか言うだろうな。
285 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:10:41.25 ID:bRAFU2f40
けれど、幸いにも僕は今、具合が悪いのだし「熱でもあって、変になっているんだろう」とでも思われるのが関の山か。

つうか、そんな寂しい奴って訳でも無いのになぁ。

戦場ヶ原は僕の彼女でもあるし、羽川だって友達だ。

千石だって友達。 神原だって友達じゃないか。

四人も居るんだぜ、凄いだろ。

って月火に自慢でもしてやろうか。 あいつはその十倍以上居そうだけれど。

さすがは僕の妹って所か。 僕自身が反面教師として大活躍である。
286 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:11:08.63 ID:bRAFU2f40
さて。

それにしてもだ。 影に話掛けては見た物の、返答なんてのは当然無かった。

何を期待しているんだか。 これは本当に、そろそろマジで自分の体調が心配になってしまう。

いつまでもこうしていて、それこそ月火にでも見られたら嫌だし、今日は寝よう。

月火に言われたからでは無いが、一日寝ればなんとか治ってるだろうし。

と思い、再びベッドに体を投げる。
287 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:11:34.45 ID:bRAFU2f40
目を瞑り、睡眠体制。

その時、睡眠を阻害する音が部屋に鳴り響く。

ああ、どうやら僕の携帯の様だ。

渋々、仕方なく画面を見る。

発信者は、僕の彼女。 戦場ヶ原ひたぎだった。

さすがに気付いたからには無視できず、マナーモードにしていなかった自分を呪いつつ、通話ボタンを押す。
288 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:12:00.71 ID:bRAFU2f40
暦「どうした、こんな時間に」

戦場ヶ原「こんな時間? 阿良々木くんは小学生なのかしら。 まだ八時をちょっと過ぎた所じゃない」

そうだったのか。 時計なんて帰ってから見ておらず、まだそんな早い時間だったとは知らなかった。

暦「いや、ちょっと具合が悪くてな。 丁度寝る所だったんだよ」

戦場ヶ原「ふうん。 あらそう。 でも一つ勉強になったわ、阿良々木くん」

暦「勉強? なんの?」
289 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:14:37.00 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「馬鹿でも具合が悪くなるって事よ。 阿良々木くんが身を持って証明してくれたわ」

暦「お前、それ病人に言う台詞かよ……それとな、馬鹿は風邪をひかないだからな」

戦場ヶ原「そうね。 今のは阿良々木くんに対するテストだったのだけれど、正解よ。 おめでとう」

戦場ヶ原「思ったよりも重症じゃないようで、安心したわ」

暦「いくら僕でも、そこまで馬鹿じゃねえからな!」

戦場ヶ原「違うわ。 私が言ってるのは阿良々木くんの体調の事よ」

戦場ヶ原「それだけ突っ込みが出来るのなら、大丈夫って事でしょう?」
290 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:15:02.81 ID:bRAFU2f40
それもそうか。 てかそういう事か。

こいつの心配の仕方には異論を呈したいが、その話はまた今度するとしよう。

暦「まあ、かもな」

暦「それより戦場ヶ原。 これは何の電話だ?」

戦場ヶ原「何の? 別に特に意味は無いわ」

暦「お前、意味も無く電話してくるなよ。 それこそ、学校とかで良いだろ」
291 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:15:30.24 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「あら、恋人の声を聞きたいと思うのは駄目なのかしら」

突然、こいつは毎回毎回、突然にこんな事を言う。

それが良くもあるんだけど。

戦場ヶ原「好きな人の声を聞くのに、理由が必要なのかしら」

暦「……僕が悪かった。 ごめん」

戦場ヶ原「いいわ、私は優しいから、そんな事で一々怒ったりはしないのだからね」

暦「そりゃ、優しいな」

戦場ヶ原「ふふ。 まあそれでも、あまり長電話は迷惑でしょうし、そろそろ切るわね」

暦「ああ、悪いな。 治ったらまた、電話しよう」
292 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:16:00.55 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「ええ。 それじゃあ-----」

戦場ヶ原が電話を切ろうとする。

僕は。

暦「なあ、戦場ヶ原。 一つ聞きたい事があるんだけど」

戦場ヶ原「? 何かしら」

暦「僕と戦場ヶ原って、どこでどう出会って、どう付き合ったんだっけ」

僕の口から出たのは、随分と失礼な質問であった。

発言している身からこう言うのもあれだが、結構驚いてしまう。
293 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:16:40.66 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「さすがの優しい私でも、その質問は怒るわよ。 阿良々木くん」

暦「は、はは。 そりゃ、ごもっともで」

戦場ヶ原「仕方ないから、一から説明してあげる。 覚悟して聞きなさいな」

そう言い、戦場ヶ原は僕達の馴れ初めを語り始める。

戦場ヶ原「まず、そうね。 最初の出会いは、私が階段から落ちたのを阿良々木くんが受け止めてくれた事よ」

暦「……そうだな。 それが最初だった」
294 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:17:23.74 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「それで、それから」

戦場ヶ原「……あれ」

と言い、戦場ヶ原は口を閉ざしてしまう。

暦「それから、どうした?」

戦場ヶ原「……何でも無いわ。 阿良々木くん、その。 ごめんなさい」

暦「え? マジでどうしたんだ。 戦場ヶ原」

戦場ヶ原「さっきはあんな偉そうな事を言ったのに、どう付き合ったのか覚えて無いのよ」

戦場ヶ原「多分、大事な事だったと思うのに。 覚えて無いのよ」
295 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:17:59.14 ID:bRAFU2f40
暦「いや、でも。 僕だって覚えて無いんだしさ。 何も戦場ヶ原が謝る事じゃないだろ」

戦場ヶ原「……そう、かしら」

暦「そうだよ、だから気にすんな。 大事なのは今だろ?」

戦場ヶ原「……超格好良い」

暦「んぐっ!」

本日二度目の、戦場ヶ原からの奇襲である。

暦「ま、まあさ。 そんな気にするなよ。 僕が言うのも変だけどさ」
296 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:18:37.27 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「そうね。 阿良々木くんがそう言うのなら、分かったわ」

戦場ヶ原「それじゃあ、そろそろ本当に迷惑でしょうし、おやすみなさい」

暦「言うほど迷惑って訳じゃないけどな、おかげで元気も出てきたし」

戦場ヶ原「そう。 それは良かったわ」

戦場ヶ原は最後にそう言うと、電話を切った。
297 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:19:13.76 ID:bRAFU2f40
暦「僕、どんだけ変な質問してんだよ……」

我ながら驚いた。 そりゃ、もうかなり。

暦「寝るか。 今日はやっぱり、調子悪い」

独りそう呟き、ベッドの上で座る形になっていた体を三度、寝かせる。

目を瞑る。 今度こそ、僕の睡眠を阻害する物は無かった。
298 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:20:05.67 ID:bRAFU2f40
その日、辛い夢を見た。

右も左も、真っ暗で。

見上げても闇が広がっていて、足元にも闇が広がっていて。

僕は一体、どこを足場として居るのだろうか、とか。

ここは僕の部屋なのだろうか、とか。

そんな考えても仕方の無い事を夢の中で考えていた。

とにかく、その場から逃げ出したい。
299 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:20:45.10 ID:bRAFU2f40
逃げ出したいのだけれど、どこにどう行けばいいのかすら、分からない。

だって、そりゃそうだ。 全て真っ暗なのだから。

どれだけ歩いても、走っても、広がっているのは闇。

僕にどうしろって言うんだ。

何も知らない。 分からないのに。

もうこのまま、一生、僕はここに居ないといけないのか。

もしそうだとしたら、それはそれで貴重な体験なのだろう。
300 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:21:22.35 ID:bRAFU2f40
それを話す相手も、居ないのだけれど。

その時だった。 声が、聞こえて来る。 真っ暗な中、聞こえてきた。

それはもう、毎日嫌と言うほど聞いている声だ。

「兄ちゃん、兄ちゃん」

と。

その声が聞こえたからなのか、ただ単に僕が目を覚ましただけなのか、それとも気を失っていただけなのか。

ようやく、夢の世界から戻ってくる事が出来たのであった。
301 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:21:49.13 ID:bRAFU2f40
月火「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

なんだ、お前かよ。

でも、それにしては随分と声色が違った気がする。

鋭いと言うか、月火の声よりも力強さがあると言うか。

少なくとも、聞いたことのある様な、声。

暦「……月火ちゃん、どうしたんだ」
302 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:22:20.77 ID:bRAFU2f40
まだ完全に開かない瞼を少しだけ上げて、僕を起こしに来た妹に声を掛ける。

暦「というか、本当に起こしに来てくれたのか。 十パーセントくらい冗談だったんだけど」

月火「いいから起きて、お兄ちゃん」

月火「てかさ、十パーセントって。 それ殆ど本気だよ」

暦「まあ、折角起こしに来てくれたんだしな。 分かった、起きるよ」

そう言い、まだ暗い部屋の中で、僕は体を起こす。

あれ、まだ暗い部屋?
303 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:23:18.94 ID:bRAFU2f40
暦「……月火ちゃん、今何時だ?」

一応の確認の為、月火に問う。

いや、それは正直言って意味の無いことなのだけれど。

だって、時計はあるしな。 僕の部屋。

だからこれは、せめてもの可能性に賭けた結果である。

月火「今? 時計を見れば分かるでしょ。 三時だよ、三時」

暦「そうかそうか。 そうだよな、今は三時だ」

暦「にしてはやけに外が暗いなぁ。 あれ、もしかして、魔界とかからなんか攻めて来ちゃった感じ? それで暗い感じ?」
304 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:24:07.42 ID:bRAFU2f40
月火「そんな訳無いでしょ。 お兄ちゃん、頭大丈夫? あ、大丈夫じゃないか。 さっき頭痛が酷そうだったし。 今は夜中の三時だよ」

暦「あ! そっかー。 そりゃ、外も暗い訳だ! さっすが月火ちゃんだぜ」

ノリノリだ。 我ながら。

月火「でしょでしょ? だからお兄ちゃんは、私の事をもっと尊敬するべきなんだよ」

このチビも大分ノリノリだ。 いや、こいつは素で言っているのかもしれないけど。

そんな事を言いながら、なだらかな胸を張り、さも偉そうにする妹。

その妹の首に、僕は手刀を入れる事にした。
305 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:24:33.50 ID:bRAFU2f40
暦「夜中に起こすんじゃねえよ! 僕はどんだけ朝が早い人間だと思われてるんだよ!」

暦「まだそんな年老いてねえからな!」

僕の攻撃を受けた月火はと言うと、自分で吹っ飛んだんじゃないかって位、吹っ飛んで行った。

月火「ありえない! 折角可愛い可愛い妹が起こしに来てあげたって言うのに、その態度はありえないよ!」

倒れた体を起こしながら、月火はヒステリックに切れた。

つうか、可愛いとか自分で言ってるんじゃねえよ。
306 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:25:05.90 ID:bRAFU2f40
暦「夜中の三時に起こしに来る妹とかいらねえ! 思いっきり嫌がらせだからな!」

月火「はい? 嫌がらせって言うけど、そんな事を言うなら、お兄ちゃんが私にしてる殆どの事も嫌がらせだからね?」

暦「ほーう。 一体、いつ? どんな嫌がらせを僕がしたっていうんだ?」

妹に嫌がらせ? 笑わせるな。 僕はそこまで、人間として終わっちゃいねえんだよ。

月火「妹の胸を揉む。 キスをする。 お金を借りようとする。 入っているお風呂に入ってくる。 押し倒す」

人間として終わっていた。
307 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:25:35.94 ID:bRAFU2f40
暦「さておき、なんでこんな時間に起こしたんだ?」

月火「全然置いていい問題じゃないよ。 てか、自分が不利になったからって話を逸らさないで」

暦「いやいや。 だって、そうしないといつまで経っても話進まないだろ。 月火ちゃんとの会話って、無駄に長くなるし」

月火「関係無いね。 って事で話を戻そうお兄ちゃん。 語り合おう」

月火「それじゃあまずは、そうだね。 お兄ちゃんが、すぐに私のおっぱいを揉む理由から聞こうか」

やれやれ、困った妹だぜ。 全く。
308 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:26:27.87 ID:bRAFU2f40
暦「理由? そんなの分かるだろ。 そこにお前が居るからだよ」

月火「まるで、私が悪いみたいな言い方だね。 断言する辺り、すごいよお兄ちゃん」

どうも。

月火「んじゃあ次。 キスをする理由を聞こうか」

暦「それも分かりきっているぞ、月火ちゃん。 そこにお前が居るからだ」

月火「なるほど、なるほど。 そういう事だったのか」

月火「それじゃあ、お金を借りるのは?」
309 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:26:54.53 ID:bRAFU2f40
暦「そこにお前が居るからだな」

月火「お風呂に一緒に入ろうとしたり、押し倒したりするのは?」

暦「お前が居るから」

月火「それで良い? 理由はそれで良いのかな」

暦「ああ、むしろこれ以外の理由なんて皆無だ」
310 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:27:21.74 ID:bRAFU2f40
月火「私の所為にしてんじゃねえ!」

ベッドの上に座る僕に、月火のローキックが炸裂した。

なんだか、良い感じに入ってしまったので、ちょっとだけだが痛い。

僕は月火に蹴られた部分を摩りながら、口を開く。

暦「なんだよ、月火ちゃん。 本当は月火ちゃんも嬉しいんだろ?」

月火「お兄ちゃんが本当にそう思っているのなら、私は今すぐ縁を切りたいね。 それと島流しの刑に処したい」
311 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 13:28:05.93 ID:bRAFU2f40
暦「島流しとか、そんな事したら、誰が月火ちゃんの胸を揉んだりキスしたり、押し倒したりするんだよ。 少しは考えた方がいいぜ」

月火「あれ、これってさ。 私、脅されてるのかな。 全然そんな感じしないんだけど」

暦「とにかく、これで話は終わりだ。 僕はこれからもお前の胸は揉むし、押し倒すし、キスもする。 お風呂にも入る」

そう高々と宣言してやった。

暦「ああ、それと、勿論お金も借りる」

危ねぇ。 一番大事な事を言い忘れる所だった。

月火「最早、何も言えないね。 私の最大の失敗を訂正するよ。 お兄ちゃんの妹だった事が最大の失敗だよ」

なんとでも言いやがれ、お前がなんと言おうと、僕はこれからもずっと、お前のお兄ちゃんなんだよ。 ざまあみろ。

そう考え、僕は少し、自分が情けなく思ってしまうのだった。


第九話へ 続く
314 :名無しNIPPER [sage]:2013/04/12(金) 16:10:52.84 ID:XahgL2OAO
情けなさ過ぎワロタ

317 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:54:45.39 ID:bRAFU2f40
閑話休題。

暦「それで、本題に入ろうぜ。 月火ちゃん」

月火「私的にはさっきのも本題なんだけど。 なんなら繰り返してもいいんだよ」

暦「いや、やめよう。 今度なんか奢るから、本当にこのまま話が進まないとマズイ」

月火「もう、仕方ないなぁ。 でも、奢ってくれるならいいか。 うん」

物で釣られるとは、安い奴。
318 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:55:13.84 ID:bRAFU2f40
暦「それで、何だってこんな時間に起こしに来たんだよ。 怖い夢でも見たのか?」

そうだとすると、正直な所、こんな時間に起こされたのも許してしまいたくなる。

だって、怖い思いをして、兄に助けを求めてくる妹って可愛いじゃん。

まあ、怖い夢を見ていたのは僕もなんだけれど。

しかし、月火の口から出た言葉は、それを否定する物だった。
319 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:55:43.58 ID:bRAFU2f40
月火「違うよ。 そう言う訳じゃない。 第一さ、怖い夢を見たからってお兄ちゃんの所には来ないよ。 なんで二回も怖い物を見なきゃいけないの?」

僕は怖い物扱いかよ。 散々な扱いだな。

暦「それじゃあどうしてだよ。 まさか、本当に嫌がらせか?」

月火「違う違う。 なんて言うか……どう説明すれば良いのかな。 とりあえず、私の部屋に来てくれない?」

えー。 面倒だな。 二度寝したいんだけど、僕。

月火「早くしてよ。 私だって、お兄ちゃんを部屋に入れるのは苦渋の決断なんだからさ」
320 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:56:39.92 ID:bRAFU2f40
またまた。 そんな事言って「お兄ちゃん、一緒に寝よ?」とか言ってくるんだろ、こいつ。

可愛い奴だな。 本当に。

後ろを付いていく僕がそんな事を考えているとも知らず、月火は自分の部屋の扉を開く。

暦「良いよなぁ。 相変わらず広くてさ。 お前一人じゃ勿体無いだろ」

月火「私もそう思うんだよね。 なんでこんなに広い部屋なんだろーって」

暦「ふうん」
321 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:57:05.95 ID:bRAFU2f40
てっきり。

「お兄ちゃんと違って趣味が多いから」とか。

「友達が遊びに来るから」とか。

「服がいっぱいあるから」とか。

そんな事を言う物だと思ったんだが、意外にも月火は僕と同じ意見らしい。

暦「それで、わざわざ部屋に呼んでどうしたんだよ。 月火ちゃん」

僕がそう聞くと、月火は部屋の中をゴソゴソと漁り、目的の物を見つけたのか、僕にそれを突き出してきた。
322 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:58:47.15 ID:bRAFU2f40
月火「これ、何か分かる?」

そう言い、月火が僕に見せたのは、どこか見覚えがある『ジャージ』だった。

暦「ジャージ……? どこかで見た気がするんだけど、なんだろう」

月火「そっか、お兄ちゃんも見た気がするんだ」

月火「私もさ、どっかで見た様な感じなんだよねー」

僕と月火に見覚えがある物。

それは、当然と言っていいかもしれない。 だって、家の中にある物だし。
323 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 17:59:23.47 ID:bRAFU2f40
暦「月火ちゃんのでは、無いよな?」

月火「うん。 私がこんなダサいの着ると思う?」

暦「ダサいかどうかは知らないけど。 まあ、思わないな。 月火ちゃんにはあまり、似合いそうに無いし」

暦「ついでに言っておくと、僕のでも無い」

だけれども。 問題はそのジャージが家の中に、それも月火の部屋にあったと言う事だ。

暦「学校で、間違えて誰かのを持ってきたとかじゃないか?」

月火「そんな覚えは無いんだけど……なのかなぁ。 でもさ、なーんか引っ掛かるんだよ」
324 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:00:10.84 ID:bRAFU2f40
引っ掛かる。 その言葉には僕も同意だ。

何か、大事な物の様な……そんな感じ。

月火も恐らく、その気持ち悪さがあるのだろう。

そうでなければ、月火がこんな時間に僕を起こすなんて事、ある訳が無い。

暦「不思議な事もあるんだな。 じゃあ、そろそろ僕は寝ていいか?」

それがなんなのか解決はしたかったが、睡魔には勝てない。

明日また、この『ジャージ』については話し合うとして、今日の所はとりあえず、寝るか。
325 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:00:57.20 ID:bRAFU2f40
月火「はいはい。 ごめんね、わざわざ起こしちゃって」

月火は未だに、そのジャージを両手で広げ、食い入る様に見つめていた。

偶然だった。 本当に、偶然。

視界の隅に、見えた。

暦「月火ちゃん! それ、ちょっと貸してくれ!」

月火「え? いいけど、どうしたの急に」

月火からジャージを受け取り、広げながら確認する。

暦「確か、ここら辺に……」
326 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:01:54.53 ID:bRAFU2f40
あった。 やっぱり。

ジャージの裏地、そこに書いてある、小さな名前。

阿良々木火憐と。

直後、またしてもあの頭痛が僕を襲った。

暦「……ぐあっ!」

蹲る僕を月火が慌てて抱える。

抱えると言っても、体格差もあるので、気持ち程度の物ではあったけれど。

頭痛のせいで、どうにも思考が捗らない。 阻害されている様な感じだ。

だが、そんなの関係無い。
327 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:09:22.10 ID:bRAFU2f40
僕の顔を覗き込みながら必死に何かを言っている月火の声も、段々と聞こえなくなってきた。

考えろ、考えろ。

僕は何か、大事な事を忘れているんだ。

阿良々木、暦。

阿良々木、月火。

違うだろ。 違えんだよ。 そうじゃないんだ。

たった一人の妹、阿良々木月火?

何かがおかしい。
328 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:10:02.32 ID:bRAFU2f40
くそ! 今すぐにでも頭が割れそうな痛みだ。

つうか、もう割れてるんじゃないか、これ。

まるで、金槌で何回も、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も、殴られている様な。

月火の顔がぼやけて見える。

目の前は、赤く染まっていた。
329 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:12:08.54 ID:bRAFU2f40
あれ、血かよこれ。 どういう状況だ。

ああ、そうか。 眼から、血が出ているのか。

訳、分からねえぞ。

だけど、こんなので、この程度で、諦めては駄目だろ。

『あいつはもっと辛かった』んだから、僕が投げ出しては駄目だ。

あいつ、あいつだ。
330 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:12:45.66 ID:bRAFU2f40





暦「……火憐、ちゃん」





331 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:13:29.05 ID:bRAFU2f40
回想。
332 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:13:56.02 ID:bRAFU2f40
昨日の帰り道、僕は声を掛けられた。

あれは知らない奴じゃない。 僕の知っている奴、何より、僕の誇り。

火憐「おいおい、兄ちゃん。 どこに行くんだよ」

火憐「つうか、どこから来てるんだ? あっちには面白い物なんてねえだろ」

そう、火憐は僕に言った。

それに対し、僕は、僕は、僕は。
333 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:14:43.99 ID:bRAFU2f40
「すみません、どなたでしょうか。 人違いでは」

と、返したのだ。

その後、火憐は。

火憐「はあ? なんだよおい、喧嘩売ってるのか」

と言っていた。
334 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:15:19.99 ID:bRAFU2f40
今なら分かる。 火憐は、僕なら覚えているだろうと、期待したのでは無いだろうか。

火憐は大荷物を持っていた。 月火が言っていた不審者と言うのは間違いなく、火憐の事だろう。

僕と会う前に、恐らくは月火と揉めて、荷物を持って飛び出した所に丁度よく僕が通りかかったのだ。

そして、鉢合わせになったのだろう。

何が、何が、だろうだよ。 そんなんじゃない。 そうとしか考えられない。

そして、僕はそれを-------------------------裏切った。
335 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:15:55.68 ID:bRAFU2f40
その事実にすら気付かず、僕は火憐に、続けて酷い言葉を浴びせた。

「いきなりそんな事を言われても、売りもしませんし買いもしませんよ」と。

この馬鹿は、呆れた様に笑いながら、火憐に向けてそう言った。

対する火憐は。

火憐「そうかよ。 結局、皆そうなんだな。 兄ちゃんも」

と。
336 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:16:25.53 ID:bRAFU2f40
どんだけ馬鹿だよ。

妹の事すら忘れるって、そんな馬鹿いねえぞ。

小さい妹に忘れられ、それだけでも火憐はかなり傷付いていた筈なのに。

それに、更に追い討ちをかけるって、どこを探せばそんな馬鹿が居るんだよ。

全部、全部。
337 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:16:55.81 ID:bRAFU2f40




僕だ。




338 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:17:39.66 ID:bRAFU2f40
恐らく、少しの間だけ気を失っていたかもしれない。

月火の顔は、涙に濡れていて、僕がどんな状況だったかはすぐに分かった。

それに加え月火の奴、和服が僕の血塗れになってるじゃねえか。 なんだかホラー映画みたいだな。

暦「月火ちゃん」

月火「お、お兄ちゃん? 大丈夫? ねえ、お兄ちゃん」

暦「大丈夫だよ。 お前のお兄ちゃんを舐めるんじゃねえぞ」
339 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:18:12.25 ID:bRAFU2f40
月火「そう、そっか。 でも、死んだんじゃないかって思ってさ。 私」

暦「殺されても死なねーよ。 僕は不死身だからな」

月火「そうだよね。 うん。 私のお兄ちゃんだしね」

暦「ああ。 そうだ」

暦「なあ、月火ちゃん」

暦「僕、少し……いや、結構かもしれないけど。 出掛けて来るよ」
340 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:18:49.95 ID:bRAFU2f40
月火「出掛ける? 今から? と言うか、血だらけだけど、大丈夫なの?」

暦「出かけるよ。 今から。 血だらけなのは、大した問題じゃねえよ」

月火「でも、でもさ。 どうみたって大丈夫じゃないじゃん。 お兄ちゃん」

暦「かもしれないな」

月火「なら、休みなよ。 なんなら救急車呼ぶ?」

暦「月火ちゃんがこれだけ優しくしてくれているのに、こう言うのもあれだけどさ。 やらないといけない事があるんだ」
341 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:46:29.81 ID:bRAFU2f40
月火「なにそれ、訳分からない。 こんな状態のお兄ちゃんを外に出す程、私は冷たくないよ」

暦「ありがとう。 だけど、行かないと」

月火「……それは、大事な事?」

暦「ああ」

月火「自分の体より、大事な事?」

暦「当たり前だ」

月火「……はあ。 もう、分かった。 分かったよ、お兄ちゃん」

月火「でも、せめて、顔は拭いてよ。 近所で噂になってもあれだしさ。 今、タオル持って来るから」

暦「悪いな」
342 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:47:55.64 ID:bRAFU2f40
月火が部屋から出るのを見て、僕は一度、自分の部屋へと戻る。

すげえすっきりとした気分だ。 頭の中に引っ掛かっていた物が、取れた感じ。

手早く着替え、財布や携帯をポケットに押し込み、階下へと向かう。

ああ、ついでにあれも、拝借しておこう。

もう一つのそれをポケットに押し込んだ所で、丁度、月火がタオルを持ってきた。

月火「ほい、お兄ちゃん」

暦「サンキュー」
343 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:48:40.26 ID:bRAFU2f40
どうやら月火も着替えた様で、先程までのさながらホラー映画みたいな図では無くなっていた。

写真の一枚でも取っておくべきだったかな。 何年後かの月火に見せてやりたい。

そんな事を考えながら顔を拭く僕に、月火は声を掛けてきた。

月火「それで、何をしに行くの?」

拭き終わったタオルを月火に返し、玄関で靴を履く。

暦「大事な物を取り返して来る」

暦「僕の、大事な誇りを」

月火「ふうん。 正義の味方みたいだね、お兄ちゃん」
344 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:49:08.57 ID:bRAFU2f40
暦「はは、そう見えるか」

暦「でも、僕はそんな物にはなれないよ。 本物にも、偽物にも、僕はなれない」

月火「よく分からないけどさ、頑張ってね。 お兄ちゃん」

暦「ああ」

月火「いつにも増して格好いいね。 奢ってもらう約束もあるんだし、なるべく早く------」

言っている途中で、月火の目が虚ろになる。

これは見た事がある光景だ。

そう、八九寺もそうだった。
345 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:49:37.04 ID:bRAFU2f40
月火「あ、えっと。 なんで、私。 こんな所にいるんだろ」

なるほど、そういう事か。

つまりは多分、僕も火憐と同じ立場になったと言う事だ。

そもそも最初は、僕も忘れられていたのだし、驚きはしないけれど。

月火「えっと。 誰、ですか?」

おいおい、せめて「どなた」とか「どちらさま」って使えよ。 そんなんじゃ来客があった時、対応任せられねーぞ。
346 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:50:04.56 ID:bRAFU2f40
暦「必ず、帰ってくるよ。 僕の誇りも、月火ちゃんの相方も、連れてな」

最後にそう月火に言い、僕は外へと出た。

大分不審な目で見られてしまったが、夜も遅いこともあり、都合良く夢とでも解釈するだろう。

そうでなければ、ちょっと面倒だが。 まあ、そんなの全部まとめて片付けてやる。

そういや、月火の奴……火憐のジャージをダサいとか言ってたな。 ついでにちくっておこう。

火憐の前ではそんな事、絶対に言わなかったのに、心の中でずっと思っていたんだろうな。

そう考えると、火憐がちょっとかわいそうである。

けど、ジャージばかり着るってのもどうかと思うけど。

あいつも、月火みたいな服を着れば、結構似合うと思うんだけれどなぁ。

まあ、そんなのは本人の意思だし、僕が言う事でも無いか。
347 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:50:31.16 ID:bRAFU2f40
とりあえず、だ。

月火には後からいくらでも埋め合わせはするとして。

今、僕が最優先でやるべき事。

火憐を見つけて、この状況を変える手立てを見つける。

ほぼ百パーセント、怪異のせいだとは思うが。

正体が見えない以上、戦えるとも思えない。

何より、火憐も巻き込まれてしまっているのだ。 本来なら、僕がそうなるべきだったのに。

僕が近づく事で、火憐は僕の事を忘れてしまうかもしれない。
348 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:51:03.24 ID:bRAFU2f40
だけど、それだけだ。

多分、と言うか大真面目に、一年くらい僕は暗い男になりそうだけど、火憐がまたあの家に戻れるならそれでいい。

火憐には火憐の居るべき場所がある。

僕には僕の、居るべき場所がある。

化物にこそ、相応しい場所が。
349 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/12(金) 18:51:41.57 ID:bRAFU2f40
とにかく、火憐が家を出て行ってから随分と時間が経ってしまった。

あいつは行動範囲が広いし、何より体力が半端無い。

正直な所、どこに居るか分からない火憐を探すより、フルマラソンを走れって言われた方が楽だろうな。

だけど、その程度だ。

なんなら町中を探してもいい。

見つからなければ、この県を探しきってやる。

それでも駄目なら、日本全国だ。

やってやるよ、それくらい。

もう一度、火憐の笑顔が見れるなら、それくらい。


第十話へ 続く
360 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:18:46.61 ID:PGWDh4gJ0
携帯を確認。

時刻は三時三十分。

夏とは言っても、辺りはまだ、大分暗い。

そりゃ、明るかったら逆に驚きだけれども。

まずは一旦、状況を整理しよう。
361 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:19:14.19 ID:PGWDh4gJ0
僕は確か、今日……いや、昨日か。

昨日の朝、月火と話して異変に気付いたんだ。

月火が火憐や僕の事を忘れている、と。

その時はまだ、月火は思い出してくれた。

正確に言えば、僕の事を忘れていたのは一瞬だったんだけれど。
362 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:20:18.97 ID:PGWDh4gJ0
それで僕は、その話を聞いて、異変を忍野に知らせる為、あの廃墟へと向かったのだ。

道中、八九寺とぶつかりそうになり、僕は急いでるのも忘れて、無駄話をしていたと思う。

今思えばそれもまた、僕の馬鹿っぷりが判るのだけれど、今更後悔しても仕方ない。

そして、八九寺は別れ際……僕の事を忘れていた。 否、その瞬間に忘れた。

それが僕にはあまりにもショックで、忍野と会う前に全員に連絡を取ったんだ。

一番最初に連絡を取ったのは、戦場ヶ原。

しかし、あいつも僕の事を忘れていた。 綺麗さっぱり。 跡形も無く。
363 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:20:44.39 ID:PGWDh4gJ0
……待てよ、でもあいつは。 僕と数時間前に話した時は、僕の事を覚えていなかったか?

戦場ヶ原と連絡を取ろうか。 とも思ったが、今はそれ所では無い。 また、忘れられている可能性だって、十分にあるのだし。

そして、その後。 羽川や神原、それに千石とも連絡を取ったけれど、結果は同じだった。

恐ろしくなり、怖くなり、一刻も早く、忍野の元へと向かおうとしている時に、僕の影から忍が出てきた。

忍……そうか、忍は?
364 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:21:19.23 ID:PGWDh4gJ0
暦「おい、忍。 起きているか? おい!」

月明かりによって作られる僕自身の影に、話しかける。

忍「なんじゃ。 儂の事を忘れおって、極刑物じゃぞ」

と憎まれ口を叩きながら、忍は影の中からすうっと出てきた。

暦「悪かったよ。 気付いたら、お前の事も……」

暦「忍、何が起きているんだ? 今、僕達に」
365 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:21:47.31 ID:PGWDh4gJ0
忍「別にいいがの。 それと、何が起きているか。 と言う質問じゃが」

忍「分からん。 儂にもどういう事なのか分からんのじゃ」

忍にも分からない、何か。

暦「そう、か」

暦「僕は、一体どうなっていたんだ?」
366 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:23:12.24 ID:PGWDh4gJ0
忍「そうじゃな、その辺りは儂にも分かる。 なので、まずはそこから説明するとしようかのう」

忍「お前様は、記憶を失っていた。 又は、記憶を改変されていた。 このどちらかじゃ」

忍「昨日、儂とお前様とで話していたのは、覚えておるか?」

忍「お前様が記憶を失う直前の事じゃ」

暦「ああ、覚えている。 と言うか、思い出した」

忍「ならば話は早い。 あの会話の最後、妙な気配を感じたんじゃよ」
367 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:23:45.27 ID:PGWDh4gJ0
暦「妙な、気配?」

忍「うむ。 お前様が、何かに絡みつかれるような、そんな感じが儂にも伝わってきたんじゃ」

僕と忍の体はリンクされている。

僕は全然気付かなかったけれど、忍はさすが。 その妙な気配と言うのを感じたのだろう。

そうか、それで忍は。
368 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:24:13.05 ID:PGWDh4gJ0
暦「異変を感じて、声を掛けてくれたのか」

忍「その通りじゃよ。 それに、お主の眼、大分虚ろになっておったしの」

まるで、迷子娘や先程の妹御、極小の妹御の様にじゃ。 と忍は続けた。

忍「しかし、結果は」

暦「間に合わなかった。 って事だな」
369 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:25:03.15 ID:PGWDh4gJ0
忍「さよう。 恐らく、お前様の儂に対する記憶も、全て失われておった筈じゃよ」

暦「でも、それでも僕の前に姿を出すくらいは、できたんじゃないか?」

僕がそう言うと、忍は呆れた様な顔をし、口を開く。

忍「お前様の馬鹿っぷりも、いよいよ拍車が掛かって来た見たいじゃな」

忍「怪異とは、気付かなければ気付かない物なんじゃよ。 そこにあるから、あると思うのじゃ」
370 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:25:43.04 ID:PGWDh4gJ0
そうか。 そうだ。

だから僕は、忍の事を忘れて、気付かなかったんだ。

そこに居ると、思わなくなったから。

忍「まあ、儂的にはあの時、本来の形に戻れたんじゃがの。 儂本来の姿に」

暦「本来の姿……そうなのか?」

忍「無論。 お前様との関係が切られたのなら、既にいつでも戻れたんじゃよ」

それはつまり、怪異の王。 吸血鬼。 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

それに、戻れたと言う事か。
371 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:26:11.51 ID:PGWDh4gJ0
暦「なあ、こう言うのもあれだけどさ、何で戻らなかったんだ?」

僕の問いに、忍は凄惨に笑い、答える。

忍「儂は、自力で戻って自力で死ぬ。 他の物の力なぞ借りて戻る等、却下じゃ」

忍「ましてや、他の怪異の力を借りて等、儂の名が廃る所の話じゃないわ」

暦「はは。 そうか」

暦「迷惑掛けるな、忍」
372 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:27:31.91 ID:PGWDh4gJ0
忍「ふん。 それに、あの姿に戻ったら、ゴールデンチョコレートともおさらばでは無いか……それは断じて却下なのじゃ!」

結局はそれかよ。

でも、まあ。

とんだ、お人好し吸血鬼も居た物だ。
373 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:27:59.31 ID:PGWDh4gJ0
暦「つまり、話が最初に戻るけど。 僕はあの時に記憶が入れ替わった。 もしくは失った。 そう言う事なのか」

忍「そうじゃな。 それが一番有力な解釈の仕方……賢明と言った方が正しいかのう。 とにかく、そう言う事じゃよ」

暦「そうか。 なあ、忍」

一呼吸して、僕は言う。

暦「やっぱり、忍野に会う必要はあると思うんだ。 例え、あいつが敵だったとしても、だ」
374 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:28:26.26 ID:PGWDh4gJ0
忍「奇遇じゃのう。 儂も同じ考えじゃよ。 我が主様よ」

暦「ありがとう。 それじゃあ」

暦「宜しく頼むぜ。 相棒」

忍「カカッ。 この儂を相棒扱いとは、随分と偉くなった物じゃな」

忍「まあ、悪くは無いがのう」

忍「だが、こう決意を固めたとして。 お前様には先に済ませなければならん事も、ある様じゃが?」
375 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:28:55.30 ID:PGWDh4gJ0
暦「ああ、そうだよ。 その通りだ」

暦「もう絶対に忘れてやらねえ。 例え、いつもみたいに土下座されてもな」

忍「うむ。 それがお主に出来る努力じゃよ」

忍「さて……」

忍「大体の場所は、既に見当は付いておる。 お前様、準備はいいか?」
376 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:30:18.25 ID:PGWDh4gJ0
暦「出来て無くても、今すぐ走って迎えに行くさ」

忍「承知したぞ、我が主様。 それでは、行くとするかのう」

忍は指差す。 あの先に、火憐が居る筈だ。

忍「距離はちと遠いが、歩いていけん距離でも無いかの」

暦「ああ、了解。 サンキューな、忍」
377 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:30:49.95 ID:PGWDh4gJ0
忍「礼には及ばんよ。 儂は言葉より、物の方が嬉しいのでな。 具体的に言えばゴールデンチョコレートじゃ。 と言うか、そんな事より」

忍「さっさと走らんか。 あの巨大な妹御はいつ動いてもおかしく無いんじゃぞ」

だから、巨大って言うほどでかくねーっつうの。

影の中へと入る忍を見送り、僕は先程、忍が指差した方向を見据える。

さて、行くか。
378 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:31:24.53 ID:PGWDh4gJ0
忍に何度か案内され、その場所に着いた時には、既に四時を回っていた。

案内された場所。

柄の木二中。

にしても、随分と分かりやすい場所に来たんだな。 あいつも。

これなら見つけてくれって言ってる様な物じゃねえか。

ああ、そっか。
379 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:32:01.42 ID:PGWDh4gJ0
見つけて欲しかったのか、火憐は。

部屋に残ってたジャージも、そういう意味だったのかもしれない。

つくづく、僕は何にも分かっていなかったんだろうな。

あいつが感じていた事も……メッセージも。 何も。

まあいいさ。 そんなの、これから分かれば良いのだから。
380 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:32:27.87 ID:PGWDh4gJ0
忍が言うには、恐らく火憐は屋上に居るとの事らしい。

夜中の中学校に入る事自体、初めてだけども(高校には何度か入った事がある。 校舎の中までとは行かなかったが)

しかし、あいつは良くこんな所に一人で来たな。

ましてや屋上だなんて。

正直言って、結構怖いぞ、ここ。
381 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:33:32.15 ID:PGWDh4gJ0
勿論、門が開いている訳も無いので、それを飛び越えて中に入る。

警備員や通りすがりの人に見つかれば、それこそマズイ事になりそうだ。

捕まったのが高校生となれば、尚更か。

そんな事を考え、若干びくびくしながら進んでいたら、忍が後ろから驚かせようと度々僕の妨害をしてくる。

この吸血鬼め。 お化け屋敷かよ。 もう既に、ゴールデンチョコレートの数がプラスからマイナスへと移行している事については、今はまだ黙っておこう。
382 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:34:11.37 ID:PGWDh4gJ0
幸いにも、警備員の姿等は見えなかった。 この町の治安を考えれば、納得だけれども。

そして。 それから程なくして。 すぐに。 すんなりと。 屋上へと繋がる扉の前へと、僕は到着した。

一度、扉の前で足を止め、目の前を見据える。

おいおい、内側から鍵が掛かってるんだけど。 マジで火憐が居るとしたら、あいつどうやって入ったんだよ。
383 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:34:38.29 ID:PGWDh4gJ0
あー。 でも、家に入るのにも二階の窓とか使う奴だし、不思議では無いのか。

まあ、家の二階と高さは随分違うけどな。

あいつ自体、生きる不思議みたいな感じだし、そんな感じの物だと思おう。

さて、どうするかなぁ。 なんて挨拶しようかな。 いやいや、まずは頭を下げた方が良いのかな。

つっても、妹に頭下げるのもなぁ。

うーん。 何かドッキリでも仕掛けてみようかな。 それか、壁をよじ登って、想像できない様な登場でもしてやろうかな。

等と考える。 無駄な事をつらつらと。
384 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:35:05.74 ID:PGWDh4gJ0
本来ならば、こんなどうでもいい事なんて考えずに、とっとと扉を開けるべきなのだろうけれど。

少しだけ、怖かった。

火憐に突き放されるのが、少しだけ。

少しじゃねえな。 かなりか。

僕って本当に、どうしようも無いくらいに馬鹿だよな。

全て、僕自身の都合だよな。

あー、くそ。
385 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:35:50.62 ID:PGWDh4gJ0
これが羽川だったり、千石だったり、八九寺だったり、神原だったり、それに戦場ヶ原だったりしたら、僕はここまで怖くなかったんだと思う。

あいつらの時は、自分の都合なんて考えずに、殆ど無理矢理、あいつらが助かるのを手伝った。

八九寺は厳密に言えば違うけれども。 しかし、方向性は違う……のかな。

友達に突き放されても、僕は多分、大丈夫だと思う。

いや、大丈夫では無いが。 ここまでじゃないって意味だ。

つうか、いつまで悩んでいるんだよ。 火憐に会いたかったんだろ? 僕は。
386 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:36:21.95 ID:PGWDh4gJ0
でも。

だから。

けど。

もうやめだ。

そんな自分自身に対する言い訳は、もうやめよう。
387 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:36:50.90 ID:PGWDh4gJ0
嘘を付くのも、止めだ。

火憐にも。

僕自身にも。

怖い。 火憐に突き放されるのが。

それがどうしたって言うんだ。 その時は泣いてやる。 あいつが引く位に泣いてやる。

それでも駄目なら。

その時はその時だ。
388 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:37:17.50 ID:PGWDh4gJ0
第一。

火憐はそんな奴じゃないから。

自分に言い聞かせる様に、思考する。

ぶっちゃけた話、そんな事はただの自分自身に対するハッタリでしか無いのだ。

だって、僕はあいつの事を分かってやれなかったのだから。

だが、今はそれでいい。 ハッタリでも何でも、今は。
389 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:38:31.77 ID:PGWDh4gJ0
よし、そうと決まれば。

鍵を外し、扉に手を掛ける。

大分錆付いてる様に見えたが、意外にも扉はすんなりと開いた。 音も立てずに。

開いたドアから、先程まで嫌と言うほど浴びていた風が入り込んでくる。

居なかったらどうしようとか、思っていたけれど。

どうやらそれも、無用な心配だったらしい。
390 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 11:38:57.85 ID:PGWDh4gJ0
僕の妹、阿良々木火憐は手を頭の後ろで組んで、屋上に大の字で寝転がっていて、空を見上げていたのだから。

こういった仕草が、一々男っぽいよなぁ。 つくづく思うけど。

暦「正義の味方が、夜の学校に侵入して良いのかよ」

僕はいつも通り、いつもの感じで、火憐に声を掛けた。

僕の誇りに。

僕の大切な妹に。


第十一話へ 続く
397 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:49:52.93 ID:PGWDh4gJ0
火憐「遅せえよ、待ちくたびれたぞ」

火憐は僕の方には視線を向けず、そう呟く。

暦「さっき言ったろ。 正義の味方がこんな所に居るなんて、思わねえよ」

僕がそう言うと、火憐は「よっ」と言いながら、手を使わずに立ち上がる。 すげえな。

火憐「ここはあたしのテリトリーだからな。 だから、いつ居ても大丈夫なんだ」

やはり、僕の方は見ずに、火憐は言った。
399 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:50:30.74 ID:PGWDh4gJ0
暦「そうか。 それなら文句は言えないな」

火憐「おう」

少しの沈黙。

それに耐えかねたのか、五分ほど経った後、火憐が再び口を開く。

火憐「何しに来たんだ」

暦「迎えに来たんだよ」

火憐「兄ちゃんが知らない、赤の他人をか?」

暦「違う」

暦「僕の妹をだ」
400 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:51:32.03 ID:PGWDh4gJ0
火憐「言ってる事が違うよ。 兄ちゃん」

火憐「昼間、何て言ったか忘れた訳じゃねえんだろ?」

暦「ああ。 忘れていないよ」

火憐「そうか。 それで、今更何の用事だ?」

暦「最初に言ったろ。 迎えに来たんだって」

火憐「あたしに帰る場所はねえよ。 兄ちゃんは知ってるだろ。 月火ちゃん、あたしの事を忘れていた。 誰だお前って、言われたぜ」

暦「あるよ。 帰る場所はある。 月火ちゃんは僕が説得する。 あいつが思い出すまで説教だ」
401 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:52:16.61 ID:PGWDh4gJ0
火憐「そりゃ、月火ちゃんが可哀想だぜ。 兄ちゃんの説教は恐ろしいんだから」

暦「僕的には、火憐ちゃんの説教の方が恐ろしいけどな。 暴力が伴うし」

火憐「はは。 酷い言い方だなぁ。 あたしの暴力は、愛のある暴力なのに」

暦「そんな暴力、あってたまるかよ」

火憐「ま、いいけどさ。 それで、兄ちゃん」

火憐「なんで、あたしの為に、こんな夜中に汗だくで走ってきたんだよ」
402 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:53:00.10 ID:PGWDh4gJ0
火憐から僕の姿は見えない筈なのだけれど、気配で分かったのだろうか。 それが気配で分かるか分からないかさえ、僕には分からないが。

暦「さっきも言ったろ、火憐ちゃん」

暦「僕の、妹だからだ」

暦「それ以上でも、以下でも無いよ。 火憐ちゃんは僕の誇りで、僕の妹で、僕の家族だ」

暦「だから、夜中でも関係ねえ。 汗だくになっても、お前の為なら今から校庭百週でも何でもしてやるさ」

そう言うと、ようやく、火憐は振り向いた。

火憐「やっぱ、迷惑掛けるよな、兄ちゃんには」
403 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:54:41.32 ID:PGWDh4gJ0
火憐「ありがとう。 兄ちゃん」

久しぶりに見る火憐の顔は、こう言うのもあれだけど、ジャージなのを除けば、綺麗な物であった。

暦「やめろよ、僕にお礼を言われる資格なんて無いんだからさ」

火憐「良いんだよ。 あたしが良いって言うから良いんだ」

火憐「なあ、兄ちゃん。 頼みがあるんだけれど、良いかな」

その言葉を聞き、僕は笑いながらこう返す。

暦「いいぜ、引き受けてやるよ」
404 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:55:08.87 ID:PGWDh4gJ0
火憐「相変わらずだよな。 兄ちゃんはさ」

火憐「惚れるよ。 本当に」

火憐は笑い、そう言ってくれた。

火憐「じゃあ、頼みなんだけど」

火憐「抱きしめてくれねえか」
405 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:55:35.53 ID:PGWDh4gJ0
僕はそれを聞き、黙って火憐の元へと近づく。

ったく、図体だけでかくなりやがって。 別にいいけどさ。

そして、近づいてくる僕を見て、火憐がなにやら恥ずかしそうにしていた。

おい、やめろよ。 僕まで恥ずかしくなるだろうが。

まあ、かと言って、やめるって訳でも無いんだけど。

気が付けば火憐が目の前に居て、僕はそっと火憐を抱きしめた。
406 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:56:21.63 ID:PGWDh4gJ0
暦「火憐ちゃん、ごめん」

火憐「謝る事じゃねえよ。 確かに、良く分からない事が起きて、あたしも訳が分からなくて。 だけど、それでも兄ちゃんはこうして来てくれたんだから」

火憐「それだけで、充分だよ」

暦「でも、怒ってただろ」

火憐「あたしが怒ってたら、兄ちゃんはもう木っ端微塵になってるぜ。 だから怒ってないよ」

暦「そう、か。 ごめん、ごめん」
407 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:56:58.09 ID:PGWDh4gJ0
火憐「だから謝るなって、なんだかあたしが悪いみたいじゃねえか」

火憐「てか、何泣きそうになってるんだよ! なっさけないなぁ、兄ちゃん」

暦「うるせえ。 うるせえよ、火憐ちゃん」

暦「心配だったんだよ。 火憐ちゃんに何かあったらって思ったら、僕は」

火憐「大丈夫だよ。 あたしに何かするのは兄ちゃんしかいないし、あたしに何かするのが許されるのは兄ちゃんだけだ」

暦「……はは。 そりゃ、良い事を聞けた」

そして、僕と火憐はしばらくの間、そのままの姿勢で話し合った。
408 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:57:46.51 ID:PGWDh4gJ0
何分か経った後、ようやく僕と火憐は離れる。

と言うか、途中で何回かキスをしそうになって(一応言っておくが、ただのスキンシップだ)この雰囲気でキスをしたらヤバイって自制が働いて、なんとか堪えていたのだけれど。

そう何度も自制は効きそうになく、とりあえず一回離れようと言う事で抱きしめ合うのをやめたのである。

暦「なあ、火憐ちゃん。 僕からも一つ、頼みがあるんだ」

そして今は、二人で並び、座っている。
409 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:58:13.34 ID:PGWDh4gJ0
火憐「兄ちゃんから? 珍しいな。 言っておくけど、月火ちゃんを倒して来いってのは無理だぞ」

いつか僕が言った台詞。 多分、僕の真似なのだけれど、思いの他似ていた。

暦「あははははは!」

自分の真似をする奴を見て、ツボに入ってしまったのが悔しいが。

火憐「いつまで笑ってるんだよ。 そこまで面白いネタでは無いと思ったんだけど」

暦「あはは、ごめんごめん。 それで頼みなんだけどさ」

暦「僕の事、一発でいいから思いっきり殴ってくれ」
410 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:58:39.87 ID:PGWDh4gJ0
火憐「え? 良いの?」

なんで嬉しそうなんだよ。 そこは「兄ちゃんを殴る事なんて出来ないよ」とか言っておけよ。

暦「一発だけな、二発は許さないぞ」

火憐「おう、任せとけ!」

言うや否や、火憐は僕に向かって拳を掲げる。

暦「か、火憐ちゃん。 一応、少しだけ遠慮してくれよ。 なあ」

火憐「聞こえねえ!」

聞こえてるじゃねえかよ、おい。
411 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 17:59:07.29 ID:PGWDh4gJ0
との訳で、僕は綺麗に吹っ飛んだ。

つうか、マジで遠慮無しだった。

この前の風呂で殴られた時よりも本気だったぞ。

それで意識を失わない辺り、僕も殴られ耐性が出来つつあるのだろうか。

いらねえよ、そんな耐性。

火憐「うわ、大丈夫か? 兄ちゃん」

暦「……だ、大丈夫。 多分」
412 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:00:04.24 ID:PGWDh4gJ0
吹っ飛んだついで、先程入ってきた扉に頭を思いっきりぶつけた。 いや、マジで痛い。

火憐「どう見ても大丈夫じゃねえけど。 あたしが殴っといてあれだけどさ」

火憐「ってか、血でてんぞ、兄ちゃん」

暦「みたいだな」

火憐「舐めようか?」

なんで舐めるんだよ。 兄の頭を舐める妹とか色々駄目だろ、それ。

暦「いい、舐めなくていい。 むしろ絶対にそれだけはやめて」
413 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:01:04.83 ID:PGWDh4gJ0
暦「見とけ、火憐ちゃん。 これが僕だ」

そう言い、先程切った傷口を火憐に見せる。

狙いは、最初からこれだった。 もう、火憐に対しては嘘を付きたく無かった。

火憐「痛そうだなぁ」

と、火憐は最初言っていた物の。

火憐「あれ、兄ちゃん。 よく見えないから、もう少し見える様にしてくれ」

と言い。

火憐「……これ、塞がってるぞ。 傷口」

と、言った。
414 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:01:38.24 ID:PGWDh4gJ0
暦「いつかはさ、話さないとって思ってたんだ」

暦「火憐ちゃん。 今からする話、聞いてくれるか」

僕がそう言うと。

火憐「当たり前だよ、兄ちゃん。 兄ちゃんの言う事には絶対服従の火憐ちゃんだぜ」

と、僕の妹は笑顔でそう言ったのだった。
415 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:02:46.03 ID:PGWDh4gJ0
大分、長い時間話し込んでいたと思う。

辺りは少しずつ、明るくなっているのが見て分かる。

春休みに、僕の身に起きた事。

その全部を火憐に語った。

それを聞いた火憐は、と言うと。
416 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:03:41.78 ID:PGWDh4gJ0
火憐「へええ。 すげえな兄ちゃん。 じゃあさ、腕とか吹っ飛んでも、また生えてくるんだよな?」

と、それはもう嬉しそうに聞いている。

一つ気になる事と言えば、さっきから聞いてくる質問が殆ど。

「頭が吹っ飛んでも元通りになるの?」とか。

「骨とか全部折れても、戻るのかよ?」とか。

そう言う物騒な事ばかりってのが、気になってしまう。

こいつ、間違っても試そうなんて思わないと良いけど。
417 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:04:51.81 ID:PGWDh4gJ0
暦「前にさ、覚えてるかな。 貝木泥舟って詐欺師」

火憐「ああ、あいつか。 覚えてるよ。 兄ちゃんの誇りを汚した奴だ、許せねえ」

いや、その誇りってお前の事なんだけどな。 自分で言ってて恥ずかしくないのかな。

暦「あいつが火憐ちゃんにしたのが、それだよ。 怪異」

暦「囲い火蜂って言ってな。 その蜂に刺されると、体が火に包まれた様に熱くなる。 そんな怪異らしい」

暦「あいつはさ、催眠だとか、プラシーボ効果だとか言っていたけれど。 それだけじゃ説明出来ない事もあるしさ」
418 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:05:22.07 ID:PGWDh4gJ0
火憐「ふーん。 なんだ、てっきり馬鹿でも風邪は引くってのが実証されたのかと思ったんだけどな」

自覚あったんだ。 初めて知った。

暦「ま、そんな訳で」

月火の事も話そうか悩んだけれど、話すとするならば、本人も居る所でしっかりと話したい。

それに、あれは知らなくても良い事、なのだと僕は思う。

言わなくていいなら、言う必要なんて無いのだから。

暦「これが、僕だよ。 火憐ちゃん。 お前の兄ちゃんで、化物の話さ」
419 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:05:56.06 ID:PGWDh4gJ0
そう、僕が締めると、火憐はいつもみたいに笑って、僕にこう言った。

火憐「あはははは! 何言ってるんだよ、兄ちゃん」

火憐「兄ちゃん、あたしより弱いのに良く言えるよな。 そんな兄ちゃんが化物なら、あたしはどうなんだよ」

火憐「兄ちゃんは兄ちゃんだろ。 月火ちゃんの兄ちゃんで、あたしの兄ちゃんで、それだけだよ」

火憐「化物を名乗るなら、せめてあたしを倒してからにしやがれ!」

馬鹿だけど、本当に純粋だな。

純粋だし、優しい。
420 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:06:46.30 ID:PGWDh4gJ0
火憐「てかさ。 吸血鬼ってのも案外、大した物じゃねえんだな。 兄ちゃん程度に負けるくらいだし」

この余計なひと言さえ無ければ、もっと良いのだけれど。

暦「勝ったか負けたかって問題じゃねえけどな」

つうか、後で忍に何て言われるか、考えただけで恐ろしい。

「言っておくがな、火憐。 お前の発言によって、僕がドーナッツを奢らされるんだからな! 言葉を慎め!」

いや、言っておくとは言った物の、実際に言ったら殴られるので頭の中で考えただけだが。
421 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:07:22.09 ID:PGWDh4gJ0
暦「いつか絶対勝ってやるよ。 覚えとけよ火憐ちゃん」

火憐「へっへっへ。 いつでも受けて立つぜ。 寝てる時でも、飯食ってる時でも、風呂に入ってる時でも。 いつでもあたしは受けて立つ!」

暦「風呂に入ってる時はやめておくよ。 殴られて気を失うのは気持ちが良い物じゃねえからな」

火憐「んだよ。 折角そのまま篭絡して、一緒に風呂に入ろうと思ったのに」

どんな篭絡だよ。 こええぞ、それ。
422 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:07:49.90 ID:PGWDh4gJ0
との訳で、僕と火憐は仲直りする事が出来た。

久し振りに、本当に火憐とこれだけ砕けた話をするのは久し振りな気がして、とても楽しかったのを覚えている。

後悔は勿論ある。

思えば、始まりからおかしかったんだ。

火憐と月火が起こしに来なかった、あの日から。

色々と火憐とは話をして、大体起きている事は分かった。
423 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:08:15.39 ID:PGWDh4gJ0
火憐が抱えていた悩み。 やはり、月火が原因との事。

僕が出掛けている間、火憐と月火はいつも通り一緒に居たのだけれど。 月火の態度がいきなり、知らない奴に接するそれになったとの事だ。

火憐はそれに少しだけ怒り。 僕が帰って来た時に月火の事を聞いても、素っ気無い態度を取った。 との事。

当の月火は、その忘れた事すら忘れていたと言った感じで、火憐の態度の変化、その原因に気付く事が無かったのだ。

そして、昨日。

火憐は月火に、完全に忘れられた。
425 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:09:12.58 ID:PGWDh4gJ0
他人事の様には言えない。 僕も、忘れていたのだから。

そして、今。

僕はどういった立場なのだろうか?

僕の友達が覚えているかは分からないが、忍はどうやら、覚えている様だ。 そこら辺はさすが吸血鬼と言った所か。

その忍の話だけれども。

……火憐に僕の体の事を話す時に、忍の事も話さなければならなかったのは説明するまでも無い。 しかし、どうにもあいつは姿を見せない。

柄にも無く恥ずかしがっているのだろうか、変に照れるしな、あいつ。

それとも、さっきの火憐の発言で怒っているのだろうか。

まあ、その内出てくるだろう。
426 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:09:59.89 ID:PGWDh4gJ0
さておき、そんな後悔エピソードを思い出した所で、どうやら夜が明けたらしい。

後悔エピソードと言えば、前に月火とした話を思い出す。

そういや、あいつの後悔エピソードってあの時聞いてないな。 今度問い詰めてみよう。

でも、あいつの話なんて大体知っているしなぁ。 僕が知らない面白エピソードがあるならば別だけど。

んー。 火憐なら知っているのだろうか。 月火の面白エピソード。 今度時間がある時にでも、聞いてみる事にしよう。
427 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:10:25.16 ID:PGWDh4gJ0
つうか。 火憐と一緒に朝日を見るのは、意外にも始めてかもしれない。

火憐の横顔はどこか嬉しそうで、僕もまた、それを見て嬉しくなる。

一時はどうなるかと思ったが、まあ、結果良ければ全て良し。 と言った感じか。

と、急に火憐が僕の方に顔を向けた。

火憐「なあ、兄ちゃん」
428 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:10:52.23 ID:PGWDh4gJ0
暦「どうした、火憐ちゃん」

太陽に照らされた火憐の顔は、晴れ晴れとした物だった。

そして、火憐は僕にこう言う。

火憐「兄ちゃんが来てくれたのは嬉しいし、ぶっちゃけ付き合っても良いくらいなんだけどさ」

火憐「あたし達、これからどうするんだ」

付き合っても良いのかよ。 でも僕には戦場ヶ原が居るしなぁ。 いやいや、真面目に考える事じゃないだろ、僕。
429 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:11:20.22 ID:PGWDh4gJ0
てか、やべ。 火憐を見つけた後の事なんて、何も考えて無かったぞ。

うーん。

どうしよっか。

最終回的な雰囲気を出しといてあれだけど、どうやらまだ、この妹と僕の話は終わりそうにない。

とりあえず、まあ。

暦「よし、それなら火憐ちゃん、こうしよう」
430 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:11:47.69 ID:PGWDh4gJ0
暦「とりあえず、僕と付き合おう」

と、実の妹に告白をしてみた。 生まれて初めての告白である。

火憐「いいぜ」

火憐「だけど、月火ちゃんの許可が降りたらな」

どうやら、一生無理らしい。 と言うか、許可が降りる前に殺されると思う。

まあ、冗談だから良いんだけれど。
431 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/15(月) 18:12:14.34 ID:PGWDh4gJ0
ああ、そういや、月火が火憐のジャージを馬鹿にしていた事をちくらなければ。

そうだな。 全部終わったら、ちくってやろう。

そして、もう少しだけ続けるとしよう。

化物になり損なった兄と、化物より強い妹の話を。


第十二話へ 続く
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/16(火) 08:11:37.99 ID:/Ac4qI0CO

ほんといいね
最近の一番の楽しみだわ
442 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:32:33.52 ID:7T0TV7XF0
暦「なあ! 火憐ちゃーん! おーい!」

火憐「なんだよー! 兄ちゃーん!」

暦「これー! もうそろそろ良いんじゃないかー!」

火憐「あたしもー! たった今同じ事思ってたぜー!」

朝っぱらから、大声で会話する僕と火憐。

それにはしっかりと理由があるのだ。

遡る事、約一時間前。
443 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:33:22.01 ID:7T0TV7XF0
以下、回想。

火憐「どーすーるーかーなー」

横で歩く火憐が、そんな風に呟いて(呟くと言うには、些か声が大きいが)いる。 ちなみに、これでもう十回目だ。

暦「うーん。 甘かったと言えば、甘かったのかな」

火憐「忍野って人かぁ? 居ない物は仕方ねーじゃん。 探すのにも、気配感じねーし」

会った事も無い人間の気配を探れるのか。 いや、気配を探れるだけで十分凄いけどさ。

暦「だけど、本当にこれだと打つ手が無いんだよ」
444 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:34:30.31 ID:7T0TV7XF0
火憐「うーん。 あたしは別に、これからずっと兄ちゃんと一緒でも良いけどな」

暦「月火ちゃんと一緒じゃなくても良いのか?」

火憐「それは……まあ、嫌だけどさ」

火憐「でも、その忍野って人に会えないとどうしようもねえんだろ? だったら気楽に行こうぜー」

能天気な奴だなぁ。

けど、言ってる事に間違いは無いのかな。

これは少し前の事だけど。

最後の望みを託して、僕と火憐の家に、つまりは月火の居る場所に行ったのだけれども。 月火は僕と火憐の事をやはり、覚えていなかった。

その後、火憐と僕とで、早朝(と言うか、ほぼ夜中)から知り合いと言う知り合いに連絡も取ってみたが、簡単に言えば全滅である。
445 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:35:19.04 ID:7T0TV7XF0
そして、この行動によって、一つ分かった事がある。

僕もまた、火憐同様、関わりがあった全ての人間から、忘れられていると言う事だ。

それはそうと、僕が確認する時間は本当に数分、五分程で終わったのに対し、火憐は一時間近くも確認の電話を続けていた。

その辺りは、さすが有名人なのだけれども。

何故か負けた気分になり、兄として些か悲しかったので、電話を掛けている振りを僕はしていたのだ。 それは結局、余計に僕の情けなさに拍車を掛けるだけであったのだが。

そうして、少しだけ気分が落ち込んだ所で、あの廃墟へと向かったのだが……

忍野はそこにおらず、僕と火憐の期待は空振りだったと言う訳だ。
446 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:35:54.96 ID:7T0TV7XF0
暦「とりあえず、なんかご飯でも食べるかぁ」

火憐「お、兄ちゃんの奢りか! 嬉しいな」

暦「何でだよ! って言いたいけど、どうせ火憐ちゃん、お金無いだろ」

火憐「あるっちゃあるけど、家に忘れて来たんだよ」

火憐「つまり、あたしは今……無一文だ!」

堂々と言うなよ。 格好良いけどもな。
447 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:36:40.14 ID:7T0TV7XF0
暦「そんだけ大荷物を持っていて、なんで一番大事な物を忘れてるんだ!」

火憐「いやいや、前に財布持ってたらさ。 あの詐欺師野郎に小銭まで全部持って行かれたじゃん。 だから持ち歩かない癖がついちまってるんだよ」

財布の意味ねえな、それ。

暦「そういや、そんな話も聞いたな」

にしても、貝木の奴め。 今度会う事があったら、やっぱり一発くらい殴っておこう。 火憐の分として。

暦「まあ、安心しろ火憐ちゃん。 僕はそんな事もあろうかと、お金は大量に持ってきてるんだぜ」

火憐「ふうん」
448 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:37:22.53 ID:7T0TV7XF0
暦「なんだよその期待していない眼差しは! 良いのかい火憐ちゃん、いいんだな?」

火憐「な、何がだ。 兄ちゃんの財布がすっからかんなのは知ってるんだぜ」

僕の強気な態度を不審に思ったのか、後退りをしながら火憐が僕に対して、そう言った。

ふふふ、馬鹿め。 お前は兄の偉大さを身を持って知るのだ。

暦「ほう。 これを見ても同じ言葉が言えるかな?」

と言いながら、火憐に僕の財布の中を見せる。

火憐「え、マジかよ。 壱……弐……参……百万くらいあるじゃねえか!」

暦「いや、そこまでは無いけどな」
449 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:38:07.33 ID:7T0TV7XF0
参で数えるのやめるんじゃねえよ。 幼稚園児か。

暦「十万円だ、十万円」

火憐「じゅ、十万円……」

火憐「あたしが今まで持った事の無い数字だぜ……さすがは兄ちゃん、貯金してたのか」

暦「貯金? 僕がそんな事、出来ると思うのかい?」

火憐「正直、思わないけど……だからこそ、驚いてるんじゃねえか」

火憐が先程とは打って変わって、尊敬の眼差しを向けてくる。 こんな眼差しはしょっちゅう向けられているので、特に何も思わないけど。

そして、僕を神の如く崇拝して来る火憐に、僕は先程の火憐の様に、堂々と言い放った。
450 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:38:52.48 ID:7T0TV7XF0
暦「実はこれ、家の生活費をこっそり貰ってきたんだよ」

火憐「うおりゃ!」

瞬間、火憐のローキックが炸裂。 狙ったのか、たまたまなのか、見事に太もものツボに入る。

分かる人には分かる、あの滅茶苦茶痛い場所である。

暦「いてえよ! 火憐ちゃん、今狙っただろ!」

火憐「不死身なんだろ? ならいいじゃん」

狙ってたのかよ、やめろよ。 お前の蹴りだけでも痛いのにさ。
451 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:39:51.93 ID:7T0TV7XF0
つうか、なんて事だ。 これは非常にマズイ。

これからの生活、火憐の暴力に今より更に怯えなければいけないのか。

火憐にとって、不死身体質は良いサンドバック。

これが、今回の事から僕が得られた教訓だ。 とか、考えてみたり。

暦「良くない良くない。 絶対に良くない」

うわ言の様に呟きながら、火憐の事を見上げる。
452 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:40:59.75 ID:7T0TV7XF0
ここで気を付けなければいけない事は、僕が蹲っていると言う事実である。

その為、火憐を見上げる形となっているのだ。

よく、巷では「火憐の方が僕より背が高い」等と言われているが、あれはあれだ。

僕の姿勢が悪いだけであって、決して! 絶対に! 火憐が僕より背が高いと言う事実は無いのだ。 多分。 恐らく。 だといいな。
453 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:41:32.32 ID:7T0TV7XF0
火憐「まあまあ、良いじゃねえか。 あたしと兄ちゃんの仲だろ?」

そんな仲、僕は望んでいない。

暦「……言っておくが、火憐ちゃん。 ここで僕に逆らうと言う事は、お前の朝ご飯が無くなるって事なんだぜ。 分かるか?」

火憐「ぐっ」

火憐「け、けど。 あたしの正義がそれを許さねえんだよ。 兄ちゃんのやってる事は、泥棒と一緒だ!」

まあ、そうなんだけどな。
454 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:42:12.46 ID:7T0TV7XF0
暦「おいおい、考えてもみろよ、火憐ちゃん」

暦「このお金は、確かに僕のでは無い。 それは認めよう」

暦「けどな、元はと言えば生活費だ。 僕や火憐ちゃんや、月火ちゃん。 それに両親のな」

暦「そのお金の僕と火憐ちゃんの分を持ってきた所で、問題は無いと思わないか? 悪い事に使う訳でも無いんだぜ」

火憐「そ……そう言われると。 確かに」

暦「だろ? それに、これだけお金があるとさ。 いくら紳士な僕でも、魔が差す可能性も否定できない」

暦「だから火憐ちゃん。 火憐ちゃんが僕の行動を監視して、何に使うか見ておかないと駄目だぜ」

暦「それが、火憐ちゃんの大事な役目なんだよ。 正義の役目だ」
455 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:42:45.13 ID:7T0TV7XF0
火憐「正義の……役目」

火憐「……そうだな! 兄ちゃん、その通りだ!」

火憐「あたしが間違っていた……兄ちゃんの言う事に間違いはねえんだ」

火憐「よし、分かったぜ。 正義の役目だな、兄ちゃん! いい響きだ」

やっぱり、言い包めるのは楽だよなぁ。 月火と違って。
456 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:43:20.37 ID:7T0TV7XF0
火憐「よし、そうと決まれば兄ちゃん。 その財布を寄越せ」

暦「え? 何でだよ、火憐ちゃん」

火憐「だってそうだろ? あたしは余計な物には使わない自信があるしな」

火憐「兄ちゃんに危ない橋は渡らせたくねえんだよ。 その財布を持っていなければ、余計な物を買う心配もねえだろ?」

暦「いや、待てよ、火憐ちゃん」

火憐「焦れったいな。 うりゃうりゃ」

僕の話に聞く耳を持たず、火憐は僕の体を抱きしめる。 抱きしめると言うか、ロックした。

暦「話し合おう! 話し合おうぜ、火憐ちゃん!」

火憐「つか、自信が無い兄ちゃんより、自信のあるあたしが持っていた方が良いだろ。 それだけじゃん」

そう言われると、僕にはもう、何も言い返せなかった。
457 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:44:14.51 ID:7T0TV7XF0
閑話休題。

火憐「よっし。 じゃあ飯を食いに行こうぜー」

結果的に、火憐に財布を奪われ、僕は先程の火憐よろしく、無一文となってしまった。

折角、余ったお金であれやこれやを買おうと思っていたのに。 火憐め。

暦「つっても、無駄遣いは出来ないからなぁ。 いつまでこんな生活すれば良いのか、分からないし」

暦「手軽にコンビニでも行くとするか」
458 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:44:41.67 ID:7T0TV7XF0
火憐「りょーかい」

とりあえずの行動を決め、僕と火憐は並んで歩き出す。

それにしても、火憐とこれだけ一緒に行動するのって、いつ振りなんだろう。

それこそもう、かなり昔の記憶でしか残っていない。

月火はいつも、こうして火憐と居るのかなぁ。

だとしたら、あいつ相当疲れるだろうな……

なんて、考えながら歩いていた時。
459 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:45:32.65 ID:7T0TV7XF0
火憐「なあ、兄ちゃん。 ただ歩くってだけも、つまらなくねえか?」

と、横から火憐が話しかけてくる。

暦「なら別に、逆立ちしてもいーぜ。 今日くらいは見逃してやる」

優しいな、僕。

火憐「いや、そう言う訳じゃないんだよ」

僕の優しさを否定するな、この愚か者め。
460 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:46:11.63 ID:7T0TV7XF0
暦「じゃあ、どういう意味だよ。 というか、普通に歩くのがつまらないって、これからどうやって生きて行くんだよ」

火憐「これからとか、そんな先の事なんて考えてられないだろ。 あたしは今を生きているんだよ」

こいつが言うと説得力あるよな。 だけど、今を生きていると言うより、その場の勢いで生きているって感じだが。

火憐「なんか暇潰ししようぜって事だよ。 兄ちゃん」

暦「暇潰し? 今この瞬間、この生産性の無いやり取りだけで、十分に暇潰しになっていると、僕は思うけど」

火憐「そうじゃなくってさ。 遊びながら歩こうぜ。 遊びながら」
461 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:47:04.37 ID:7T0TV7XF0
暦「遊びながらか。 別に良いけどさ、肩車でもするの?」

火憐「それもしたいけど、あれやろうぜ」

肩車がしたいとか、どういう事だ。

少し、火憐の将来が心配になってしまう。

暦「あれって?」

火憐「じゃんけんだよ。 じゃんけん」

暦「必勝法の奴か? 言っとくが、僕はあれを認めていないからな」
462 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:47:43.06 ID:7T0TV7XF0
火憐「違う違う。 違うんだ兄ちゃん」

火憐「あれだ。 ぐーちょきぱーでさ、勝った方が指の数だけ進めるって奴」

懐かしいなぁ。 小学生の時とか、妹達とやった物だ。

月火の奴は、ばれない様に少しずつ進むって反則をよくしていたけれど。 その辺り、じゃんけん必勝法の火憐と似ているよな。

と言うか。
463 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:48:21.43 ID:7T0TV7XF0
暦「それは分かるけど、指の数じゃないからな」

グーで勝ったら、一歩も進めないじゃねえか。 チョキしか出さないだろ、そんなルール。

暦「グリコとか、チョコレートとか、パイナップルって奴か?」

火憐「あ、そうそう。 それだ」

火憐「やろうぜ!」

との提案で、まあ確かに、しばらくこんな事もしてなかったし、別にいいかなと僕は思うのだった。
464 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:49:19.11 ID:7T0TV7XF0
時間経過。

暦「いくらなんでも弱すぎるだろ、火憐ちゃん」

開始一分。 既に十回やって、十回とも僕の勝ちである。

なんでも多分、進める数が多いとかで、チョキしか出さないんだと思うけれど。

チョキもパーも進める歩数的には一緒なんだが、それも多分、なんとなく多く進めそうだからとか、そんな理由だろう。

火憐の考えそうな事は、大体分かってしまうのだ。

そして、僕はグーでしか勝っていないので、合計三十歩進んでいると言う事である。

必死になる事も無いし、普通の歩幅で三十歩なのだが、少々声を張り上げないと届かない。 そんな距離感だ。
465 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:49:48.98 ID:7T0TV7XF0
火憐「次は必ず勝つ!」

火憐は僕を指差し、堂々と宣言する。

暦「……仕方ねえな。 一回くらい負けといてやるか」

対する僕は、小さく呟き、次のじゃんけん。

僕はパーで、火憐はやはりチョキ。

火憐「いよっしゃあ! 勝ったぜ兄ちゃん。 勝った勝った!」

どんだけ嬉しいんだよ。 つうか六歩進んだ所で、どうにもならないだろ。
466 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:50:27.63 ID:7T0TV7XF0
と、思っていた。 つい今の今まで。

火憐「よーし。 行くぜー」

火憐「チ!」

と言い、一歩踏み出す。

火憐「ヨ!」

と言い、更に一歩。

火憐「コ!」

と言い、あれ。
467 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:50:55.16 ID:7T0TV7XF0
火憐「レ!」

と言い、言い。

なんでお前、僕の隣まで来れてるんだよ。

火憐「イ!」

と言い、僕を抜かして行った。

火憐「ト!」

と言い、更に僕を突き放す。

火憐「おっしゃー。 抜かしたぜー!」
468 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:51:54.08 ID:7T0TV7XF0
暦「いやいやいやいや! おかしいだろ! なんだよそれ反則すぎるだろ!」

暦「何、何それ火憐ちゃん。 なんで僕の三十歩より、火憐ちゃんの六歩の方が大きいんだよ。 つうか一歩でお前、何メートル進んでるんだよ!」

火憐「おいおい、負け惜しみか? 情けないぜ、兄ちゃん」

暦「分かった、分かったぜ火憐ちゃん。 僕ももう、本気を出す」

暦「後で泣いてもしらねえからな!」

僕はそう宣言をして、じゃんけんをするべく、腕を構える。
469 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:52:25.41 ID:7T0TV7XF0
火憐「上等だ! よーし。 行くぜ」

と火憐も啖呵を切り、僕と勝負すべく腕を構えた。

じゃんけん、ぽん。

僕が出したのは当然、グーで。

火憐が出したのは、パーだった。

おい、嵌めやがったなこの野郎。
470 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:53:14.96 ID:7T0TV7XF0
回想終わり。

との訳で、火憐がそろそろ僕の視界から消えそうになってしまった所で、僕は火憐に声を掛けたのだった。

今はその遊びもやめて、再び並んで歩いている。

火憐「いやー。 楽しかったな、兄ちゃん」

暦「僕は火憐ちゃんに頭脳戦で負けた事が、今日一番のショックだ」

火憐「いいじゃんいいじゃん。 遊びなんだしさ」

火憐「兄ちゃんとこんな遊びするのも、大分前以来だよなぁ」

意外にも、火憐もそう思っていたのか。
471 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:53:57.91 ID:7T0TV7XF0
暦「だな。 いっつも月火ちゃんと居たしな、火憐ちゃんは」

火憐「そうか? いつもって訳でも無いけど」

火憐「てか、月火ちゃんと一緒に居なくても、兄ちゃんが遊んでくれたとは思えないんだけど」

まあ、そうなんだけれど。

暦「僕が見る限り、一緒に居ない方が珍しいくらいだよ。 それこそ、厄介事に首を突っ込んでいる場合を除いてさ」

火憐「ふうん。 そっかぁ。 じゃあ、今もそのパターンだな」
472 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:54:45.99 ID:7T0TV7XF0
暦「間違い無くそうだろ。 これからマジで、どうすればいいんだろ」

火憐「弱気になるなって。 何があっても兄ちゃんはあたしが守ってやるからよ!」

立場逆じゃん、これ。

さて。

……さて。

真面目な話、どうすればいいの、これ。


第十三話へ 続く
474 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:56:46.79 ID:7T0TV7XF0
火憐「そんな怒るなって、もう終わった物は仕方ないだろー?」

朝の十時。

僕と火憐は仲良く、公園のベンチに隣同士で腰を掛けていた。

暦「別に、怒ってる訳じゃねえよ。 けどさ、火憐ちゃん」

火憐「ん?」

暦「確かに、ご飯は大事だよ。 一日三食、しっかり食べないと駄目だ」

火憐「そりゃそうだ。 それがどうかしたか?」
475 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:57:35.28 ID:7T0TV7XF0
暦「けどさー。 だけどさー」

暦「なんで、朝飯代で既に五千円消えてるんだよ。 なあ」

火憐「うーん。 兄ちゃんが食べすぎたんじゃないか?」

暦「よくそれ言えたな! 僕が食べたのはおにぎり二個だけだからな!?」

火憐「だとすると……」

火憐が考え込む。 いつになく真剣に、答えを導き出す為に。
476 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:58:05.00 ID:7T0TV7XF0
火憐「そのお茶が原因じゃねえのか?」

結論が出たのか、火憐は僕が片手に持っているお茶を指差した。

暦「おにぎり一個百二十円だろ。 で、二個で二百四十円だよな」

暦「どんだけお茶が高い計算なんだよ! もしそんな高いお茶なら、僕は公園の水で十分だ!」

火憐「そっかそっか。 うーん。 じゃあなんでだろうな?」

暦「はっきり言うぜ、火憐ちゃん。 お前食いすぎだ」

暦「そんな食ってたら、太るぜ?」
477 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:58:46.46 ID:7T0TV7XF0
僕がそう言うと、火憐は不満そうに答える。

火憐「んだよー。 レディに対して言う言葉じゃねえぞ」

火憐「それに、ファイヤーシスターズは良く食べるんだよ」

なんだよそれ、当たり前の事の様に言ってるんじゃねえ。

暦「てかさ、前から思ってたけど。 何かとファイヤーシスターズのせいにしてるよな、火憐ちゃん」

火憐「あ? 文句あんのか?」
478 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:59:18.96 ID:7T0TV7XF0
やべえ、怖い。

暦「いやあ。 火憐ちゃんが太るのとか見たくないからさ。 兄として? 見過ごせないと言うか、見ていられないと言うか。 そんな感じなんだよ」

火憐「だいじょーぶだいじょーぶ。 あたし食べても太らないから。 運動もしっかりしてるしな! にっしっし」

暦「そんな事を言えるのも今の内だぜ。 それより、既に少し太ったんじゃないか? 前より」

火憐「へえ。 なら試すか」

暦「あん? 試すって、体重計でも持ってくるのか?」

火憐「こうするんだよ。 とりゃ!」

そう言い、火憐が僕の方へと飛んできた。
479 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 13:59:45.03 ID:7T0TV7XF0
いや、それはもう豪快に。

暦「待て、待て待て待て待て待て待て待て火憐ちゃん!」

飛びながら、火憐は笑顔で。

火憐「もう間に合わねえ」

と。
480 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:00:27.43 ID:7T0TV7XF0
閑話休題。

火憐からの攻撃(本人からしてみれば、僕の上に覆い被さっただけ)を受けて、ほとんど一日分の体力を使い果たした。

火憐「どうだ? 軽かっただろ」

暦「いや……普通に苦しいから……」

火憐「あれ、おかしいな。 もう一回やってみるか」

暦「軽い、滅茶苦茶軽い。 ぶっちゃけ、火憐ちゃんの体重とか僕の前では重さじゃないくらい軽い」

火憐「そうか。 ならいいんだけど」
481 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:00:57.01 ID:7T0TV7XF0
さておき。

暦「それより火憐ちゃん、真面目な話だけどさ。 これからどうしようか」

火憐「これからかぁ。 なんなら、月火ちゃんに討ち入りして、占領するか?」

占領って、あの家をだよな。 いつの時代だよ。

暦「まあ、それはやめた方がいいだろ。 今の時代じゃ、只の立て篭もり犯になっちまう」

火憐「そうか……犯罪は駄目だな。 駄目だ」

犯罪には厳しい火憐であった。 昨日の学校に入っていたあれも、犯罪だと言う事は伏せて置こう。
482 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:02:53.20 ID:7T0TV7XF0
暦「うーん」

火憐「うーん」

同じタイミング、同じ発言、同じポーズ。

横で僕と同じ様に腕を組み、頭を傾げる火憐を見た。

真似するなよ、こいつ。

火憐「あ」

暦「お、何か思いついたか?」
483 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:04:01.68 ID:7T0TV7XF0
火憐「兄ちゃんの言っている忍野って奴は、さっきの廃墟で暮らしているんだろ? なら」

火憐「その廃墟で待っていれば、忍野って奴も来るんじゃないか?」

火憐「元々はそこで暮らしていたなら、鳥が巣に帰るかの如く、戻ってくる筈だぜ」

あいつは鳥って感じでは無いけどな。

無理矢理にでも鳥って表現を使うなら、渡り鳥って感じか。

つうか、お前。 会った事すら無い人を相手に、何々って奴って言い方はやめて欲しい。 兄として変な目で見られそうだから。
484 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:04:35.58 ID:7T0TV7XF0
暦「ふむ。 確かに、ありっちゃありだな」

口ではそう言うが、内心それしかないと思ったんだけれども。

暦「よし、そうと決まれば火憐ちゃん。 さっそく出発だ」

火憐「おう!」

火憐が元気良くそう言い、その場にしゃがみ込む。

僕はそれを見て、火憐の上に乗っかった。

火憐「よっと。 んじゃ、行くぜ。 兄ちゃん」

暦「おう」
485 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:05:12.07 ID:7T0TV7XF0
出発進行。

あれ。

あれあれ。

なんか自然な感じで肩車してるけど、別にそんな話してなかったよな。

こえー。 火憐の背中を見たら、いつの間にかこの形になってた。 こえーよ。

つか、火憐の方は何の疑問も持ってないみたいだし。 余計に怖い。

でも、まあ。 楽だしいっか。

今は周囲の目だとか、近所の目なんて気にしなくて良いしな。
486 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:05:45.00 ID:7T0TV7XF0
暦「なあ、火憐ちゃん」

火憐「んー。 どうした、兄ちゃん」

暦「真面目な話だけどさ、火憐ちゃんはあの後、もし僕が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

暦「お金も無かったんだろ?」

火憐「うーん。 特に先の事は考えて無かったかな。 さっきも言ったけど、今を生きているんだ。 あたしは」

暦「ふうん」
487 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:06:24.85 ID:7T0TV7XF0
火憐「でも、考えて無かったってのはあれだぜ」

暦「ん?」

火憐「兄ちゃんが来るって分かってたから。 かな。 なんとなくだけど、そう思ってた」

暦「また、気配がどうたらって奴か? すげーよな、火憐ちゃん」

火憐「違うよ、兄ちゃん」

火憐「多分、心のどっかで、そう信じていたんじゃねえかな。 兄ちゃんなら来てくれるって」

馬鹿だなぁ。

僕が、火憐の事を思い出さなかったら、どうするつもりだったんだよ。 本当にさ。
488 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:06:52.81 ID:7T0TV7XF0
暦「お前も、少しは僕の事を疑えよ。 生きていけないぞ、この先」

火憐「兄ちゃんの事は疑わない。 そう決めてるから」

火憐「もし、あたしが兄ちゃんの事を疑う様な時が来たら、あたしは」

暦「……どうするんだ?」

火憐「死ぬ!」

重っ!

これから先、火憐に疑われそうな行動とかできないじゃん!
489 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:07:42.31 ID:7T0TV7XF0
暦「まあ、けどさ」

暦「僕も感謝しているんだぜ、火憐ちゃんには」

火憐「はあ? あたしに?」

暦「うん。 正直言って、火憐ちゃんに突き放されるんじゃねえかな。 って思ってたんだ」

火憐「あははは! あたしがそんな事、する訳ねえだろ。 馬鹿なのか兄ちゃん」

うわ、自分で自分の事を馬鹿だと思うのはいいけど、こいつに言われると予想以上にむかつくな。

火憐「ま、全部終わった事だし、あんま暗い話は終わりにしようぜー。 結果良ければ全て良しって事だ!」

暦「その結果も、まだ終わってないけどな」
490 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:08:20.17 ID:7T0TV7XF0
さておき。

そんな話をしている内に、どうやら目的地へと付いた様である。

火憐「しかし、こんな所で生活をしているなんて、よっぽど強いんだな。 その人」

暦「廃墟に住んでる人は全員強いのかよ。 火憐ちゃんの中では」

強ち、間違った答えでも無いんだけど。

忍野然り、影縫さん然り。
491 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:09:07.76 ID:7T0TV7XF0
火憐「とりあえず、荷物置くかー」

てか、そうだった。 こいつ、めっちゃ大きな荷物を持っているんだった。

そんな大荷物を持った妹に肩車させているって、さっきは周囲の目とか気にしないとは思ったが、やっぱり気にした方が良かったと思う。

後悔先に立たずとは、なるほど納得。

暦「それより先に、僕が降りた方がよくないか?」

火憐「ん? ああ、そうだった。 兄ちゃんはあたしの上に居たんだったな。 危うく忘れる所だったぜ」

お前は今まで誰と話しているつもりだったんだよ!
492 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:09:33.83 ID:7T0TV7XF0
火憐が僕の存在を思い出してくれた所で、ようやく僕は火憐の頭の上から地へと舞い降りる。

暦「とりあえずは、忍野がいつも使っている部屋があるからさ、そこを根城にしよう」

火憐「おっけー。 案内頼むぜ、兄ちゃん」

こうして、僕と火憐は忍野を見習い、廃墟をとりあえずの拠点とする事にしたのだった。
493 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:10:31.50 ID:7T0TV7XF0
火憐「なんかこうしてるとさ、秘密基地みたいでワクワクするよなぁ」

暦「あー。 その気持ちは分からなくも無いな。 小学生の時とか思い出すよ」

火憐「懐かしいなぁ。 そういや、先月も」

暦「え、何々。 先月に秘密基地ごっことかやってたの?」

火憐「当たり前だろ。 月火ちゃんと一緒にさ」

暦「月火ちゃんも!? え、ってかさ。 さっき学校の屋上で「ここはあたしのテリトリー」とか言ってたのってそういう意味だったの?」
494 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:11:18.77 ID:7T0TV7XF0
火憐「ああ。 あそこは血で血を洗う戦いの末に、勝ち取った所なんだぜ」

暦「なんだよそれ! そんな恐ろしい場所だったのかよ、あそこ」

暦「お前らファイヤーシスターズの活動内容を詳細に知りたいわ!」

火憐「じゃあ、今度一緒に行こうぜ。 あたしと月火ちゃんと、それに兄ちゃんだ」

暦「ああ、そうしてくれ」

あれ、何だかうまく篭絡された気がするぞ。
495 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:11:44.91 ID:7T0TV7XF0
閑話休題。

暦「さて、僕は必要な物を買ってくるけど、火憐ちゃんはどうする?」

火憐「んー。 どうすっかな」

火憐「根城に侵入者がいない様に見張るのも大事だけど、兄ちゃんにパシらせるのも、気分が良い物じゃねえんだよな」

僕はお前にパシらせるのは非常に気分が良いのだが、それは言わない方が良いだろう。

暦「じゃあ、一緒に来るか? 火憐ちゃんも必要な物とか、あるだろ?」

火憐「ああ。 確かにそうだ。 持って来れなかった物とか、忘れた物とかあるし」
496 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:12:33.71 ID:7T0TV7XF0
暦「んじゃ、行くかー」

と、話が纏まった所で、貴重品以外の荷物はその場に置いておき、僕と火憐は廃墟から外へと出る。

しっかし。 忍野の奴はどこに行ったのだろうか?

この廃墟に居ないとなると、どうにも探すのには手間が掛かりそうである。

残金だってそこまである訳でも無いので、見つけるにしても、早めに対策を立てないとなぁ。
497 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:13:04.17 ID:7T0TV7XF0
火憐「兄ちゃん、何ぼーっとしてるんだよ。 置いていくぞー」

考え事を火憐の声が遮る。 しかし、ああ悪い悪い、今行くよ。 とはならない。

暦「ぼーっとしてたのは謝るよ。 悪かった。 でもな、火憐ちゃん。 そっち、逆だぜ」

僕がそう教えてやると、火憐は「あはは」等と言い、頭の後ろをぼりぼりと掻く。

火憐「ま、良くある事だな。 さっさと行こうぜ」

いや、そんな無い事だと思うけれど。 ましてや、地元だし。

等と考えている僕の横を火憐が通り過ぎる。 その際に舌打ちらしき物が聞こえたのは無かった事にしておこう。
498 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:13:39.56 ID:7T0TV7XF0
時間経過。

必要な物を買い揃え、僕と火憐は廃墟へと戻っている途中である。

途中で火憐の目を盗み、僕が個人的に欲しい物を買おうとしたのだが、結局ばれてしまい、殴られた。

最早、殴られるのが当たり前になっている辺り、火憐とじっくりと話をしたいのだが、そうすれば更なる暴力に発展してしまうのだろう。

家庭内暴力とは、この事か。

そして、火憐曰く「兄ちゃんから、危険な気配がした」との事らしい。 お前やっぱり凄いよ。
499 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:14:08.39 ID:7T0TV7XF0
そして───────────そして。

廃墟へ着く直前。

僕の目の前。

火憐の目の前。

忍野が、僕達の前に現れた。
500 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:15:12.75 ID:7T0TV7XF0
忍野「やあ、阿良々木くん。 それに、そっちは妹ちゃんかな?」

暦「忍野……! お前、今までどこに行ってたんだよ」

忍野「野暮用だよ、野暮用」

忍野「妹ちゃんとは始めましてだね。 忍野メメと言います」

おどけた様に、忍野はそう言う。

火憐「あ、ええっと。 阿良々木火憐だ」
501 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:15:40.69 ID:7T0TV7XF0
忍野「なるほど、君が阿良々木くんの言っていた、でっかい方の妹って訳か。 なるほどなるほど」

忍野「こりゃ、確かにでっかいね。 阿良々木くんよりも」

暦「うるせえ。 つうか、忍野。 僕が話したいのはそんな事じゃないんだよ。 お前に話さないといけない事も、あるしな」

忍野「そうかい。 それはさ、阿良々木くん。 今回の怪異についてかな?」

暦「当たり前だ。 それ以外に話なんて無いし、話せる事だってねえぞ」

忍野「なら、そうだね。 とりあえずは上に移動しようか。 ここで話しても、あれだしさ」
502 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:16:28.04 ID:7T0TV7XF0
忍野「勿論、妹ちゃんもね。 君はもう知っているんだろ? 阿良々木くんの事」

火憐「……そりゃ、まあ」

忍野「あっはっは。 そうかい。 なら本当に話は早い。 付いてきなよ」

そう言い、忍野は僕と火憐をいつもの場所、いつも忍野が居た場所へと案内する。

そして、机の上に忍野は座り、対面する僕と火憐に対し、こう言った。

忍野「って言っても、大体は分かっているんだよね」
503 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:17:00.91 ID:7T0TV7XF0
忍野「僕だって、ただ意味も無くぶらぶらしてた訳じゃないしさ」

忍野「うーん。 何から話せば良いのかなぁ。 こんな時って」

暦「何からって……最初からだよ。 忍野は全部、分かってるのか?」

忍野「僕が分かっているのは大体、までさ。 全部と似たような物だけれどね」

忍野「ま、いいか。 じゃあ、この話からするとしよう」

忍野「今回の一連の出来事に絡んでいる怪異の正体について」

忍野「はは、まあもっとも。 一番心当たりがあるのは……君だろ?」

忍野「阿良々木くんの妹ちゃん」


第十四話へ 続く
505 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:18:19.94 ID:7T0TV7XF0
何を言っているんだ。 忍野の奴は。

暦「おい、どういう意味だよ。 忍野」

忍野「そのままの意味さ。 ありのままだよ、阿良々木くん」

暦「それが、意味わからねえって言ってるんだよ。 何で火憐ちゃんに心当たりがあるんだ」

忍野「だからさ。 その妹ちゃんが原因で起こっている怪異なんだし、当然だろ?」
506 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:18:54.51 ID:7T0TV7XF0
ちょっと、待て。

火憐が原因だと? 忍野の奴、ついにトチ狂ったか。

暦「冗談はよせよ。 つうか、僕はお前その物が怪異なんじゃないかって疑ってるんだぜ」

忍野「ん? それは前に否定しなかったっけ?」

忍野は若干呆れた様に、僕に向けてそう言う。

暦「お前の口から聞いても、信用できない」

忍野「ああ、確かに。 そりゃそうだ、 あははは。 これは一本取られたね、見事だよ。 阿良々木くん」
507 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:19:47.47 ID:7T0TV7XF0
暦「認めるのか? 忍野」

忍野「え? はは、まさか」

忍野「簡単に僕が怪異かどうか、分かる方法なら一つだけあるよ」

暦「簡単に?」

忍野「うん。 本当に数秒あれば終わる事さ」

忍野「君だって、本当は分かってる筈なんだぜ。 阿良々木くん」

僕が、分かっている?

忍野が怪異かどうか?
508 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:20:26.26 ID:7T0TV7XF0
暦「そうは思わないけどな。 それで、簡単に分かる方法ってのは?」

忍野「単純な方法だよ」

「--------------------忍ちゃんに、聞けばいい」

と、忍野は言い放つ。

僕の影に向けて。

元吸血鬼に向けて。

その言葉に答える様に、忍は僕の影から姿を現した。
509 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:21:11.19 ID:7T0TV7XF0
忍「ふん。 いけ好かない小僧じゃよ。 全く」

暦「忍? お前、今までどうして姿を出さなかったんだよ!」

なんで、このタイミングで姿を出すんだよ。

それじゃあ、まるで。

忍「慌てるな、しっかり全てを説明する」

忍野の言っていた事が、本当みたいじゃないか。
510 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:21:40.93 ID:7T0TV7XF0
暦「説明するって……お前、分からないって言ってたじゃないか」

忍「あの時はそうじゃった。 だが、今は違う。 全て分かったんじゃよ」

忍「全てと言っても、儂は専門家では無いのでな」

忍「儂にも説明できる事は限られておる。 儂の補足はそこのアロハ小僧に任せるが、いいかのう?」

忍野「勿論」

そして、忍は続けて口を開く。

全てを説明する為に。
511 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:22:29.91 ID:7T0TV7XF0
忍「まずは、そうじゃな」

忍「そこのアロハ小僧の事じゃな。 儂が言っていたのは間違いじゃ。 奴は正真正銘、人間じゃよ」

忍野が、人間。

怪異では……無い。

忍「その辺りは上手い事、使われたと言うか……非常に不愉快じゃがな」
512 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:22:56.17 ID:7T0TV7XF0
忍「そして、今回の怪異の事」

忍「……先程、アロハ小僧が言っていた通りじゃ」

忍は、火憐が原因との言葉は使わなかった。

その気遣いが、また少しだけ、辛くもあった。
513 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:23:24.58 ID:7T0TV7XF0
忍「その辺りは、貴様の方が詳しいじゃろ」

忍はそのままの姿勢で、顔だけを忍野へと向ける。

忍野「オーケー。 じゃあ怪異の事を説明しようか」

忍野は座っていた机から降り、僕に向けて言う。
514 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:23:51.66 ID:7T0TV7XF0
忍野「忘物草。 それが今回の不思議現象を起こしている怪異の名前さ」

忍野「比較的新しい怪異だよ。 その分、身近でもあるんだけどね」

忘物草。 物を忘れる、草。

忍野「分かるだろ? 名前そのままだよ。 阿良々木くん」

忍野「僕は結界を張っておいたから、影響は無いけどさ。 君の周りは違うよね」
515 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:24:48.50 ID:7T0TV7XF0
暦「けど、それならどうして……どうして、火憐ちゃんが原因なんて言うんだよ」

暦「忍野は言ってたじゃねえか。 僕がヤバイ状況だって、言ってただろ」

暦「それで、火憐ちゃんは巻き込まれたんじゃないのか。 僕のせいで」

忍野「はっ! ははは。 確かに、僕はそう言ったね」
516 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:25:20.00 ID:7T0TV7XF0
忍野「でもさ、阿良々木くんが原因だなんて、ひと言も言ってないよ」

忍野「阿良々木くんにも分かる様に、はっきり言った方が良さそうだ」

忍野「逆なんだよ、阿良々木くん」

逆。

それって、つまり。
517 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:25:57.27 ID:7T0TV7XF0
忍野「そこの妹ちゃんが原因で、阿良々木くんは巻き込まれた側って事さ」

忍野「噛み砕いて言うと、妹ちゃんは加害者。 阿良々木くんは今回に限っては、被害者って事だね」

暦「なんだよ、それ。 冗談にもならないぞ、忍野」

暦「火憐ちゃんが、原因だと? あんな悩んでいたのに、苦しんでいたのに、加害者の訳がねえだろ!」

忍野「だからだよ。 阿良々木くん」
518 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:26:23.69 ID:7T0TV7XF0
忍野「優しいよね、阿良々木くんはさ。 でも、その優しさが人を傷付ける事だって、あるんだぜ?」

忍野「そして、今回僕はその優しさを利用した。 って立場になるんだけどね」

暦「利用? 僕をか?」

忍野「うん。 その件については悪いと思っている。 言い訳をさせてもらうと、それが一番手っ取り早かったって所かな」

暦「……分かった。 説明してくれ」

とは言った物の、訳が分からない。 一体、何が起きていたんだ。

頭が痛く、吐き気もしてくる。
519 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:26:55.34 ID:7T0TV7XF0
火憐が加害者で、僕が被害者。

いつの間にか、僕は忍野と火憐との間に壁を作る様に立っていて、火憐の表情は分からない。

けど、いつも元気なあいつがひと言も喋らないのが、逆に気持ち悪かった。
520 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:27:26.54 ID:7T0TV7XF0
忍野「忘物草。 特性は呪い。 今、中学生の間で噂されているみたいだね」

忍野「もっとも、大分曲解されて伝わっているみたいだけど。 その辺は、妹ちゃんの方が詳しいんじゃないかな?」

忍野が火憐に向けて、そう言った。

火憐「……分かった。 説明する」

今まで押し黙っていた火憐は、あっさりと。 まるで、その言葉を待っていたかの様に、口を開く。

火憐「兄ちゃん、頼みごとだ。 聞いてくれるか。 あたしの話」
521 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:28:08.14 ID:7T0TV7XF0
火憐は僕の背中に、そう声を掛ける。

僕は後ろを振り返り、こう答えた。

暦「いいぜ、引き受けてやるよ」

火憐は僕の言葉を聞くと、小さく笑い、語り始める。

一人の妹の想いと、一人の人間の想いを。
522 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:28:39.44 ID:7T0TV7XF0
以下、回想。

ある日、火憐の蜂の話と、月火の不如帰の話が終わってすぐの事だったらしい。

とは言っても、月火の話は火憐にしていないので、火憐は「ダンプカーが家に突っ込んだ後」と言っていた。

そんな問題が終わったある日の事だ。

中学生の間では、ある噂が広まっていた。

なんでも。

「帰宅中に、突然目の前に一輪の花が現れて、それに願うと願いが叶うらしい」

と、中学生らしいと言えば中学生らしい、噂話である。
523 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:29:43.03 ID:7T0TV7XF0
例えて言うならば、ある桜の木の下で告白すれば、その恋は実るだとか、その程度の話。

噂話。

しかし、それは繋げてしまった。

一つの怪異と、一人の人間を。

その噂を聞いた火憐は、真っ先に例の『おまじない』の事が頭に浮かんだと言う。

まあ、それもまた無理の無い話なのだろう。 貝木が去った次の日には、後始末的活動をしていたファイヤーシスターズなのだから。
524 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:30:13.24 ID:7T0TV7XF0
が、火憐の予想は外れた。

それは本当に、ただの噂話でしか無く、貝木が広めた『おまじない』は絡んでいなかったのだ。

その結果に満足した火憐は、一人帰路に就いたと言う。

月火はその日、別件で駆り出されていて、火憐にはどうにも、首を突っ込んだら事態を更にややこしくしてしまう案件だったらしい。(大方、恋愛相談か何かだろう)

そして、図らずも、出会った。

出会ってしまった。

一輪の花と。 怪異と。
525 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:30:40.23 ID:7T0TV7XF0
火憐は呆気に取られたと言う。

目の前に、アスファルトの地面から咲き誇った一輪の花に。

次に頭に浮かんだのは、昼間の噂話だった。

「帰宅中に、突然目の前に一輪の花が現れて、それに願うと願いが叶うらしい」

そして、火憐は願った。 条件反射的に、願った。
526 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:31:08.86 ID:7T0TV7XF0
回想終わり。

暦「って事は、その火憐ちゃんの願いが、今回の怪異を起こしたって事か?」

火憐が、皆の記憶が無くなる様にと、願った?

火憐「違う! あたしは、そんな事は願っちゃいない!」

火憐は今にも泣き出しそうな顔をしていて、今までそんな表情を見たことが無かっただけあり、言葉に詰る。

だが、言わなくては。 無理にでも。
527 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:31:39.08 ID:7T0TV7XF0
暦「……でも、それならどうして。 火憐ちゃんは、何を願ったんだ?」

火憐「それは……」

言い辛そうに、火憐が口を閉ざす。

それも、そうかもしれない。

願いなんて本来は、人には言いたく無い物だろうし。
528 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:32:09.35 ID:7T0TV7XF0
忍野「阿良々木くん。 あんま責めたら可哀想じゃないか。 その辺りは僕が補足するからさ」

上辺だけの言葉だな。 とは思う。 他の誰でもない、忍野自身が語らせたのだから。

けれど、忍野を責めるのもまた、筋違いだろう。

暦「分かった。 忍野、話してくれ」

僕がそう言うと、忍野は一度頷き、口を開く。

忍野「まず、その怪異の噂話を正す所からになるかな」

忍野「そいつはそんな、有益な物じゃない。 怪異はあくまでも怪異。 それに、忘物草の特性は、呪いなんだぜ」
529 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:33:01.91 ID:7T0TV7XF0
呪い。 人に対してかける、呪い。

忍野「そして、願いってのも少し違うかな」

忍野「忘物草の効果は、極めて限定的だ」

暦「限定的? 何でもって訳じゃないのか」

忍野「そうだよ。 考えてもみろよ、阿良々木くん。 何でも叶える草なんて、それはもう神って言った方が正しいだろ?」

忍野「それで、その効果なんだけど」
530 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:33:37.53 ID:7T0TV7XF0
忍野「一人の対象に、忘れられなくなる」

忘れ『られなく』なる?

暦「待てよ、忍野」

暦「忘れられるんじゃなくて、忘れ『られなく』なるのか? それだと説明が付かないぞ」

忍野「どこにどう、説明が付かないのか説明してもらえるかな。 阿良々木くん」

暦「だって、そりゃそうだろ。 現に僕と火憐ちゃんは、忘れられているんだぜ? 戦場ヶ原達にも、同じ怪異である八九寺にすら」
531 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:36:21.21 ID:7T0TV7XF0
忍野「そこだよ。 それが忘物草の特徴って言ってもいいね」

忍野「呪いはあくまでも呪い。 それだけって事さ」

忍野「一人の人間に忘れられなくなる、だけど」

忍野「他の人間からは忘れられる。 それも、全ての人間から」

……つまりは、呪い。

暦「けど、それでも説明が付かないだろ。 火憐ちゃんが何を願ったのか分からないけど、それで加害者扱いってのは、どうかと思うぞ」
532 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:36:52.78 ID:7T0TV7XF0
忍野「はは、だからさ。 阿良々木くん」

忍野「君もここまで来れば、さすがに分かるだろ?」

忍野「いつまで、分かっていない振りをしているんだよ。 なあ」

僕は、火憐の願いを知っている?

忍野「妹ちゃんは願ったんだよ。 忘物草に」

忍野「阿良々木くんに忘れられたく無い。 ってさ」
533 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:37:19.81 ID:7T0TV7XF0
火憐が、僕に? 忘れられたく無いと?

つまり……

火憐が願ったのは、僕の事?
534 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:38:09.06 ID:7T0TV7XF0
暦「そうなのか、火憐ちゃん」

再度振り向き、火憐に問う。

火憐「……そうだよ。 あたしはそう願った」

……分かっていた。 心の奥底では、気付いていた。

でも、気付かない振りをしていた。

今までも、そして、今も。
535 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:38:56.56 ID:7T0TV7XF0
暦「なんでだよ! そんな事しなくても、僕は忘れないぞ」

火憐「分かってる。 分かってるさ」

火憐「でも、なんとなく気付いてたんだよ」

火憐「兄ちゃん、高校を卒業したら、家を出て行くつもりだろ」

火憐は顔を伏せ、消え入る様な声で、そう言った。
536 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:39:22.64 ID:7T0TV7XF0
暦「そりゃ、大学に行くし。 家から通うのも大変な距離だからな」

火憐「……それが、怖かったんだ」

弱々しく、火憐は続ける。

火憐「頭では分かっていたんだよ。 そんな事で兄ちゃんが、あたしの事や月火ちゃんの事を忘れる訳が無いって」

火憐「でも、あたしは」

暦「火憐ちゃん……」

結局、ここまで来ても。

火憐の想いに僕は、気付けなかった。
537 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:40:41.81 ID:7T0TV7XF0
忍野の方に向き直り、僕は再度聞く。

暦「……仮に、仮にそうだったとしてもだ。 僕は火憐ちゃんの事を忘れかけていたんだぞ。 火憐ちゃんだけが、皆から忘れられていようとしたんだぞ」

暦「今は思い出しているけれど……それが、呪いって奴か?」

忍野「前者のは副作用みたいな物だよ。 後者の、阿良々木くんが今、妹ちゃんの事を思い出してるって言うのは、ぶっちゃけると、怪異自体も予想外だったんじゃないかな」

どういう、事だ?

火憐は、僕に忘れられたく無いと願って、それが叶って、僕は火憐の事を思い出したんじゃないのか?
538 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:41:18.22 ID:7T0TV7XF0
忍野「まあ、それが僕にとっても、結構な驚きだったんだけどさ。 阿良々木くんならって可能性もあったからね」

忍野「とは言っても、本来は思い出さない物なんだけれど。 知ってるかい、阿良々木くん」

忍野「この怪異の目的は」

忍野「その対象を殺す事によって、一生の記憶にする事なんだから」

暦「殺す? ……それって」

続く言葉が出てこない。

つまり。

対象を殺す。 僕を殺す。
539 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:41:46.95 ID:7T0TV7XF0
確かに、そりゃそうかもしれない。

呪いをかけた奴が、呪いをかけられた奴を殺す。

そして、そこで記憶は終わる。 最後の記憶として。
540 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/18(木) 14:42:15.11 ID:7T0TV7XF0
暦「待てよ。 待てよ忍野。 全然付いていけねえぞ」

暦「一旦、話を戻そう。 まず、忍野が僕を利用していたってのは、どういう意味なんだ」

忍野「うーん。 阿良々木くんはやっぱり、頭の回転が悪いね。 別にいいんだけど」

忍野「それじゃあ、まとめと入ろうか。 最初から、順を追って説明しよう」

忍野「頭の回転が悪い阿良々木くんでも、分かる様にさ」

忍野は笑い、僕にそう言った。


第十五話へ 続く
549 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:29:43.43 ID:0P1TubCZ0
忍野が異変を感じて、ここに戻ってきた日。

やはり、目的があって僕の前に現れたらしい。

もっとも、その時点で僕が異変に気付いていれば、事はもっと簡単に終わったと言う。

最初の異変。

妹達が、僕を起こしに来なかった事。

もっとも、これは忍野には伝えたのだが。

僕が伝えたのは『妹達が起こしに来なかった』との話で、それを聞いた忍野は、火憐と月火を対象から一度、外したらしい。

そうだ。 僕はてっきり、二人ともが二人とも忘れている物だと思っていたんだ。
550 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:30:23.74 ID:0P1TubCZ0
しかし、違う。

火憐は覚えていたのだ。 いつもと同じ様に、なんとなく、覚えていた。

そして、月火は完全に忘れていた。 兄と言う僕の存在を。 一瞬ではあるが。

僕はそれに気付かず、更に忍野の登場にも思う事はあったのだけれど、流してしまった。

当然だが、あの時、既に忍野は気付いていたと言う。

僕に呪いをかけた人がいて、僕に呪いがかかっている事を。
551 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:30:51.40 ID:0P1TubCZ0
しかし、先程も言った様に、呪いをかけた人が誰かまでは、忍野でも分からなかった。

なので忍野は泳がせる事にした。 この僕を。

忍野から言わせれば、僕に忘れられたく無いと思う人間等、恐らくは僕と関係のある人間だと思った。 との事だ。

そして、そんな奴なら必ず、僕に接触してくる筈だ。 と。

その予想は、当たる。

僕に呪いをかけたのは、他でもない。 阿良々木火憐だったのだから。
552 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:31:18.70 ID:0P1TubCZ0
だが、忍野にも予想外の出来事が起きてしまう。

怪異の効果が、想像を上回る速度で広がっていた事だ。

通常ならば、一ヶ月や二ヶ月、その位の時間を掛けて、徐々に広がっていく怪異との事らしい。

けれど、今回は違った。

忍がこの町に来たのが原因の一端とも言える。 しかし、それ以上に。

呪いをかけた人間の想いが、強かった。
553 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:31:45.08 ID:0P1TubCZ0
そして、忍野はそれに対処するべく、僕や戦場ヶ原、羽川を呼び出したと言う。

主に呼び出したかったのは僕らしいが、戦場ヶ原と羽川は保険で呼び出したらしい。

頭が異様に良い二人にも話しておけば、何かきっかけとなる物を掴めるかも。 と踏んでの事だ。

それに異論を呈する訳にも行かないので、僕は黙ってその話の、忍野のまとめた話の続きを聞いた。

その後、一連の説明が終わり、忍野は最後に僕に言った。

僕が、ヤバイ状態であると。
554 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:32:12.27 ID:0P1TubCZ0
そして、羽川と戦場ヶ原は先に帰らせ、二人が去った後の廃墟には、僕と忍野だけが残され。

もし、気付いた事があったら忍野に報告する様に、と警告した。

そう警告する事によって、僕が異変を自ら解決しようとして、動くだろうと考えての事だ。

読まれていたのは腹立だしいと言うか、気分が悪いと言うか、そんな感じなのだが。

この場合、完全に読まれていた方が良かったのだろう。
555 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:32:38.64 ID:0P1TubCZ0
まとめると、忍野が予想出来なかった事が、三つある。

一つ目は、先程も言った様に、火憐の想いが予想以上に強く、怪異の広まる速度が速かった事だ。

そして、もう一つは。

僕が、火憐の事を思い出した事。

最後の一つは。

火憐が僕に近づくのでは無く、遠ざかる選択肢を取った事。
556 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:33:05.88 ID:0P1TubCZ0
最初の一つはともかく、後の二つは結果的に、良い方に転んだと言えるかもしれない。

僕が火憐の事を忘れ、火憐が僕から距離を取った。

僕が火憐の事を思い出し、しかし火憐と接触しなかった。

この二つの場合は、それこそ最悪だったのだが、僕は幸いにも『火憐の事を思い出し、火憐と接触した』のだから。

忍野の目的は、この時点で達成されたとも言える。

僕が餌となり、呪いをかけた火憐を釣り上げた形だ。
557 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:33:31.91 ID:0P1TubCZ0
そして、怪異。

忘物草は、呪いをかけた人間に憑き、対象の人間を殺すと言う。

この場合は火憐に憑き、僕を殺すと言う事だ。

呪いをかけられた対象は、呪いをかけた人物以外から、少しの間だけ忘れられ、その後、他の奴同様に、呪いをかけた奴の事を忘れると言う。

簡単に説明すると、火憐の立場と月火の立場。

僕は少しの間、火憐の立場に居て、次に月火の立場へと移った。

通常、この後数日を持って、怪異は僕を殺しに来ていたと言う。
558 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:33:57.71 ID:0P1TubCZ0
しかし、僕は火憐の事を思い出し、再び火憐の立場に移った。

この場合、やはり同じく、怪異は僕を殺すのだけれど、対策が打てると言う。

つまり、火憐と僕が接触していなければ、成す術も無く殺されていたと言う事だ。

それを考えれば、僕が火憐の事を思い出したのは、不幸中の幸いと言ってもいい。

そして、本来ならば、忍野の様な専門家一人が居れば、その怪異を発見する事さえできれば、すんなりと解決できるとも言っていた(もっとも、予め対象を発見しておく事は必須らしいが)
559 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:34:48.16 ID:0P1TubCZ0
が。

草は成長する。

雑草が水を吸う様に。 花が水を吸う様に。

忘物草は、人の想いを吸う。

そして、そのエネルギー源でもある火憐の想いは、非常に強かった。

当然、そのエネルギーを吸った怪異自体も。
560 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:35:13.52 ID:0P1TubCZ0
既に、忍野だけでは手に負えないレベルだと言う。

出来る限り、被害が出ない様に、ここ数日は結界を張り巡らせていた。 との事だ。

なるほど、それで廃墟には居なかったって事なのだろう。
561 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:35:42.37 ID:0P1TubCZ0
そして、その怪異を消す為には選択肢が三つ。 いや、四つか。

一つ目は分かり易い。 神原の時と同じ条件。 僕が殺される事。

二つ目はその逆。 火憐が死ぬ事。

三つ目は一番難易度が高い。 怪異の本体を炙り出し、戦って怪異のみ殺す事。

四つ目は。
562 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:38:58.01 ID:0P1TubCZ0
「四つ目はあまりオススメが出来ないかな。 やり方は三つ目までと同じ、本体を炙り出すんだけど」

「この草というか、花というか。 まあ、どっちでもいいんだけれど。 弱点があるんだよ」

「てっぺんに咲いている一輪の花。 それをぶった切れば、怪異は死ぬ」

それだけか? と僕が聞いたら。

「いいや、妹ちゃんも『死ぬ』よ」

「妹ちゃんの姿のまま殺すか、怪異の姿をしている妹ちゃんを殺すか、どっちかって事かもね」

との事だ。
563 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:39:47.07 ID:0P1TubCZ0
勿論、そんな案は却下である。

それを聞いた僕が出した結論は。

三番目。

戦って、怪異のみ殺す事である。

弱点である花を切らず、怪異のみを殺す。

忍の刀……心渡を使えば、大分楽になるとは言え、それでもかなり厳しい戦いらしい。

まあ、けど。
564 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:41:55.03 ID:0P1TubCZ0
「忍ちゃんのブレードなら、勝率は大分上がるよ。 少なくとも、倍くらいにはなるね」

「そうか。 けれど、忍野。 僕は心渡を使わないよ」

「……正気かい? それで阿良々木くんが死んでも、責任は取れないけどなぁ」

「いいよ別に。 僕が死んでも、火憐ちゃんは元に戻るんだろ?」

「へえ。 体面的には、方法の三番目を取って、結果的には一番目を選ぶって事かな」

「違う。 忍野風に言わせて貰えば、一番目は保険みたいな物さ。 僕は三番目を選ぶ」

「なら、忍ちゃんのブレードを使わないのは、何でだい?」

「そんなの、当たり前だろ。 妹に、火憐ちゃんに刃を向けるなんて、論外だ」

「はは、あはは。 阿良々木くんらしいね。 まあ、別に僕はいいけどさ」
565 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:42:21.28 ID:0P1TubCZ0
僕は、僕自身で火憐と戦う。

正直、あの化物みたいな妹に、更に化物の力が加わったら勝てる気なんてしねえけど。 それでも僕がやるべき事だ。

忍野曰く、火憐にはただ純粋な想いしか無かったと言う。

僕を想い、想ってくれた。

なら、その想いに答えるのも僕の役目だ。

人間としての、僕。
566 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:42:47.69 ID:0P1TubCZ0
ああ、そうそう。 忍の話もしておこう。

あいつはどうやら、僕が火憐と出会ったその瞬間に、正体に気付いたらしい。

正確に言えば、ある程度成長した怪異に憑かれている火憐を見たら。 だ。

曰く。

「儂が出たら、必ずお前様には言ってしまう。 それは、避けたかったのじゃ」

「まあ、あのアロハ小僧が来た事によって、結果的に避ける事は出来なかったんじゃが」

「放って置いても、その内に怪異が出てきて、お前様が殺される事になったんだろうがのう」
567 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:45:32.34 ID:0P1TubCZ0
との事。

本当に、お人好し吸血鬼である。

そして、今。

忍に血を吸わせるのも、僕は避けた。

いくら今回ばかりは忍野が手伝ってくれるとは言え、自殺するみたいな物だとも言われた。

けれど、やっぱり。

一人の優しい妹に対する僕は、多少でも、人間で居たかった。

分かっている。 これは僕の我侭だと。
568 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:46:31.55 ID:0P1TubCZ0
僕は基本的に行動が馬鹿だし、要領も良くない。

勉強もできなければ、強くない。

妹達には偉そうな口を叩くけれど、自分の事を棚上げにしているだけだ。

我侭でもあるし、変な所で意地を張る。

性格だって良くないし、いつも失敗ばかりだ。

でも。

僕の誇りだけは、自慢できる。
569 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:47:03.59 ID:0P1TubCZ0
誇りの一つも守れないで、何が人間だ。 何が兄だ。

それだけは、絶対に譲れないんだ。
570 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:48:26.49 ID:0P1TubCZ0
暦「分かった、僕が選ぶの三番目だよ。 忍野」

忍野「そうかい。 一番きついのを選ぶなんて、ひょっとして、阿良々木くんってマゾだったりするのかな」

暦「かもしれねえな」

僕は笑い、忍野にそう言う。

結局、僕と火憐は似ているのかもしれない。 あんまり似ていても、嬉しい部分では無いけれど。

忍野「ま、いいよ。 阿良々木くんがそれを選ぶなら、僕は何も言わない。 今回に限ってだけど、僕も手伝うしね」

暦「悪いな。 迷惑掛ける」
571 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:52:05.71 ID:0P1TubCZ0
忍野「気にしないでくれよ。 僕と阿良々木くんの仲じゃないか」

忍野「さて、それじゃあ僕は準備に取り掛かるけど。 妹ちゃんとお話は、良いのかな」

忍野「最後の話になるかもしれないしね」

忍野は僕に向け、そう言った。

僕はその言葉を悪いとも思わない。 事実なのだから。

これが、僕と火憐が話す最後の時なのかもしれない。
572 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:53:48.63 ID:0P1TubCZ0
暦「火憐ちゃん」

忍野は空気を読んでくれたのか、ただ準備に取り掛かっただけなのか、部屋から姿を消していた。

火憐「なんだ、兄ちゃん」

暦「ごめん」

僕は火憐に向け、頭を下げる。

火憐「……何でだよ。 何で兄ちゃんが謝るんだ」
573 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:54:28.73 ID:0P1TubCZ0
火憐「あたしの所為で、こんな事になってるんだろ? あたしが加害者で、兄ちゃんが被害者で」

火憐「謝るのはあたしの方じゃねえか。 そうだろ、兄ちゃん」

暦「確かに、火憐ちゃんの言う通りかもな」

暦「火憐ちゃんの言う事は、いつも正しいからさ」

暦「けど、僕は僕自身が許せないんだよ。 今回の事、もっと早く気付けた筈なのに」

暦「流してしまったんだ。 大して気にもせず」
574 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:54:56.83 ID:0P1TubCZ0
火憐「そんなの、仕方ねえだろ。 兄ちゃんの所為じゃない」

暦「言ったろ。 火憐ちゃんが許してくれても、僕が僕を許せないんだよ」

暦「だから、必ずまた会おうぜ。 火憐ちゃん」

火憐「……勝てるのかよ。 兄ちゃんが、あたしに勝った事なんて無いだろ」

暦「そればっかりはやってみないとな、分からない」

暦「けど、火憐ちゃんより強いだとか、火憐ちゃんより弱いだとか、そんなのどうでも良いんだよ」

暦「それ以前に、僕は火憐ちゃんの兄ちゃんなんだからさ」
575 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:55:24.15 ID:0P1TubCZ0
火憐「あはは。 格好良いよな、兄ちゃんはさ」

火憐「でも……本音を言うと、やめて欲しい」

暦「何でって、聞いてもいいか」

火憐「あたしがした事の責任は、あたしが取る。 今この瞬間にでも、あたしを殺してくれれば、全部終わるんだろ? だったらそうしてくれよ」

火憐「それで、全部終わるんだろ?」
576 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:55:53.06 ID:0P1TubCZ0
暦「……忍野はそう言ってたけどさ」

暦「終わらないよ。 火憐ちゃん」

暦「お前が死んだら、誰が僕の事を毎朝起こしてくれるんだよ」

暦「月火ちゃんの面倒も、僕だけじゃ見切れないぜ」

暦「もしかしたら、月火ちゃんと無理矢理お風呂に入ろうとするかもしれない。 そんな時、止める奴が居なかったらどうするんだよ」

暦「それに、僕は月火ちゃんをいじめるぜ。 それの報復として殴り込んで来るのは誰だよ」

暦「肩車だってそうだろ。 僕を肩車してくれるのは一人しかいねえんだ」

暦「全部、火憐ちゃんじゃなきゃ、出来ない事だろ」

暦「だから、死ぬのは許さない。 僕の為に生きろ」
577 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:56:23.45 ID:0P1TubCZ0
火憐「は、ははは。 すげえ言葉だな。 僕の為に生きろって」

火憐「……でも、兄ちゃんの命令なら仕方ねえな。 兄ちゃんの命令は絶対だ」

火憐「分かったよ。 兄ちゃん、また会おうぜ」

暦「おう。 任せておけ」

火憐「任せたよ、兄ちゃん」

僕と火憐は笑い、拳と拳をぶつける。

なんだか男同士の約束っぽいが、これでいいんだ。
578 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:57:07.56 ID:0P1TubCZ0
暦「それじゃあ、忍野を呼んで来るよ」

そう言い、僕は部屋の外に出ようとする。

火憐「あ、兄ちゃん」

そこに、火憐の声が掛かった。

暦「ん?」

火憐「一つ、頼みがあるんだ」

火憐は僕に対し、笑顔を向けながら言う。

暦「いいぜ、引き受けてやるよ」

火憐もまた、笑い、答える。
579 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:57:49.53 ID:0P1TubCZ0
火憐「あのさ。 全部、終わったらさ」

火憐「一日だけ、一緒に寝てくれ」

暦「前にも言ったが、火憐ちゃん。 妹の処女なんていらねえぞ」

火憐「違うよ。 そういう意味じゃない。 もっと純粋な意味でだよ」

暦「あはは。 分かってるさ。 冗談だ」

暦「月火ちゃんは、無しでか?」

火憐「おう。 月火ちゃんは無しだ」

暦「了解。 優しい優しい兄ちゃんが引き受けてやるよ」

火憐「……ありがとう」
580 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/19(金) 13:58:17.11 ID:0P1TubCZ0
その言葉を聞き、僕は部屋を出る。

さて、後は忍野と話を付けるだけか。

意外にも、忍野は部屋を出てすぐの所で待っていた。

忍野「やあ、お疲れ様。 ああ、今からが大変だし、まだ言うべきじゃなかったかな」

暦「妹のしたヘマの後片付けなんて、大変でもなんでもねえよ」

忍野「そうかい。 じゃあ一度、妹ちゃんも交えてお話しようか」

との事で、僕は先程、また会おうと格好良く別れた妹と数分間を置いて、再会する事になったのだったけれど。



第十六話へ 続く
587 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:00:42.17 ID:16NcLeen0
忍野「それじゃあ、説明するよ」

暦「ああ、頼む」

僕の言葉で、忍野は説明を始める。

忍野「まず、選択肢は三番目……つまりは、阿良々木くんは妹ちゃんに憑いている怪異と戦うって事だね」

忍野「これに関しては、異論は無いかな。 まあ、あったからってどうって訳でも無いんだけど」

火憐「ねえよ。 あたしもそれでいい」

暦「僕もだ」
588 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:01:09.47 ID:16NcLeen0

忍野「そうかい」

忍野「というか、阿良々木くん。 一つ聞いてもいいかな」

暦「ん? どうした、忍野」

忍野「阿良々木くんの家ってさ、目上の人に対する言葉遣いとか、教えないのかい?」

暦「……ほっとけ」

忍野「ははは。 そこら辺含めて、そっくりだよ。 君達は」

火憐「そりゃそうだ。 あたしは兄ちゃん大好きっ子だからな」

自信満々に言うなよ、恥ずかしくねえのかよ。
589 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:01:45.94 ID:16NcLeen0
暦「話を戻そうぜ。 それで忍野、その後は?」

忍野「ああ。 今回に限ってだけど、僕も阿良々木くんと一緒に戦ってあげるよ。 勿論、あくまでも協力って形だけどね」

暦「そりゃ、大分心強いな」

忍野「おいおい、僕はただのアロハのおっさんだぜ。 あんま期待されても困るな」

自分で言うのか、それ。 確かにアロハのおっさんだけれども。
590 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:02:16.67 ID:16NcLeen0
火憐「……タダで、やってくれるのか?」

忍野「ん? ああ、お金かい?」

火憐「そうだ。 あたしの知ってる大人は、詐欺をしやがったんだ。 それで騙された奴が何人も居る。 あんたがそうだとは思わねえけどさ」

火憐「タダで手伝ってくれるってのも、なんだか気分が悪りい」

忍野「へえ。 酷い大人が居た物だね。 全く」

忍野「まあ、君がそれでいいならいいけど。 高く付くよ? 今回のは厄介だしさ」

暦「……いくらだ?」
591 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:02:49.87 ID:16NcLeen0
僕の吸血鬼で、五百万だったろ。 一応あれも、かなり厄介なパターンだった訳だし、少なくともそれよりは。

なんて、僕はそう思ったのだけれど。

忍野「一千万。 それが妥当な金額かな」

暦「おい、おいおいおい。 待てよ忍野。 そんな金額、火憐ちゃんに払えると思ってるのかよ」

忍野「今すぐなんてひと言も言ってないさ。 払える時でいいよ」

暦「けどな! 一千万って、僕の時の二倍じゃねえかよ」

忍野「そりゃ、そうだろ。 阿良々木くん」

忍野「僕も今回、文字通り命賭けなんだぜ。 相場から言えば、大分サービスしてる方なんだけど」
592 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:03:19.02 ID:16NcLeen0
暦「だけど!」

確かに忍野の言うとおりなのかもしれないけれど、それでも、そんな金額なんて、少なくとも簡単にどうこうできるって額でも無い。

僕が返済を手伝うにしても、だ。

火憐「いいよ、兄ちゃん」

火憐「払う。 一千万だな」

暦「お、おい。 火憐ちゃん」

火憐「大丈夫だよ。 あたしはこう見えて、働く女なんだぜ」
593 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:03:45.66 ID:16NcLeen0
暦「だけどな……大体だ。 一千万ってどの位か分かってるのか?」

火憐「当たり前だろ。 とにかく、あれだ」

火憐「一万円がいっぱいって感じだろ?」

アバウトすぎるだろ。 確かに一万円がいっぱいだけれどもな!

暦「……まあ、いいよ。 僕も返済は手伝う」

火憐「駄目だ。 あたしの借金はあたしで返す。 これだけは譲れないぜ、兄ちゃん」

暦「つっても、お前一人じゃ返しきれないだろ。 二人でも返せるかどうかすら、分からないんだぜ」
594 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:04:23.75 ID:16NcLeen0
火憐「なんとかする! だから兄ちゃんは気にするな」

暦「なんとかできねえって! 死に物狂いで働いてやっとだぞ!」

こいつ、本当に分かって無いんだろうな。

火憐「兄ちゃんはいいから黙ってろ! 殴るぞ!」

暦「あ、えっと」

やべえ。 妹に脅されてびびって黙ってしまった。
595 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:05:19.64 ID:16NcLeen0

忍野「はは。 本当に仲が良いよね、君達は」

忍野「ま、兄妹喧嘩もそろそろ終わりにしてさ。 本題に入ろうか」

その原因を作ったのはお前だけどな、忍野。

まあ、助け舟を出してくれたのには感謝しておこう。

忍野「それで、僕が手伝い、見事に成功すれば」

忍野「妹ちゃんも元通り。 阿良々木くんも死なずに済んで、更には皆の記憶も元通り。 めでたしめでたし」

忍野「んで、阿良々木くんが死んだ場合」

忍野「この場合も、妹ちゃんは元通り。 けれど阿良々木くんは死亡。 この場合でも記憶は戻る。 怪異が目的を達成したって事になるけど、後味は悪いね。 それに、忍ちゃんもその場合は始末しなければ、まずい」

忍野「こんな所かな?」
596 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:06:05.18 ID:16NcLeen0
そうか。

僕が死ねば、忍は今の状態では無くなり、本来の吸血鬼へと戻るのか。

なるほど、それなら僕は、余計に死ねない訳だ。

暦「分かった。 火憐ちゃんも、忍も、それでいいか?」

火憐「あたしは文句ねえよ。 てか、言える立場でも無いし」

忍「儂も構わん。 どうせ余生じゃからのう」

との事で、これで決まりの様である。
597 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:06:32.07 ID:16NcLeen0
忍野「さてと。 それじゃあ、下で準備をしてくるよ。 妹ちゃん、行こうか」

火憐「ああ」

忍野「場所は、この前阿良々木くんが悪魔と戦ったあの場所だからね。 間違えない様に」

暦「どうやったら間違えるんだよ」

忍野「念の為だよ。 ああ、そうだ。 これも念の為に言って置くけど」

忍野「次に会う時は、妹ちゃんは化物の姿になってるからね。 そこら辺、分かってるのかい」

暦「……分かってるさ」
598 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:07:00.40 ID:16NcLeen0
忍野「そうか。 ならオッケー。 じゃあまた、後で」

そう言い、忍野は部屋から火憐を連れて出て行く。

暦「火憐ちゃん、また後で」

僕は火憐にそう言い。

火憐「おう兄ちゃん。 また後で」

火憐は僕にそう言った。
599 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:07:40.97 ID:16NcLeen0
そして、今に至る。

現在。

忍野の準備が終わるのを待ち、上の部屋で忍と二人で待機という訳だ。

忍「お前様よ」

暦「ん?」

忍「やはり、少しでも儂に血を吸わせておいた方が、確実に良いと思うのじゃが」

暦「そりゃ、そうかもな」

忍「だが、やらないと?」
600 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:10:26.10 ID:16NcLeen0
暦「ああ。 一応、多少は普通より回復力があるし」

忍「まあよい。 いつ死ぬのか生きるのかを選ぶなんて、お前様の勝手じゃしな」

暦「迷惑掛けるよ。 お前にも、忍野にもさ」

忍「カカッ。 迷惑ならいつも掛けられておるわ。 いつか、お前様があの巨大な妹御に言った様に」

暦「そうか。 なら結局、僕はあいつと似ているのかな」

忍「そりゃ、そうじゃろ。 瓜二つじゃ」

どこら辺が瓜二つだよ。 双子でもあるまいし。
601 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:10:52.79 ID:16NcLeen0
忍「だが、お前様はお前様じゃよ。 妹御は妹御。 似ているが、一緒では無い」

忍「お前様は、巨大な妹御の思っている事に気付けなかったのを酷く後悔している様じゃがな」

忍「似ているからこそ、気付かない事もあるんじゃよ。 距離が近すぎて、気付かないと言った所じゃ」

距離が近すぎて、気付かない。

なるほど。 僕達の場合は案外、そんな感じなのかもしれない。 今まで、そんな事は思った事も無かったけれど。

暦「けど、さっき火憐ちゃんとも話したけどさ。 これが終わったからと言って、全てが終わる訳じゃねえんだよな」
602 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:13:07.41 ID:16NcLeen0
忍「ふむ。 怪異と一度でも関われば、関わり易くなる。 かのう?」

暦「そう。 火憐ちゃんも、僕みたいに次から次へと問題事を抱えるのかもしれない」

忍「なんじゃ、お主。 首を突っ込んでいたのが問題事だと、認識しておったのか」

暦「一応はな。 だけどさ、本当にこれで良かったのか。 とは思うよ」

忍「と、言うと?」

暦「気付けた事はいっぱいあったんだよ」

暦「最初の日の事だったり、火憐ちゃんが想っていた事だったり、今思えば、異変だらけじゃないか」
603 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:13:57.16 ID:16NcLeen0
忍「先程も言った様に、お前様と巨大な妹御の場合は、距離が近すぎたんじゃよ」

暦「って言ってもさ、気付けなかったのは僕の責任なんだよ。 近すぎたとしても、分かる事なんて出来た筈なんだ」

忍「なるほどのう……お前様がそう思うのも無理は無い話じゃと思うが、後悔しても仕方ないじゃろ。 過去には戻れんしのう」

暦「……そりゃそうだな。 進むしか、ねえんだよな」

忍「それに今回、儂は一本道だったと思っておるぞ。 分かれ道の無い、一本道」

暦「そうでも無いだろ? 僕が気付くべき事に気付けば、事態は変わっていたんだろうし」

忍「それこそ、そうでも無い。 じゃな」
604 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:14:46.07 ID:16NcLeen0
暦「どういう意味だ、忍」

忍「簡単な事じゃよ。 お前様と、妹御だったから、今回の事になったんじゃ」

忍「馬鹿と馬鹿だしのう。 選べる道なんて、最初から無い」

忍「それに、小僧と小娘じゃあ、分かれている道の存在にも気付かなくて当然じゃ」

確かに、そうかもな。

僕も火憐も、まだまだガキなんだ。

そんな二人が並んで歩いても、前しか見えないだろうし。

僕と火憐の性格的にも、か。
605 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:15:11.20 ID:16NcLeen0
暦「忍にそう言われちゃ、返す言葉もねえな」

忍「だから、お前様が悩む事でも無いわい」

忍「お前様は、ただ妹に想われて幸せだなぁ。 とか感じておればいいだけじゃ」

暦「いやいや、それじゃシスコンじゃねえかよ。 確かに幸せだけどな」

僕がそう言うと、忍はこれ以上無い程に呆れた顔をして、溜息を付いた。 何やってんだこいつ。

忍「ま、お前様がそう思うのならこれ以上は何も言わん」

暦「? まあ、いいけどさ」
606 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:16:46.55 ID:16NcLeen0
暦「とにかく、僕はまたあの家に帰る。 もう一人の妹も待っているし」

忍「そうじゃな。 今回、儂は殆ど無力と言っていい。 いくらあの小僧がおると言っても、油断はするなよ」

暦「はは。 随分とマジな兄妹喧嘩になりそうだな。 あいつ、強いからなぁ」

忍「儂も間接的にボコされておるしの」

ボソッと言うなよ、怖いから。

と、そんな話をしている時に、部屋の扉が開いた。
607 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:17:19.72 ID:16NcLeen0
忍野「やあ、お待たせ」

忍野が戻ってきたと言う事は、つまり。

暦「準備が出来たって事か」

忍野「うん。 今は部屋を閉じてあるけど、開けて入ったら外には出られないからね」

忍野「その辺りは、あの悪魔の時と一緒って事だよ」

忍野「ただ、今回ばかりは誰も助けに来ない。 前みたいにツンデレちゃんが来る事も無いからね」
608 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:18:01.63 ID:16NcLeen0
暦「分かってるさ。 それに、これは僕と火憐ちゃんの問題だ。 戦場ヶ原を巻き込む訳には行かない」

忍野「そりゃそうだ。 けど、あのツンデレちゃんは多分。 怒ると思うけどなぁ、本当の事を知ったらさ」

だろうな。 怒り心頭で、多分僕は海に沈められるか、切り刻まれるか、文房具で刺されるかのどれかだろう。

こえー。

暦「忍野、戦場ヶ原には絶対に言うんじゃねえぞ」

忍野「勿論、男と男の約束だ」

忍野は僕の方に拳を向け、親指だけを突き立てる。

ここまで信用ならない奴も中々いねえな、ほんとに。
609 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:19:13.61 ID:16NcLeen0
忍野「それで、真面目な話だけどさ」

忍野はおどけた声の調子を変え、普段より更に、低い声で言う。

それだけで、僕はそれほど真面目な話だと、理解した。

忍野「一番最悪なパターンは、阿良々木くんが死に損ねる事かな」

暦「僕が死に損ねる? そんな事、あるのか?」

忍野「あるよ。 僕が先に死ねば、あの結界は破れる」
610 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:19:43.14 ID:16NcLeen0
忍野「つまり、扉も内側から開くって事さ。 そこで阿良々木くんが逃げ出せば、死に損ねる」

忍野「そうなったら最悪のパターンだ。 あの怪異は、阿良々木くんが死ぬまで、花粉を撒き散らす」

暦「花粉? それって……」

あれだ。

僕が火憐や忍の事を忘れる直前に嗅いだ、あれの事か。

忍野「そ。 つまりは全員の記憶がぐちゃぐちゃになるって事さ」

忍野「ましてや、妹ちゃんが表に出ている時じゃなく、今は怪異その物が現れている」

忍野「その場合、阿良々木くんと関わりのある人間が標的になる可能性も、忘れないでね」
611 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:20:17.87 ID:16NcLeen0
なるほど。 まあ、あまり関係の無い事だ。

だって、僕が命惜しさに逃げ出すなんて事は、無いのだから。

暦「その辺は心配いらねえよ。 もし死ぬ時は、潔く死ぬさ」

暦「まあ、最後まで諦める気も無いけどな」

忍野「そう言うと思った。 阿良々木くんは分かり易くて助かるよ」

暦「そうかよ。 なら無駄口を叩いてないで、さっさと行こうぜ」

忍野「はは。 元気良いね、阿良々木くん」
612 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:20:53.93 ID:16NcLeen0
てっきり、いつもの言い回しを忍野はするのかと思ったけど、その後に続く言葉は無かった。

暦「どうしたんだよ。 いつもみたいに言わないのか?」

忍野「僕だって、良識は弁えているさ。 とてもじゃないが、良い事があった様には見えない阿良々木くんに対して、そんな事、口が裂けても言えないなぁ」

マジかよ。 お前、僕が良い事無い時でも、すげえ楽しそうに言ってたよな。

月火ではないが、録音して聞かせてやりたい位だ。

とまあ、思った物の、恐らくは忍野もそれ位本気って事だろうか。

いや、そもそも、こいつはいつも手を抜いている様にも見えるし、本気を出したらどうなるのかも分からないが。
613 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:23:27.67 ID:16NcLeen0
そんな話をしている内に、着いた。

かつて、一度入った事のある部屋。

今は、火憐が中に。

忍野「最後に確認だ。 阿良々木くん」

忍野「忍ちゃんのブレードは、本当に使わないのかい?」

暦「ああ。 使わないよ」

忍野「相手は怪異だよ。 それも、かなり強力なね」

忍野の言葉に、僕は笑いながら、返す。
614 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:24:41.14 ID:16NcLeen0
暦「違うな。 これはただの兄妹喧嘩だ」

暦「兄妹喧嘩に刀なんて取り出しちゃ、事件になっちまう」

月火はしょっちゅう、凶器を取り出しているけれどな。

それでも事件になってない辺り、あいつも意外と、歯止めが利くのだろうか?

……無いか。 それは僕がうまい事回避しているだけだ。 つっても、実際に刺されでもしたら、その時点であいつは、僕の体質に気付くのだろうけれど。

忍野「ま、それで良いなら、いいけどさ」
615 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/20(土) 20:25:11.04 ID:16NcLeen0
忍野「いくら阿良々木くんが妹ちゃんを庇っても、妹ちゃんは自業自得なんだぜ? その辺りは、分かってるのかい」

暦「僕もそう思う。 あいつの場合、殆ど自業自得だし」

暦「けど、忍野。 火憐ちゃんにはもっと似合う言葉があるんだよ。 四字熟語でな」

そうだな。 少なくとも、自業自得よりは、ぴったりだろうよ。

暦「才色兼備。 それしかねえ」


第十七話へ 続く。
619 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:23:43.75 ID:3uFUiPCu0
形容するならば、巨大な木。

最早、それは草とは呼べない程の、巨大な木だった。

ここからでは、その巨大な木によって、火憐の姿は見えない。 いや、あの木そのものが、既に火憐なのだろうか。

まるで、ゲームかなんかのボスみたいだな、と思う。

でかさ的には、どのくらいあるんだ、これ。

火憐を縦に並べて、五人分くらいか? って事は、十メートル近くはあるのだろう。

なるほど。 こりゃ、確かに巨大な妹御だな。
620 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:24:21.84 ID:3uFUiPCu0
そして、その木を覆うように生えているのは草だった。

その一本一本が意思を持っているかの様に、蠢いている。

いや、草っつうよりはツタと言った方が正しいか。

忍野「阿良々木くん、見えるかい」

横に居る忍野がそう言い、木の上部を指差す。

忍野「あそこに生えている花。 あれがあの怪異の弱点と言うか、本体と言うか、それだよ」

ふむ。 確かに小さくではあるが、見える。 いくら弱点と言っても、あそこまで行くのにも苦労しそうではあるな。 それに、僕は。
623 :620-621の間 ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:27:28.23 ID:3uFUiPCu0
暦「言っただろ、忍野。 僕はあれを斬ったりはしない。 火憐ちゃんを殺す訳には、いかない」

忍野「そうかい。 ま、一応って事で頭に入れておいてくれよ」

そうは言われても、僕は多分、本当に死にそうになったとしても、あれを攻撃する事は無いのだろうが。

暦「忍、お前は影の中に入っておけよ。 今のままじゃ、ただの幼児だからな」

忍「分かっておるよ、我が主様。 ただ、あまり無茶はせんようにな」

暦「どうだかな。 火憐ちゃんが暴力的じゃなきゃ、良かったんだけど」

暦「どうも、そう簡単には行きそうに無い」
624 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:28:02.15 ID:3uFUiPCu0
僕の目の前に生えている木は、今にも攻撃しようと、無数にあるツタを蠢かしている。

それは火憐の意思では無く、怪異の意思だ。 ただの、呪い。

忍野「それじゃあ、行こうか」

いつの間にか、忍野が先行する形で歩いていて、僕はその後をゆっくりと付いて行く。

そして、何歩か歩いた所で忍野は止まる。

忍野「ここら辺かな」

忍野「阿良々木くん。 これより先に進めば、奴の範囲内だ。 つまりは」

忍野「これ以上進めば、戦闘開始って所だね」
625 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:28:30.70 ID:3uFUiPCu0
おいおい。 まだ、あの木とは大分離れた位置なんだけど、どんだけ範囲が広いんだよ。

忍野「とは言っても、阿良々木くんは素手だから、うまい事あの木の懐に潜り込まなきゃ、勝機は無いよ」

暦「懐に? そこまで行けば勝てるのか?」

忍野「恐らくはね」

忍野「あの木の中に、君の妹ちゃんは居る。 だから、妹ちゃんを縛っている草を解けば、怪異は消えて無くなるよ」

木の中、ね。 火憐はつまり、あの幹の中にいるって事か。

確かに、遠目だからはっきりとは分からないけれど、隙間の様な物は見える。

……なるほど、あそこから中に入れって事か。 だが、そんな簡単で良いのだろうか?
626 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:28:58.37 ID:3uFUiPCu0
暦「それだけか? なら、思っていたよりも簡単そうだな」

忍野「ははは。 それが大変なんだよ、阿良々木くん」

忍野「忍ちゃんのブレードも無ければ、今の阿良々木くんは殆ど人間だ。 攻撃してくるツタを斬る事も出来なければ、食らいながら無理矢理進む事も難しい」

忍野「僕も不死身体質なら、突っ込んで良いんだけどさ。 生憎、僕は一発食らったら終わりの人間なんだよ」

忍野「僕はここから、あいつの動きを妨害する事に専念する。 辛い役目は全部阿良々木くんだけど、良いかな」

暦「ああ、分かった」

妹の為だ。 こんなの、何でも無いさ。
627 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:29:26.14 ID:3uFUiPCu0
忍野「そうだ。 忍ちゃん、ちょっと良いかな」

いつの間にか、忍野は僕の後ろに立っていた。 そして、僕の背中で忍と何やら会話をしている様だ。

さてと。

集中するかな。

目の前の怪異。 いや、火憐を見つめる。
628 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:30:17.35 ID:3uFUiPCu0
ったく、本当に色々と、迷惑を掛けてくれる妹だな。

まあ。 今回に限っては、僕にも責任はあるのだけれど。

つうか、そんな風になる程僕の事を想うとか、お前はヤンデレかよ。

似合わねえな。 お前はさ、もっとあれだろ。

単純で、純粋で、馬鹿で、暴力的で、元気で。

そんな、奴だろ。

別に、良いけどさ。
629 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:30:44.25 ID:3uFUiPCu0
全部終わらせて、帰ろうぜ、火憐ちゃん。

月火ちゃんも入れて、三人で話そう。

僕の身にあった事。 火憐の身にあった事。

家族だから、隠し事ってのもあるかもしれないけどさ。

言えない事ってのも、あるかもしれないけどさ。

少なくとも、僕の事はもう、言えない事じゃないぜ。
630 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:31:11.42 ID:3uFUiPCu0
火憐ちゃんは僕の事を受け入れてくれたし、人間だと言ってくれた。

忍野みたいに、影縫さんみたいに。

月火ちゃんも、多分そうだよな。

なんつっても、こんだけ想われちゃ、嘘なんか付きたく無くなるっつうの。

腹を割って話そう。

今まで、火憐ちゃんの事は嫌いだ嫌いだって言ったけど。

今なら言える。 好きだぜ、火憐ちゃん。
631 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:31:37.94 ID:3uFUiPCu0
忍野「阿良々木くん、準備は良いかな」

背中から、忍野の声が聞こえてきた。

忍との話は終わったのか、既に忍は僕の影の中へと消えている。

暦「ああ、大丈夫。 いつでもいける」

後ろは振り返らないまま、僕はそう言う。

忍野「そうかい。 じゃあ」

-----------------また会おう、阿良々木くん。
632 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 17:32:34.08 ID:3uFUiPCu0
その言葉を聞き、僕は踏み出す。

踏み出すと言うよりかは、駆け出す。

一歩一歩、火憐に向けて。

ツタがそれに気付いたのか、僕の方へ向けて、飛んできた。 飛んできたと言うよりは、ただそのツタをしならせて、僕の方に攻撃をしてきただけなのだが、まるで飛んできた様な動き方だった。

速度はかなり速いが、避け切れない程でも無いか?

判断するのと同時に、目の前に迫ってきたツタを体を捻り、避ける。

胸の辺りを掠めるようにして、ツタは僕の後方へと流れて行った。

よし、これなら行ける。

これならまだ、避けられる。
633 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:03:44.22 ID:3uFUiPCu0
これもまた、忍野のお陰だろうか。 つうか、動きを阻害してこれって、阻害しなかったらどうなるんだよ。

忍「お前様、後ろじゃ!」

突然、影の中から声が聞こえる。

忍か。

てか、後ろ? 後ろってお前、忍野が居るだけじゃねえかよ。

と思いながらも、振り返る。

ああ、そうか。

その光景を見て、僕は忍の言葉の意味をはっきりと理解した。

ツタは行ったら行ったっきりじゃねえのか。

それを引き戻す際にも、僕を攻撃できるのか。
634 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:04:36.22 ID:3uFUiPCu0
暦「……っ!」

気付くのが遅れたのもあり、今度は完璧には避けきれない。

一本のツタが、僕の腕を切り裂いた。

けど、まだ、まだだ。

まだ、この程度。 掠り傷程度。

僕は再度、前を向き、走る。

距離はどのくらい縮まったのだろうか? もう半分ほどまで来ただろうか?

後ろを見ては走れないので、正確な距離は分からないが、確実に近づいているのは理解できた。
635 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:05:18.98 ID:3uFUiPCu0
が。

次の攻撃で、僕は認識の甘さを理解する事になるのだけれど。

いや、忍野も分かっていなかったのだろうか?

それすらも、どうでも良い。

つまり、あの木は『本気で僕を殺しに来ていなかった』のだ。

今の、今まで。

暦「ぐあっ!」

文字通り、目に見えない速度で、ツタが僕の左腕を切り離した。

くっそ、マジかよ。 見えないって問題じゃねえぞ。 気付いたらって感じだ。
636 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:06:35.92 ID:3uFUiPCu0
いてえな。 だけど、まだ腕一本だ。

春休み……あの地獄の様な日々のおかげで、大分痛みには我慢が効くようになっているのが幸いか。

僕は痛みを堪え、走る。

木には既に、大分近づいてきている。

あそこまで行けば、全部終わる。

また、火憐と月火と、馬鹿な事が出来る。

元通りとは言えないけれど、また戻れる。
637 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:07:11.57 ID:3uFUiPCu0
忍野「阿良々木くん! 下がれ!」

後ろの方から、忍野の声が聞こえてきた。

おいおい、忍野。 もう少しなんだぜ。 後少しで、全部終わるんだ。

なのに今更下がれなんて、意味が分からねえぞ。

ああ、そうか。

このパターンって、良くあるあれか、僕が死ぬパターンか?

その考えは、見事に当たる訳で。

気付いた時には、右足が無くなっていた。

勿論、そんな状態で進める訳も無く、僕は地面へと倒れ込む。
638 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:07:44.35 ID:3uFUiPCu0
暦「……っ!」

くそ、痛みすら、もう感じ無い。

次の瞬間には死んでるかもしれないな。 こりゃ。

だが、木は次の攻撃を仕掛けてこない。

火憐の意思?

違うか。 今、僕の目の前に居るのは、紛れも無く僕の妹の火憐ではあるけれど。

それ以上に、怪異なのだ。

想いを吸うとは言っても、それはエネルギーとして。

火憐の想い等、この怪異の前では意味の無い物だ。
639 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:08:34.12 ID:3uFUiPCu0
恐らくは、飽きただけなのだろう。 放っておいても死ぬと、判断されたのだろう。

僕は、死ぬ。

結局、最後の最後まで、何も出来なかった。

火憐との約束さえ、どうやら守れそうにも無い。

あれだけ火憐の前では格好良い事を言っておきながら、このザマじゃあ、月火にぐちぐち言われそうだな。

所詮、一人のガキの我侭じゃあ、この程度だろう。

だからと言って、僕は心渡を持ち出さなかった事や、吸血鬼化していなかった事を後悔したりはしない。

そこに理由があるとするならば、僕の想い。
640 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:09:12.44 ID:3uFUiPCu0
今の今まで、火憐に僕の想いをぶつけた事なんて、無かった。

だから、せめて最後くらいは、兄で居たかった。

火憐や月火から言わせれば、僕はいつでも兄なのだろうけれど。

まあ、でも。

暦「やっぱ、強いよな。 火憐ちゃんは」

なんて。

簡単な事だ。

僕は火憐に勝てない。

今みたいな、単純な勝負でも。
641 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:09:43.14 ID:3uFUiPCu0
思えば、この怪異は火憐の想いを吸って、ここまでの怪異になったのだと言う。

それなら、僕は火憐の想いにも勝てなかったって事だろう。 当然か。

これで、火憐は元通りに戻れる。

兄として情け無いったらありゃしないが、後の事は月火に任せるとしよう。

あいつは意外としっかりしているしな、多分、僕以上に。

火憐の事も、うまい具合にストッパーにはなっている様だ。

いや、火憐も火憐で、月火のストッパーにはなっているのか。

良い具合に、二人が二人を吊り合わせている。

そんなあいつになら、任せられる。
642 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:10:09.66 ID:3uFUiPCu0
暦「……そうだ、忍」

危ない危ない、忍の事を忘れる所だった。

忍「なんじゃ、我が主様よ」

忍は姿を出さず、影の中から僕に返事をする。

暦「悪いな。 どうやら、僕は死ぬみたいだ」

忍「ふん。 諦めが早い小僧じゃな」

暦「……悪い」

忍「まあよいわい。 お前様がもう駄目だと言うならば、そうなのだろうよ」
643 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:10:36.10 ID:3uFUiPCu0
暦「弱音は、吐きたく無いんだけどな」

暦「でも、こんな状態じゃあ……僕は、無理だろ」

忍「今、この瞬間にでも、儂がお前様の血を吸えば、戦えるとは思うが?」

暦「……駄目だ、それだけは駄目だよ」

忍「……くだらん意地じゃな」

暦「そうだよ。 くだらない意地だ。 僕の我侭だ」

忍「まあ、別に良いがのう」
644 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:11:04.99 ID:3uFUiPCu0
暦「……忍も、この後、忍野に殺されるだろうな」

忍「お前様が死ねば、そうなるじゃろうな」

暦「迷惑掛けるよ、本当にさ」

忍「さっきも言ったが、迷惑ならいつもの事じゃよ」

暦「はは、そうだったな」

暦「それじゃあ、忍。 さようなら」

僕は影に向けて、忍に向けて、言った。

ありがとう。 なんて言葉は言えないけれど、別れの挨拶くらいなら、別に良いだろう。
645 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:22:32.86 ID:3uFUiPCu0
だが、忍は。

忍「ふは。 あははははははははははははははははははは」

と、笑う。

顔は見えないが、恐らく凄惨に。

忍「カカッ。 なんじゃ、儂がいつ、お前様との別れ話をしたんじゃ?」

忍「お前様が諦めたのかは知らんが、儂はまだ諦めておらんよ」

暦「……何を言ってるんだよ。 この状態じゃあ、無理だろ」

忍「そりゃそうだのう。 恐らく、儂が無理矢理にでも血を吸った所で、お前様は戦わない」
646 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:23:22.13 ID:3uFUiPCu0
暦「分かってるじゃねえか。 なら」

忍「だが、それはお前様の事だろうよ?」

暦「……忍が、戦うって言うのか?」

忍「カカッ。 まさか、儂じゃあとてもじゃないが、お主と同じ末路じゃろうな」

顔は見えないが、恐らく忍は笑いながら、続ける。

忍「話が変わるが、儂には一つ、お前様には謝らねばならん事がある」

なんだよ、こんな時に。
647 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:24:02.49 ID:3uFUiPCu0
忍「すまんのう。 我が主様よ。 儂はお主を騙した」

騙した? あの春休みの事か?

いや、それこそ、今するべき話では無い。

なら、忍は何を言っている?

忍「儂やお前様では無理でも、あのアロハ小僧なら終わらせる事が出来る」

忍「勿論、正面からでは無理じゃろうな。 だから」

忍「四番目の方法、じゃよ」

四番目? 僕が選んだのは、三番目だぞ。
648 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:24:38.19 ID:3uFUiPCu0
忍「だから、騙したと言っておるんじゃよ。 儂とお前様は、最初から囮だったんじゃ」

囮? 僕と、忍が?

暦「ま、待てよ。 忍、僕は四番目なんて選んでいない。 それをやったら、火憐ちゃんが」

忍「くどいぞ。 我が主様」

忍「現にお前様は死に掛けているでは無いか。 これもまた、あの小僧は予想していたのじゃが」

忍「その格好でも、体の向きくらいは変えられるじゃろうよ。 後ろを向いてみい」

そう言われ、残された片方の腕を使い、後ろを向く。

そこには忍野が居て。

手には----------------------------心渡。
649 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:25:05.62 ID:3uFUiPCu0
暦「お、おい、忍野。 何をしているんだよ」

僕の声は届いているのか、いないのか。

恐らくは聞こえていても、僕には忍野を止める事は出来なかっただろう。

なんつったって、この有様なのだ。

暦「やめ、ろ。 やめろ……忍野!」

腕を切られた所為か、足を切り飛ばされた所為か、うまく声が出ない。
650 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 18:25:32.13 ID:3uFUiPCu0
そして、やはりそれにも聞く耳を持たず、忍野は駆け出す。

怪異は未だ、僕だけしか見ていない様で、忍野に攻撃が向く事は無かった。

そして。

忍野は跳ぶ。 木の頂上を目指して。

僕には顔を向ける事もせず、忍野は、僕の目の前で。

木の頂上に咲き誇る、一輪の花を斬った。


第十八話へ 続く
655 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:17:13.79 ID:3uFUiPCu0
目の前に、忍野が降り立つ。

僕の方を見ないまま、背中を見せたまま。

その奥で、木が枯れて行く。

僕を殺しかけていた木は、あっさりと。

先程まで動いていたツタも枯れ、灰となっていく。
656 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:17:45.65 ID:3uFUiPCu0
暦「てめえ! 忍野!」

殺された。

火憐が、僕の妹が。

結局、何も守る事なんて出来なかった。

許さねえ。 忍野。

殺す。 殺してやる。

這いつくばり、進み、忍野の足を掴む。
657 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:18:23.48 ID:3uFUiPCu0
暦「ふざけるな、ふざけるなよ! ぶっ殺してやる、忍野!」

忍「ふん」

いつの間に影から出てきたのか、忍は僕の上まで来ると、自らの腕を引きちぎり、僕に血を浴びせる。

驚くほどのスピードで、僕の腕、足が元通りになった。

ありがとう、忍。

これで、忍野を殺す事ができる。

暦「てめぇええええええええ!!」

肩を掴み、顔をこちらに向かせ、殴る。

殴り、殴って、殴りつける、何回も、何回も。

忍野はやがて倒れ、僕はその上へ覆いかぶさった。
658 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:19:23.06 ID:3uFUiPCu0
暦「よくも、よくも火憐ちゃんを!」

また殴る。 何発も何発も何発も。

勢いで殴った所為なのか拳はもう、完全にぐちゃぐちゃになっていた。

けど、関係ない。

僕は、この男を殺さなければ。

暦「……どうしてだよ、何で!」

気付けば僕は泣いていて。 その問いに忍野は答えない。

あくまでもこいつは、僕の顔を見たまま、何も言わない。

それがまた、憎くて。 僕は再度殴ろうと拳をあげる。

そして、その腕を忍が、掴んだ。
659 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:19:51.37 ID:3uFUiPCu0
忍「もう良いじゃろ。 我が主様よ」

良い? 良いって、何が?

暦「邪魔するのか、忍」

そうだ。

なら、先に忍から。

忍「そんな眼をするな、我が主様」

忍「お前様の妹御は、生きておるよ」
660 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:20:17.55 ID:3uFUiPCu0
いき、ている?

でも、忍野が、火憐を。

忍「おるじゃろ、そこに」

そう言い、忍は指をさす。

僕と忍野の先。

先程まで、怪異が居た場所を。

暦「火憐……ちゃん」

その先には、僕の妹が。 火憐が、横たわっていた。
661 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:21:19.76 ID:3uFUiPCu0
時間経過。

結論から言えば、火憐は死なずに済んだ。

僕もまだ頭の整理が追いつかないけれど、その事実だけで、充分すぎたのだろう。

今は、忍野と僕と忍。 それに、火憐も。

忍野がいつも使っている部屋に集まっている。

もっとも、火憐は意識を失っており、寝ている様な物だけれど。

暦「って事は……火憐ちゃんは無事って事で、いいんだよな?」
662 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:21:47.35 ID:3uFUiPCu0
忍野「まあ、無事って程でも無いけどね。 さっきも言った様に」

忍野は僕に殴られた顔を擦りながら、いつもみたいにどこかふざけた様子で、そう言った。

暦「けど、何で忍野は僕を騙したんだ。 四番目の選択は、火憐ちゃんも死ぬって、そう言ってたじゃないか」

忍野「おいおい。 阿良々木くん。 本当に僕の話を何も聞いていなかったのかい。 さっき説明したじゃないか」

ああ、そう言えば……さっき何か言っていたっけか?

マズイな。 火憐が無事だと分かっただけで、何も聞いていなかった気がする。

少し、順を追って思い出そう。
663 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:22:49.69 ID:3uFUiPCu0
以下、回想。

暦「火憐ちゃんが、生きている?」

僕と忍は、火憐の元まで歩いて行き、見下ろす。 いつも元気が良い、僕の妹を。

忍「そうじゃ。 だから言ったでは無いか。 お前様を騙していた、と」

忍「そうじゃろう? アロハ小僧」

忍の声を聞き、忍野はゆっくりと体を起こす。

そして、口を開いた。
664 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:23:22.54 ID:3uFUiPCu0
忍野「全く、阿良々木くん。 いくらなんでも殴りすぎだよ。 まあ、無理もないか」

忍野「……そうさ。 忍ちゃんの言うとおり、始めからこれが狙いだった」

忍野「騙したのは悪いと思ってるよ。 だから、その分のはさっき僕をボコボコにした事で、チャラって事にしといてくれ」

暦「お、忍野。 本当に、火憐ちゃんは生きているんだな?」

忍野「当たり前だよ。 君には妹ちゃんが、死んでいる様に見えるかい?」

その言葉を聞き、火憐の横に座り、様子を伺う。

……息もしているし、心臓も止まってはいない。

顔色も、とても悪い様には見えない。
665 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:23:54.47 ID:3uFUiPCu0
暦「……生きてる、火憐ちゃんは、生きてる」

暦「忍野! じゃあ、どういう事なんだよ。 説明、してくれるよな?」

忍野「はは、勿論」

そうして、忍野は説明を始める。

どこから僕を騙していたのか、僕をどうして囮にしたのか。
666 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:24:33.74 ID:3uFUiPCu0
忍野「まず、妹ちゃんは生きている。 これは事実だね」

忍野「そして、阿良々木くんを囮として利用したのも事実さ」

忍野「うーん。 どこから説明しようかな」

忍野「まずは、そうだね。 僕がいつ、忍ちゃんと話し合ったかは大体分かるよね?」

忍野と忍が、話すチャンス。

ああ、僕の背中越しで、話していたっけか。

この部屋に入って、忍野がここから先に行けば攻撃範囲だと教えてくれて、その時だ。
667 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:25:05.86 ID:3uFUiPCu0
忍野「その時に、忍ちゃんのブレードを借りたのさ。 他にも斬る方法はあったんだけど、これが一番確実だった」

暦「なるほど、それで忍野は心渡を持っていたって訳か」

暦「けど、忍野がやったって言うのは、要は四番目の選択だろ? でも、それが一番楽なんだったら、僕にやらせるべきだったんじゃないか?」

忍野「そりゃあ、もっともな意見だけどさ。 阿良々木くんは恐らく、反対したと思うんだよ」

忍野「そうなると、もう本当にどうしようもなかったからね。 その辺りは諦めてくれよ」

僕が反対する?
668 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:25:37.46 ID:3uFUiPCu0
暦「何故、反対するって思ったんだ?」

忍野「うん。 じゃあ次はそこの説明をしようか」

忍野「僕が言っていた妹ちゃんが死ぬって言うのは、例え話なんだよ」

暦「……例え話」

忍野「そ。 例え話」

忍野「妹ちゃんは実際に、本当に死ぬ訳じゃない」

忍野「死ぬのは、妹ちゃんの記憶。 だよ」

暦「記憶が、死ぬ……」

暦「それは、忍野。 自分が誰かとか、僕が誰かとか、そういう事を忘れるって事か?」
669 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:26:11.19 ID:3uFUiPCu0
忍野「そこまでじゃないさ。 忘れるのは、今回の怪異に関する記憶だけだ」

暦「それって……」

忍野「つまりは、自分が何をしたかとか、阿良々木くんの正体だとか。 そういった事を丸っきり忘れるって事だね」

忍野「まあ、簡単に言うならば、今回巻き込まれた大勢の人の様に、都合よく解釈される。 ゴールデンウィークの時の委員長ちゃんみたいに、忘れた事を忘れているって感じかな」

忍野「阿良々木くんはさ。 色々と思う事があって、妹ちゃんに自分の事を話したんだろ?」

忍野「それすらも忘れられるって言うのは、多分、僕の予想だと阿良々木くんは拒否すると思うんだけれど、どうかな」

忍野「それに、妹ちゃんが自分でした事も忘れるって言うのはね。 阿良々木くんは許可しなかったと思うんだ」
670 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:27:18.54 ID:3uFUiPCu0
そう、だろうか。

僕は、その案に賛成できたのだろうか。

ああ、そうだな。

暦「……だろうな。 忍野の言うとおりだよ。 僕は絶対に賛成しなかった筈だ」

忍野「それが聞けて良かった。 もし、賛成できたって言われたら、僕はとんだ馬鹿だったって事になっちゃうしね」

忍野「阿良々木くんと同じ扱いってのは、勘弁願いたいし」

暦「うっせ」

忍野「はは、元気良いね。 何か良い事でもあったのかい?」

忍野はそう言いながら、木が崩れ落ちた辺りにしゃがみ込み、何かを探している素振りを見せる。
671 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:27:50.09 ID:3uFUiPCu0
忍野「ま、そういう理由だよ。 妹ちゃんは今回の事は全部覚えていない。 けど、生きている」

忍野「後遺症なんてのも、無いだろうね」

火憐は、それで良かったのだろうか。

いや、良い訳無いか。 あいつは、絶対それを良しとはしない。

……多分。

断言なんて、できやしない。

僕はあいつの事、全然分かっていなかったのだから。

つうか、それだと、本当に元通りって事、なのか?

これって、あまりにも。
672 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:28:20.98 ID:3uFUiPCu0
暦「なあ、忍野。 一つ聞いてもいいか?」

未だにしゃがみ込む忍野の背中に向けて、僕は聞く。

忍野「うん。 良いよ」

暦「……あまりにも、一件落着って感じじゃないか? 元通り、振り出しに戻るなんて」

忍野「そうかい? 妹ちゃんには、罪の意識なんて無いんだよ。 それすらも、また罪なんだけれどさ」

忍野「この方法が本当に最善だったのかは分からない。 でも、少なくとも僕は、阿良々木くんが死んで、妹ちゃんが元通りになってって言う未来は、少し違うかなって思っただけさ」

忍野「んでも。 ま、そうだね。 妹ちゃんにとっては、一件落着だろうさ。 何も起きていないし、何も起こっていないんだから」

忍野「けど、阿良々木くんにとっては、違うだろ?」
673 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:28:51.84 ID:3uFUiPCu0
僕にとって。

暦「……それは、そうかもな。 僕も今回、大分、自分の馬鹿っぷりを認識させられたよ」

暦「でも、まあ。 やり直せるのなら、やってやるさ」

暦「ありがとう。 忍野」

自分で言うのもあれだが、僕は珍しくそう言い、忍野に頭を下げる。

忍野「はは、礼を言われる程の事でも無いさ。 阿良々木くんには、大変な役目をやらせてしまったしね」

忍野「それに、阿良々木くん」

忍野「子供が分かれ道の存在に気付けるように、導いてやるのは大人の仕事さ」

忍野はいつもの様に、ふざけた風に、そう僕に言ったのだった。
674 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:29:17.35 ID:3uFUiPCu0
そうしてその後、僕は火憐をおぶって、忍は僕の影に戻り、忍野は少しだけフラフラしながら(多分、僕が殴った所為だろう)いつもの部屋へと向かう。

忍野「そうだ、阿良々木くん」

前を歩く忍野が、僕の方に振り返り、口を開く。

暦「ん?」

忍野「お金の話なんだけど」

そんなのもあったな……つか、マジで払えるのかな。

だけれども、忍野は言う。
675 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:29:44.47 ID:3uFUiPCu0
忍野「今回のはチャラでいいよ」

暦「チャラ? 理由を教えてくれよ」

暦「さすがに、僕を騙したからとか、そういう理由じゃねえんだろ?」

忍野「それは殴られた分でチャラになってるからね。 そうじゃない」

忍野「請求する筈だった阿良々木くんの妹ちゃんが、覚えてないじゃないか」

忍野「なら、そんな子から毟り取ろうなんて事、僕は思わないよ」

忍野「ま、覚えてたら良かったんだけど。 仕方ないかな」
676 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:30:13.74 ID:3uFUiPCu0
暦「……そうかよ」

全く、こいつも本当に、お人好しだよな。

暦「僕に肩代わりとかはさせないのか」

忍野「はは。 阿良々木くんがそれで良いなら、いいけど」

忍野「僕が請求していたのは妹ちゃんだしね。 無しでいいよ、やっぱり」

忍野「その代わり、今度、阿良々木くんには何かご飯でも奢って貰えればいいかな」

忍野「それを手伝い料金って事にしよう」

暦「はは、お安い御用だ」
677 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:30:46.46 ID:3uFUiPCu0
迷惑掛けるよな、忍野にも。

こいつは最初っから、多分、請求する気なんて無かったのだろう。

結局、全て忍野の計算どおりだったって訳なのかもしれない。

まあ、でも。

火憐風に言わせて貰えれば、結果良ければ全て良しって事か。

暦「そういや忍野。 さっき僕と話している時、あの木が枯れていった辺りを探している様に見えたんだけど、何をしていたんだ?」

忍野「ん、ああ。 これだよ」

そう言い、忍野は僕に一つの透明な袋を見せる。
678 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:31:13.86 ID:3uFUiPCu0
暦「これは、粉?」

忍野「そ。 まあ、あの怪異の遺物って感じかな。 これはこれで、結構危険な物だからさ、僕の方で処分しておくよ」

忍野の柄もあり、なんだか危険な薬物を持っているおっさんみたいだな。 言わないが。

暦「危険……ねえ」

暦「それを吸うと、頭がおかしくなったりでもするのか」

忍野「まあ、ある意味ではそうかもしれない」

忍野「この粉は、正確に言えば粉っていうか、花粉なんだけれどさ」

忍野「ある一定の記憶を飛ばしたり、忘れた記憶を戻せるんだ」
679 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:31:40.49 ID:3uFUiPCu0
暦「忘れた記憶を……戻せる?」

暦「っつう事は、火憐ちゃんの記憶も戻せるって事か?」

忍野「うん。 その通り」

忍野「どうする? 阿良々木くん」

忍野「これを使えば、妹ちゃんの記憶は元通り。 阿良々木くんが、最初に望んだ結末になるけど」

つまり、三番目の選択を選んだのと、一緒。
680 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:32:35.35 ID:3uFUiPCu0
暦「……いや、いいよ。 それは忍野が処分してくれ」

忍野「そうかい。 やっぱり、阿良々木くんは変わらないね」

暦「それは、良い意味で? 悪い意味で?」

忍野「両方、って所かな」

暦「……そうか」

忍野「まあさ。 記憶が戻るってのは嘘だよ。 試す様な真似をしてごめんね」

暦「大体分かっていたさ。 記憶をどうこう出来る都合の良い物なんて、そうある訳無いしな」

暦「それに、それが出来るなら最初にそれを説明して、僕と一緒に、四番目の選択を協力してやる事だって出来ただろ?」
681 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:33:02.51 ID:3uFUiPCu0
忍野「確かに、阿良々木くんの言うとおりだ」

忍野の表情は見えないが、多分、笑っているのだろう。

暦「にしても、後味が良すぎて、逆に気持ち悪いな」

忍野「ん。 ああ、そう思うのも無理は無いよ」

忍野「一番最初に言わなかったっけ?」

忍野「今回の怪異は、性質が悪いってさ」

忍野は笑い、僕に言う。

なるほど、確かにこれは、随分と性質の悪い怪異だ。
682 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:33:45.49 ID:3uFUiPCu0
回想終わり。

暦「そうか。 火憐ちゃんは、忘れているのか」

忍野「うん。 まあでも、大好きな兄ちゃんの事は覚えているし、良いんじゃない?」

大好きとか言うなよ。 確かにあいつは言ってたけどな。

忍野「それより、早く帰った方が良いと僕は思うな」

暦「ん? 今日は泊まりだと思っていたんだけど」
683 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:34:19.90 ID:3uFUiPCu0
忍野「おいおい、妹ちゃんが目を覚ましたら、なんて説明するのさ」

忍野「大好きな兄ちゃんと、アロハのおっさんと、幼女だぜ?」

……いやはや、至極もっともその通りである。

暦「分かった。 というか、今の僕と火憐ちゃんってどういう扱いになっているんだ?」

暦「まさか、急に消えて行方不明って事にはなってないよな」

暦「本人も、周りからの言葉で思い出したりってのも、あるんじゃないのか?」
684 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:35:19.99 ID:3uFUiPCu0
忍野「うーん。 そうだね」

忍野「多分、実際にありそうな感じになっていると思うよ」

忍野「この場合だと……」

忍野「大方、その妹ちゃんが家出をして、それを阿良々木くんが探しに行ってるって感じじゃないかな」

はは、すげえありえそうなシチュエーションだな、それ。

暦「まあ、今の状態も似たような物だけどな」

忍野「そうかい」

忍野「ま、とにかく。 これにて終わり。 お疲れ様、阿良々木くん」
685 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:36:04.37 ID:3uFUiPCu0
暦「ああ。 色々と迷惑掛けたな」

暦「……なあ、忍野。 また、会えるか?」

忍野「多分会えるだろうさ。 阿良々木くんには高級寿司を奢って貰う約束もあるし」

寿司? おい、寿司っつったか、今。 てっきりそこら辺のラーメン位の物かと思ったけど、寿司かよ。

暦「はは、そうだった。 じゃあ、またな」

忍野は僕の言葉に、軽く手をあげると、机を並べたベッドに横たわった。
686 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/21(日) 22:36:45.27 ID:3uFUiPCu0
さて、そろそろ帰ろうか。

長い家出も、ようやく終わりを迎えられる。

僕は火憐をおぶり、火憐が持ってきた荷物は一旦廃墟に置いて、家路へと就く。

三日間の物語も、終着点は見えてきたと言った所だろう。

にしても、火憐の奴、幸せそうに寝てやがるなぁ。

忍野では無いが、何か良い事でもあったのかい? と聞いてやりたいな。

いや、良い事なんてのは、きっと無い。

あったのは多分、いつも通りの事だけだ。



第十九話へ 続く
694 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:33:48.77 ID:NdawjWEZ0
つうか、こいつやっぱり重いだろ。

普段なら、自転車で来ていた距離なので、特に遠い等とは思わなかったのだけれど。

今は徒歩であるし。 それに火憐をおぶった状態だ。

先程まで死にかけていたってのもあり、かなり辛い。 実際。

家に着く前に、僕は倒れるのでは無いだろうか。
695 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:35:28.50 ID:NdawjWEZ0
あ。

そうだ、火憐は確か、あれを持っている筈だ。

僕が奪われた、例のアレ。

つまりは。

お金が沢山入った、財布。

よしよし、そうと決まれば、早速。
696 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:36:03.15 ID:NdawjWEZ0
さっきまでの重かった感じはいつの間にか無くなっていて、偶然にも近くにあったベンチに早足で移動をすると、僕は火憐をそのベンチの上へと寝かせる。

いや、別に悪い事をするって訳じゃないぜ? だってほら、元々僕が持ってきた物だし。

それを火憐に取り上げられた形なのだから、元の持ち主である僕が奪い返すのは当然の権利だろう。

そのお金が、元々何のお金なのかってのは置いといてだ。

色々買ったけれども、まだ八万くらいは残っている筈。

八万あれば……それはもう、色々と大変だ。

何がどう大変かは置いておいて、とりあえず、大変だ。
697 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:36:34.59 ID:NdawjWEZ0
ああ、そうだ。 忍野に奢らされる寿司とやらも、そこから捻出しよう。

なんだ、本当に後味が良い結末である。 やったね。

と、考え、火憐の着ているジャージを弄る。

傍から見れば変態だが、別にやましい事をする訳では無いので、心配はいらない。

弄る事、約五分。

暦「お、あったあった」

無事、発見。
698 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:37:02.26 ID:NdawjWEZ0
だけども。

火憐「……ん」

どうやら、地獄の番犬を起こしてしまった様である。

暦「お、おう。 火憐ちゃん、おはよう」

火憐「……兄ちゃんか? 何してんだ」

暦「ん? 何って、何も?」

火憐「……うーん。 なんか、兄ちゃんから変な気配を感じるぜ」
699 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:37:50.50 ID:NdawjWEZ0
暦「いやいや、それは気のせいだよ火憐ちゃん」

火憐「そうか? あたしの感知能力、結構当たるんだけどな」

怖い妹だ。 嘘発見器かよ。

暦「ははは。 じゃあ、試してみようぜ。 火憐ちゃん」

火憐「試す? あたしの能力をって事か?」

暦「おう。 僕が今から、嘘か本当か、どっちかの事を言う。 それをどっちか当ててくれ」

火憐「つまりは、勝負って訳だな。 いいぜ、受けて立つ!」
700 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:38:35.21 ID:NdawjWEZ0
暦「じゃあいくぜ」

暦「その壱。 阿良々木暦は、阿良々木火憐の事が超好きである」

火憐「本当だな」

暦「その弐。 阿良々木暦は、阿良々木火憐がいないと生きて行けない」

火憐「それも本当だ」

暦「その参。 阿良々木暦は、阿良々木火憐に恋をしている」

火憐「ちょっと困るけど、本当だな」

お前、その能力不良品じゃねえか。
701 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:39:03.82 ID:NdawjWEZ0
暦「残念だったな、火憐ちゃん。 外れだぜ」

火憐「ああん? 今の言葉の中に、嘘が混じってたって言うのかよ」

例の如く、凄む火憐。

暦「いや、そうでもあり、そうでも無いって言った感じだ」

なんか適当な事を言って誤魔化す僕であった。

ちなみに、特に含まれた意味は無い。
702 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:41:30.92 ID:NdawjWEZ0
火憐「ふうん。 そっか。 ま、良いんだけどさ」

良いのかよ、なら凄まないでくれよ。

まあ。

その参以外は、強ち嘘でも無いんだけれども。

そう考えると、火憐の感知能力とやらも、意外と当てになるのかもしれない。
703 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:42:06.31 ID:NdawjWEZ0
火憐「てか、なんであたし、こんな所に居るんだよ」

独り呟く様に火憐は言い、次いで僕の顔を見て、ハッとする。

火憐「兄ちゃん……さては、あたしを拉致しやがったな!」

暦「ちげえよ! する訳ねえだろ!」

火憐「あっはっは。 冗談冗談。 あたしが家出してるのを迎えに来てくれたんだよな」

うわ。

恐ろしい事に、忍野の予想通りって事か。

確かに、一番ありそうなパターンだったが。
705 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:43:09.49 ID:NdawjWEZ0
暦「……ま、そんな感じだよ」

火憐「わりいな、兄ちゃん」

暦「いいさ。 火憐ちゃんが困ってる時は、駆けつけるぜ」

火憐「おう。 あたしも、兄ちゃんが困ってる時ならどこへだって駆けつけてやるよ」

暦「はは。 その時は宜しく頼む」

火憐「頼まれたぜ!」

そうして、僕と火憐は並んで歩く。

もう一人の妹が待つ、家に向けて。

ああ、そうそう。 財布の方は、火憐に回収された。 くそ。
706 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:43:38.31 ID:NdawjWEZ0
火憐「しかしよー、兄ちゃん」

暦「んー?」

火憐「こうして、ただ歩くだけってのもつまらなくねえか?」

うお。 すげえ、全く同じ事を言ってやがる。

暦「そうか? なんなら面白い話でもしてくれよ」

火憐「面白い話ねぇ……うーん。 なんかあったかなぁ」

火憐の面白い話にはあまり期待できないけれど、まあ、暇潰しくらいにはなるだろう。
707 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:44:10.19 ID:NdawjWEZ0
火憐「そうだ。 月火ちゃんの話でもするか」

暦「月火ちゃんの? 意外と期待できそうだな」

火憐「にっしっし。 月火ちゃんの事なら何でも知ってるぜー」

自信満々に言う火憐。 いつも一緒だからなのか、確かに月火に的を絞れば、何でも知っていそうだな。

暦「ほう。 それで、面白い話ってのは?」

火憐「そうだな、あたしが印象に残っているのはこの話かな」

火憐「あれは、確か兄ちゃんが自分探しの旅をしに行ってた時の話だな」

春休みの話か。 何か変なあだ名で呼ばれていたのを思い出す。
708 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:44:37.65 ID:NdawjWEZ0
暦「お前ら、大爆笑だったけどな」

火憐「あー。 まあ、あたしはそうだったかな」

暦「月火ちゃんも、だろ?」

火憐「いやいや、実はそうじゃねえんだよ」

火憐「まあ、確かに最後は笑ってたけどさ」

火憐「そうじゃねえんだよ。 月火ちゃんには絶対に言うなって言われてるんだけどさぁ」
709 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:45:03.69 ID:NdawjWEZ0
マジかよ。 それ言っちゃっていいの?

火憐「兄ちゃんさ、あの時、二週間くらい帰って来なかったじゃん?」

暦「まあ、そうだな。 自分を探しまくってたからな」

火憐「探しまくってたのかよ。 さすがだぜ」

最早、何がどうさすがなのか、僕には分からない。

火憐「んでさ。 パパもママも「どうせすぐ帰ってくるっしょー」みたいな感じだったんだけど、勿論、あたしも」

暦「そこまで心配されて無いと、僕も少し悲しくなってくる」
710 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:45:30.31 ID:NdawjWEZ0
火憐「まあまあ。 それだけ信頼されてるって事じゃねえの?」

そうだろうか? 僕としては、逆の可能性の方が高いと思うんだけれど。

火憐「んで、皆そんな感じかと思いきや、月火ちゃんは違ったのさ」

暦「ほお? どんな風に?」

火憐「えーっと。 まあ、簡単にずばっと言うならば、泣いてた」

泣いてたの!? マジで!?
711 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:50:28.99 ID:NdawjWEZ0
暦「え、何それ。 詳しく聞きたい」

火憐「さすがのあたしも困ったぜ。 「ねえ、火憐ちゃん。 お兄ちゃんを探しに行こう」って毎日言ってくるんだもん」

火憐「んで、あたしが断るとさ。 すっげー悲しそうな顔をして「そう、じゃあ一人で行って来るね」って」

暦「うわ、見たい見たい。 めっちゃそれ見たいぞ、火憐ちゃん」

火憐「ちなみに、夜の十時くらいの話だ」

暦「ちょっと怖くなってきた」
712 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:51:40.09 ID:NdawjWEZ0
火憐「ま、さすがにそんな時間に一人で行かせる訳には行かないよな」

暦「そりゃあな……火憐ちゃんが引き止めないと、月火ちゃんも止まらないだろうし」

火憐「いや、引き止めはしなかった。 仕方ねーから、一緒に探したんだぜ」

暦「そこは引き止めろよ! 何流されてるんだよ!」

マジでか。

てか、見つかってなくて良かったよ、それなら。
713 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:52:47.25 ID:NdawjWEZ0
暦「は、ははは。 今度から、行き先はちゃんと伝える様にしておくよ」

火憐「だな。 つうかその内、月火ちゃんに刺されそうだよなぁ。 兄ちゃん」

暦「こええって。 火憐ちゃん、その時は助けてくれよ」

火憐「おう。 任せろ任せろ」

かっけー。 頼れる妹だな。
714 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:53:30.52 ID:NdawjWEZ0
暦「予想以上に面白かったな。 他にはなんか、無いの?」

火憐「うーん。 無くも無いけど、そんな面白い話じゃねえよ?」

暦「へえ。 例えば、どんな話だよ」

火憐「同じ春休みの話だけど、毎日月火ちゃんと一緒に兄ちゃんのベッドで寝てたくらいだぜ」

暦「何してんの!? 僕が知らない間にお前ら何してんの!?」

火憐「いやー。 落ち着くんだよ、兄ちゃんのベッド」

暦「僕は今の話を聞いて、心中穏やかじゃねえからな!」
715 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:53:58.55 ID:NdawjWEZ0
何やってるんだよ、この姉妹は。

くそ、なんか負けた気分になるし、今度ベッドに潜り込んでやろうかな。

火憐「まあ、あたしのベッドに入り込んできたら、フルボッコだけどな」

感知能力恐ろしや。 思考すらも読むとか。

それに、火憐が言うと冗談に聞こえないんだけれど。 てか、フルボッコって。
716 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:54:26.37 ID:NdawjWEZ0
暦「僕が居ないと好き勝手だな、お前ら……」

火憐「んー? そうかな?」

暦「話を聞く限りじゃ、そうとしか思えねえよ」

火憐「まー。 あれだよ、あれ」

火憐「月火ちゃんは兄ちゃん大好きだからな。 仕方ねえっちゃ仕方ねえんだよ」
717 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:55:04.54 ID:NdawjWEZ0
暦「月火ちゃんがねぇ……僕はそうは思わないけどな。 まあ、でも。 火憐ちゃんが言うなら、そうなんだろうけどさ」

火憐「へえ? あたしの言う事を真に受けるって、珍しいな」

暦「たまにはって奴だよ。 少なくとも」

暦「……僕は、火憐ちゃんや月火ちゃんの事、全然分からないし」

本当に、何も。

火憐「なーに言ってるんだよ。 いっつも知った様な事ばっか言ってるじゃん」
718 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 13:55:37.07 ID:NdawjWEZ0
暦「僕にも色々と考えさせられる事があるんだよ」

火憐「ふうん?」

暦「僕がさ、火憐ちゃんや月火ちゃんの事を知っている以上に」

暦「火憐ちゃんや月火ちゃんは、僕の事を知っているんじゃねえのかな」

火憐「うーん。 あたしはそうは思わないけどなぁ」

火憐が僕に答えたのは、言い終わるのとほぼ同時。 即答だった。
719 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:09:05.13 ID:NdawjWEZ0
火憐「だってさ、兄ちゃん。 あたしだって、兄ちゃんの事をそんな知ってるって程でもねえよ」

火憐「勿論、月火ちゃんだってそうだろうしさ」

火憐「つうか、人の事が完璧に分かる人間なんて、居ないんじゃねえの?」

暦「でも、兄妹だぜ。 僕は、知らなさ過ぎるんじゃねえかなって思うんだ」

火憐「だから、それが当たり前なんじゃねえの? あたしはいっつもだけどさ」

火憐「兄ちゃんや月火ちゃんの事を知っている振りをしてるんだよ」
720 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:11:03.11 ID:NdawjWEZ0
暦「知っている振り?」

火憐「そう。 振りだ」

火憐「んでさ、大体その知っている振りってのは、知っているに変わるんだぜ」

知っているに、変わる。

火憐「月火ちゃんなら、こう返されるのを期待しているだろ、とか。 兄ちゃんなら、こういうやり取りを期待しているんだな、とかさ」

火憐「まあ、さすがにそこまで計算してやっている訳じゃねえよ? ただ」

火憐「なんだろーな。 自然と、そうなるって言うのかな」
721 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:14:03.57 ID:NdawjWEZ0
暦「自然と、ねえ」

火憐「兄ちゃんだってそうだろ? あたしに色々言う時だって、月火ちゃんとやり取りする時だってさ」

そうなのだろうか。 僕は、火憐や月火の事を知っている振りをしていて、その振りは大体が知っているに、変わっているのだろうか。

暦「……僕は、そんなんじゃねえよ」

火憐「はあ。 ったくよー。 物分りの悪い兄ちゃんだな」

火憐「なんかあったのか?」

暦「あったと言えば、あったかな」
722 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:15:57.13 ID:NdawjWEZ0
火憐「ふうん。 ま、別に良いけどさ」

火憐「兄ちゃんは兄ちゃんだろ。 別に兄ちゃんがあたしと月火ちゃんの事を分かっていないからって、それが何か問題でもあるのか?」

火憐「あたしはそんなの気にしないし、月火ちゃんだってそうだよ」

火憐「兄ちゃんはいつもと一緒だよ」

火憐「妹を押し倒したり、おっぱい揉んだり、キスしたり。 それが兄ちゃんだろ」

改めて聞くと思うけれど、僕って結構やばいキャラなのかな。
723 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:18:19.81 ID:NdawjWEZ0
暦「もっと他にもあるだろ! 勉強を見てくれるとか、くだらない話に付き合ってくれるとか、一緒に遊んでくれるとかさ!」

火憐「んー? んな事、あったっけ?」

まあ、無いんだけどな。

暦「つうか、そうだな」

暦「分かったからって、何かが起きるって訳でも、ねえんだよな」

暦「サンキューな、火憐ちゃん」

まさか、火憐に説教されるとは思わなかったけれど。

火憐が言いたい事は、僕にしっかりと伝わった。
724 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:19:03.21 ID:NdawjWEZ0
火憐「気にするなよ。 あたしも実は、兄ちゃん大好きっ子なんだぜ」

暦「知ってるよ。 それくらいは、知ってる」

火憐「にっしっし。 さすがだぜ、兄ちゃん。 一応聞いておくけど、兄ちゃんもあたしの事、大好きだろ?」

暦「んな訳ねーだろ」

火憐はその言葉を予想していた。 そんな顔。

だから、僕は言ってやる。

暦「火憐ちゃんの事は、超大好きだぜ」
725 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:20:58.39 ID:NdawjWEZ0
さて、そんな暇潰しの話をしていたら、どうやら家の前まで着いた様である。

短かった様な、長かった様な、そんな家出もこれにて終わり。

僕と火憐は家の扉を開ける。

「ただいま」

と、声を揃えて。

元気良く。

その声に反応して、二階からドタドタと階段を駆け下りる音がした。
726 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:21:57.60 ID:NdawjWEZ0
さて、ここからまた一勝負か。

月火との勝負は、今までで一番辛い戦いになりそうである。

まあ。

僕はそれが、嬉しくもあるんだけれど。


第十九話 終
728 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:23:56.55 ID:NdawjWEZ0
後日談というか、今回のオチ。

「兄ちゃん、朝だぞこら!」

「いい加減起きないと駄目だよー!」

翌日、もう懐かしくも感じていた二人の妹達による目覚まし。

久し振りに聞くそれは、やはり朝には少し辛い物がある。

けれど、このやり取りすら、幸せの内の一つなのかもしれない。
729 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:24:27.45 ID:NdawjWEZ0
今まで当然の様にあった事が、ある日突然無くなる事によって、気付いたとでも言える様に。

僕の当然は勿論、この火憐と月火による目覚ましと言う事になるのだろう。

そんな当然も、やがて無くなる日はやってくる。 無限では無く、有限なのだから。

例えば、僕が高校を卒業したらどうだろう?

僕は家を出て行くつもりだし、まさか僕の新しい住居にまでこの妹達も押し掛けては来ない。

いや、でも電話くらいはしてくるのだろうか? あり得るな。
730 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:24:55.10 ID:NdawjWEZ0
けど、例えば……僕がおっさんになったらどうだろう?

僕がおっさんと言う事は、つまりはあの今はまだ中学生の二人の妹も、それはもう大分良い年齢になっている訳だし。

それでも朝に「兄ちゃん、朝だぞこら!」「いい加減起きないと駄目だよー!」とやられたら、正直引く。

引くと言うか、怖い。 恐ろしい。 無いよな、さすがに。
731 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:25:25.09 ID:NdawjWEZ0
まあ。

とにかく今は、この有限の目覚ましに感謝しよう、と。

僕も素直では無いので、改めてお礼なんてのは言えないけれど、心の中でくらい感謝しておこう。

ありがとう、火憐と月火。

それじゃあ、お礼も言った事だし寝るとするか。 おやすみ。

そんな良い事を思いながら二度寝をしようとした所、火憐の暴力により叩き起こされた。 冷静に考えて、理不尽じゃないか? この暴力女め。
732 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:25:55.52 ID:NdawjWEZ0
その後、話を聞くと火憐はやはり、家出との扱いになっていた。

無論、火憐の方もそういう風に認識をしていた様である。

そして僕はというと、そんな火憐が心配で心配で家を飛び出した。 との事だ。

まあ、間違ってはいないので反論はできなかったが、それについては議論をしたいと言った感じである。

そして、本当に、何事も無く、丸く収まった……と言えればいいのだけれど。

生憎、人生そう上手くは行かない物である。
733 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:26:28.29 ID:NdawjWEZ0
具体的に言うと、僕が生活費を持って行ったのがばれたのだ。 これはすっかりと僕の頭から抜け落ちていた事柄である。 ばれなかったという方が、難しいのかもしれないけれど。

その後、僕と火憐はそれはもうこっ酷く叱られ、一年間のお小遣い半分という制裁を食らう嵌めになる。

僕が生活費を持って行ったのだから、火憐が怒られるのは理不尽かもしれないけれど、連帯責任らしい。

そうそう、連帯責任。

この時僕は「はは、火憐も巻き込まれてやんの」くらいに思っていたのだが、どうやらその連帯責任の範囲は広いらしい。

この制裁に月火も巻き込まれたのだ。

そう、連帯責任。 マジかよ。
734 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:26:59.06 ID:NdawjWEZ0
月火は当然、怒り狂って僕と火憐をノコギリを持って追い回した。 僕は春休み以来に死を覚悟した。

というか、一番被害にあっているのは火憐なのだろう。 僕が勝手に持ち出したお金で制裁を食らい、挙句の果てに月火に追い回されるとは。

その後、年上の二人が揃って年下の妹に長時間の土下座をする事で、なんとか許しを得れたのは幸いである。

ちなみに、火憐が持っていた残金の八万円程だが、両親はそれを受け取る事はせず、三人で使え。 と言ってくれた。 優しいのか厳しいのかどっちだよ。

まあ、結果的に一年間もお小遣いが半額なので、損なのだけれども。
735 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:27:32.76 ID:NdawjWEZ0
そしてここが一番重要。 その八万円の行方なのだが、どうやら月火の私物に使われる様である。

僕と火憐は勿論、それには反論できず(とは言っても、火憐の場合はかなり仲が良いので、ある程度は優遇してもらえるのだろう)月火がお札を団扇にして仰いでいるのを眺めている事しかできなかった。

火憐は何かの可能性を見出したらしく「月火ちゃん、そのお札であたしを叩いてくれ」とか言っていたが。

……いや、ただの馬鹿か。

そして、僕が「あの、月火さん。 千円札でも良いので、一枚恵んでくれないでしょうか」と言ってみた所「何? 泥棒のお兄ちゃん。 え? まさか今、お金が欲しいって言ったの? 泥棒なんだから盗めばいいじゃん。 あははは」と、笑わずに言われた。

まあ、これもまた、仕方の無い事なのだろう。
736 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:28:20.83 ID:NdawjWEZ0
それに、月火の奴は金を持ったら駄目な奴だったらしく、何かある事に僕と火憐にお土産を買ってきてくれる。 これは素直にありがたい。

その度に、僕と火憐は「おお、月火様がお帰りになられたぞ。 お疲れ様です月火様」なんてご機嫌伺いを行うのだ。

そんなこんなで、その後、数日の間は月火を崇拝する僕と火憐であった。

ああ、そうだ。 これも明記しておこう。

しばらくの間、月火は火憐の事を「家で火憐ちゃん」と呼んでいて(なんでも、家出の『で』が平仮名なのがミソらしい。 なんのミソかは全く不明だが)僕の事は「泥棒のお兄ちゃん」もしくは「ゴミ」とのあだ名が付けられた。

前者の方は、確かにその通りなので僕も何も言えないのだけれど、後者のは既に悪口でしかない辺り、文句は言いたい。 言いたいってだけで、言ったら更に下位のあだ名が付けられそうなので、決して言わないけれど。
737 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:30:44.51 ID:NdawjWEZ0
さて、そろそろ纏めるとしようか。

結局、今回の事を覚えているのは、僕と忍、それに忍野だけだ。

それが良かったのか、悪かったのかは分からないけれど、思う所があるのは事実である。

なにはともあれ。

この数日間、物凄く疲れた。

今は自分の部屋のベッドに横たわり、何も無い天井をただ見つめているだけだ。
738 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:32:54.95 ID:NdawjWEZ0
火憐と月火に僕の事を話そうかは悩んだのだけれど、一旦時間を置く事にした。

勿論、このまま嘘を付き続けるつもりなんて、無い。 あいつらにはもう、嘘を付きたくは無い。

今は僕もここ最近の出来事で疲れているし、うまく説明できるのかさえ、分からないし。

その為の、保留である。

言い訳なのかもしれないけれど、話すからにはしっかりと説明したいのだ。
739 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:33:21.43 ID:NdawjWEZ0
そして、火憐の身に起こった事については、黙っておく事にした。

今回の物語は、僕が覚えていればそれでいい。

僕の事を想い、傷付いた火憐。

それに対する、せめてもの罪滅ぼし。

勿論、月火の事もそうだけれど、何かのきっかけで気付く事があれば、その時には話さなければならないのだろうけど。

その日が来る事は、望ましくは無い、かな。
741 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:34:15.93 ID:NdawjWEZ0
さて、そんな事を考えている間に大分良い時間になってきた。

そろそろ寝るとしよう。

と、思った時。

コンコン、と部屋の扉がノックされる。

誰だよ。 火憐なら扉なんて蹴破るし、月火ならまず、ノックなんてしないだろう。

だとすると、両親のどちらかだろうか?
742 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:35:00.09 ID:NdawjWEZ0
暦「んー」

と、返事をする。 返事と言うか、呻き声みたいになっていたが。

その声が聞こえた様で、扉はゆっくりと開かれていった。

火憐「よう」

あれあれ。 こいつ、ノックしたよな、今。 人間の様な行動が出来る奴だったのか!
743 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:35:27.84 ID:NdawjWEZ0
暦「火憐ちゃんか。 つうか、お前何か悪い病気にでも掛かったか?」

火憐「あ? 何でだよ」

暦「いや、だってさ。 ドアをノックするなんて、火憐ちゃんじゃないじゃん」

火憐「あたしだって、普通にノックくらいするよ」

さて、まあ驚いたのだけれど、用件は何だろうか。
744 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:36:58.47 ID:NdawjWEZ0
火憐「なあ、兄ちゃん」

暦「んー?」

火憐「あたし、今から変な事言うけど、笑うんじゃねえぞ」

暦「何だよ火憐ちゃん。 僕が火憐ちゃんの事を馬鹿にした事が、今まであったか?」

多分、一日一回は馬鹿にしているだろうけど。

火憐「なんかさ、夢で見たっつうか。 良く覚えてねーんだけどさ」

火憐「兄ちゃんと、一緒に寝るって約束をした気がするんだよ」
745 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:37:27.30 ID:NdawjWEZ0
そんな約束も、したっけな。

覚えている筈の僕が忘れていて、忘れている筈の火憐が覚えているとは、とんだ面白話である。

暦「……そっか」

火憐「やっぱ、あたしちょっとおかしいな。 疲れてんのかな」

独り言の様に呟き、火憐は扉を閉めようとする。

そんな火憐に、僕は。
746 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:37:57.17 ID:NdawjWEZ0
暦「火憐ちゃん」

火憐「ん?」

いつもの顔。 いつもの雰囲気。 いつもの感じ。 いつも通りの僕で、いつも通りの火憐に、いつも通り、笑いながら言ってやる。

暦「いいぜ、引き受けてやるよ」



かれんリーフ 終了
747 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/22(月) 14:39:52.17 ID:NdawjWEZ0
以上で前編、終わりとなります。

沢山の乙ありがとうございました。

スレ自体は一週間ほど残し、HTML依頼します。

後編の投下日程が決まりましたら、こちらのスレにてお知らせします。

それでは、ありがとうございました。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/22(月) 15:04:31.98 ID:CuNi58cyo
おおおお
乙乙
良かったよ
綺麗にまとまって、次作が楽しみだ。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/22(月) 17:46:04.16 ID:yh05uF5Io
乙ー

投下速度も速いし、おもしろしで言うこと無しだった!
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/22(月) 20:13:38.26 ID:OXwX2T7M0
後編期待。

754 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 09:00:22.96 ID:POrMouLH0
ふと思い付いた短編あるので、ちょっと書きます

お昼過ぎくらいまでには、投下致します
759 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:45:44.30 ID:0GT2MdEX0
短編できました。

投下します。
760 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:46:24.32 ID:0GT2MdEX0
時系列的には、これから書く後編の先のお話になります。
と言っても、後編のネタバレ的な話ではありません。
761 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:46:54.40 ID:0GT2MdEX0
そろそろ一年の終わりも近づいてきた。

十一月に入ってから、もう一週間、二週間程は過ぎただろうか。

そんなある日。

休みの日。

日曜日。

こんな風に、何か思う時は必ず、厄介な事が起きるのだ。
762 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:47:27.67 ID:0GT2MdEX0
そう、厄介な事。

いや、厄介な事は既に起きてしまっているので、先程の様に思っただけなのかもしれない。

つまり。

具体的に言うと、今年の八月のあの時と同様、妹達はまたしても僕の事を起こしに来なかったのだ。

暦「……なんかありそうだな」

真っ先に思い出すのは、今年の八月にあった事。
763 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:48:18.76 ID:0GT2MdEX0
同じ失敗を繰り返したくは無い。

今年の八月は火憐や月火の件で大分、それらは学んだ筈だ。

かと言って、怪異の所為だと決めて掛かる訳にも行かない……よな。

どうするか。 僕が取るべき行動は?

考えても仕方ないな。 まずは何かしらのアクションを起こすとしよう。

そうと決まれば、とりあえずは二人に事情聴取だ。
764 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:48:53.06 ID:0GT2MdEX0
今の時刻は朝の八時。

もう二人は起きている筈なので、僕はのそのそと部屋から這い出て、階下へと向かう。

暦「おーい、百合姉妹居るかー」

しーん。 と聞こえそうな程の静けさ。

うーん。

返答無し、ね。

さぁ、いよいよ面倒な事になりそうである。

てか、どうでもいいけれどさすがに朝は寒いな。 もうちょっと厚着でもするべきだったか。

と、恐らくは暖房がかかっているであろうリビングへと足を向けた所に、でっかい方の妹、阿良々木火憐が目の前に現れた。
765 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:50:01.09 ID:0GT2MdEX0
火憐「ふん。 兄ちゃんか」

視線を向けると、火憐は仁王立ちに腕組み。 待ち構えてたと言わんばかりの姿勢だ。

暦「いやいや、何で朝から喧嘩腰なんだよ。 てか、起こしに来いよ」

起こしに来い。 とは随分偉そうではあるけれど、火憐の場合はこれでいい。

こいつはこう言えば「ごめん兄ちゃん、次から気を付けるぜ」とか言うのだから。
766 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:50:27.18 ID:0GT2MdEX0
しかし。

火憐「嫌だね。 あたしは兄ちゃんを起こす道具じゃねえんだ」

お?

おおお?

ええええええええ?

今、え?
767 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:51:04.58 ID:0GT2MdEX0
暦「え、えっと。 火憐ちゃん?」

火憐「ふん」

あれ、なんかこれ、マジで怒ってない?

暦「あー。 ええ、火憐……さん?」

火憐「わりいが、兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんはもう起こしには行かない。 今日から兄ちゃんとは敵だ!」

阿良々木火憐、十五歳。 中学三年生の十一月のある日。 ぐれた。
768 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:53:17.35 ID:0GT2MdEX0
マジかよ。

お前、何今更ぐれてるんだよ。

暦「……僕、何かしたっけかな」

独り言の様に呟く。 いや、実際独り言なのだけれど、火憐から何かしらの反応を期待していたのもある。

火憐「じゃあな」

しかし火憐はそれだけを言い、自分の部屋へと向かって行ってしまった。

なんだよこれ!
769 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:53:54.87 ID:0GT2MdEX0
とりあえず、落ち着け僕。

まずは……これが例のアレなのかどうか、確認だ。

一応、火憐の逆鱗に触れないように忍び足でトイレへと向かい、電気を消す。

暦「……おい、忍、起きてるか?」

声を掛けると同時、忍から返答。

忍「朝から騒々しいのう……儂はこれから寝る所なんじゃが」

恐らくは僕の動揺の所為で寝れなかったのだろう。 まあ、無理もない。
770 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:55:00.69 ID:0GT2MdEX0
暦「緊急事態なんだよ、聞いてくれ」

暦「……今、今っつうっか、今日か」

暦「火憐ちゃんの様子がおかしいんだけど、これって……あれって事か?」

僕が言うあれとは、つまりは怪異。

すぐに怪異に繋げるのもどうかと思うけれど、僕の火憐があんな風になるなんて……何かがあったとしか思えない。

忍「たわけ。 別に何も起きとらんよ。 本来はこうして、教えるのもどうかと思うんじゃが」

忍「生憎、儂は眠いのじゃ。 今回のは怪異では無い、以上じゃよ。 それじゃあ儂は寝る」

と忍は言い捨てた。 呆れた声で。
771 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:55:41.38 ID:0GT2MdEX0
怪異じゃない……のか。

なら、火憐は何であんなぐれちゃったんだよ!

その後、忍に助けを求めようとしたが、それ以降影の中から返事が返ってくる事は無かった。

くっそ、どうするかな。

ああ、そうだ!

暦「月火ちゃんなら、何か知っているかもな」
772 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:56:24.11 ID:0GT2MdEX0
ファイヤーシスターズの参謀担当。 それに火憐と仲がかなり良い月火に聞けば、何かしらは分かるだろう。

この家の中で火憐の事を一番知っているのは、間違いなくあいつだ。

との結論を出し、僕はトイレから出ると(一応、忍び足で)そのままの足でリビングへと向かった。

二階にある僕の部屋から出る時に、火憐と月火の部屋からは人の気配を感じなかったので、恐らくあいつはリビングに居るだろう。

そしてリビングへ到着。 所要時間、約三十秒。
773 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:56:54.70 ID:0GT2MdEX0
暦「おーい。 月火ちゃん」

ソファーにいつもの様にだらしなく寝そべる月火を見つけ、声を掛ける。

月火は一度、僕の方に顔を向け……向けて。

『本当に心底嫌そうな顔をして、顔を逸らした』

うわー。

うわあー。

暦「あ、ええっと。 月火ちゃん?」
774 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 13:57:27.84 ID:0GT2MdEX0
と、僕が月火の前に回りこみ、顔を覗き込みながら話し掛けると、月火はソファーから立ち上がり。

月火「……ちっ」

舌打ちをして、リビングから出て行った。

暦「……」

大変だ。

大変だ!!!!!!!

いやいや、大変すぎる。

なんて事だ。 これは、どうやら、あれだ。 あれ。

僕の妹達が『ぐれた』。
775 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:00:20.24 ID:0GT2MdEX0
えーえーえー。

マジで!?

あのいっつも兄ちゃん兄ちゃん言ってる火憐が!?

お兄ちゃん、妹のおっぱい触り過ぎって言ってる月火が!?

暦「うわああああああああああああ!!」

意味も無く叫んでみたのだけれど、それに突っ込みを入れる妹達も、そこには居なかった。
776 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:02:42.19 ID:0GT2MdEX0
時間経過。

僕は現在外出中である。

あのぐれた妹達とは、とてもじゃないが居辛いので。

ううむ。

なんとか元に戻ってもらいたい物である。

とりあえずは、今年の母の日に避難してきた公園に居るのだけれど、これからどうすっかなぁ。
777 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:04:46.37 ID:0GT2MdEX0
つうか、火憐ちゃんはすげー分かりやすく怒ってたけど、月火ちゃんの切れ方怖すぎるだろ。

マジさ、あんな可愛い見た目なのに、あの舌打ちとか本当にびびるぜ。

それには多分、何か原因があるのだろうけれど。

しかし、こんな急にぐれる事ってあるのだろうか?

ましてや、あの二人だぜ。

兄大好きの、あの姉妹がぐれるなんて……
778 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:06:40.31 ID:0GT2MdEX0
やばい。 僕はこれから、あの二人にびびりながら暮らさないといけないのかな。

いやいや、そんなマイナス思考では駄目だ。

そんな諦めの姿勢でどうするんだ、阿良々木暦。 これは多分、僕にしか解決できない事だ。

そうだ。 もっとプラス思考、前向きに考えないと。
779 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:07:08.61 ID:0GT2MdEX0
とりあえずの案だけれど。

壱……妹達には、常に敬語で話す。

弐……お風呂は必ず先に譲る。

参……妹達が好きなおかずの時は、僕の分をあげる。

四……お金を貸してと言われたら、貸す。 というかあげる。

伍……妹達がイライラしている時は、僕で発散してもらう。
780 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:08:13.85 ID:0GT2MdEX0
……後ろ向きすぎるわ!

どう考えても、前向きにならねえぞこれ!

暦「……はあ」

なんて。

溜息をついても、誰も助けは来ない。

今回のは多分、僕自身で何とかしろとの事だろう。 誰の意思かは分からないけれど。

つってもなぁ。
781 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:08:43.07 ID:0GT2MdEX0
まず、するべき事を考えるかな。

うーん。

考えられるのは。 いや、真っ先に考えるべきこと、か。

それは勿論、原因が『何か』とか曖昧な物では無く、僕に原因があるんじゃないかって事だ。

その可能性が一番高い。 もっとも、僕自身には現時点で心当たりが無いのだけれど。

まあ、回想しよう。

よし、そうと決まればまずは昨日の朝の事を思い出す。

ええっと、今日は日曜日だから……土曜日か。

昨日の朝は確か、いつも通り起こしに来てくれたんだよな。
782 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:09:13.23 ID:0GT2MdEX0
以下、回想。

妹達の目覚ましにより、僕は大分早い時間に起きれた。

その時間を上手く使う為、僕は勉強に励んでいたのだ。

んで、月火から「ご飯だよ、お兄ちゃん」って呼ばれて、家族全員で朝ご飯を食べた。

その後は、確か。
783 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:09:40.58 ID:0GT2MdEX0
月火「ねえねえ、お兄ちゃん」

リビングで月火とテレビを見ていたら、横からそんな声がする。

発信源は勿論、月火である。

暦「ん?」

月火「ゲームしよう、ゲーム」

はあ? 何言ってんだ、こいつ。

暦「ゲームっつってもな、僕は一人用のゲームしか持って無いぞ」
784 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:10:20.82 ID:0GT2MdEX0
月火「知ってるよ。 お兄ちゃん、寂しい人間だもん」

暦「月火ちゃんのその発言に対して、僕は大人だから何も言わないが、月火ちゃん」

暦「知ってるって事は、何か考えがあるんだな?」

ここで「え? 何も考えてないよ?」とか言ったら、胸を揉んでやろう。

あれ、僕ってこんな、妹の胸を揉むキャラだったっけ。 まあいいや。

月火「もっちろん! 月火ちゃんに任せなさい!」
785 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:10:58.46 ID:0GT2MdEX0
自信満々に言う月火。

無い胸を張るんじゃねえよ。

けど、案を考えていたのは褒めてやろう。 優しいなぁ、僕。

暦「それで、月火ちゃんに任せてもまともな案が出ないとは思うけれど、一応は聞いてやろう」

僕の発言を待っていたかの如く、言い終わるのとほぼ同時に月火は口を開く。

月火「トランプ!」
786 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:12:06.75 ID:0GT2MdEX0
暦「やだ」

それに返す僕の速度も、中々目を見張る物だった。

てか、何が楽しくて朝っぱらから妹と二人でトランプなんてやらないといけないんだよ。

しかも、月火の言うトランプってトランプタワーじゃん。 僕はそんな器用じゃねえしな。

月火「良いじゃん良いじゃん、やろうよ」

暦「……一応、トランプの何のゲームをするか聞いてやろう」

月火「ババ抜きだよ」

あれ、トランプタワーじゃないのか。 意外だな。
787 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:12:33.43 ID:0GT2MdEX0
暦「まあ、やらないけどな」

月火「よし、分かった。 じゃあ、今からお兄ちゃんのエッチな本をゴミに出してくるよ」

暦「はは。 僕がお前に見つかる様な場所に隠すと思うか? ハッタリもいい加減にしろよ、月火ちゃん」

月火「……さ、さすがだね、お兄ちゃん。 私のハッタリを見破るだなんて」

月火は驚き、後ずさる。 うわー、白々しいリアクションだなぁ。

もうこの時点で、あまり良い未来に転びそうには無いんだけど。
788 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:12:59.65 ID:0GT2MdEX0
月火「仕方ないから、机の裏に貼り付けてある本だとか。 後は辞書の中身をくり抜いて仕舞ってある本だとか。 そっちだけで我慢してあげるよ」

ばれてるじゃん!! 僕のプライベート丸分かりじゃん!!

暦「は、ははは。 し、しかたないなぁ。 月火ちゃんがそこまで言うなら、やってあげない事も無い……かな。 はは」

月火「いいよいいよ。 お兄ちゃん気にしないで、たかが妹の分際の私なんかの遊びに付き合わなくて良いんだよ」

暦「……すいませんでした、遊ばせてください」

土下座である。

月火「よろしい」

と、こうして僕は半ば強制的に、二人ババ抜きをする事になったのだった。
789 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:13:29.03 ID:0GT2MdEX0
暦「それはそうと月火ちゃん、火憐ちゃんはどうしてるんだ?」

月火「よっ……え? 火憐ちゃん?」

暦「うん、火憐ちゃん」

うわ、ババだ。 にやけてるんじゃねえよ、このチビ。

月火「ジョギング中だよ、ジョギング」

暦「へえ。 この寒い中、あいつもよく走る気になるな」
790 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:14:15.63 ID:0GT2MdEX0
月火「寒いからこそ、じゃない? 火憐ちゃんらしいよ」

そうだな。 火憐なら多分、そう思ってる所だろう。

お、ババを引いてったな。 ざまあみろ。

月火「まあ、私は暖かい家の中で、兄妹仲を暖かくする役目って所かな」

うまくねえからな。 それに、別に僕とお前の仲は暖かくなって等いない。

だって、一枚だけ飛び出させたり、一枚だけに集中して目線をやっていたり、やる事が姑息なんだもん。
791 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:14:42.18 ID:0GT2MdEX0
そして、そんな罠に引っ掛かる僕でも無いがな!

暦「そりゃ、お疲れ様のありがとう」

真似してやった。 いつかの月火の真似。

月火「あ?」

月火は一瞬で表情を怒り、無表情、笑顔に切り替える。

月火「友達を作ると、人間強度が下がるから」

暦「僕が悪かった、月火ちゃん。 この話はやめよう」

お互いの為にも、それが賢明な判断である事は間違い無い。
792 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:15:23.58 ID:0GT2MdEX0
そんななんとも言えない空気が場に流れた時、その空気を壊してくれる、なんとも有難い奴が来た。

火憐「たっだいまー。 っと、なんだ、トランプか?」

我が家で一番熱い奴、阿良々木火憐がジョギングから無事、帰還した様である。

暦「強制的にな。 火憐ちゃんもやるか?」

火憐「いやー。 あたしはいいや、後ろで見学させてもらうよ」

そう言い、火憐は僕の後ろへと座り込む。

見ておけよ、火憐。 お前の可愛い可愛い相棒がボコボコにされる所を。
793 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:15:59.24 ID:0GT2MdEX0
と格好付けてみたのにも理由がある。

僕の手札は残り二枚。

月火の手札は残り三枚。

そして次は、月火がカードを引く番である。

僕の手札には、当然ババは無い。

つまり、圧倒的に僕の方が有利、と言う訳だ。 まあ、二人なのだから運が絡んでくる訳だが。
794 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:16:32.83 ID:0GT2MdEX0
しかし、僕には作戦がある。 ふふん。

やがて、月火がカードを一枚持っていく。

当然、そのカードはペアとなり、月火の手札は残り二枚。

暦「ははは。 悪いが月火ちゃん、勝たせてもらうぜ」

月火「うぐぐぐ。 絶対負けない!」

そうして、僕はカードを引く。 月火の手札から。

……ババだった。
795 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:16:59.61 ID:0GT2MdEX0
月火「はっはっは! 残念だったね、お兄ちゃん」

何勝ち誇ってるんだよ、まだ勝負は終わっちゃいねえぞ!

暦「まだ分からねーぜ、月火ちゃん。 お前が負ける可能性だって、十分にあるんだよ」

月火「ふふん。 じゃあさ、お兄ちゃん。 何か賭ける?」

ん、珍しいな。 月火の方から賭けを申し出てくるなんて。

暦「えらく強気じゃねえか」

暦「まあ、そうだな。 何を賭けるんだ?」
796 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:17:37.11 ID:0GT2MdEX0
月火「おやつのケーキだよ。 お兄ちゃん」

暦「別にいいぜ。 僕は負けても、昨日の分も合わせてもう一個あるし、問題ねえからな」

月火「甘いね。 お兄ちゃんはその二個とも賭けるんだよ」

なんだその不公平な賭け。

暦「おいおい、そりゃあ理不尽だろ。 なんで僕だけそんなリスクを負わないといけないんだ」

月火「違うよ。 私もケーキを賭ける……確かにそれだけじゃ、理不尽だよね。 私は一個だけで、お兄ちゃんは二個なんだから」

そんな分かりきってる事を頭良さそうに語られてもな、反応に困る。
797 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:18:04.84 ID:0GT2MdEX0
月火「だから、私は火憐ちゃんの分のケーキも賭けるのさ!」

火憐の分?

はあ? おいおい、こいつ本気かよ。

火憐がそれで、納得するとでも思っているのか。

と、思いながら後ろを振り向く。

火憐「ん? あたしは構わないぜ」

マジかよ。 意外だなぁ。
798 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:18:34.52 ID:0GT2MdEX0
今日は月火の奴もなんか強気だし、火憐の奴も妙にノリが良い。

暦「オーケー。 その賭けは成立だ、月火ちゃん」

月火「よし、じゃあ負けた方が、相手にケーキを二つ献上。 成立だね」

ふふん。 馬鹿め。

先程も言った様に、僕には考えてある作戦があるのだ。

お前の性格なんて分かりきっているんだよ。 月火。

そう思い、カードを一枚飛び出させる。
799 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:19:03.53 ID:0GT2MdEX0
この一枚、これこそがババである。

普通に持っている方のカードは当たり。 すなわち、こっちを引かれれば僕の負けだ。

月火の性格からして、恐らく僕の事は疑ってかかっているだろう。

それならば、ババかと思わせておいて、逆のカードが安全、けれど、その逆で……との答えに辿り着く筈である。

勿論、そんな短絡的な思考では無い。

が、最終的には、何回も何回も考えを巡らせて、こっちの飛び出ている方のカードを月火は取る筈だ。

それは月火と長い間一緒に居る僕だからこそ、分かるのだろう。
800 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:20:05.06 ID:0GT2MdEX0
月火「んー。 なんだか、負ける気がしないよ、お兄ちゃん」

暦「ふっ。 それは勝ちが確定してから言うべきだな」

月火「もう確定している様な物だもん。 そりゃ言うよ」

月火「なんならお兄ちゃん、もしこの勝負にお兄ちゃんが勝てたら、一週間は私と火憐ちゃんのおっぱいを好きなときに、好きなだけ揉んでもいいよ」

暦「二言は無しだぜ、月火ちゃん」

月火「はいはい」

そう言い、月火は……普通に持っている方のカードを引いた。
801 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:20:59.86 ID:0GT2MdEX0
月火「ほらね? ケーキありがとうお兄ちゃん」

な、なんだと。

おかしい、月火がそっちのカードを引くなんて。

暦「……マジかよ」

月火「どうしたの、お兄ちゃん」

落胆する僕の顔を覗き込み、月火が続ける。
802 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:22:08.37 ID:0GT2MdEX0
月火「まあ、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら、もう一回やってあげてもいいんだけどなぁ」

暦「……く」

火憐「あっはっは。 兄ちゃん残念だったなぁ」

火憐がそう言いながら、僕の後ろで高笑いをしている。

ん?

僕の『後ろ』で?

ちょっと待てよ、こいつらもしかして。
803 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:22:56.32 ID:0GT2MdEX0
暦「いやあ、負けたよ。 兄ちゃんの負けだ」

月火「潔く負けを認めるんだね。 まあ、ケーキは貰うけど」

暦「うんうん。 やっぱり強いよ、月火ちゃん」

月火「でしょでしょ」

暦「それに『火憐ちゃんも大活躍だった』しなぁ。 『二人』の『作戦勝ち』って言った所かぁ」

火憐「へへ、そうだぜ兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんの策に、兄ちゃんは見事に嵌められたんだ」
804 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:23:22.46 ID:0GT2MdEX0
暦「そうかそうかぁ」

月火「うんうん……ちょっと火憐ちゃん!」

馬鹿め、手遅れだ。

暦「ようし、じゃあそこの正義の味方さん共。 正座しろ」

こうして、僕は月火のケーキと火憐のケーキ、自分の分と合わせて四つのケーキを獲得したのである。
805 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:26:03.59 ID:0GT2MdEX0
回想終わり。

なんつうか。

僕、悪くなくね?

いや、確かにあの勝負には負けたんだけれど、それでもあいつらが悪い訳だし……

後ろで火憐が目線で指示を出して、月火がそれをヒントにババを避ける。 見事な連携プレイだった。

ってなる訳が無い。 卑怯すぎる。

もうあいつら、正義の味方じゃなくて悪の味方じゃねえか。 卑怯シスターズってか。
806 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:27:52.09 ID:0GT2MdEX0
けど、それならなんで、あいつらの態度があんな風になっているのだろうか。

まさか、これが原因って訳でも無いだろうし。

やべー。 本格的に分からないぞ。

あの後、トランプの後に何かあったっけ……

ええっと、そういやあったな。

確か、昼過ぎくらいに僕が勉強している時だったかな、火憐が部屋に来たんだ。
807 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:29:41.20 ID:0GT2MdEX0
以下、回想。

火憐「兄ちゃん、入るぜー」

と同時に蹴破られる。 僕の部屋の扉をいじめないでくれ。

最近では少しマシになった物の、百回入る内の一回程しか普通に開くという事が出来ない様だ。 一パーセントじゃねえかよ。

暦「なんだよ火憐ちゃん。 見て分かる通り、僕は今勉強中なんだ」

火憐「知ってるよ。 さっきのお詫びも兼ねて、お茶を淹れて来てやったんじゃねえか」
808 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:31:04.14 ID:0GT2MdEX0
お茶? 火憐が?

暦「マジで? お前、そんな妹っぽい事出来たの?」

火憐「あたしは歴とした妹だ!」

いやはや、火憐に突っ込まれてしまった。

暦「そうだった、そうだった。 ついつい忘れちゃうんだよな」

火憐「そりゃあ、やべえぞ兄ちゃん。 勉強のしすぎじゃねえのか?」
809 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:31:35.90 ID:0GT2MdEX0
暦「そうでもねーよ。 僕なんてまだまだだぞ」

火憐「ふうん。 ま、勉強も程々にしとけよ」

暦「おう。 しかし火憐ちゃん、今日はやけに気が効くな。 というか、火憐ちゃんってお茶を淹れる事、できたんだな」

火憐「いや、できねーよ?」

さっきと言ってる事、違くね?

まあ、火憐の場合良くある事なんだけれど、なんだか話が噛み合わない。
810 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:33:32.03 ID:0GT2MdEX0
暦「……ん? じゃあこのお茶って」

火憐「月火ちゃんが淹れてくれたんだぜ。 何かぶつぶつ言いながら、楽しそうに」

絶対何か入ってるじゃねえかよこれ!

暦「あー。 えーっと、火憐ちゃん」

暦「実は僕、今はお茶って言うよりはコーヒーの気分なんだよ。 折角持ってきて貰って悪いんだけどさ」

火憐「あん? あたしが持ってきたお茶が飲めないっつうのか?」
811 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:33:58.51 ID:0GT2MdEX0
もうさ、実の兄を脅すのやめてよ。 怖いから。

暦「僕も、僕も飲みたいんだ。 けどな、火憐ちゃん。 実は僕」

暦「お茶アレルギーなんだよ」

脅された恐怖もあり、咄嗟にとんでもない嘘を付いてしまった。

でも、さすがにばれるだろ、これ。

第一、朝ご飯の時に美味しそうにお茶飲んでたし。
812 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:34:32.44 ID:0GT2MdEX0
火憐「……」

火憐「そ、そうだったのか! 兄ちゃんごめん! 気付かずにいた、あたしのミスだ!」

うわぁ。 罪悪感がやべぇ。

というか、そろそろこの妹の馬鹿さ加減が心配になってきたぞ!

火憐「次から気をつけるよ。 悪かったな、兄ちゃん」

あ、あはは。
813 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:35:14.81 ID:0GT2MdEX0
これ、ばれたらマジで月火に処刑されるな。

ま、まあ。 あんな話を聞いた後じゃそんなお茶なんて飲めねえし、仕方無いって事にしておこう。

棚上げ万歳。
814 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:36:43.50 ID:0GT2MdEX0
回想終了。

これじゃん!

むしろこれしかねえよ!

あー、そういう事だったのか。

うわあ。

謝って済むのかな、これ。
815 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:38:50.58 ID:0GT2MdEX0
うーん。

とりあえず、電話してみるかな……

即決即断。

僕は、恐る恐る、電話帳から月火の名前を呼び出し、発信する。

コール音が鳴る事もなく、電話は繋がった。

「お客様のご要望により、おつなぎすることができません」

いや、着信拒否されてた。
816 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:39:16.94 ID:0GT2MdEX0
やべぇ。 本格的にやべえぞこれ。

帰ったら僕、殺されるんじゃねえの。 いやいや、マジで。

一応、一応火憐の方にも連絡を取ってみよう……

火憐の名前を電話帳から呼び出し、発信。

幸いにも、先程の月火の様に着信拒否はされておらず、コール音が鳴る。

数回鳴った後、電話は繋がった。
817 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:39:43.02 ID:0GT2MdEX0
「はーい」

暦「あ、火憐ちゃんか? 僕だ」

「兄ちゃんか、何か用事か?」

「……ん? あ、やべ」

「敵が電話を掛けてくるなんて、良い度胸だなこら!」

何なんだよ! 最初普通だったじゃん……
818 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:40:23.21 ID:0GT2MdEX0
暦「あの、火憐さん。 もしかして、昨日のお茶の事を怒ってたりします?」

「お茶? あー、月火ちゃんが睡眠薬入れてた奴か?」

え? 聞こえちゃいけない単語が聞こえたんだけど、今。

暦「え、睡眠薬いれてたの? あのお茶に?」

「あれ? 言ってなかったっけ。 まいいや。 んでそれがどうしたんだよ」
819 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:41:05.46 ID:0GT2MdEX0
まいいや、で流すなよ。 火憐は大抵の事を「別に良いけど」とか「まあ、いいや」で流すのは分かってるけど、今のは流しちゃ駄目だろ!

暦「いや、僕があのお茶を飲まなかったから、二人ともぐれちゃったのかなぁって」

「ああん? あたしらがいつ、ぐれたんだよ。 それに、お茶を飲まなかったのは確かに月火ちゃんは悔しがっていたけど、別に怒ってはいねえよ?」

悔しがってたとか、それもそれでどうなんだよ。

けど、んー? あれ、違うのか。

ここはそうだな。 もう直接聞いちゃえ。
820 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:42:02.06 ID:0GT2MdEX0
暦「じゃあ、何で二人とも怒ってるの? 僕、なんかしたっけ」

「自分の胸に聞きやがれ!」

と怒鳴られて、電話を切られた。

めんどくせえええええええええええ!

もうマジでめんどいんだけど!

せめて理由教えてくれよ!
821 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:42:52.20 ID:0GT2MdEX0
くっそー。

やっぱりまだ、家に帰る訳には行かないよな……

他に何か、僕がした事……あったかなぁ。

うーん。

昼過ぎからは二人には会ってないし……最後に会ったのは、夜だっけ?

夜ご飯を食べて、んで……ああ、そうだ。
822 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:43:19.34 ID:0GT2MdEX0
母親の方が、デザートだとか言ってプリンを買ってきたんだっけかな。

今更だけど、ケーキといいプリンといい、僕達兄妹はぶくぶくと太りそうである。

ああ、火憐はそうでもないか。 よく動いてるし。

まあ、そうだ。 その時の事を思い出そう。

もしかしたら、ヒントがあるかもしれない。
823 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:51:22.40 ID:0GT2MdEX0
以下、回想。

夜ご飯を食べ終わり、現在は月火、火憐、僕と三人でソファーに並んで座り、テレビを見ている所だ。

月火「そうだ、お兄ちゃん。 トランプやらない?」

暦「なんで朝と同じくだりなんだよ! また嵌める気だろ!」

月火「へ? 私が? お兄ちゃんを? やだなーもう。 そんな事、一度だってした事無いじゃん」

着実に僕に似てきているよなぁ、こいつ。
824 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:51:54.00 ID:0GT2MdEX0
火憐「んじゃあさ、プロレスごっこしようぜ」

暦「お前はやんちゃな中学生男子かよ! それにお前の場合、ごっこにならねえから!」

火憐「そりゃそうだろ、何て言っても、あたしは正義の味方だからな」

うるせーよ。 そっちはごっこだろうが。

最早、火憐にとっては前後の繋がりなんて不要なのだろう。 全てが正義の味方に繋がるのだから。
825 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:52:28.24 ID:0GT2MdEX0
暦「とにかく、僕はゆっくりとテレビを眺めていたいんだ。 騒ぐなら部屋へ行けよ」

月火「はいはい、分かったよ……分かりましたお兄ちゃん。 火憐ちゃん、行こ?」

火憐「仕方ねえなぁ。 行くか、月火ちゃん」

そうそう、それで良いんだよ。

食後の一服くらい、ゆっくりさせろってんだ。

しっかし。
826 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:53:17.99 ID:0GT2MdEX0
やけに素直だったな、あいつら。

素直、だったなぁ。

待てよ、あいつらが素直になる訳がねえ。

嫌な予感しかしないんだけど。

と、僕が考えていた所で、上から何やら声が響いてくる。

「うわ! お兄ちゃんこんな本読んでるんだ、火憐ちゃん、見てみ!」

「うわー! こりゃ引くぜ! いくら兄ちゃんと言ってもこれは引く!」

だよなぁ。
827 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:53:59.41 ID:0GT2MdEX0
暦「何やってんだこらああああああああああ!!」

その時僕は、今まで出したことの無いタイムで部屋まで辿り着いたと思う。

くそ、ご飯直後だって言うのに走らせやがって。

んで、その最速タイムで僕の部屋を開けたんだけれど、火憐と月火は仲良くベッドに座っているだけであった。

月火「ほら、お兄ちゃんすぐに来た」

火憐「すげえな、やっぱ月火ちゃんの作戦はうまく行くよなー」

暦「おい、そこのゴミ二人。 嵌めたな」
828 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:54:26.51 ID:0GT2MdEX0
月火「お兄ちゃん、まだ私が「ゴミ」ってあだ名を付けた事、恨んでるの? てかさ」

月火「人聞きの悪い事言わないでよ。 ただの女子中学生の会話じゃん」

暦「明らかに僕を呼ぶ為だったろうが! いや、そもそもそれ以前の問題だ」

暦「僕の部屋に勝手に入ってるんじゃねえよ!」

僕がそう言うと、月火は「やれやれ」と台詞が聞こえそうな位に腕を動かし、言う。

月火「やれやれ」

聞こえそうじゃない。 そう言っていた。 まあ、これはどうでもいいな。
829 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:55:14.81 ID:0GT2MdEX0
月火「違うよ、お兄ちゃん」

暦「あん? 何が違うんだよ」

月火「私達が部屋に入ってるんじゃなくて、部屋が私達を入れてきているんだよ」

それを使われると、僕はもう何も言えないのであった。
830 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:56:26.03 ID:0GT2MdEX0
時間経過。

暦「んで、火憐ちゃんに月火ちゃん。 暇なのか?」

月火「平和だからねぇ。 暇」

火憐「そうだなぁ。 兄ちゃん相手に戦いたいんだけれど、今日はあんま乗り気じゃなさそうだしな」

暦「いつもは乗り気みたいに言うな! 僕が乗り気だった事なんて、ただの一度も無いからな!」

暦「つうかさ、暇なら一つ、頼まれてくれよ」
831 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 14:57:50.66 ID:0GT2MdEX0
既に自分の部屋に居るかの如く、ベッドに寝転び、リラックスし切っている火憐と月火に向けて言う。

火憐「お? 珍しいな。 兄ちゃんから頼み事なんて」

月火「へえ、お兄ちゃんが私達に? ついにファイヤーシスターズの偉大さが分かったのかな?」

断じてそんな事は無いのだけれど、ここは話を合わせておこう。

暦「まあ、そんな所だ」

暦「んで、頼みなんだけどさ。 ちょっくらコンビニ行って、ノート買って来てくれ。 さっき気付いたんだけど、もう残りが少なくってさ」
832 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:00:43.41 ID:0GT2MdEX0
火憐「おっけーおっけー。 任せておけ、兄ちゃん」

大して悩む素振りも見せず、火憐は言った。

さすがは絶対服従と自分で言うだけはある。 良い返事だな。

月火「報酬は?」

ははは、月火の奴はしっかりしてるなぁ。

でもまあ、そのくらいだったら別に良いか。

僕も鬼では無いし。 中途半端に吸血鬼ではあるけれど。
833 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:01:09.67 ID:0GT2MdEX0
暦「じゃあ、なんか好きなお菓子とか一つずつ買ってきていいぞ。 あくまでも常識の範囲内の金額の物にしろよ。 分かってるとは思うけど」

火憐「おう! んじゃあ月火ちゃん、行こうぜ」

月火「うまく使われてる気がするけど、まいいか」

こいつらも暇だったのだろう。 断る様な事はせず、承諾した。

そうして、火憐と月火は二人仲良く、コンビニへと旅立って行ったのだった。

ふう、これでやっと静かになったという物だ。
834 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:02:40.68 ID:0GT2MdEX0
つっても、一人でする事もねえよなぁ。

……あ、そういやプリンが冷蔵庫にあるとか言ってたっけか?

暇だし食べておこう。 そうしよう。

僕は次にするべき行動を決め、一階へと向かう。

先程二階に駆け上がった速度は無いにしろ、早足で冷蔵庫の前まで行き、扉を開ける。

そこには三つのプリンが入っていた。
835 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:03:16.75 ID:0GT2MdEX0
暦「なんだ。 あいつらもまだ食べてなかったのか」

その時は特に何も思わず、僕は自分の分のプリンを取り出し、ソファーに座りながらそれを食べたのだが。

ふむふむ。

意外とうまい。 というか、かなりうまい。

ううむ。

気付いたら、もう無くなってしまった。
836 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:03:59.82 ID:0GT2MdEX0
そして、一つの考えが閃く。

なんだか、これをあいつらにあげるのは勿体ねえな。

なんて。

言い訳をさせてもらうと、魔が差したって奴だ。

思い立ったが吉日。 便利だな、これ。

さて。

冷蔵庫からもう一つのプリンを取り出し、ソファーで再びそれを食べる。
837 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:05:35.92 ID:0GT2MdEX0
ふむふむ。

二個目でも全然いけるな。 うまいうまい。

あー。

もう無くなってしまった。

んー。

一個だけ残しておいたら、あいつら喧嘩になるんじゃね?

ならいっそ、最初から無かった事にしてしまえばいいんじゃね?

これは、せめてもの僕からの優しさである。

一日一回は思うけど、良い兄だなぁ僕。
838 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:06:07.31 ID:0GT2MdEX0
時間経過。

結論。

僕は火憐と月火の分のプリンも美味しく平らげ、ばれない様に今は証拠隠滅中である。

見つかったら、文字通りおしまいだ。

自分で言うのもあれだが、あいつらの分とかを盗み食いとかするのは結構あるので、証拠隠滅作業は慣れた物である。

そして、その慣れた手つきでプリンのカップを他のゴミの奥底に入れようとした、その時。
839 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:06:34.72 ID:0GT2MdEX0
火憐「いよっしゃあ! 最高記録!」

月火「すごいよ火憐ちゃん、やっぱ火憐ちゃんの背中は、どんな乗り物より早いね!」

なんて。

火憐「ん? 兄ちゃん、何してるんだ」

月火「お兄ちゃん、その手に持っている物は、何?」

暦「あ、ええっと」

その日の夜、僕は生と死の堺を彷徨ったのであった。
840 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:07:03.06 ID:0GT2MdEX0
回想終了。

間違いない。

これだ。

もうヒントって問題じゃねえ、答えじゃんこれ。

そりゃ、怒って当然だよなぁ……

はあ。

まあ、悪いのは僕だ。

こんな所に逃げてきて、それもまた、あいつらの怒る原因になっているんだろう。
841 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:07:28.36 ID:0GT2MdEX0
仕方ない。 帰りになんか、美味い物でも買って行こう。

さすがに僕も、今のままの状態が続いたら泣いてしまいそうだ。

あいつらの前では、滅多な事が無い限り泣かないけどな。

なんて。

変な意地を張っても仕方ない。

そうと決まれば、帰らなければ。

と思い立ち、公園から外に出る。
842 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:07:56.22 ID:0GT2MdEX0
偶然。

必然。

いや、どちらでもないか。

ただの、普通の出会い。

目の前から、僕があまり会いたく無い人がやってきた。

あまり会いたくない。 文字通り、できれば会いたく無い人と言う事。

暦「えっと、こんにちは」
843 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:08:29.90 ID:0GT2MdEX0
暴力陰陽師、影縫余弦。

影縫「おーおー。 誰かと思えば、鬼畜なお兄やん」

何してるんだよ、この人。

てか、相も変わらず、塀の上を歩いているんだな。

暦「えっと、何か用事でもあったんですか? この町に」

影縫「んー? そういう訳ではあらへんで」

なら、マジで何してるんだよ。
844 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:09:05.10 ID:0GT2MdEX0
影縫「うちがどこに居ようと、勝手やろ? ちゅうか、おどれ、おどれは何しにこんな所におるねん」

確かにそうかもしれないが、この人が居るってのは、あまり好ましい状況で無いのは間違いない。

暦「あ、僕は……何と言うか、家に居辛いと言うか」

影縫「ほお。 まあよく分からんけれど、何か事情があるっちゅう事やな」

暦「そんな所です」

僕がそう言うと、影縫さんは塀の上で腕を組みながら、なにやら「ふんふん、なるほどな」等と呟いている。
845 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:09:30.26 ID:0GT2MdEX0
影縫「ちょいちょい」

と、言いながら僕を手招き。

手招きするだけで、これほどの恐怖を与えてくる人ってのも中々いねえよな。

暦「は、はい」

無論、それを無視する事もできず、頷く。

僕は傍目から見て、すぐに分かるレベルでびびりながら、影縫さんの方へ歩いていった。
846 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:09:59.31 ID:0GT2MdEX0
影縫「とりゃ」

影縫さんはそんな可愛らしい掛け声を掛け、僕の胸にストレートを放ってくる。

やべえ、死んだこれ。

とか思ったのだけれど、意外にも、本当に意外にも、それは人が普通に当てる程度の、そんな威力だった。

暦「え、えっと?」

影縫「ちーと、黙っとき」

そう言われてしまっては、僕は許可が降りるまで喋れない。 そりゃもう、一生。

しかし、幸いにもその許可が降りるまでは、三十秒ほどであった。
847 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:10:48.23 ID:0GT2MdEX0
影縫「なるほどな。 大体の事情は分かったわ」

え、テレパシーか何か使えるのかよ。 この人。

影縫「まー。 うちから出来るアドバイスなんて、無いも同然やけど」

影縫「一つ言わせて貰いましょか。 おどれ」

影縫「ええ妹さん達の兄やんで、幸せやろ」

何を言っているのだろうか、この人は。

つうか、妹って単語を出された時点で、全部理解された様な気がして怖い。

暦「僕がですか? そりゃまあ、あいつらは悪い奴らでは無いですけど、何か今日は反応が冷たいと言うか、敵対心を丸出しと言うか」
848 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:11:31.42 ID:0GT2MdEX0
影縫「かっかっかっ。 心当たりとかは、ないんけ?」

暦「……今日一日、あそこの公園で考えて、思い当たる事が一つありました」

影縫「ほお。 んで、それは?」

暦「昨日、母親が買ってきたプリンを僕が全部食べちゃったんですよ。 あいつらの分も」

影縫「くだらんなぁ……」

影縫さんは心底呆れ果てた様な顔をして、そう言う。
849 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:12:21.42 ID:0GT2MdEX0
暦「だから、帰りに何か買って行ってやろうかなって。 それで、機嫌が戻るかは分からないんですけど」

影縫「まー。 その気持ちは大事やと思うで」

影縫「けどな、鬼畜なお兄やん。 おどれの妹さん達は、そんなの大して気にしてへんと思うで」

うーん。

気にしてなかったら、あんな態度にはならないと思うのだけれど。

影縫「ま、ええわ。 そろそろ日も暮れるしな、早めに帰ったり」

影縫「妹さん達も、おどれが帰ってくるのを待っとる思うで」
850 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:12:50.15 ID:0GT2MdEX0
なーんて。 そんな事を影縫さんはさっき言っていたのだけれど、帰ったら即、殴られかねない。

まあ、でも。

いつまでも外でぶらぶらしている訳にも行かないよなぁ。

結局。

影縫さんと別れてから、僕は近くのケーキ屋でちょっと値が張るプリンを二つ買った。

埋め合わせになればいいのだけれど。
851 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:13:19.57 ID:0GT2MdEX0
そんな事を考えていた所に、着信。

電話かと思って携帯を取り出し、画面を確認すると、メールの方であった。

ええっと。 うわ。 月火だ。

小妹:無題
本文
帰ってヨシ

どうやら、帰宅の許可は降りたらしい。

僕って、色々と許可が降りなければ行動できない人生なんだなぁ。
852 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:13:52.69 ID:0GT2MdEX0
そう感慨に浸りながら、家を目指して歩く事にした。

当たり前ではあるが、これを無視したらもっと酷い事になるのだろうから。

つっても、今もかなり酷い事なんだろうけどさ。

はあ。

人間、楽しいと思う事は一瞬で終わってしまう物だ。

そして、嫌な事というのは長く感じる物である。
853 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:14:22.58 ID:0GT2MdEX0
更に言わせて貰うと、嫌な事を待つ時間もまた、一瞬で終わるのだ。

こう考えると、その待つ時間は楽しい時間、という事になるのだろうか?

まあ、結論。

いつまでも続けば良いなぁ。 と思ったことは、即ちすぐに終わると言う事だ。

テストが始まるまでの間とか、面接までの待ち時間とか色々あるけれど、大体が嫌な事では無いだろうか。

そして、家に帰りたく無いと思っている時は、帰宅時間は本当に一瞬なのだ。

……はあ。
854 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:14:56.30 ID:0GT2MdEX0
本日何度目の溜息だろう。 今年の分はもう使い果たした気分である。

僕の視界には、阿良々木という表札。

とりあえず、土下座しとくか!

とか、勢いで入れれば良いのに、そんなノリで果たして乗り切れるかどうか。

ノリだけに、乗り切れる。 くだらねえ。

てか、扉を開けた瞬間に包丁とか飛んでこないよな。

マジでありえそうで、怖いんだけれど。
855 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:15:35.85 ID:0GT2MdEX0
もしその場合、僕は土下座をする暇も無いのだろう。

まあ、なんつうか、一番怖いのは、これからもずっとあんな態度を取られる事か。

なんて。

家の前で立ち止まり、そんな事を延々と考える。

周りから見たら、それはもうかなりの不審者だっただろう。

と。

着信。
856 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:16:07.85 ID:0GT2MdEX0
うーん。

このタイミングって事は、多分。

小妹:無題
本文
早く入れ

こええよ、どっから見てるんだよ!

くそ、僕には僕のタイミングがあると言うのに。

まあ、多分僕のタイミングで入ったら、それこそ夜になっているだろうけれど。
857 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:16:42.75 ID:0GT2MdEX0
先程も言ったが、そんな事を延々と考えていたら妹達の怒りはどんどん蓄積されていくだろうし、仕方ない。

阿良々木暦。 ここは腹を決めて、参ろう。

さようなら、僕の友達。 今までありがとう。

別れの挨拶を済ませ、玄関の扉に手を掛ける。

ガチャ。 と鳴り、扉が開かれた。

僕にはもう、その小気味良い音は死刑宣告にしか聞こえなかったのだけれど。
858 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:17:11.31 ID:0GT2MdEX0
恐る恐る、中に入る。

目の前には、二人の妹達。

暦「え、ええっと。 た、ただいま」

挙動不審なんてレベルじゃない。 それと、文章だからこの程度だが、実際には「たったたたた、たたただいま」みたいな感じだ。

僕はどこかのラッパーかよ。

さて。
859 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:17:46.87 ID:0GT2MdEX0
何を言おうか。

どう謝ろうか。

とりあえずはやはり、土下座だろうか。

と思ったとき。

僕には本当に、予想外の事が起きた。
860 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:18:25.54 ID:0GT2MdEX0




「兄ちゃん、誕生日おめでとう」「お兄ちゃん、誕生日おめでとう」




861 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:18:53.37 ID:0GT2MdEX0
そう、二人の妹は僕に対して言ったのだから。

暦「へ?」

誕生日? 誰が? 僕が?

ん?

あれ、そういえば、今日は十一日か? って事は、僕の誕生日?
862 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:19:22.86 ID:0GT2MdEX0
火憐「おいおい、兄ちゃん。 まさか自分の誕生日を忘れてたのかよ」

月火「あり得るね。 だってお兄ちゃん、私達の行動を自分の所為だと思っていたみたいだし」

暦「ご、ごめん。 状況が、よく分からない」

いやいや、マジで。

お前ら、怒ってたんじゃないのかよ。
863 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:19:52.10 ID:0GT2MdEX0
月火「だから、今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ。 それを祝ってあげようって作戦だったんだよ」

火憐「まあ、基本的には月火ちゃんの作戦だぜ。 あたしと月火ちゃんで、兄ちゃんに冷たくしておけば、勝手に家を出て行くって」

火憐「悪いことしたなぁ。 とは、思ってるけどな」

えーっと。

つまり、火憐や月火があんな態度だったのは、僕を家から出す為?
864 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:20:19.17 ID:0GT2MdEX0
月火「それで、お兄ちゃんが家を出ている間、こうして準備をしていたって訳だよ!」

確かに、色々な飾り付けがされている。 僕は謝る事ばっかり頭にあって、気付かなかったけれど。

火憐「兄ちゃん、勉強で大変そうだったからな。 友達にもまともに祝って貰え無さそうだし、あたしと月火ちゃんで一肌脱いだんだ」

それで、そんな事をしたのは僕にばれない様、準備を進める為?
865 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:20:48.16 ID:0GT2MdEX0
月火「ほらほら、そんな所にいつまでも居ないで、リビングリビング」

火憐「そうだぜ、兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんで、料理も作ったりしたんだからさ」

月火「火憐ちゃん頑張ってたんだよー。 そんな努力を無駄にするお兄ちゃんじゃないよね?」

暦「あ、うん。 勿論」

うまく返せない。

てか、こいつら。 そうだったのか。
866 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:21:26.61 ID:0GT2MdEX0
火憐「んー? あれ、兄ちゃん涙目になってんぞ」

月火「ほんとだ。 感動したの? 可愛いお兄ちゃんめ」

なんて。

僕の妹達は。

暦「……うるせえ、泣くか、馬鹿」

月火「そうだよねぇ。 お兄ちゃんは強い強い」

月火の奴め、子供扱いしやがって。

火憐「いーからさ、さっさと行こうぜ。 兄ちゃん驚けよ、プレゼントまで用意してやったんだぞ」
867 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:22:10.49 ID:0GT2MdEX0
こうして、僕の一年間の内の一日が終わった。

なんでも無い、普通の日。

僕すらも覚えていなかった、誕生日。

最悪な一日だと思ったその日は、最高の一日で。

その日は本当に、一瞬の出来事であった。



こよみデー 終了
868 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/23(火) 15:22:43.98 ID:0GT2MdEX0
以上で短編終わりです。

乙ありがとうございます。





暦「月火ちゃん、ありがとう」




3 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:31:49.45 ID:TzjkvvIT0
物語には、いつだって終わりがある。

それは春休みに僕が経験した事であったり、羽川翼がゴールデンウィークに経験した事であったり。

はたまた、戦場ヶ原ひたぎが蟹と出会った事であったり、八九寺真宵が道に迷った事であったり。

更に、神原駿河が悪魔に願った事であったり、千石撫子がおまじないの被害にあった事であったり。

そして、阿良々木火憐が蜂に刺された事であったり、阿良々木月火が不死身だった事であったり。

4 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:32:24.25 ID:TzjkvvIT0
それらの物語には、いつだって終わりが訪れるのだ。

少なくとも僕はそう思っているし、今までだってそうだった。

いや、正確に言えば僕自身が春休みに経験した物語は今でも続いている。

だが、それは僕と忍が互いに痛み分けという形になる事によって、一旦の終わりは見せているのだ。
5 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:33:08.28 ID:TzjkvvIT0
少し、前の話をしよう。

僕のでっかい方の妹。 阿良々木火憐。

彼女は僕の為に願い、そして、怪異に憑かれた。

その物語自体は本人も覚えておらず、覚えているのは三人だけしかいない。
6 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:33:34.66 ID:TzjkvvIT0
一人は忍野メメ。 専門家でもあり、春休みに僕が助かるのを手伝ってくれた奴でもあり、お人好しでもある。

もう一人は忍野忍。 元吸血鬼であり、幼女であり、僕の罪でもある。

そして、最後の一人は僕、阿良々木暦。

ここでぐだぐだと僕という人間がどんな奴かを語るのも、別に構わないのだけれど。

自分について語るのは、やはり恥ずかしさもあるので止めておこう。

僕がどういう人間なのかは、それこそ知られているだろうし。
7 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:34:08.70 ID:TzjkvvIT0
そして、その物語は既に終わった。 終わっている。

そう、思っていたのだ。

しかし、それは僕が勝手に思っていただけであって、実際は僕の知らぬ所で、物語は進んでいた。

恐らくは、誰も気付かなかったであろう水面下で、着実に。

僕は馬鹿だから、一段落して気が抜けていたのだろう。

今回は、そんな物語の続きを語ろうと思う。
8 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:34:58.81 ID:TzjkvvIT0
これもまた、僕が忘れてはいけない物語。

前に話した火憐の物語では、あいつは僕の事を想っていた事が分かった。

それは火憐が兄として、僕の事を想っていてくれたという訳なのだが。

いや、そもそも異性として想われていたら、それは少し怖いのだけれど。

だが、その想いで僕も救われた部分はあるのだろう。 これは間違い無い。
9 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:35:52.67 ID:TzjkvvIT0
だから僕はこう仮定しようと思う。

火憐の物語が、僕にとって救いのある物語だとするならば。

今から語る月火の物語は、救いの無い物語だと。

仕方が無い……そう言えば、全ては説明が付くのだろうが、少なくとも僕は納得しない。

選択肢の無い、結末。

どうしようも無く絶望で、どうしようも無く暗く、どうしようも無く終わる。
10 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:36:42.34 ID:TzjkvvIT0
先に言っておこう。

今から僕がする物語は、大分後味が悪い物になると思う。

僕がそう思っているのだから、それは当然なのだけれど。

見る人によって変わるのかもしれないが。

それでもやはり、この物語には救いが無いのだ。
11 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:37:40.69 ID:TzjkvvIT0
阿良々木月火。

僕のもう一人の妹。

頭の回転が早く。

不死身で。

末っ子で。

怒りやすく。

そして、捻くれている妹の物語である。
13 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:38:46.26 ID:TzjkvvIT0
今朝もまた、いつもの様に妹達に叩き起こされた。

少し前の事もあり、僕は最近それをあまり迷惑だとは思わないのだけれど、でもやっぱり起こし方は考えて欲しい。

それに、今日のは特に酷かった気がする。

まあ、今日のに限ったと言う訳では無いが。

こんな事を思う僕は、恩知らずなのだろうか?
14 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:39:53.48 ID:TzjkvvIT0
客観的に見てみよう。

アニメだと、技を掛けられたり、階段から突き落とされたり、バールで起こされたり等、ギャグアニメとして見るならば、まあ別におかしな起こし方では無い。

が、僕はこう言いたい。

この話を僕はギャグだと思った事が無いのだ!

と、そうは言った物の、とりあえず見て貰わなければ分からないだろう。

もう一度言う。 今日の妹達の起こし方は酷かった。

理解して貰う為には、まずは回想。
15 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:40:25.06 ID:TzjkvvIT0
以下、回想。

火憐「兄ちゃん、朝だぞこら!」

月火「いい加減起きないと駄目だよー!」

と、いつもの様に二人揃って僕を起こしに来る。

案の定、朝にそこまで強くない僕はすぐに起きるなんて事が出来ず、妹達は次の段階へと移行するのだが。

普段通りなら、火憐は僕に何かしらの技を掛けて(そういうのには詳しく無いので、技名とかは分からないが、とにかく痛い)月火はそれを眺めている。 といった感じである。

改めて思うけれど、普段通りで既に酷すぎるんじゃないだろうか。 この妹達は、兄をもっと敬うべきだろう。
16 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:41:07.12 ID:TzjkvvIT0
が、しかし。

今日は違った。

いや、火憐の方はいつも通りだったので、言い直そう。

今日の月火は違った。

火憐は僕の上に乗り、関節を締め上げてくる。 ここまでは普段と何ら変わり無い。

勿論、普段と変わらないからといって、僕はそれを良しとしている訳では無い事は理解して頂きたい。

んで、問題なのは月火の方だ。

普段と同じなら、月火は僕の苦しむ姿を眺め、ニコニコしているのだけれど(それはそれで、かなり酷い)
17 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:41:42.23 ID:TzjkvvIT0
今日の月火は僕の方まで近づいてきて、なんと、髪の毛を掴んできたのだ。

掴んできたというか、毟り取ろうとしてきた。 痛いってほんとに。

月火「いつもいつもいつもいつも起こしに来ているのにさ。 何で起きないのかな、たまにはすぐに起きれないのかな。 ねえ、どうして?」

月火「今、私が掴んでいるこの髪の毛を引きちぎれば起きるかな? あはは、でもそんな事をしたら、お兄ちゃんハゲになっちゃうよね。 別に良いけどさ」

月火「あ、それともお兄ちゃん。 もっと優しく起こして欲しいとか? ならそう言ってよ。 やだなぁもう。 待っててね、今すぐに出刃包丁を持ってくるから」

どうしたの。 ねえ、月火さん。 どうしちゃったの。
18 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:42:33.82 ID:TzjkvvIT0
てか出刃包丁って……

優しく所か、永眠コースじゃねえか。

暦「待て、待てよ待てよ月火ちゃん。 お前なに、どうしちゃったの!?」

暦「つうか何。 ゴールデンウィークの時と一緒のキャラ? それヤンデレじゃなくて狂人だからな!」

月火の怒りの原因にもなっている僕の眠気なんて物は、一瞬でどっかに飛んで行った。

月火のキレっぷりはタイミングが掴めないし、それでキレるのかよ! って部分でキレたりするのだ。

いや、ほんともう心配である。

主に、僕の体が。
19 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:43:19.17 ID:TzjkvvIT0
月火「ほら、だから言ったじゃん。 火憐ちゃん」

火憐「うお。 すげえな月火ちゃん」

と、二人で何やら話をしている様で。

暦「あん?」

月火「作戦勝ちだよ、私の作戦勝ち」

火憐「だなぁ。 あたしも何か策を練らねえとな……」

暦「おい、おい! ちょっとそこのシスターズ。 どういう事だ」
20 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:43:46.92 ID:TzjkvvIT0
月火「どういう事も何も無いよ、お兄ちゃん」

火憐「そうだぜ。 それに、兄ちゃん寝惚けてるのか? ファイヤーが抜けてるぞ」

月火は良いとして、火憐の突っ込みは大分ずれている気がしてならない。

えーっと。 何だコレ。
21 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:44:17.16 ID:TzjkvvIT0
月火「私と火憐ちゃんでさ。 今、お兄ちゃんがどうやったら気持ちよく目覚められるか研究中なんだよ」

火憐「あたしはやっぱり、なんかしらの技を掛ければ気持ちよく起きれるって思ってたんだけどさ、やっぱ月火ちゃんには敵わねーや」

ええっと?

つまりは、この心優しい二人の妹は、僕の目覚めを良くする為に、二人で話し合い、今日の起こし方を実行したって事なのか?

ふむ。

なんだよー。 そうならそうと言ってくれよー。 本当にお前らは兄想いの妹達だなー。 可愛い奴らめー。
22 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:46:22.66 ID:TzjkvvIT0
暦「ってなる訳ねえだろ!! つうか、火憐ちゃんの技を掛ければ気持ち良く起きれるって、僕は別にMじゃねえんだよ!」

暦「大体な、月火ちゃんのはもう、色々とヤバイからな! 朝起こしに来る妹って言うより、借金取りのチンピラって感じじゃねえか!」

暦「何より! 僕は普通に起こして貰えれば十分なんだよ! 変な事を研究してるんじゃねえ!」

ここぞとばかりに怒鳴り散らす。

つまり、僕が言いたい事は。

変な作戦等、考えずに普通に僕を起こしやがれ。

って事だ。

朝から随分と血圧が上がった気がするなぁ。
23 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:46:58.84 ID:TzjkvvIT0
月火「ふん、折角良い目覚めの方法を考えてあげたのに」

暦「全然良くないって言ってるんだよ!」

まあ、目は覚めたけれどさ。

火憐「んだよー。 失敗か」

火憐「仕方ねえ、次の作戦を考えようぜ、月火ちゃん」
24 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:47:25.89 ID:TzjkvvIT0
月火「だね。 今度はもう少しハードにしてみるべきかな……」

暦「ソフトにお願いします!」

と、今日の朝はこんな感じだったのだ。
25 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:47:52.21 ID:TzjkvvIT0
そして今、現在。 何故か火憐が僕の部屋へと残っている。

暦「んで、作戦会議は良いのかよ」

火憐「ん? あー。 それは夜にするんだけどさ、ちょいと兄ちゃんに相談があるんだよ」

相談? つうか、これなんかデジャヴなんだけど。

暦「ふうん。 へえ。 なんだよ、相談って」

火憐「月火ちゃんの事だ」

おいおい、本格的にデジャヴじゃん。
26 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:48:18.33 ID:TzjkvvIT0
火憐「なんかさ、最近様子がおかしいんだよ」

火憐は床に座り込み、天井を見上げながら、そう僕に言った。

暦「確かにおかしいな。 今日の朝も」

火憐「いや、兄ちゃん。 あれはいつも通りだと思うぜ」

自分が数秒前にした発言を否定する事になるが、そうかもしれない。

月火のあの態度は、確かにいつも通りである。

阿良々木暦は間違いを素直に認める男なのだ。
27 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:48:50.01 ID:TzjkvvIT0
暦「で、それなら火憐ちゃんが言う様子がおかしいってのは?」

火憐「なんとなくなんだけどな」

前置きをし、火憐は続けた。

火憐「なんかさぁ。 兄ちゃんを避けてるっつうか、そんな感じなんだよ」

僕を避けてる? 今までの行動を振り返ってみても、避けられる様な行動したっけ。

うーん。 してないな。

僕は妹達が喜ぶ行動しかしないし。
28 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:49:16.25 ID:TzjkvvIT0
火憐「今日の朝だってそうだぜ。 あたしは最近、兄ちゃんを起こさないと駄目だっていう使命感があるからさ、毎朝月火ちゃんを呼んでいるんだけど」

火憐「どうにも、乗り気じゃない? みたいな」

使命感ね。 変な部分を覚えているのかな、こいつは。

暦「あれじゃないのかな。 月火ちゃんも朝に弱くなったとか」

火憐「うーん。 どうだろう?」

僕に聞かれても。
29 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:50:05.46 ID:TzjkvvIT0
暦「まあ、そうだなぁ。 それは確かに様子がおかしいと言えばおかしいし、後で話してみるよ」

てか、乗り気じゃなかったのにあの起こし方とか、ノリノリだったらどんな風になるんだ……寒気がするぞ。

火憐「おう、宜しく頼んだぜ、兄ちゃん」

暦「頼まれた。 今回は、ちゃんとやらないとな」

火憐「ん? 今回?」

暦「なんでもねえよ。 こっちの話」

火憐「ふうん。 ま、いいや。 んじゃあ、あたしはジョギングにでも行ってくるよ」

暦「あいよ」

と火憐が言い、部屋を出て行こうとする。

暦「そうだ、火憐ちゃん」
30 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:50:32.94 ID:TzjkvvIT0
火憐「ん?」

暦「ジョギング行くんだろ? 風呂、作っておいてやるよ」

火憐「おお、おお。 優しい兄ちゃんは何だか気味が悪いけど、好意は受け取っておかねえとな。 サンキュー」

気味が悪いとか言うなよ。 僕が優しくなかった事なんて、過去に一度も無いだろ。 多分。
31 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:51:10.27 ID:TzjkvvIT0
時間経過。

との訳で、まずは月火との話し合い。

暦「おーい、ちっちゃいの」

ソファーに座る月火に声を掛ける。

月火「ほいほい、何か用事?」

月火は僕の方へ顔を向け、そう答える。

うーん。 どう切り出そうか?
32 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:53:17.38 ID:TzjkvvIT0
暦「お前、何悩んでるの?」

月火「……へ?」

あれ、直球じゃ駄目なのかな。

って言っても、どう聞けばいいのやら。

暦「言い方を変えよう」

暦「月火ちゃんは、僕の事が嫌いか?」

月火「うん」
33 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:53:51.61 ID:TzjkvvIT0
言い終わるのとほぼ同時に肯定するなよ! 僕の心は不死身じゃねえんだぞ!

月火「というかさ、どうしたのお兄ちゃん。 変じゃない? 頭でも打った?」

暦「打ってないけどさ。 月火ちゃんの様子がおかしいって噂があるんだよ」

主に、僕と火憐の間で。

月火「だ、誰がそんな噂を!」

おお、良いリアクションだ。 大げさではあるけども。
34 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:54:32.03 ID:TzjkvvIT0
月火「でも、月火ちゃんはいつも通りだよ。 お兄ちゃん」

月火「私から見れば、お兄ちゃんの方が断然変だと思うけど、どう?」

どう? って言われてもな。 自分で自分を変だと分かっている奴は、その時点で変では無いだろうに。

暦「まあ、月火ちゃんがそう言うなら僕は何も言わないけどさ。 何か悩みとかあったら、僕が乗るから相談しろよ」

月火「やっぱりおかしい! お兄ちゃんが変になった!」

暦「大声で人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ! 僕が町内で変人扱いされたらどうするんだ!」
35 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:57:20.90 ID:TzjkvvIT0
月火「それもそうだね。 家の中での行動が外に漏れたら、お兄ちゃん社会的にやばいからね」

暦「んな訳あるかよ。 僕は普通の行動しかしない」

月火「ふうん」

ジト目である。 これでもかってくらい、ジト目。

暦「なんだよ。 僕がいつ、変な行動をしたって言うんだ」

月火「それは物凄く難しい質問だよ。 何でか分かる?」
36 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:58:04.42 ID:TzjkvvIT0
まるで、小学生の子供が悪い事をした時に怒られている感じ。 自分で気付く様に、質問で返してくるのだ。

ちなみに、僕はそれがあまり好きでは無い。 生徒に質問をするその姿勢は、自分では言葉が無いからとしか思えないから。

暦「さあな。 何でなんだ? 月火ちゃん」

なので僕はこの様に返す。 さあ、迷え。

月火「それはね、お兄ちゃんがいつ如何なる時でもそんな行動を取っているからだよ。 朝起きたら胸を揉む。 勉強に飽きたら妹の歯を磨きながら押し倒す。 夜は寝ている妹にキスをする。 お風呂を覗く」

月火「二十四時間、お兄ちゃんは変な行動を取っているんだよ? 理解できる?」
37 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:58:32.80 ID:TzjkvvIT0
説明されてしまった。 見事に質問に答えられてしまった。

だけど、反論の余地が無いって訳でもない。

暦「待て、月火ちゃん。 それは間違っているぞ」

暦「さすがの僕でも、寝ている時は変な行動をしていない。 それは断言できる」

言ってから、自分の普段の行動が変だと認めている事実に気付いた。

おのれ月火、はめやがったな……やりおる。
38 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:59:10.87 ID:TzjkvvIT0
月火「確かにそうかもね。 でも夢の中でどうせ変な行動を取っているんでしょ」

暦「僕の夢の中の行動まで決め付けるなよ!」

月火「普段の姿勢を治さなきゃ、それは無理な話だよ。 お兄ちゃん」

うぐぐ。

言いたい放題言いやがって、このチビが。

胸揉むぞコラ。

いや、やめておこう。 僕のあらぬ噂が広まっても困るし。
39 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 13:59:46.08 ID:TzjkvvIT0
だけど、僕だって言われっぱなしでは気が済まない。

暦「分かった。 分かったぜ、月火ちゃん」

暦「月火ちゃんが言いたいのは、僕の普段からの行動だろ? なら、それを治せばお前は僕に平伏すと言う訳だ」

月火「いや、平伏すなんて一言も言ってない」

暦「とにかく、僕はもうお前がさっき言っていた様な行動は取らない。 阿良々木暦を舐めるなよ!」

月火「へえ。 まあ、お兄ちゃんがそう言うなら、私は応援させてもらうよ」
40 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:00:22.78 ID:TzjkvvIT0
月火はそう言い、ペチペチと、とても力の抜けた拍手をする。

暦「おう。阿良々木暦は今日、この時から生まれ変わるんだ」

暦「それじゃあ僕はお風呂を洗うついでに、一風呂浴びてくるけど、月火ちゃんも一緒に入るか?」

月火「宣言した次の台詞で早速駄目じゃねえか!」

月火の貫手が腹に刺さった。 見事なツッコミだ。

でも、なんか割りとマジで痛い。
41 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:00:54.77 ID:TzjkvvIT0
暦「お、おい……お前、いつからそんな腕を上げたんだよ……」

月火「お兄ちゃん対策に、火憐ちゃんから毎日教わってるんだよ」

暴力姉妹かよ、勘弁してくれ。

てか、ただでさえ切れやすい月火に火憐の力が加わったら、それこそ手に負えないんだけれど。

暦「ぼ、僕はもう駄目だ……月火ちゃん、風呂作りは任せたぞ……」

と言ってその場に倒れ込む。 月火を見習ってオーバーリアクション。
42 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:01:39.82 ID:TzjkvvIT0
月火「さり気無く私に仕事を押し付けないで。 ほら、さっさと起きろお兄ちゃん」

そう言いながら、僕の顔をぐりぐりと踏み躙る月火。

今更だけど、こんな光景を第三者が見たらどう思うのだろうか。

妹に顔を踏まれる兄。

まあ、第三者が見る余地は無いからいいか。

等と考えている間にも、月火は未だにぐりぐりと僕の顔を踏みまくる。

それはもう、押し潰すと言った方が正しいのかもしれない。
43 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:02:12.62 ID:TzjkvvIT0
暦「踏みすぎだろ! お前はどんだけ兄の顔が踏みたいんだよ!」

月火「あ、ごめんごめん。 踏みやすい形だったから」

暦「兄の顔を踏みやすいと表現すんなや!」

全く、お前の方がよっぽど変じゃねえか。

てか、これはふと思った事なのだが、妹にぐりぐりと顔を踏まれるのも、それはそれで。
44 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:02:42.41 ID:TzjkvvIT0
閑話休題。

暦「んで、話を戻すけど月火ちゃん」

月火「はいはい。 というか、まだ続けるの?」

暦「当たり前だ。 月火ちゃんが変っていう話は、まだ終わらない」

月火「私が変、ねえ」

月火「というかさ、お兄ちゃん。 さっき噂になっているとか言っていたけれど、誰から聞いたの?」
45 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:03:20.06 ID:TzjkvvIT0
暦「ん? 火憐ちゃん」

月火「あの野郎」

暦「おい、今なんて言った」

月火「あ、なんだぁ。 火憐ちゃんかぁ」

今、火憐の事をあの野郎呼ばわりしたよな!? すげえ普通にスルーされたけどさ!
46 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:03:46.65 ID:TzjkvvIT0
月火「うーん。 別に私はそう感じないんだけど、具体的に言うとさ、どこら辺が変なの?」

暦「火憐ちゃんが言うには、僕を朝起こしに来るときに乗り気じゃないとか、そんな事を言ってたな」

月火「……はあ」

うわ、すげー呆れた感漂う溜息。

月火「そりゃーそうでしょ。 お兄ちゃん、朝全然起きないじゃん。 そりゃあ、さすがの私でも飽きるよ」

飽きたとか飽きないとかの問題だったのかよ。
47 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:05:29.61 ID:TzjkvvIT0
暦「そんなもんか?」

月火「そんなもんだよ」

暦「でも……」

とは言った物の、これ以上なんて言えば良いのだろうか。

確かに、月火と話す限り、こいつはいつも通りだ。

僕が心配し過ぎなのだろうか?

ううむ。

でも、火憐の事もあったので慎重に動かないとなぁ。
48 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:05:58.17 ID:TzjkvvIT0
暦「まあ、いいか。 とりあえず月火ちゃん」

暦「何か些細な事でもいいからさ、相談とかあったら言ってくれよ。 いつでも乗ってやるから」

月火「やっぱ、お兄ちゃんの方が変だよ。 いつもだったら絶対そんな事言わないのに」

暦「はは、かもしれない」

月火「ま、お兄ちゃんがそう言ってくれるなら良いけどさ。 それより大丈夫なの?」
49 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:06:26.51 ID:TzjkvvIT0
暦「大丈夫? 大丈夫って、何が?」

月火「いやいや……」

月火はそう言いかけ、何かを思いついた様に再び口を開く。

月火「そうだお兄ちゃん、今日ちょっと出掛けるんだけどさ、何か買ってくる物とかある?」

あ? すげえ急に話題が変わったな。

暦「いや、別に無いけど……つうか月火ちゃん、そのお出掛けって」

暦「まさか、あいつか。 あの月火ちゃんのストーカー」
50 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:07:02.60 ID:TzjkvvIT0
月火「蝋燭沢君の事を言っているなら、あの人はストーカーじゃないからね」

月火「それに、今日は一人だよ。 火憐ちゃんには内緒なんだー」

暦「へえ、珍しいな。 火憐ちゃんと別行動なんて」

月火「服を見に行くんだよ。 火憐ちゃんと一緒でも良いんだけれどさ。 火憐ちゃんって、あれじゃん」

あれじゃん。

ジャージじゃんって事だろうな、きっと。
51 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:07:30.31 ID:TzjkvvIT0
暦「確かにそれもそうだな。 月火ちゃんと違って、あいつは女の子っぽくないからなぁ」

月火「ま、まあ。 そうかもね」

なんだ? 月火の奴、急に嬉しそうな顔をして。

良く分からねー奴だな。

暦「つか、なんで急にそんな話題になったんだよ。 前後の繋がりが無いぞ」

月火「ああ、そりゃそうだよ。 お兄ちゃんをここに引き止めるために、話題を変えたんだから」
52 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:08:11.34 ID:TzjkvvIT0
暦「僕を引き止める為に? はは、なんだ月火ちゃん。 僕とそんなに話していたいのか」

月火「当たり前じゃん。 私、お兄ちゃんの事大好きだからさぁ」

おお、デレ月火。

暦「仕方の無い奴だなぁ。 おし、もうちょっと話に付き合ってやるか!」

と、なんかうまい事乗せられている気もしなくも無いが、僕はソファーへと座る。
53 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:08:45.40 ID:TzjkvvIT0
月火「そうしたいのは山々なんだけどさ、お兄ちゃん」

月火「それはもう無理みたいなんだよ、残念ながら」

暦「無理? どういう意味だよ」

月火「いやぁ。 だってほら、火憐ちゃん帰ってきたみたいだし」

そう月火が言った直後、玄関の扉が開く音がする。
54 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:09:13.01 ID:TzjkvvIT0
「たっだいまー! いやあ、兄ちゃんが風呂を作ってくれるって言うから、ついつい走り込んじまったな!」

「おっふろおっふろー。 沸いてねえじゃん!!」

と。

一人元気な妹である。

暦「あの、月火ちゃん」

月火「なあに、お兄ちゃん」
55 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:09:38.42 ID:TzjkvvIT0
月火はそれはもう、心底嬉しそうな顔をしていた。

始めからこれが狙いか、こいつ。

暦「……いや、お前を責めるのは違うな。 悪いのは忘れていた僕の方だ」

月火「ほう、潔いね」

暦「だけど、この恩は仇として必ず返すぜ」

月火「恨み深いね」

暦「それじゃあ、火憐ちゃんに殴られてくるとしよう」

月火「かっこいいね」
56 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:10:10.89 ID:TzjkvvIT0
くそう。

見事嵌められたと言った所だろう。 僕は多分、あの妹には敵わない。

見た目はキュートなのに、腹黒いったらありゃしないからな。

それに加え、頭の回転もやけに早いし、とにかく厄介である。

しかし。

それはそうと、月火の奴はそんな悩みなんて無い様子だったなぁ。
57 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/27(土) 14:10:44.16 ID:TzjkvvIT0
火憐の勘違いだったのだろうか?

まあ、今はまだ分からない。 でも、何かが起きるとするならば、そろそろだろうか。

警戒するに越した事は、無いかな。

それより、今は火憐の怒りをどうやって鎮めるかを考えなければ。

そんな目先の危険を感じながら、僕は月火に見送られ、風呂場へと向かうのだった。


つきひドッペル 開始
62 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:41:43.55 ID:HUGyear60
暦「なあ、これどういう状況なんだ」

火憐「さあ?」

本人達でさえ、分からない状況。

いや、分かろうとしない方が良いのかもしれない。

それもそう、僕と火憐は何故か一緒に風呂に入っていたのだ。
63 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:42:10.39 ID:HUGyear60
暦「しかも、何で僕は服を着て風呂に入っているんだよ」

理由は勿論分かるが、当てつけみたいな物である。

火憐「あたしに言われてもな」

そして、正確に言えば風呂に入っている訳では無い。

火憐がシャワーを浴びている間、風呂桶を掃除し、沸かしているのだ。

ここまで説明すれば、分かっていただけただろうか。
64 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:42:38.90 ID:HUGyear60
つまり。

あの後、僕は火憐に急いで「今から風呂沸かすから、ちょっと待ってて。 あはは」と、うっかりしちゃってた、てへ。 みたいな感じで言った所、火憐はこう返したのだ。

「仕方ねえな。 でも、汗が気持ちわりいし、シャワー浴びてる間にやってくれよ」

と。

なるほど。

それはかなり生産的な考え方である。 同時進行とは。

で、この状況って訳だ。
65 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:43:07.04 ID:HUGyear60
火憐「それはそうと、兄ちゃん」

暦「ん?」

火憐「こう、こっちでシャワーを使っている時にそっちでお湯を出されると、水圧が弱くなるんだよな」

暦「仕方ないだろ。 同時進行にも、メリットだけある訳じゃないんだし」

火憐「なんとかならねえのかな」

暦「そんな方法があったら、今すぐやってる」

火憐「だよなぁ。 ま、いいや」

何だったんだ、この会話。
66 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:43:44.10 ID:HUGyear60
暦「まあさ、もうすぐでこっちは終わるから、後少しだけの辛抱だ」

火憐「あいあい」

てか。

滅多な事は口にする物じゃねえよな。

「風呂を作っておいてやる」なんて言わなければ、こんな事にはならなかったのに。

暦「しかし、服を着たまま風呂に入るってのも、なんかあれだよなぁ。 変な感じだよ」

火憐「んだよ、じゃあ脱げばいいじゃん」

暦「おいおい、一緒に入れってか? 僕も火憐ちゃんも、小さい子供じゃねえんだぞ」
67 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:44:27.48 ID:HUGyear60
火憐「別に嫌ならいいぜ。 兄ちゃんがぐだぐだ言うからなんだしさー」

暦「まあ、脱ぐけど」

火憐「おう、そうこなくっちゃ」

なんか気持ち悪い!

あれだ。

僕がボケても、火憐はそれに上乗せする感じでボケてくるので、なんか変な感じなんだ。

つまり、ボケとボケじゃ何も生まれない。

だけど、もう服は脱ぎ捨てたので僕の方はボケでは無いのかもしれないが。
68 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:44:54.72 ID:HUGyear60
暦「とかやってる内に、風呂沸いたぜ」

火憐「さすが、風呂沸かしの兄ちゃんだな!」

暦「なあ、それ褒めてるの? 僕にはとてもじゃないが、良い意味には聞こえないんだけれど」

火憐「褒めてるに決まってるじゃん。 あたしが兄ちゃんを褒めなかった事なんて、無いぜ」

いっぱいあると思うけどなぁ。 もしかしたら、火憐は一日一日で入れ替わっているのかもしれない。 そう考えると、間違いではないか。

暦「てか、沸いたと同時にシャワーが終わってたら、あんま意味無かったな」

火憐「良いって良いって。 結果オーライだぜ、兄ちゃん」

暦「お前、結果オーライってなんとなくで使ってるだろ」
69 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:45:28.17 ID:HUGyear60
さて。

火憐が湯船に入るのを見届け(決して、変な意味ではない)僕はシャワーを浴びる事にする。

もう風呂は沸いてるおかげもあり、シャワーの水流はいつも通りだ。

なんだか得をした気分である。 湯船を掃除していた事実がある限り、そうとは言えないのかもしれないが。

火憐「うひー。 やっぱ、兄ちゃんが沸かした風呂は気持ち良いな!」

暦「火憐ちゃんが好きな温度と、僕が好きな温度が一緒だしな。 それもそうだろ」
70 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:46:16.22 ID:HUGyear60
火憐「違う違う。 気持ち的な意味でだよ」

火憐「兄ちゃんが沸かした風呂は、正義の風呂って感じなんだ」

どんな風呂だよ! 浸かればどんな事が起きるのか気になるけどな!

火憐「兄ちゃんの心にも、正義の炎は宿っているし」
71 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:46:46.74 ID:HUGyear60
暦「なんだよそれ。 僕は別に、ただ適当に掃除して、適当に沸かしているだけだ」

火憐「ふーん。 それにしては、随分と熱くて良い感じだぜ」

暦「だからそれは温度の問題だろうが!」

火憐「いや、正義の問題だろ?」

やべえ、言葉が通じない人と会話している気分だ。

それも、ただ単に言語の問題ではない。 意思疎通さえ困難である。 例えて言うならば、人間じゃない何かと話している感じ。
72 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:47:15.72 ID:HUGyear60
暦「さて、僕はそろそろ上がるぞ」

髪も体も洗い終わったし。

火憐「ん? 湯船に浸からないの?」

暦「いやいや、だってお前入ってるじゃん。 月火ちゃんならまだしも、火憐ちゃんとはさすがに入れねえよ」

火憐「月火ちゃんとなら入るのかよ!?」

暦「違う! 例え話だ!」

暦「別に火憐ちゃんと入るのが嫌って訳じゃなくて、うちの湯船狭いじゃん。 二人は入りきらねえよ」

暦「月火ちゃんサイズなら大丈夫だけど、火憐ちゃんサイズだと厳しいからな」
73 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:47:43.66 ID:HUGyear60
今にも殴らんばかりの勢いで身を乗り出していた火憐は、それを聞き、やっとさっきまでのリラックスモードに戻る。

火憐「なんだ兄ちゃん。 そうならそうと最初に言えよ」

暦「いや最初に言ったけどもな?」

火憐「そうだっけ?」

火憐「いや、でもさ兄ちゃん。 体を小さくすれば入れない事もねえよ?」

暦「そりゃそうだろうけどさ。 そんな無理に入る必要もねえだろ」

暦「湯船は広々と入りたいんだよ、僕は」
74 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:48:13.64 ID:HUGyear60
火憐「うーん。 ま、いいや」

ま、いいやで済ますなら、最初から絡んでくるなよ。 ほんと。

火憐「あーそうだ。 それは良いとしてさ、兄ちゃん」

暦「ん? 今度は何だ」

火憐「さっき、月火ちゃんと話してたんだろ? どうだった?」

火憐が湯船から少しだけ身を乗り出し、尋ねてくる。

暦「ああ、月火ちゃんの様子が変って奴か?」

火憐「そうそう」
75 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:48:40.41 ID:HUGyear60
暦「んー。 僕が話す限り、特に変だとは思わなかったけどなぁ」

火憐「ふうん……でもいつもと違う様な気がしたんだけど」

暦「そんな時もあるんじゃね? まあ、とりあえずはいつも通りだと思うぜ」

火憐「そっか。 んじゃあ、あたしの気のせいだったのかもな」

気のせい……か。

本当にそうだとして、何事も無ければいいんだけれど。
76 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:49:11.30 ID:HUGyear60
暦「そうだな。 それが一番良いんだよ」

暦「つってもさ、火憐ちゃん」

暦「もし、また気になる様な事があったら、言ってくれよ」

火憐「りょーかい。 月火ちゃんを監視していればいいんだな」

暦「監視って言うと、すげえ聞こえが悪いけどな……」

火憐「んじゃあ、観察か?」
77 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:49:42.64 ID:HUGyear60
暦「うーん。 それもまた微妙じゃないか?」

火憐「それなら、どんな言い方ならいいんだよ!」

切れるなよ! 月火並みの切れやすさだぞ、それ。

暦「そうだなぁ。 見守るって言い方が一番じゃね?」

火憐「……なるほど。 見守るか。 確かにそうかも」

火憐「さすが兄ちゃんだぜ」

疲れるなぁ。 こいつの相手。
78 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:50:11.79 ID:HUGyear60
火憐「よしよし。 んじゃあ、そんな兄ちゃんにサービスだ」

暦「あ? サービス?」

火憐「おう」

火憐はそう言うと、湯船からあがり、僕の方へとぐいぐい歩いて向かってくる。

ぐいぐいって言うよりは、ドシンドシン。

いや、そんな言い方は駄目か。 火憐も一応は女子なのだから。

とにかくこう……僕に圧力を掛けるような、そんな感じ。
79 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:50:52.95 ID:HUGyear60
暦「え、ええっと。 火憐ちゃん?」

火憐「うりゃ!」

投げられた。 投げて湯船に放り込まれた。

しかも、頭からである。 普通に危ない。

暦「ちょ、ちょっと火憐ちゃん!!」

しかし、投げた後の僕を止める事はさすがの火憐でも出来ず、頭から着水する羽目となったのだけれど。

いや、本当にもう冗談じゃなく、溺れそうになった。
80 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:51:24.09 ID:HUGyear60
暦「お、お前! 何してんだよ!」

暦「危うく家の風呂で溺死する所だったじゃねえか! 大事件だぞ!」

妹に投げられ、兄が溺死。 それも自宅の風呂場で。

そんな紙面が世に出たら、笑い話も良い所だ。

火憐「よっと」

湯船の中から抗議する僕を無視し、火憐も湯船に入ってくる。

火憐「いやー。 さすがに狭いな!」
81 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:52:06.63 ID:HUGyear60
暦「ちょっと待て、待てよ火憐ちゃん。 これは何だ? どういう状況だ?」

火憐「だから、サービスだって言ったじゃねえかよ。 あたしと一緒に湯船に入れるなんて幸せだろ?」

暦「百歩譲って、百歩所じゃねえけどな? そうだとしてさ、僕を投げる必要があったか?」

火憐「んー。 特に無いかな?」

暦「意味も無く人を投げるんじゃねえよ!」

火憐「いやいや。 だって兄ちゃんさ、投げやすい体系してるじゃん」

してるじゃんって何だよ。
82 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:52:35.38 ID:HUGyear60
僕は一度も望んで無いからな、そんな体系。

そういや、朝は月火に「踏みやすい顔をしている」とか言われた気がする。

お前らにとって、僕は何なんだよ。

暦「……まだ昼前だけど、既に疲れ果てた」

火憐「体力ねえなぁ。 あたしはまだまだ大丈夫だぜ」

暦「火憐ちゃんと一緒にするんじゃねえ」

暦「それに、僕が言っているのは精神的な意味でだ」
83 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:53:41.75 ID:HUGyear60
火憐「あ、そうそう」

火憐「今日、兄ちゃん出かけるんだっけ?」

えー。 どんだけ話変わってるんだよ。 すげえ自由奔放だな。

暦「ああ、昼過ぎくらいからちょっとな」

その話題転換に付いていける僕も、案外捨てた物では無いのかもしれない。

火憐「えーっと、誰だっけ。 確か友達だっけ?」

暦「そんな感じになるのかなぁ……」
84 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:54:11.81 ID:HUGyear60
と言うのも、今日は忍野と会う予定だったのだ。

前に言っていたご飯を奢る約束。 である。

僕はすっかりと、なあなあになるのを期待していたのだが、意外とあのアロハのおっさんはその辺りの事はしっかりとしているらしい。

火憐「そっかぁ。 じゃあ今日はあたしと月火ちゃんで留守番か」

暦「いや、月火ちゃんも出掛けるって言ってたな。 何でも服を買いに行くらしいぜ?」

火憐には内緒とか言っていたけど、ついつい口が滑ってしまった。

ごめんな、月火。
85 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:55:00.63 ID:HUGyear60
火憐「あー、そうなんだ。 んじゃあたし一人で留守番かよ」

暦「何だよ、月火ちゃんは火憐ちゃんに来て欲しがってたけど、行かないの?」

僕は月火の先程の言葉を月火の激しいツンデレであると思う。

そう解釈し、告げる事にした。

感謝しろよ、月火。
86 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:57:55.07 ID:HUGyear60
火憐「月火ちゃんが? あたしが行くといっつも機嫌悪くなるんだけど、良いのかな」

暦「機嫌が? それは初耳だけど」

火憐「うん。 大体いつも、家に帰ってから兄ちゃんの部屋を漁ってストレス発散してるぜ」

暦「なんで僕が一番被害にあってるんだよ!」

阿良々木家に限定すれば、僕は多分、一番可哀想な奴だろう。

だよね?
87 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:58:38.38 ID:HUGyear60
火憐「どうすっかな。 月火ちゃんがそう言っているなら、付いて行こうかなぁ」

暦「いや、僕の勘違いだったかもしれない」

火憐「なんだ、そうなのかよ?」

暦「ああ」

月火はやはり、敵に回しては駄目だ。

火憐「んー。 じゃあ今日はあたし一人か。 暇になっちまったな」

暦「暇ならどっか走って来いよ。 てか、火憐ちゃんが出かけないって事の方が珍しいんだけど、今日は一日家にいる予定なのか?」
88 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:59:16.93 ID:HUGyear60
火憐「たまにの休憩って奴だよ、兄ちゃん。 ずっと動いているのも体に悪いし」

暦「なるほど。 んじゃあ暇人って訳か」

火憐「まあ、そうなるな。 それがどうかしたのか? 兄ちゃん」

暦「いや、それならさ。 僕も月火ちゃんも用事が終わって帰ったら、久し振りに、三人で何かして遊ぶかなって思ったんだよ」

火憐「おお。 良いじゃん良いじゃん。 あーそーぼーぜー」

暦「今日だけだからな。 僕が出かけてる間に、何するか考えとけよ」

火憐「へへへ。 あたしの中ではもう決まってるんだな、これが」
89 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 14:59:44.01 ID:HUGyear60
うわあ、すげえ笑顔だ。

多分、自分の考えた遊びに自信があるのだろう。

その自信は僕の不安に直結するんだけども。

暦「……期待せずに聞いてあげよう」

火憐「肩パンだ」

お前はどこのヤンキーだよ。
90 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:00:10.80 ID:HUGyear60
暦「それもう、火憐ちゃんがいる時点で、僕と月火ちゃんに対するいじめでしかねえからな?」

火憐「そうか? じゃあじゃんけんでもするか!」

暦「単純に遊びでじゃんけんをする奴なんて、小学生以来見たことねえぞ」

火憐「他に遊びなんて無いだろ。 ならどうしろって言うんだよ」

暦「遊びのバリエーション少なすぎんだろ!」

火憐「よっし。 じゃあ兄ちゃんに全て任せよう」

丸投げかよ。 まあ、最初から火憐には期待していなかったけどさ。
91 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:00:44.72 ID:HUGyear60
火憐「んじゃあ、あたしはそろそろ出るぜ。 兄ちゃん、風呂サンキューな」

ああ、そういや僕と火憐は風呂に入っていたのだった。

ついつい話し込むと、僕が今何をしているのかさえ忘れそうになる。

怖い怖い。

と、ここでついつい言わなくても良い事を言ってしまう。

あれだ、気付いたら口が勝手に動いていた、みたいな。
92 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:01:12.25 ID:HUGyear60
暦「なんだよ火憐ちゃん。 もうギブアップか?」

僕が火憐の背中にそう声を掛けると、火憐は当然立ち止まる。

火憐「ギブアップ? 兄ちゃん、それはどういう意味だ」

火憐から何かオーラの様な物が立ち上がる。 幻覚だろうけど。

暦「いやいや、さすがの火憐ちゃんでも湯船に浸かる時間は僕より短いんだな。 って思っただけさ、ただの感想だよ」

火憐「ああん?」

火憐「なんだ兄ちゃん、あたしが負けって言いたいのか?」

暦「うん。 まあ人それぞれ、得意不得意なんてあるしな。 火憐ちゃんが僕より我慢強くないってだけの話だよ」
93 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:01:38.59 ID:HUGyear60
挑発挑発。

この挑発に、火憐が乗ってこない訳がない。

火憐「よし、良いぜ。 その勝負受けて立つ!」

火憐はそう宣言すると、その場でくるりと体を回転させる。

火憐「先に根をあげた方が、逆立ちして一日過ごすでいいか?」

なんだよその罰ゲーム。 めっちゃ僕に不利じゃん。

暦「おう、良いぜ」

まあ、負けたら破ればいいだけだし。
94 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:02:10.99 ID:HUGyear60
暦「というか火憐ちゃん、そうやって時間稼ぎをして、体を冷ましてるんじゃないか? 僕はこうして浸かり続けてるって言うのに」

火憐「じょ、上等だぜ。 今すぐ入る!」

言うや否や、火憐は再び湯船の中に入った。

あー。

なんか自分で言い出した事なのだけど、既に面倒臭くなってきてしまった。

つうか、マジで火憐に付き合っていたら多分、僕はそのまま湯船の中で死ぬ事になるのかもしれない。

まあ、適当に満足したらあがるとしよう。
95 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:02:42.45 ID:HUGyear60

火憐「なあ、兄ちゃん。 これって先に湯船から出た方が負けって事で良いんだよな?」

暦「ん? ああ、そうだな」

火憐「ふむ。 じゃあさ、無理矢理追い出すのは駄目か?」

暦「駄目に決まってるだろ! 絶対僕負けるじゃん!」

絶対と言う辺り、なんか悲しくなってしまう。

火憐「そうか……おっけー。 じゃあ、殴ったり蹴ったり投げたりとか、暴力的な奴以外なら良いって事だよな?」

暦「あ? まあ、そうかな」

何だろう。 火憐から暴力を取ったら、何も残らないのではないだろうか。
96 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:03:22.27 ID:HUGyear60
火憐「にっしっし。 分かったぜ、兄ちゃん」

暦「分かったって、何が?」

火憐「つまりはこうだ!」

火憐はそう言うと、すぐ隣に居る僕に抱きついてきた。

火憐「うりうりうりうりうり!」

抱きつくと言うよりはしがみつくと言った方が正しいか。 いや、そのしがみつくでさえ、絞め技の様にがっちりホールドされてしまっているのだけれど。
97 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:03:49.26 ID:HUGyear60
暦「やめろ! 火憐ちゃんマジでやめろ!! お前裸だし僕も裸なんだぞ!」

火憐「んだよ。 妹の裸に欲情してんのか?」

暦「する訳ねえだろ! 気持ち悪いって言いたいんだよ僕は!」

火憐「良いじゃん良いじゃん」

暦「よくねえよ! つうか体全く動かねえんだけど、首から下が全く動かないんだけど!?」

火憐「嫌なら降参するんだな! その方が身の為だぜ」

身の為って言葉がここまで真実味を帯びていると、マジで恐ろしい。

暦「分かった。 分かった火憐ちゃん、僕の負けだ。 今すぐ出て行くから離してくれ」
98 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:04:23.76 ID:HUGyear60
火憐「おう。 でも抱き心地がいいからもうちょっとしたらな」

結局このままじゃねえかよ! 負け損だ!

暦「それまで僕の身が持ちそうにねえよ! やめてくれ!」

火憐「後少しだけだからさー。 良いじゃん」

なんで朝から妹と二人で風呂に入って、挙句の果てに抱きつかれてるんだよ僕は!

こんな場面を誰かに見られたら、あらぬ誤解を受けそうである。

んで、そんな事を考えた時点で、オチは決まっていたのだ。
99 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:04:49.44 ID:HUGyear60
ガラガラと。

風呂の扉が開く。

月火「あ?」

声の発信源を見ると、風呂に入りに来たであろう月火が居た。

恐らく、阿良々木家で一番風呂好きなのは月火である。

そうだ、こいつまだ家に居るんだった。

月火が家に居ると言う事は、つまり風呂に来る確率がかなり高いのだ。

これは今日最大のミスになりそうである。

それに対する僕は。
100 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:05:27.01 ID:HUGyear60
暦「……」

蛇に睨まれた蛙状態。 首から下だけでなく、もはや首から上も動かす事が出来なかった。

火憐「お、月火ちゃんじゃん。 一緒にはいろーぜー」

対する火憐は怖い物知らずと言った所か。

火憐のそんな性格は素直に羨ましい限りなのだが、これから起きるであろう事を考えると、あまりそうは思いたくない。

月火「十……九……八」

月火が謎のカウントダウンを始める。
101 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:05:54.84 ID:HUGyear60
いや、謎では無い。 僕には分かる。

多分あれだ。 これは十秒以内に状況説明をしろという、死刑へのカウントダウンなのだ。

火憐「あれ、月火ちゃん怒ってるのか? 兄ちゃん」

さすがの火憐も状況を理解できたのか、少しだけ冷や汗を掻きながら僕に問う。

暦「……ぼ、僕に聞くな」

よ、ようやく喋れた。

月火「三……二」

マジかよ、後二秒しかねえじゃん。 無理だろ。
102 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 15:06:29.65 ID:HUGyear60
暦「つ、月火ちゃん! 落ち着け!」

月火「あうとー」

アウトだ。 僕が喋った瞬間、アウトになってしまった。

てか、火憐の奴はいつまで抱きついているんだよ。 それが月火の怒りを更に加速させているだろうに。

とにかく。

こうして、僕と火憐の勝負は引き分けとなったのだった。


第三話へ 続く
107 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 23:58:18.32 ID:HUGyear60
暦「なあ、これどういう状況なんだ」

前回と全く同じ出だしである。

月火「何か言った?」

暦「……いえ」

なんで僕は火憐の次に、月火とお風呂に入っているのだろうか。
108 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 23:59:02.50 ID:HUGyear60
暦「つ、月火ちゃん。 僕、そろそろあがりたいんだけど」

月火「火憐ちゃんとはお風呂に入れて、私とは入れないって事かな? お兄ちゃん」

体を洗いながら、僕の方を睨む月火。

暦「いえ。 そんな訳ありません」

月火「そう。 じゃあまだ入っていられるね」

どうやら、月火と入浴する事を断る権利は僕には無いみたいで。
109 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/28(日) 23:59:31.04 ID:HUGyear60
月火「ふう」

そう溜息を付き、髪と体を洗い終わった月火が湯船に入ってくる。

勿論、僕も入っている訳だけども。

火憐は僕よりもでかいだけあり、それはもうかなりきつかったのだが、月火は体が小さいので、大分余裕があるのがせめてもの救いだろう。

月火「んでさ、お兄ちゃん。 さっきのあれはどういう状況?」

月火が横に居る僕に向け、笑顔でそう訊いてくる。

……ここからはどうやら、尋問タイム。
110 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:01:03.40 ID:ZvhKwyms0
暦「いや、火憐ちゃんと勝負しようってなってさ、それでなんか成り行きで……」

月火「どうせ、火憐ちゃんに押し切られたんでしょ。 お兄ちゃんの事だしさ」

月火は僕の顔をじっと見つめる。

押し切られたって。 ちょっと言い方を変えて欲しいな。

暦「……まあ、そうなります」

月火「ふーん」

ん?

なんだか月火、不機嫌?
111 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:01:57.57 ID:ZvhKwyms0
月火「ま、仕方ないかぁ」

月火「火憐ちゃんもあれで、お兄ちゃん大好きだからねぇ」

あれ? そこまで怒っていないのか?

てっきり、顔面パンチでもされるのかと思ったけど。

暦「ん? 火憐ちゃん『も』って事は、月火ちゃんもなのか?」

月火「はあ!? そんな訳無いじゃん! 妹とお風呂に入るお兄ちゃんなんて死んだ方がマシだ!」

じゃあ死ねよ! 今入ってるじゃねえかよ!

一緒に入ろうって言ったのお前だからな!? その理論だとお前も一緒じゃねえかよ!
112 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:02:36.66 ID:ZvhKwyms0
とは思っても、口には出さない。

今出したら、多分殴られるから。

暦「いや、まあそれは良いとしてさ」

暦「もしかして、今回は月火ちゃんとお風呂で話して終わりなのか?」

月火「そうだよ。 火憐ちゃんと仲良くお話して、私とのお話はすぐに終わるなんて、許せない」

マジかよ。 話進まなくね?

正直な話、僕は雑談するならいつまででもしてて良いんだけど、それで良いのだろうか。
113 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:03:31.42 ID:ZvhKwyms0
月火「それに、私はお兄ちゃんに聞きたい事があるんだ!」

暦「僕に? いいぜ月火ちゃん、何でも答えてやろう」

てっきり、何でもない普通の質問が来るのかと思った。

いや、それ自体は普通の質問なのだろうけれど。

月火「お兄ちゃん、幽霊とかって信じる?」

僕はそれを知りすぎていた。
114 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:04:32.12 ID:ZvhKwyms0
暦「ゆ、幽霊……? えっと月火ちゃん、月火ちゃんは信じているのか?」

月火「私かぁ。 うーん。 半分半分って感じかな」

まず、月火が言う幽霊とは何を指しているのだろうか?

ただ単に、本当に単純な意味での幽霊ならば、ここまで気にする事も無いのだろうけど。

暦「半分半分か。 って事は、多少は信じているんだな」

月火「まあ、そりゃねぇ。 それっぽいの見ちゃったし」

今、何て言った。

それっぽいのを『見た』だと?
115 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:05:05.89 ID:ZvhKwyms0
暦「月火ちゃん! 見たってのは、どんなのだったんだ!?」

横に座る月火の肩を掴み、問い質す。

月火「え、えっと。 お兄ちゃん? どうしたの、急に」

月火は少々驚きながらも、僕に笑顔を向けてくる。

笑顔というかは、苦笑い。

暦「あ、ああ。 悪い」
116 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:05:54.97 ID:ZvhKwyms0
月火「やっぱり、今日のお兄ちゃんは変だよ。 急に大声を出す変人だよ」

暦「ただの危ない人じゃねえかよ!」

月火「え、違うの? お兄ちゃん、自覚無かったんだね……」

やめろ! そんな悲しそうな目を実の兄である僕に向けないでくれ!

月火「えっと、ああ。 幽霊のお話だったよね」
117 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:07:45.73 ID:ZvhKwyms0
月火「私が見たのは、遠目だったから良く分からなかったけどさ。 お兄ちゃんに良く似た人が、小さい女の子に抱きついたりキスしたりしてる場面だったんだ」

月火「まあ、いくらお兄ちゃんが変人だとしても、そこまでするとは思えないし」

月火「お兄ちゃんがそんな事をするとは思いたくもないから、良く似た人なんだろうけど」

僕の方へ顔を向け、首を傾げ、笑顔。

ってか、八九寺じゃねえかよそれ! そして、その良く似た人ってのは僕じゃねえか!
118 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:08:13.78 ID:ZvhKwyms0
暦「ははは」

見事な乾いた笑い。 僕も普段の行動を省みなければ。

そういえば、火憐もそんな話をしていたっけかな。 歯磨きした時に。

……少し、自重しよう。

だけど。

ふと、ここで気になる事が一つ。
119 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:09:06.90 ID:ZvhKwyms0
暦「……ん? でも、それがどうして幽霊だって思ったんだ?」

月火「いや、それが私にも良く分からないんだよね。 なんとなーく「あれ、幽霊かな?」って思っただけでさ。 だから半分半分って訳」

暦「ふうん……」

一応の予測を立てるとするならば。

恐らく、月火は不如帰として、八九寺の正体に気付いたのだろうか? 無意識の内に、自らと同じ『怪異』だと判断して。

月火「それで、最初の質問に戻るけど、お兄ちゃんは幽霊って信じる?」

暦「僕か……僕は、どうだろう」
120 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:09:56.56 ID:ZvhKwyms0
暦「信じているって言うよりは、知っているになるのかな」

知っているし、関わってしまっている。

月火「知っている? なになにお兄ちゃん、ゴーストバスターでも目指しているの?」

暦「はは、かもしれない」

月火「へえ。 私はお兄ちゃんがどんな宗教にはまったとしても、お兄ちゃんの味方だからね。 いつでも頼ってね」

暦「はまらねえよ!」

月火「うんうん」

うわあ、信じていない顔だなぁ。
121 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:10:48.15 ID:ZvhKwyms0
月火「まあ、こんな質問しておいてあれだけどさ、やっぱり見間違いだったのかなぁ。 とは思うよね」

暦「月火ちゃんがそう思うなら、そうなんだろうさ」

月火「今日のお兄ちゃんは、やけに私を肯定するね。 何か裏がありそうだけど」

暦「いやいや、確かに僕には裏があるけれど、その更に裏しかないんだぜ。 つまりは表しかないって事だ」

月火「ごめん、全く意味が分からない」

暦「あはは、月火ちゃんにはまだ早い話だったかな」

月火「大人ぶって誤魔化すんじゃねえ!」

月火の貫手が脇腹に刺さった。 湯船の中だけあり、痛くはないのだが、くすぐったい。

いやあ、やっぱりボケとツッコミが揃うと、会話が弾むな。
122 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:11:15.98 ID:ZvhKwyms0
暦「月火ちゃんは将来、僕に良いツッコミが出来るぜ。 期待している」

月火「なんで私とコンビを組む話になっているのか、理解できないよ」

暦「ああ、だからと言って、今が駄目って訳じゃないからな。 安心しろ」

月火「話聞いて無いし……」

暦「んだよ、嫌なのか?」

月火「私はコンビを組むなら火憐ちゃんしかいないと思ってるから!」
123 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:13:32.25 ID:ZvhKwyms0
暦「お、いいなそれ。 コンビ名も既に持ってるしな、お前ら二人」

月火「ファイヤーシスターズを芸名みたいな扱いにするな!」

暦「テレビで見れる日を楽しみにしておいてやるよ」

月火「やめて! 私と火憐ちゃんをそんな存在にしないで!」

面白いなぁ、こいつ。
124 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:14:23.30 ID:ZvhKwyms0
暦「それはそうと月火ちゃん、話が百八十度変わるが、いいか?」

月火「また急だね……まあ、それに付いていく月火ちゃんだけどね」

暦「おう。 んでさ」

前々から、少しだけ気になっていた事。

暦「月火ちゃんの彼氏って、どんな奴なんだ?」

月火「ぶっ!」

僕がそう聞くと、月火は湯船に顔を沈める。

何してんだ、こいつ。
125 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:15:25.68 ID:ZvhKwyms0
月火「ちょ、何それ百八十度所か、七百二十度は変わってるじゃん!」

十秒ほど顔を沈めた後、ようやく顔をあげた月火は僕に向けてそう言った。

てか、七百二十度って……冷静に考えたら二週してるだけじゃねえか。

暦「兄として気になるんだよ。 月火ちゃんに相応しい奴かどうか」

月火「それは私が決める事だよ! それに、今まで存在すら認めて無かったじゃん!」

暦「別に良いじゃねえか。 僕だって、いつまでもそんな対応していられないしさ」

暦「んで、どんな奴なんだ?」
126 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:16:37.05 ID:ZvhKwyms0
月火「うー。 どんな奴って言われても……」

なんだよ、一丁前に恥ずかしがりやがって。

月火「顔は、まあ、普通……かな」

へえ。

暦「へえ」

月火「性格は、うーん。 良い人だよ」

へええ。

暦「へええ」
127 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:17:05.29 ID:ZvhKwyms0
月火「そ、それに、正義感が強い……かな?」

ふむ。

暦「ふむ」

あれ、やべえ。 なんかイライラしてきた。

月火「私の事は大事にしてくれるし」

ほう。

暦「ほう」

月火「……そんな感じの人」

なるほど。

暦「なるほど」
128 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:17:34.17 ID:ZvhKwyms0
暦「えっと、月火ちゃんはそいつの事が好きなんだよな」

月火「……うん」

駄目だ! やっぱり認められねえ! 今すぐ別れろ!!

暦「駄目だ! やっぱり認められねえ! 今すぐ別れろ!!」

おっと、思った事がそのまま口に出てしまった。

直前まで我慢していたのに。
129 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:18:25.15 ID:ZvhKwyms0
月火「もうやだ、このお兄ちゃん」

そんな兄を見て、月火は呆れ顔である。

暦「そんな話を聞かされて、僕はこれからどんな顔を月火ちゃんに向ければ良いんだよ!?」

月火「どんな顔って……今まで通り、変なお兄ちゃんで良いよ。 私はそれを受け入れよう!」

暦「駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。 やっぱりそのストーカー野郎は僕が撲殺する!」

月火「やめて! 私なんかの為に、お兄ちゃんが犯罪に手を染める事なんて無いんだよ!」

月火「お兄ちゃんの手は汚させない……やるなら、私がやる!」

お、月火の奴乗ってきた。
130 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:19:08.22 ID:ZvhKwyms0
暦「妹にそんな役回りをやらせられるか! お前が何と言おうと、僕が始末する!」

月火「……止むを得ないね。 お兄ちゃん、ここは間を取って、二人で一緒にやろう」

暦「くっ……そうだな。 それが最善の策か」

僕の方から振っておいてあれだけど、こんな扱いをされている蝋燭沢君が可哀想である。

いや、撲殺すると言ったのはボケでも無ければ冗談でも無いのだが。
131 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:19:36.85 ID:ZvhKwyms0
閑話休題。

暦「しかしよー。 月火ちゃん」

月火「何かな。 お兄ちゃん」

暦「最近、身の回りで変わった事とかねえか? あ、僕の事は除いて」

こう付け加えておかないと、また話が脱線する気がしてならないのだ。

月火「変わった事かぁ。 うーん」
132 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:20:04.48 ID:ZvhKwyms0
月火「……特に無いよ。 大丈夫」

視線を下に落とし、月火は言う。

暦「そっか。 なら良いんだ」

それが多少は気になったが、一々聞いていては話が進まない所では無い。

月火なら、本当に困っている時なら言ってくれる筈だし。
133 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:20:47.76 ID:ZvhKwyms0
暦「後、くどいけどさ。 悩み事とかあったら相談に乗るから、その時は頼ってくれよ」

月火「ほいほい。 でもさ、お兄ちゃんに相談しても、まともな返答は期待できそうに無いんだけどね」

月火「それに、私の悩みをお兄ちゃん如きに解決できるとは、到底思えないよ?」

暦「お前は僕の事を過小評価している様だな。 火憐ちゃんなんて、僕にしか相談できない体になっているんだぜ」

月火「物凄く変な意味に聞こえるけれど、訂正しなくて大丈夫?」

暦「訂正する。 火憐ちゃんは時々、極稀に、僕に相談してくれる」

月火「期待度が下落したね。 急降下だよ」
134 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:21:22.25 ID:ZvhKwyms0
暦「大丈夫だ、こっから月火ちゃんからの期待度はうなぎ上りになる筈だから」

月火「自信満々だね。 私は坂道を転げる様な速度で落ちると思うけど……いや、ビルから飛び降りる速度って言った方が正しいかな」

暦「すげえ速度だな……だが安心しろ、月火ちゃん。 僕はいつだってお前の味方だ」

月火「はいはい。 分かりましたよお兄ちゃん」

なんだよー。 乗り悪いな。

月火「でもさ、真面目な話だけど」
135 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:22:18.21 ID:ZvhKwyms0
月火「私は今、悩みなんて無いし、無理矢理にでも悩みを作るとしたら、お兄ちゃんの存在だね」

僕の存在を否定か!?

暦「んな事言われたって、僕と月火ちゃんは兄妹なんだぜ。 僕は死なない限り消えてやらねえ!」

月火「ふうん。 私がどんだけ突き放しても? お兄ちゃんが寝る度に、顔を思いっきり殴りつけても?」

怖いな、それ。

暦「……だけど僕は諦めないぜ。 阿良々木暦はそんな事じゃあ諦めないんだ」

月火「予想以上にしぶといね……もっと良い案を考えておくよ」

暦「お手柔らかにな」
136 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:22:56.70 ID:ZvhKwyms0
暦「っと、つうか長風呂しすぎたな。 僕はそろそろ出るけど、良いか?」

月火「はいはい。 私はもうちょっと浸かって行くよ。 お兄ちゃんは今日出掛けるんだっけ?」

暦「野暮用があってな。 夕方には帰ると思うよ」

暦「月火ちゃんも出掛けるんだよな? 帰りはそんな遅くならないだろ?」

月火「うん。 お兄ちゃんよりは早いと思うよ。 火憐ちゃんに一人で留守番させても、不安だし」

……間違いねえな。
137 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:23:40.72 ID:ZvhKwyms0
暦「そっか。 んじゃあ、また後で」

月火「さいならー」

暦「あ、そうだ。 今日の夜、久し振りに三人で何かして遊ぼうって話になってるんだけど、月火ちゃんも参加するよな?」

月火「お、珍しいね。 お兄ちゃんからそんな話があるだなんて。 勿論、参加するよ」

暦「オッケーオッケー。 じゃあ、何やるか考えておいてくれ」

よし、良い感じに丸投げ出来た。

でっかい妹から兄へ、兄からちっちゃい妹へ。

見事な兄妹愛だな、我ながら天晴れだ。
138 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:24:21.52 ID:ZvhKwyms0
月火「なんか丸投げされた感じしかしないけど、りょーかい」

月火「それじゃあ行ってらっさい」

暦「おう。 行ってらっさる」

いやはや、本当に妹と風呂に入るだけで、二話も使ってしまったではないか。

つうか、軽く一時間くらいは風呂に入っていた気がする。 忍野との予定の時間には、多分遅れるだろう。

まあ、忍野だし別に良いけど。

とか、そんな適当な事を考えながら、僕は風呂場を後にするのだった。
139 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:25:05.57 ID:ZvhKwyms0
結局。

僕はやはり馬鹿だから、てんで気付かなかったのだ。

いや、月火の隠し方という物が上手すぎたのかもしれない。

細かく言えば、そりゃあ少しは違う所もあったと思う。

が、それは本当に些細な違い。 その日の体調や機嫌で変わるくらいの、些細な違い。

しかし、やはりこれは僕の責任なのだろう。
140 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:25:52.47 ID:ZvhKwyms0
この時は本当に、思いも寄らなかった。

僕の妹、阿良々木月火が火憐とは違う意味で、僕の事を想っていたなんて、本当に夢にも思っていなかった。

火憐の事がひと段落したので、気が抜けていたのかもしれない。

しかし、あまりにも初歩的なミスはあった。

僕はすっかり忘れていたのだ。

阿良々木火憐と阿良々木月火。

この二人は、良くも悪くも二人でワンセットなのだと。
141 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:26:37.50 ID:ZvhKwyms0
片方が厄介ごとに巻き込まれたら、もう片方も厄介ごとに巻き込まれるのだと。

なんて。

今更こんな事を思っていても仕方ない。

前回は確か、こんな感じの僕に対し「本当に馬鹿なのはお前だよ」との言葉を贈ったのだが、今回はどうしようか。

そうだな。

「最初からこの物語は終わっている。 終わりすぎている。 だからお前は諦めろ」

「何も変わらなければ、変えられない」

こんな所だろうか。
142 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:27:31.45 ID:ZvhKwyms0

最初に、確か僕は「物語は進んでいた」と言ったと思う。

貝木泥舟風に言うならば「あれは嘘だ」になるのだろうか。

いや、嘘って程でも無いだろう。

正しく言うならば、終わりながら続いている。

終わりを見せる、物語。
143 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/29(月) 00:28:02.67 ID:ZvhKwyms0
しかし、これだけははっきりと言える。

この終わりを見せる物語は、僕にとって最悪の物語である。

最悪と言うよりは、最低と言った方が正しいだろうか。

とにかく。

それだけは、断言ができるのだ。


第四話へ 続く
154 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:23:48.24 ID:WpIQZ6530
さて。

現在僕は外に居る。

勿論、それは忍野に会う為なのだけれど。

こう、僕が外に出ると必ずと言って良いほど知り合いに遭遇するのだ。

具体的な名前を挙げると、八九寺とか。

八九寺「なんだか、今日の阿良々木さんはやけに幸せそうですね」

暦「あ? 何でそう見えるんだよ。 朝から色々あって、僕は疲れ果てている所だぞ」
155 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:24:33.12 ID:WpIQZ6530
つまりはあの廃墟へと向かう途中で例の如く、八九寺と遭遇したのである。

無論、向こうは気付いていなかったので、いつもの様な健全なやり取りをした事後であるけれど。

確か、そういった事をしている現場を月火に見られてたんだよなぁ。 まあ、それでやめる僕でも無いが。

行動を省みたりはするが、改めようとは思わないのだ。
156 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:25:14.69 ID:WpIQZ6530
八九寺「いえいえ。 確かに疲れている様な気配も感じますが、それ以上に幸せいっぱいと言った感じです」

暦「それならあれだ、八九寺、お前の眼は節穴だ」

八九寺「なるほどなるほど……阿良々木さんは私の眼が節穴だと、そう言いたいんですね」

暦「そうとしか言ってない」

八九寺「分かりました。 では阿良々木さんの今日の行動を当ててあげましょう」

暦「はは、やってみろよ。 お前にそんな真似、出来るとは思わないな」

八九寺「ふふん。 阿良々木さんは私を過小評価し過ぎですよ。 八九寺真宵を侮る無かれ」

馬鹿言ってるんじゃねえよ。 羽川でもあるまいし、そう易々と僕の行動がばれてたまる物か。
157 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:26:22.45 ID:WpIQZ6530
八九寺「まず、朝は妹さん達に起こしてもらったのでしょう」

暦「まあ、それはお前も知ってるしな。 正解だけど」

八九寺「その後、ですね」

八九寺「恐らく、大きい方の妹さんと、お風呂に入った筈です」

……んんん?

何で知ってるんだ!?
158 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:28:30.13 ID:WpIQZ6530
八九寺「そして、お風呂は大分長かった様ですね。 もしかすると、小さい妹さんともお風呂に入ったのでは無いでしょうか?」

すげえ、すげえぞ八九寺! お前にそんな、羽川みたいな真似が出来たなんて。

軽く感動を覚えてしまうじゃないか。

暦「……悪かった、八九寺。 僕がお前を過小評価していた様だ」

八九寺「分かれば良いんですよ。 これからは、さん付けで呼んでくださいね」

暦「何お前、そう呼ばれるのを夢見ていたの?」

八九寺「そう言う訳では無いですが、気分の問題です」
159 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:28:58.56 ID:WpIQZ6530
ふむ。

しかし、なんでこいつは僕の行動が分かったのだろうか?

暦「で、八九寺。 どうしてお前は僕の行動が分かったんだ?」

さん付けで呼んでくれとは言われたが、僕はそれを承諾していないので普通に呼び捨ててみた。

八九寺「阿良々木さん、まさか本当に気付いていないのですか」

八九寺もそれにはわざわざ突っ込まず、会話を続ける。

てか、気付いていないって、何がだろう?
160 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:30:19.80 ID:WpIQZ6530
八九寺「まず、阿良々木さんにしては良い匂いがしたので、朝風呂を浴びた事については簡単に説明ができます」

おお、なるほど。

って、阿良々木さんにしてはって何だよ。 失礼な奴だな。

八九寺「そして、ここです。 ここを見て妹さんとお風呂で何かあったのだと、推測しました」

ここ? ここって、僕の首じゃねえか。

暦「なんだよ、髪の毛でも付いてたか?」
161 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:31:21.48 ID:WpIQZ6530
八九寺「付いてるには付いていますが、髪の毛では無いですね」

暦「はあ? じゃあ、何が付いてるって言うんだ、八九寺」

八九寺は、とても爽やかに笑い、言う。

八九寺「キスマークです」

ありえねえ!

火憐の奴、どさくさに紛れて何してるんだ!

人に指摘されて気付く僕もあれだけど、そんな事よりだ。

マジで洒落にならねえって……これ。
162 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:32:49.69 ID:WpIQZ6530
八九寺「そして、いつも阿良々木さんが仰っている妹さん達の性格からすると、その行為をする可能性がありそうなのは、大きい方の妹さんという事になるんですよ」

暦「いや、それはどうでもいい」

暦「八九寺。 ちょっと鏡を貸せ」

八九寺「生憎ですが、私は鏡を持ち歩いておりません」

くっそ、使えない小学生だ。
163 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:33:55.85 ID:WpIQZ6530
そんな事より、こいつの言っている事は本当なのか。

本当だとしたら、絶対に、何があっても、例え天地がひっくり返ろうと、戦場ヶ原とは会えないじゃないか。

で、そうだとしたら月火の奴も気付いてた筈だよな……あのチビ、言ってくれれば良い物を!

暦「朝から最悪の気分だな……」

八九寺「そうですか? 私はてっきり、妹さんにキスをされて、幸せそうなオーラを出しているんだとばかり思っていましたよ」

暦「僕はそんな変態じゃねえ!」
164 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:34:35.48 ID:WpIQZ6530
いや、実際。

よくよく考えてみると、ちょっと嬉しいかもしれない。

いやいや、それとこれとは話が別だろう。

暦「とにかく、八九寺。 戦場ヶ原が近づいてくる感じがしたら、教えてくれ。 僕はまだ一応、生きていたい」

八九寺「浮気の手伝いをさせるんですか、阿良々木さん。 酷い人ですね!」

暦「浮気じゃねえよ! 人聞きが悪い事言うんじゃねえ!」
165 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:35:03.52 ID:WpIQZ6530
八九寺「まあ、とは言いましても」

八九寺「あの方と会うことは無いと思いますよ。 今はお盆じゃないですか」

ん? ああ、そう言えばそうか。

確か、昨日からこの町には居ない筈か。

暦「そ、そうだった。 それなら一安心だな……」
166 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:35:40.06 ID:WpIQZ6530
八九寺「とは言っても、羽川さんに会ったら、私は告げ口しますけどね」

暦「やめろ、それだけはやめてくれ八九寺」

ある意味、戦場ヶ原よりよっぽど恐ろしい。

八九寺「阿良々木さんがどうしてもと言うのなら、仕方無いですね……」

八九寺「では、私の指示するミッションを一つクリアしてください。 そうしたら、阿良々木さんの首に付いているキスマークについては、私の記憶から消し去りましょう」

なんとか記憶から消してもらえそうなのだが、一体どんなミッションなんだろう。
167 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:36:15.09 ID:WpIQZ6530
暦「内容は?」

八九寺「どちらかの妹さんに、キスマークを付けて来てください」

暦「僕が殺されるじゃねえか!」

八九寺「仕返しですよ、仕返し。 それくらいは許されるでしょう?」

暦「いや、世間が許しても当人が絶対に許してくれないんだよ。 どっちにしろ、僕の命日は今日になりそうだ」

暦「今までありがとうな、八九寺」

涙が出そうになる。 本当に。
168 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:36:51.89 ID:WpIQZ6530
八九寺「全くもう、度胸が無い人ですね……まあ、良いですよ。 半分冗談でしたし」

八九寺「阿良々木さんが惨めで可哀想なので、今回の件については、私の頭から消しておきます」

なんだろう。

八九寺に翼が生えていて、その姿はまるで天使ではないか。

けど、少し考えてみる。

そもそも、八九寺には別に恩を感じる必要はなくないか?

だって、こいつはたまたまその事に気付いた訳で、それを告げ口すると言って、悪く言えば僕を脅していた訳だ。

それなら、むしろ天使では無く悪魔では無いだろうか。

んだよ、感謝して損した。
169 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:37:27.22 ID:WpIQZ6530
ま、でも一応体面上は感謝している振りでもしておくか。

暦「恩に着るよ……」

さて、そんな話をしていた所でどうやら廃墟へと着いた様である。

暦「それじゃあ八九寺、またな」

八九寺「ええ、阿良々木さん。 また」

と別れの挨拶を済ませ、僕は廃墟へと入っていく。
170 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:38:32.45 ID:WpIQZ6530
忍野に会う為、廃墟の階段を一段一段、上る。

それはそうと、火憐の奴……とんでもない事をしてくれた物だ。

これは後で、何かしらの報復をしなければ気が済まない。

あいつが嫌がりそうな事って何だろうなぁ。

大抵の事は、笑って流す様な奴だし、機嫌が悪そうって言うのは何回も見た事があるのだけど。

その機嫌が悪そう。 というのも、月火の様にヒステリックと言う感じではなく、可愛らしい物だし。
171 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:39:16.12 ID:WpIQZ6530

そういや、あいつが本気で怒ったのって、今年の母の日くらいじゃないだろうか?

そう考えると、火憐にとってあの日の出来事は相当な物だったのだろうな。

とにかく。

マジで戦場ヶ原が居ない時で良かったよ。 本当に、しみじみそう思う。
172 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:39:53.21 ID:WpIQZ6530
忍野「やあ、阿良々木くん。 待ちくたびれたよ」

そんな事を考えている間に、忍野の部屋へ到着。

厳密に言えば、忍野が勝手に住んでいるだけで、不法侵入になるのだけども。

暦「ああ、今回はその台詞、すげえ心に来るものがあるな」

だって、行けると教えた時間から二時間くらい経っているし。

忍野「別に良いさ。 僕は阿良々木くんと違って、常に予定は空けているからね」

なんだ。 僕の事を暇人と呼んでいた癖に。
173 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:41:23.19 ID:WpIQZ6530
忍野「それより、それ……どうかしたの?」

忍野はそう言い、僕の首を指差す。

暦「ほっとけ。 多分なんかの呪いだ」

忍野「ふうん。 ま良いけど。 それで阿良々木くん、買ってきてくれたかい?」

暦「ああ、勿論」

僕はそう答え、近くで買っておいた缶コーヒーを忍野に渡す。
174 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:42:23.99 ID:WpIQZ6530
暦「つうか、本当にこれで良いのか? 僕にとってはありがたいんだけどさ、なんか……これでってのもな」

忍野「構わないさ。 それに阿良々木くんも、何か話したい事がありそうな雰囲気だし」

僕にねえ。 まあ、あるっちゃあるんだけれど。

暦「一応、あるんだけどな」

暦「忍野、先に約束してくれないか。 もし、また火憐ちゃんの時と同じ様な事があっても、僕を騙さないと」

忍野「……分かった。 約束しよう」

忍野は少し考える素振りを見せ、そう言う。

その言葉が本当か嘘かは分からないが、僕には信用するしかなさそうである。
175 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:43:49.05 ID:WpIQZ6530
暦「本題に入るぞ」

前置きをして、続ける。

暦「火憐ちゃん……でっかい方の妹が、小さい方の妹の様子が変だって言ってるんだよ」

暦「で、僕は実際に月火ちゃんに……ああ、小さい方の妹に、話を聞いたんだけどさ」

忍野「はは、良いよ。 名前で呼んでも構わない」

忍野の提案は助かったのだけれど、やはり、少しばかり抵抗はある。

まあ、いいか。
176 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:44:22.24 ID:WpIQZ6530
暦「……で、月火ちゃんに話を聞いたんだけど、僕にはどうにもいつも通りにしか見えないんだよ」

忍野「ふうん。 じゃあ、変じゃないんじゃないかな?」

暦「それがそうとも限らないかもしれない。 僕が月火ちゃんの事を少し知っているとしたら、火憐ちゃんは月火ちゃんの事を殆ど知っているって事になる」

暦「それくらい、僕と火憐ちゃんじゃ、理解している範囲が違うんだ」

忍野「……なるほど。 つまりはでっかい妹ちゃんの言う事を信じた方が良いって事か」

忍野「具体的にはさ、どんな風に変なのかな? そのでっかい方の妹ちゃんから見て。 それくらいは聞いているだろう?」
177 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:45:05.52 ID:WpIQZ6530
暦「ああ」

暦「火憐ちゃんが言うには、どうにも僕の事を避けている感じらしい。 つっても、今日の朝も普通に話したし、ふ」

言えない、風呂に一緒に入ったとか、言えないだろ絶対。

暦「ふ、不思議なんだよ」

忍野「……そうか。 避けてる、ね。 なるほど」

忍野「けど、阿良々木くんが見た限りいつも通りって事か。 いつも通りに話すし、いつも通りにお風呂に入ると」

うわ、ばれてるし。 見透かし忍野くんのあだ名は伊達じゃない。
178 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:47:30.64 ID:WpIQZ6530
暦「はは。 まあ、うん。 そういう事だ」

暦「けど、あくまでもそういう話があったってだけで、本人は悩みなんて無いって言ってたんだけどな」

忍野「難しいねぇ。 が、とりあえずは様子見で問題無いと思うよ。 それこそ、厄介な怪異ってのは多いけど、阿良々木くんなら問題無いさ」

暦「それは過大評価だと思うけどな……まあ、もし何かあったときは、また頼みに来るよ」

忍野「全く、良い様に使われている気しかしないけど、僕も暇だしね。 それにこの辺りはまだ危ない。 異変を感じたらすぐに言ってくれよ」

暦「分かった、そうさせてもらう」
179 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:48:12.21 ID:WpIQZ6530
それじゃあ、帰るとするかな。

思いの他、話がすぐに終わったのもあり、時刻は夕方には程遠いが……火憐に一人で留守番をさせるってのは、どうにも不安要素しか見当たらない。

忍野「そうだ、阿良々木くん」

忍野「今回の事にも怪異が関わっているとして、現時点で一番可能性が高そうな奴が一つある」

忍野「聞いていくかい?」

……もう少しだけなら、良いか。

元々は夕方の予定だったし、聞いといて損な話でもないだろう。
180 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:50:03.53 ID:WpIQZ6530
暦「分かった。 聞かせてくれ」

忍野「了解。 あくまでも、阿良々木くんの話を聞いて、前回の事も含めて、一番ありそうな怪異だけど」

忍野「ドッペルゲンガー」

忍野「阿良々木くんは、確か忍ちゃんに聞いたんだっけ? それなら、多少は知っているかな」

暦「……ドッペルゲンガー。 忍に聞いた話だと、この前の怪異と同じ特性、呪いだったよな」

忍野「そう。 けど違う」

違う? 違うってのは、何がだ。
181 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:52:11.99 ID:WpIQZ6530
忍野「忍ちゃんは呪いを掛けた対象の、一番苦手とする奴の姿となって現れる。 って言っていたんだっけ」

忍野「そして、対象を殺す……と」

忍野「けどね、まず一つ目を正すと、ドッペルゲンガーの呪いは自分に掛ける物なんだよ」

呪いを……自分に?

忍野「そうだ。 そして願いを叶えるんだ。 なんともロマンチックな話だと思うだろ?」

さあ、どうだかな。 呪いって単語が出る時点で、ロマンチックだとは思えないけれど。

それにしても、願いを叶える……か。

少し前の、火憐が憑かれた怪異を思い出すな。
182 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:53:42.54 ID:WpIQZ6530
忍野「それに、忍ちゃんは対象を殺すだとか言っていたらしいけど、それは違う」

忍野「多分、僕の例え話をそう解釈しちゃったのかもね。 僕も大分適当に話していたし」

忍野「ドッペルゲンガーは殺し屋じゃない。 なんでも屋って所だよ」

暦「……って事は、何でも願いを叶えるのか?」

忍野「基本的には、だけどね」

忍野「翼を生やして飛びたいだとか、神様になりたいだとか、そんなぶっ飛んだ願いまで叶えてくれる訳じゃない」

まあ、それもそうだろうが。
183 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:54:20.25 ID:WpIQZ6530
忍野「まず、このドッペルゲンガーにはある条件を満たしている奴の前にしか、姿を現さない」

忍野「その条件については、後で話すとしようか」

忍野「そして」

忍野「ドッペルゲンガーは二つの願いを叶えてくれる」

忍野「一つ目は頼まれた願い。 つまり、表面上の願い」

忍野「二つ目は本当の願い。 つまり、深層心理の願い」

忍野「この二つを叶えるんだよ」
184 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:56:09.27 ID:WpIQZ6530
暦「へえ。 って事はさ、それは良い怪異なのか? 怪異に良い悪いがあるって訳でも、無いと思うけど」

忍野「はは。 厄介なのはその方法さ。 ドッペルゲンガーは手段を問わない」

忍野「例えば、一つ目の願い。 そうだね……お金が欲しいと望んだとしようか」

忍野「それくらいなら、叶ってしまう。 銀行強盗でもしてね」

忍野「勿論、本人の姿のままさ」

……そういう事か。

何か欲しい物があれば、犯罪を犯してまで、手にする。

手段を問わない、ね。
185 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:56:54.98 ID:WpIQZ6530
忍野「そして二つ目、深層心理の願い」

忍野「どっちかと言えば、こっちが少し面倒なんだよ。 本人も気付いているパターンの方が多いんだけど、それは大体の場合ろくでもないお願いだから。 口に出したくない願いって所かな」

暦「ろくでもない願いか……なるほど。 そいつが想っている願いを勝手に汲み取って叶えるって所か?」

忍野「その通り。 例えば阿良々木くんが心の中で、僕の事をぼこぼこにしたいと考えているとしよう」

僕を何だと思っているんだ、忍野の奴。

いや、まあ考えたことが無いと言えば嘘になるけれどさ。
186 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 21:58:28.49 ID:WpIQZ6530
忍野「その場合はそうだね……恐らく、ドッペルゲンガーは僕の先輩の姿となって、現れるだろう。 想像しただけで寒気がするよ、ほんとに」

忍野「つまり、その願いを叶えるにあたって、最適な人物となって現れるんだ」

忍野「だけど、さっきも言った様に基本は出遭った人物の姿をしているんだけどね」

って事は、忍野はその先輩とやらを苦手としていて、その先輩にならぼこぼこにされるって事か。

今度探してみるとしよう。 なんだか面白そうである。
187 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:00:04.28 ID:WpIQZ6530
暦「僕が驚いたのは、忍野にも苦手な奴がいるんだなって事だよ。 今日一番の驚きかもしれない」

忍野「そりゃーそうさ。 人間だし。 んで、そのドッペルゲンガーは僕をぼこぼこにしたら、消え去るって事さ」

暦「……確かに、そりゃなんでも屋って感じだな」

願いを二つ叶えるなんでも屋、か。

忍野「うん。 まあ、とは言っても所詮は呪い。 悪い方向に転ぶ方が多いよ」

暦「悪い方向……」

暦「忍野、僕にはその呪いってのが、少し気になるんだけど」
188 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:01:27.56 ID:WpIQZ6530
忍野「自分にかける。 の部分かい?」

暦「ああ。 勿論、そんな事をしたら……ただでは済まないだろ?」

忍野「いや、そうでもないよ」

忍野「厳密に言えばさ、さっきの願い自体が呪いなんだよ」

暦「願い自体が呪い? どういう事だ?」

忍野「ドッペルゲンガーに願い事をした時点で、その当事者は呪われるんだ」

忍野「二つ目の願いを叶えられる事でね」
189 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:02:02.87 ID:WpIQZ6530
暦「それが、願いを叶える行為自体が呪いって訳か」

忍野「そ。 二つ目の願いは、さっきも言った様に心の奥底で願っている事だ。 綺麗な物では無いだろうしさ」

暦「そうか。 でも、だけどさ」

暦「人によっちゃ、その呪い自体もありがたいかもしれないな」

忍野「はは、そんな事は無いさ。 人が心の奥底で想っている事なんて、くだらない事だよ」

暦「……そう、なのかな」

それには少し、賛成しかねる。
190 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:03:08.56 ID:WpIQZ6530
とは思っても、忍野と言い合う気は無いので、次の話題に移すことにした。

暦「つうか、そのドッペルゲンガーってのは対価を求めないのか?」

忍野「求めない。 それは忍ちゃんの言うとおりだね」

忍野「ドッペルゲンガーは呪いだけれど、基本的にはそこまで恐ろしい奴では無い」

忍野「さっきも悪い方向に転ぶ方が多いって言った様に、無害って程でも無いけどさ。 まあ、会おうと思って会える怪異でも無いんだよ」

会おうと思って会えない……それって、全部の怪異に当てはまる事では無いだろうか。

でも、忍野がそういう言い方をするって事は、会おうと思って会える怪異も居るって事なのかな。
191 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:03:39.87 ID:WpIQZ6530
暦「そういう事か。 それが、会う為には条件があるって事だよな?」

忍野「ご名答。 その通りだよ、阿良々木くん」

忍野「ドッペルゲンガーに会えるのは、悩みを抱えている奴だけなんだぜ」

暦「悩みを……?」

忍野「そうだ。 それも軽い悩みじゃない。 重大な悩みって言い方になるのかな。 その人間の生き方を変える様な、そんな悩みだ」

暦「そりゃ、確かに会おうと思って会える怪異では無いな」
192 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:04:56.25 ID:WpIQZ6530
生き方を変える悩み……

僕の場合はどれになるのだろうか。

忍の事は、とてもじゃないが悩みなんて言葉は使えない。

なら、僕には残念ながら、そのドッペルゲンガーに会える条件は整いそうにないな。

会いたいとも思わないが。
193 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:06:22.23 ID:WpIQZ6530
暦「てか、一つ思ったんだけどさ。 火憐ちゃんの時の奴と、なんだか似ていないか?」

願いを叶えるだとか。 本当に一部分だけだが、気になった。

忍野「根本的な部分は全く違うけど、阿良々木くんがそう思うのも無理は無いよ。 この前の怪異……あいつとは良くも悪くも、セットなんだ」

セット。

なんだか、ファイヤーシスターズを思い出すなぁ。
194 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:08:24.91 ID:WpIQZ6530
忍野「とは言っても、これは無理矢理にでも怪異を当てはめた結果だから、そんな気にする事でもないさ」

忍野「阿良々木くんは異変探しをすればいい。 もっとも、そんな異変が君達兄妹の勘違いだったってのが、一番だろうけど」

ふむ。

忍野がこのドッペルゲンガーという怪異を例に挙げたのも、それが前の怪異とセットだからだろう。

つまりは、それが一番危険という事だ。

それが一番、身近にあるという事だ。
195 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:10:26.17 ID:WpIQZ6530
暦「そうだな。 何も起きてなくて、何も起こらないのが一番なのは、間違いねえか」

忍野「その通り。 けど警戒しておく分にはデメリットは無いからね」

忍野「そんな感じで、宜しく阿良々木くん」

異変探し、か。

どこからがそうで、どこからがそうじゃないのかは全く分からないが……とにかく、ドッペルゲンガーとやらが居ると分かった以上、警戒するに越した事はないか。

とは言っても、気を張りすぎてもあれだな。
196 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/04/30(火) 22:11:39.14 ID:WpIQZ6530
忍野にまた頼る形にはなってしまうが、連絡は小まめに取っておいて損は無いだろう。

現時点で、巻き込まれそうな可能性のある奴。

いや、既に巻き込まれている可能性のある奴。

それらの可能性が無い方が恐らくは高いと思うし、そっちの方が良いとも思う。

まあ。

僕の周りに限った話だけど、警戒しておくのは月火になるのだろう。

よし、これからすべき事は、とりあえずは月火の様子を伺う事。

今の所、僕から見て変な所は無いし、大丈夫だとは思うけれど。

そうして、その後僕は忍野と軽く話した後、帰路に就いた。



第五話へ 続く
200 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:29:49.98 ID:8ryHbS1T0
暦「忍は、何か異変とか感じないか?」

廃墟からの帰り道、僕は隣を歩く忍に向けて問う。

忍「感じないのう。 いつも通りじゃよ」

暦「だよなぁ」

忍「お前様が妹御と朝から仲良く風呂に浸かっているのも、いつも通りじゃしな」

暦「いつもじゃねえよ!」

忍野の場合は、反論したら何か嫌な事を言われそうだったので(具体的には、妹と風呂に入った時間だとか、日数だとかだ。 忍野だったらばれていてもおかしくはない)避けたのだが、忍なら話は別だ。
201 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:30:46.44 ID:8ryHbS1T0
忍「たまにはあると言う事かのう?」

暦「た、たまにでも無い!」

たまには無いけど、極稀にはある。

言葉のイメージ的に「たまに」と「極稀」では、比べると「極稀」の方が頻度は少なく聞こえるので、僕はそうだと思っている。

暦「つうか、話題を逸らすんじゃねえ!」

忍「お前様が朝から妹御といちゃいちゃしていなければ、こんな話はする必要の無い物じゃよ。 つまりは無用の賜物」

暦「うっせ」
202 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:35:00.75 ID:8ryHbS1T0
暦「言っとくが、あれは僕の意思では無いからな。 ただ流されただけだ」

忍「ふむ。 だがお前様よ。 その流されたというのもまた、お前様の意思では無いのか?」

暦「……なのかな?」

忍「知らんわ」

つうか、成り行きであんな風になるって実際やばいのか?

いや、そうでもないだろ。 他の家族や兄妹なんて、もっと仲が良いだろうし。
203 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:35:38.03 ID:8ryHbS1T0
暦「それより、仮にだよ忍」

暦「もし、忍野の姿をしたドッペルゲンガーが現れたとして、お前はそれに気付けるか?」

忍「さあのう。 いくら最近会う機会が増えたと言っても、儂の嗅覚には引っ掛からんわい」

って事は、いざそいつが現れたとしても、すぐには判別できないって事か。
204 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:36:09.74 ID:8ryHbS1T0
暦「てか、前もこんな話をした気がするけどさ。 どのくらい一緒に居れば分かる物なんだ? そいつがそうかどうかって」

忍「怪異と言っても色々おるんじゃよ。 前の草みたいな奴ならば、会えば分かる。 呪いじゃしな」

忍「が、その呪いにも種類があってのう。 先程、アロハ小僧が言っていたドッペルゲンガーの場合ならば、そうじゃな」

忍「十年程近くにおった奴なら、すぐに判断できるじゃろうよ」

十年かよ! 確かにお前にとっちゃ、すげえ短い期間なんだろうけどさ。
205 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:36:37.04 ID:8ryHbS1T0
暦「それじゃあ期待はできないか……ああ、そうだ」

暦「忍はドッペルゲンガーの特性を結構誤解してたみたいだけど、忍野ってそんな適当に話していたのか?」

忍「それもあるが、儂も話半分でしか聞いておらんからじゃ」

まあ、退屈な話だったらしいし、無理もねえか。

忍「それに、言い訳では無いがの、我が主様よ」

忍「あの小僧が言っていた話は、ほとんどがドッペルゲンガーによって殺された者の事なんじゃよ」

ん? 殺された者?
206 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:37:03.03 ID:8ryHbS1T0
暦「えっと、どういう意味? 願いを叶えるんじゃないのかよ、ドッペルゲンガーは」

忍「言葉通りの意味じゃよ。 願いを叶えると言っても、お前様よ。 人が表に出さない願い等、綺麗な物では無いじゃろ」

暦「……そう、なのかな」

つまり、大体の人間が心の奥底で願っている事は……殺意って事を言いたいのか?

だけど、僕は。
207 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:37:32.68 ID:8ryHbS1T0
暦「悪いけど、忍。 僕はそうは思わないよ」

忍「そうかのう?」

忍はそう言い、凄惨に笑い、答える。

忍「恨み、怒り、憎しみ、嫉妬、嫌悪、軽蔑、恐怖、猜疑」

忍「人間が奥底の心で思っている事等、大体はそんな物じゃ」
208 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:38:11.54 ID:8ryHbS1T0
忍「七つの大罪。 なんて言葉もあるしのう」

忍「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲」

忍「この大罪は、人間の思っている事その物じゃよ」

忍「そして、これこそが人間の本質。 アロハ小僧の言う『深層心理の願い』じゃよ」

忍の言っている事は分からなくも無い。

けど、それでも僕にはそうは思えないのだ。
209 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:38:42.59 ID:8ryHbS1T0
暦「ちげえよ、忍」

暦「火憐ちゃんは、火憐ちゃんは違ったんだ」

忍「儂から見れば、お前様の巨大な妹御も一緒じゃったがの」

暦「そうかよ。 でも」

暦「僕が火憐ちゃんから感じたのは、優しさだったよ」
210 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:39:18.54 ID:8ryHbS1T0
忍「……ふむ。 まあ、お前様がそう思うのなら、それはそれで良いんじゃろうよ」

忍「だが、更に言わせて貰えば、儂にはあれは『恐怖』でもあると思うがの」

暦「『恐怖』? 僕がいつか居なくなる、恐怖って事か」

忍「左様。 それともう一つ『欲望』じゃな。 つまりは『強欲』」

暦「『強欲』か」

忍「お前様と一緒に居たいという『欲望』じゃな」

暦「……そうか」
211 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:39:47.91 ID:8ryHbS1T0
忍「人間誰しも、そんな感情に支配されておるんじゃ」

暦「でも、でもさ忍」

暦「それと同じくらいに、人間は違った想いとか、感情も持っているんじゃないかな」

忍「ほう? 例えば?」

暦「喜び、感動、感謝、幸福、優しさ、信頼、信用、気遣い」

暦「そんな感情とか、想いとかも、あるだろ?」
212 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:40:21.06 ID:8ryHbS1T0
忍「お前様の妹御は、そうだと?」

暦「そうだよ」

忍「迷いの無い答えじゃな……何故、そう思う?」

暦「僕はあいつの事をそうだと思っているからだ」

忍「そうか。 だがな、我が主様よ」

忍が口を開く前に、僕は答える。

暦「それは『傲慢』だ。 って言いたいんだろ。 知ってるさ、そんな事」
213 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:40:47.35 ID:8ryHbS1T0
暦「僕は良いんだよ。 僕はどんな奴でも構わない」

暦「けど、あいつは……あいつらは、僕の誇りは『信頼』したいんだ」

忍「カカッ。 お前様よ」

忍「儂にはとても、お前様が『傲慢』だとは思えんわい」

そうだな。

僕はどこまで行っても『最低』なのだから。

忍「そうじゃのう……お前様には『馬鹿』がぴったしかのう」

なんか良い事を言っている様に聞こえるけれど、それってただ僕を貶しているだけじゃねえか?
214 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:41:29.08 ID:8ryHbS1T0
閑話休題。

忍「しかし、殺し屋ならず何でも屋とは……面倒な怪異じゃな」

暦「僕はそっちより、姿を変える方が厄介だと思うな」

暦「それに、やっぱり火憐ちゃんが月火ちゃんの様子がおかしいって言っていたのも気になるし」

忍「うむ。 どうおかしいのかは分からないが……巨大な妹御は、その辺りの嗅覚は優れておる筈じゃ」

忍「気にしておくのは間違いでは無い」

そうなんだよな。 あいつ、気配だとか変化だとか、そういうのには随分と鼻が利くから。
215 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:42:45.56 ID:8ryHbS1T0
暦「仮にさ、月火ちゃんがドッペルゲンガーに会ったとして、あいつは何を願うんだろうな」

忍「さあのう? 大方、お前様と一緒に居たいとかじゃろ」

うーん。 月火がそう想う物かね。

だけど、火憐の一件もあったから……そんな事は無いと断言できないが。

暦「月火ちゃんがか? まあ、そうだったらそうで嬉しいけどさ」
216 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:43:29.07 ID:8ryHbS1T0
忍「カカッ。 お前様よ、妹御の前ではそんな台詞、絶対に言わないじゃろ」

暦「言える訳ねえだろ。 で、問題なのは二つ目の方か」

忍「じゃな。 大方、お前様を殺したいとかじゃなかろうか?」

暦「怖い事言うんじゃねえ!」

忍「なんじゃ、嬉しくないのか?」
217 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:44:30.52 ID:8ryHbS1T0
暦「僕はそこまでじゃねえよ! 僕を何だと思っているんだ!」

殺したいと願われて喜ぶとか、どんな奴だよ。

さすがの火憐でも……いや、あいつならありえるかもしれない。

そう考えると、本当に火憐の将来が心配になってしまう。
218 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:45:55.82 ID:8ryHbS1T0
暦「とにかく、月火ちゃんには注意を払っておこう」

暦「忍も何か気付いた事があったら言ってくれ。 些細な事でいいからさ」

忍「承知した。 我が主様」

忍「所で、お前様よ」

忍は空を見上げ、そう言う。

まだ、続きがあるのか?

暦「ん? まだ何かあるのか?」

忍「これは、あの小僧が言っておらんかった事じゃがな」
219 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:46:24.40 ID:8ryHbS1T0
忍「ドッペルゲンガーは、姿を自在に変えられる訳では無いのじゃ」

暦「え? なら、一度その姿になったらそのままって事?」

忍「その辺りは少し複雑でのう。 まあ、儂もあの小僧に聞いた事じゃから、間違っているかもしれんが」

忍「願いを叶えるまでは、固定されると言うのが正しいじゃろうな」

暦「って事は、仮に僕が忍野を殴りたいと願って、ドッペルゲンガーに会ったとするだろ」

暦「そして、ドッペルゲンガーは忍野が苦手とする先輩になって、僕が願った忍野を殴りたいって願いを叶えるまでは、その先輩の姿のままって事だよな?」
220 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:50:24.00 ID:8ryHbS1T0
忍「……まあ、基本的にはそうじゃな」

基本的に。

つまりは、例外もあるって意味だよな。

忍「ドッペルゲンガー自身にも意思がある。 意思というか、人格じゃな」

忍「前にも言った様に、考え方や性格はその本来の姿の者と同一じゃ」

忍「が、それとは別にあやつ自身の人格もあるんじゃよ」
221 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:51:37.18 ID:8ryHbS1T0
暦「そいつの考えによって、願いを叶える最適な奴になるって事か」

忍「左様。 ドッペルゲンガーが最優先でするのが、願いを叶えるということじゃ。 それを叶える為にも、あやつは最適な人物に変わる」

忍「とは言っても、大体の願い等、その者自身の姿で叶えられるがのう」

忍「盗みを働く事や、人を殺す事。 最適な人物に変わると言っても、基本的にはどの人物でも同じじゃろうし」

忍「あのアロハ小僧や、お前様の様に若干の化物性があれば、話は変わるがの」

忍「まあ、頭の片隅にでも置いておけばよい」
222 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:53:06.34 ID:8ryHbS1T0
暦「判別する方法とかは、無いんだよな」

忍「あるにはある」

あるのか? 忍でも、区別が付かないって言っていなかったか?

忍「例えば、お前様の妹御がドッペルゲンガーに願い、奴が妹御の姿になったとする」

忍「それを儂が怪異だと判別するのは不可能……」

忍「じゃが、お前様の妹御だと判断するのは可能じゃ」
223 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:53:47.26 ID:8ryHbS1T0
暦「……ええっと。 悪い、どういう意味だ?」

忍「全く、少しは頭を使わんか」

忍「儂にはお前様の妹御、巨大な方も極少の妹御も区別が付くのは、知っておるじゃろ? 無論、あのアロハ小僧もじゃ」

忍「故に」

忍「ドッペルゲンガーかどうかは分からん。 だが同じ人間の匂いが二つもあったら、妙じゃろうが」

……ああ!

そうか、そうだ。
224 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:54:51.42 ID:8ryHbS1T0
暦「なるほど。 怪異かどうかは分からないけど、匂いが二つあれば、どちらかが怪異だと分かるって事か」

忍「その通りじゃ。 本当に、頭の回転が鈍いのう」

うっせ、ほっとけ。

そんな話をしている間に、そろそろ家が近づいてきた。

忍「それでは、儂は寝るとする。 何かあったら起こして構わんからの」

忍もそれが分かっているのか、影の中へと姿を消す。
225 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:55:19.06 ID:8ryHbS1T0
てか。

起こしても良いと言われても、どうやって起こせば良いんだよ。

まあ、何かが起きたって事は僕が動揺するって事とイコールだから、そうすれば起きるのかな?

その辺りは曖昧だけども、忍を信じるしかねえか。

んで。

家大丈夫かなー。

崩れたりしてないかなー。
226 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:56:52.50 ID:8ryHbS1T0
火憐だけ留守番ってのは、何が起きていてもおかしくないのだ。

家が無くなっていたとしても、ありえないと事だと思えないのがまた恐ろしい。

やがて我が家が視界に入ってくる。

ふむ。 どうやら外見はなんとか保っている様だ。

まずは一安心、って所だろう。
227 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:57:26.29 ID:8ryHbS1T0
前に影縫さんと斧乃木ちゃん、あのコンビが攻めて来た時の様に、玄関も崩壊していたりはしない。

良かった良かった。 どうやら野宿をする羽目にはならなかった。

そして、そのまま扉まで歩き、開く。

暦「ただいまー」

僕の帰りが早かったのもあり、月火はどうやらまだ出かけている様だ。

その証拠にあいつの靴が一足、玄関には無かった。
228 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:58:32.57 ID:8ryHbS1T0
火憐「おう、兄ちゃんか。 お帰り」

僕の声が聞こえたのか、火憐がリビングから姿を現す。

何も、わざわざ出迎えなくても良いだろうに。

暦「月火ちゃんはまだ帰ってないみたいだな。 留守番ご苦労さん」

火憐「いやあ、色々と大変だったぜ。 あたしじゃなきゃ、多分無理だっただろうな」

んだよそれ。 火憐じゃなきゃ無理だったって、どんな化物が攻めて来たっつうんだ。
229 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:59:21.27 ID:8ryHbS1T0
暦「そうなのか。 具体的には、どんな事があったんだ?」

僕がそう聞くと、火憐はやはり自信満々に言う。

火憐「電話とか来客とか、今日は忙しかったんだぜ」

電話に来客、別に普通じゃね?

火憐「よっく分からねー奴から電話がきてさ。 「もしもし、阿良々木さんのお宅ですか?」って言いやがるんだよ」

すげえ嫌な予感しかしないんだけど。

てか、言いやがるってどういう事だよ。
230 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/01(水) 23:59:58.24 ID:8ryHbS1T0
火憐「あたしはこう言ってやったよ。 「てめえ、阿良々木さんじゃなかったらどうするんだよ。 ああん?」って」

いきなり喧嘩売ってるんじゃねえ! なんでそうなるんだ……

火憐「そしたらさ。 「あ、はい。 そうですよね、すいません」とか言いやがってさ」

火憐「それに対してあたしはこう返した。 「謝るくらいだったら電話してくるんじゃねえ!」ってな」

もう、留守番はこいつに任せられそうにない。
231 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:00:32.75 ID:RL0wKrN60
暦「えーっと。 火憐ちゃん」

暦「とりあえず、その件については僕からは何も言わない。 後でパパとママとじっくり話し合ってくれ」

僕がそう伝えると、火憐は何故か笑いながら「おう」と答えるのだった。

色々と疲れるな、この妹。
232 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:01:19.23 ID:RL0wKrN60
僕が火憐の武勇伝(汚点だらけの)をそこそこで聞き流しリビングへ向かうと、火憐もその後を付いてきた。

よっぽど暇なんだなぁ、こいつ。

てか、そうだ。

朝の件について、火憐には話をしなければ!

暦「なあ、そういえば火憐ちゃんは、僕に謝らなければいけない事があると思うんだけど」

火憐「ん? 兄ちゃんにか?」
233 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:02:39.60 ID:RL0wKrN60
暦「そう。 僕にだ」

言いながら、ソファーへと座る。

火憐「うーん。 何かしたっけ?」

火憐も首を傾げながら、僕の横へと腰を掛ける。

暦「朝、風呂での事だ」

火憐「んんん……わり、分からねえ」
234 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:03:24.02 ID:RL0wKrN60
暦「僕の首のこれだ」

自分の首を指差す。 火憐が付けたキスマークの所を。

火憐「ああ、それか!」

おいおい、言われて思い出すって……大丈夫か、こいつ。

火憐「いやあ、でもさ兄ちゃん。 それが何で謝らなければいけない事って話に繋がるんだ?」

暦「どう考えても謝るべき事だろ!」

つうか、キスマークの付け方とか、どこで学んだのかも僕は気になるのだけど。
235 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:05:31.90 ID:RL0wKrN60
火憐「分からないな兄ちゃん。 サービスだって言ったじゃん」

暦「押し売りじゃねえか! お前が良かれと思ってやる事は、大体が僕にとって嫌な事なんだぜ」

火憐「んな訳あるか! 月火ちゃんがそうすれば兄ちゃんは喜ぶって言ってたんだぞ」

うわあ、月火かよ! なんか怪しいとは思ったけどさ!

暦「火憐ちゃん、よく聞けよ。 僕には一応、彼女が居るんだよ。 その彼女がこれを見たらどう思うとか、分かるよな?」

僕がそう言うと、火憐は顔を逸らし、頬を膨らませる。

どうでもいいが。

こいつ、こういうの似合わないな……
236 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:06:19.92 ID:RL0wKrN60
火憐「あたしは兄ちゃんの彼女なんて、知らない」

暦「この前会わせただろうが! きっちり紹介したぞ!」

火憐「知らない知らない! 認めてねーもん!」

なんでお前に認められなくちゃならねえんだ!

火憐「第一、兄ちゃんに彼女なんていらねえんだ! そんなに世間体を気にするなら、あたしが彼女になってやる!」
237 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:06:48.54 ID:RL0wKrN60
暦「僕は世間体の為に彼女を作ってるんじゃねえ! どんな人間だと思われてんだ!」

火憐「知らない知らない知らない。 とにかくあたしは認めない!」

めんどくせえ!

……前もこんな感じだったよな、火憐。

全く、兄の彼女の存在が気に入らないなんて、どんだけブラコンなのだろうか。

本当にもう、困った妹である。
238 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:07:28.17 ID:RL0wKrN60
暦「火憐ちゃんに認められなくても、居るんだよ!」

火憐が何と言おうと、僕の彼女は確かに存在しているのだ。

火憐「……だったら」

火憐「だったら兄ちゃんがあたしの彼氏を認めないのは何でだよ? あたしだって彼氏が居るんだぞ」

あ?

聞き捨てならないぞ、それは。
239 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:08:09.85 ID:RL0wKrN60
暦「は? あれは彼氏じゃなくてストーカーじゃねえかよ。 火憐ちゃんのストーカー」

火憐「ほらほら! 認めてないじゃん!」

暦「ちげえ! 認める認めない以前の問題だ!」

暦「火憐ちゃんが彼氏と勘違いしているそいつは、いつか僕が地獄に送ってやる!」

火憐「上等だ! それならあたしは、兄ちゃんが彼女だと勘違いしている女を地獄に送ってやる!」

暦「火憐ちゃんが言うと冗談に聞こえないから、やめろ」
240 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 00:11:03.02 ID:RL0wKrN60
火憐「あ? つまりは、兄ちゃんがさっき言っていたのは冗談だったのか?」

暦「本気だけども」

火憐「んだとこのチビ!」

暦「うるせえ木偶の坊!」

と、こんな感じで火憐と僕はしばらくの間、じゃれ合うのであった。

月火がこの僕と火憐の喧嘩を目撃するのは、もう少し後の話だ。

いや、そもそも最終的には喧嘩とは言えなくなっていたかもしれないが、それはまた次回ということで。


第六話へ 続く
245 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:49:09.59 ID:RL0wKrN60
火憐との言い合い(小学生同士の喧嘩みたいだった)も、ようやく終わりを迎え、現在僕はベッドで寝ている。

その言い合いが終わったのも、月火の登場があってこそなのだが。

あの後、何がどうなったのか、その経緯は今となっては全く分からないのだけれど、僕と火憐は「恋人ごっこ」なんて事に発展していたのだ。

思い出したくないというか、それはもう数十分前の事だが、僕にとっては既に封印してしまった過去なのである。

で、その「恋人ごっこ」で僕と火憐が「好きだよ、火憐ちゃん」「好きだぜ、兄ちゃん」なんて事をやっている時に、月火が登場したのだ。
246 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:50:07.06 ID:RL0wKrN60
登場というよりは、降臨って感じだったけども。

要するに。

朝の二の舞って訳だ。

そしてお察しの通り、例の如く、まずは火憐が呼び出される事となった訳で。

そんな火憐は今、説教を受けている。

残された僕は死刑を待つ罪人の如く、まずはこの自分の部屋へ押し込まれ、火憐の処刑が終わってから呼び出される手筈となっている。
247 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:50:38.95 ID:RL0wKrN60
時折、火憐と月火の部屋から何やら叫び声が聞こえるのが多少気になるが、あまり想像しない方が良いだろう。

精神的にも、確実にそっちの方がいい。

さて。

いくらこれから刑が執行されるとは言っても、暇な物は暇だ。

僕は何をして過ごそうかなぁ。

部屋に押し込めらても、特にする事が無いしな。

どうにも勉強って気分でも無いし……さて、どうした物か。
248 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:51:08.45 ID:RL0wKrN60
と、ここで着信。

画面を見ると、メールでは無い事が分かる。

電話、だな。

誰だろう? 戦場ヶ原か?

しかし、そこには知らない番号が表示されている。
249 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:51:43.45 ID:RL0wKrN60
一応、明記しておくけれど。

これはただ単に、僕が彼女の番号すら登録しないだとか、彼女の番号を全く知らないだとか、そういう意味では無い。

見た事も無い文字列。 そういう意味での、知らない番号。

……間違い電話か?

普段なら無視しても良かったのだが。

生憎、僕は時間を持て余してしまっている。
250 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:52:12.13 ID:RL0wKrN60
どうせなら出るか、間違いならそう教えてあげた方が良さそうだし。 との結論に行き着き、通話ボタンを押す。

暦「もしもし?」

「お、繋がった繋がった。 やっぱ携帯ってのは慣れない物だよ、全くさ」

この声は、忍野か?
251 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:52:38.83 ID:RL0wKrN60
暦「あれ、お前携帯とか持ってたのかよ。 持っていないって言ってなかったか?」

「言った様な気もするし、言って無い様な気もするなぁ」

「ま、考えてもみなよ。 そりゃあ、仕事柄一応は持っているさ。 自分の番号とか分からないんだけどね」

仕事で使えないじゃん、それ。 意味ねえな。

暦「てか、まあそれは良いとしてさ。 どうして僕の番号を知っているんだよ」

「委員長ちゃんに聞いたんだよ。 あの子は何でも知ってるからねー」
252 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:53:05.90 ID:RL0wKrN60
僕に言わせたいのか、そうなのか?

暦「何でもは知らないだろ。 知っている事だけだ」

「はは、そうだったそうだった」

折角、忍野のフリに答えてあげたのだから、もうちょっと面白いリアクションを期待したんだけども。

……忍野だし、仕方ないか。
253 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:53:33.19 ID:RL0wKrN60
暦「それで忍野。 何で急に電話なんてしてきたんだよ? 僕の声が聞きたかったとか、そんな用事じゃねえだろ?」

もしそう言ったら、すげえ気持ち悪いけどな……

忍野との付き合い方も、考え直さねばなるまい。

「ああ、うん。 阿良々木くんに伝えておかなければならない事があったからね」

良かった。 どうやら付き合い方を考え直す必要は無さそうだ。
254 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:54:00.18 ID:RL0wKrN60
つか、僕に用事? って事はつまり、怪異の事だろうか。

「あれからさ、こっちはこっちで色々調べていたんだけど、君の妹ちゃん……小さい方の妹ちゃんかな」

「あの子は大丈夫だよ。 怪異が絡んでいなければ、怪異に関わってもいない」

「ああ、でも、あの子自体がそういう物だったか」

最後に余計なひと言を放つ辺り、少し頭に来たのだが、それよりも考える事はある。
255 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:54:32.45 ID:RL0wKrN60
暦「……月火ちゃんは、大丈夫って事だな」

「そ。 でも、まだドッペルゲンガーが居ないとも限らないからね。 僕の方は引き続き探してみるよ」

とりあえずは一安心、だな。 月火が絡んでいないだけで、僕にとっては十分すぎる情報だ。

「阿良々木くんも一応、無いとは今言ったけども、妙だと思うことがあったら教えてくれ」

「これから関わる可能性なんて、十分にあるからね」
256 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:55:06.47 ID:RL0wKrN60
忍野は最後にそう言い、電話を切る。

他にも聞きたい事はあったのだけれど、まあ、今度の機会でも良いだろう。

とにかく僕にとっては、今回の事がただの杞憂だと分かっただけで十分すぎた。

電話と共にベッドに体を投げ、安心感からか眠気が襲ってくる。

火憐の説教はまだ続きそうだし、こっちは少しだけ寝るとしよう。
257 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:55:57.98 ID:RL0wKrN60
三十分ほどたっただろうか。

僕は体をゆさゆさと揺らされる感覚によって、目が覚めた。

暦「ん……」

目の前を見ると……見ると。

やべえ、月火だ。
258 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:56:25.67 ID:RL0wKrN60
暦「あ、あはは。 おはよう」

とりあえずは目覚めの挨拶である。 挨拶ってのは大事だよね。

月火「うんうん。 おはようお兄ちゃん」

月火「すぐに挨拶するのは、褒めてあげよう」

んー?

あれ、そこまで怒ってないのか?

まあ、それならそれで良いのだけれど。
259 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:57:02.56 ID:RL0wKrN60
暦「火憐ちゃんの方は終わったのか?」

月火「ひと段落って所だよ。 これからまだ続けるつもりなんだけどさ」

マジかよ、もう一時間くらい経ってるじゃん。 それでひと段落とか。

月火「それより、一応はお兄ちゃんにも事情聴取なんだけど」
260 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:58:24.94 ID:RL0wKrN60
暦「ああ、ええっと。 なんか、成り行きで」

月火「またそうやって……」

月火「ま、どんな成り行きかは聞かないでおこう。 どうせくだらない理由だし」

まあ、その通りだけども。

とりあえずは、謝っておくに越した事は無い。
261 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:58:50.22 ID:RL0wKrN60
暦「……すいませんでした」

妹に頭を下げる兄。 誠実で良い奴な筈だ。 僕だけど。

つか、そうは言ってもだ。

月火にも僕に謝らなければいけない事があるじゃねえか。

具体的に言うと、火憐に余計な入れ知恵をした事だとか。
262 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 22:59:24.78 ID:RL0wKrN60
暦「けど、けどさ月火ちゃん。 元を辿れば月火ちゃんにも原因があるんだぜ」

月火「ほう。 私に?」

暦「そうだ。 この僕の首にあるこれ、月火ちゃんの入れ知恵らしいじゃないか」

暦「姉にそんな入れ知恵をするなんて、人としてどうかと思うぜ? 月火ちゃんよ」

月火「ああ、それね。 火憐ちゃんがどうしたら兄ちゃんと仲良くなれるかとか聞いてくるから、教えてあげたんだよ」

月火「それと、お兄ちゃんに人としてどうかってお説教はされたくないね。 私の言っている意味分かる?」
263 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:00:19.56 ID:RL0wKrN60
朝と同じくだりじゃねえか! いや、確かに僕は中途半端に化物ではあるけどなぁ。

こんな月火が怪異その物だなんて、僕も事実を知らなければ、多分一生知る事は無かったのだろう。

そんな事を考えると、昼間に忍野が言っていた言葉を思い出す。

僕が、ふと気になって聞いた事だ。
264 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:00:45.60 ID:RL0wKrN60
以下、回想。

「てか、忍野」

「ん? どうしたんだい」

「お前は月火ちゃんの正体について、知っているんだよな。 なら、お前も月火ちゃんを狙うのか?」

馬鹿な質問だとは思うが、聞いておかずにはいられない。

念の為。
265 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:02:49.14 ID:RL0wKrN60
「はは、どうしてそう思う?」

「少なくとも、僕が知っている専門家は月火ちゃんを殺そうとした。 だからだよ」

「忍野とは同じ大学で、同じサークルに居たって人だ」

「不死身の怪異の専門家かい。 まあ、その辺りは人それぞれだよ」

「それと……偽物の妹、か。 なるほど」

「けどさ、阿良々木くん」
266 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:03:31.90 ID:RL0wKrN60
「いくら周りが化物だと言っても、本人は知らないじゃないか」

「知らないし、知ろうとしても普通にしてちゃ、知る事すら出来ない」

「それなら僕にとっては、人間と一緒だよ。 阿良々木くんの妹ちゃんは、人間だ」

「自分を化物だと思い込んでいる人間と、自分を人間だと思い込んでいる化物」

「僕はさ、阿良々木くん」

「自分を化物だと思い込んで、凶行に走る人間の方が、よっぽど化物だと思うぜ」
267 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:04:11.86 ID:RL0wKrN60
つくづく。

本当に忍野はお人好しだよな。 なんて思う。

「僕だって、人殺しにはなりたくないからね。 化物殺しならするだろうけど」

そして僕には、何より……月火の事を人間だと言ってくれたその言葉が、嬉しかった。

「分かった。 変な質問をして悪かったな、忍野」

「いいさ、気にしないでくれ」
268 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:04:44.26 ID:RL0wKrN60
回想終わり。

そんな事をあいつは言っていた。

だから、やっぱり僕が人としてどうか、という説教をするのは筋違いだろう。

僕は少なくとも、自分を中途半端ではあるけれど、化物だと思っているのだから。

月火「お兄ちゃん、大丈夫? 考え事? キスマーク付けてあげようか?」

暦「もっと他の方法があるだろうが!」
269 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:05:16.28 ID:RL0wKrN60
何言ってんだよこいつは、一気に現実に戻されたじゃねえか。

月火「良いじゃん良いじゃん、減る物でもないんだしさぁ」

暦「失う物は確実にあると思うぞ……」

月火「そうかな? 増える物ならあると思うけど」

暦「そうは言ってもな、月火ちゃん」
270 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:06:21.48 ID:RL0wKrN60
暦「……今日既に、これだけで二人に突っ込まれてるんだよ。 僕は」

月火「おお、早速そんな効果が……」

暦「いらねえ効果だからな! 僕は望んでない!」

月火「もう、可愛い妹からのキスマークなのに、そんな見栄はっちゃってさー」
271 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:06:54.26 ID:RL0wKrN60
暦「見栄は張ってない。 あるのは迷惑だけだ」

暦「考えてもみろよ。 月火ちゃんが僕にキスマークを付けられたとして、そんな状態で、えっとなんだっけ。 蝋燭沢君だっけか」

暦「そいつの前に、行けるのかよ?」

月火「さあ? いざやられてみないと分からないなぁ。 それは」

暦「ほう、じゃあやってやろうか」

月火「ほれ、どうぞ」
272 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:08:32.97 ID:RL0wKrN60
僕の言葉に月火はそう言うと、髪を上げ、僕の目の前に首を差し出す。

首を差し出すっつうと、すごく恐ろしい意味に聞こえるな……

つうかこいつ、多分冗談なんだろうなぁ。

僕が「妹にキスマークなんぞ付けられるか!」って返すのに期待しているのだろう。

そして僕は、その期待なんざ裏切ってやるのだけど。

八九寺の出したミッションを、今こそ達成する時だろうし。
273 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:09:22.28 ID:RL0wKrN60
暦「ほら」

キスしてやった。 首に思いっきり。

月火が「ほれ、どうぞ」って言ってから、ここまで約二秒ほどである。 最早条件反射と言っても過言では無い。

んで。

僕はてっきり、キスをした瞬間に月火は僕の事を殴り飛ばすのだろうと思ったのだが。
274 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:10:42.92 ID:RL0wKrN60
月火「ん……」

あれ、予想していたのと反応が違う。

つうか、妹のそんな声聞きたくねえ!

僕はそれに多少驚いたのもあり、咄嗟に月火から離れる。

月火「んん? 五秒だけかぁ」

月火「ダメダメだね。 お兄ちゃんはやっぱりヘタレでした!」
275 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:11:25.01 ID:RL0wKrN60
暦「お、お前が変な声を出すからだろうが!」

くそ、この性悪妹め。

月火「え、何々お兄ちゃん。 お兄ちゃんは妹の声を変な声って表現するの?」

月火「なるほど……なるほどだよ、お兄ちゃん」

暦「納得するな! 僕は何も納得してねえぞ!」

ちなみに、僕と月火は現在、ベッドの上で会話中である。
276 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:12:03.34 ID:RL0wKrN60
月火「よし。 じゃあ次は私の番だ」

ん? 番って、何が?

とか思っている間に、月火は僕の方へ近づいてきて(近づくと言うよりかは、這い寄って)僕の首へと顔を近づけて。

それから。

キスをした。
277 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:12:43.60 ID:RL0wKrN60
暦「ちょ、ちょっと待て月火ちゃん! 何してんだ!」

月火は僕の首から唇を離し、口を開く。

月火「何って。 お兄ちゃんにキスされたから、仕返しだよ」

月火はそんな事を言いながら、僕を上目遣いで見つめる。

あれ。
278 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:13:39.45 ID:RL0wKrN60
あれ?

やべえ。

なんか!

……可愛い。

てか、月火は見た目が可愛いだけあり、こういう態度を取られると、ちょっと揺らぐ物がある。

具体的に言うと、理性とか。
279 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:14:24.15 ID:RL0wKrN60
暦「つ、月火ちゃん」

僕が何とかそれだけ言うと、月火は再度僕の首へキスをする。

暦「……」

ヤバイヤバイ。

これ、マジでヤバイって。

てか、月火の体すげえ柔らかくね?

今、胡坐を掻いている僕の上に月火が乗っている形なのだけど、すげえ柔らかくね?

首に当たっている、月火の唇も。
280 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:15:00.80 ID:RL0wKrN60
暦「……月火ちゃん」

そう言い、僕は月火を抱きしめる。

月火はそれを拒否する事もせず、僕の首を吸い上げる。

その柔らかい唇で。

うわあ。

あったけえ。
281 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:15:46.61 ID:RL0wKrN60
暦「ちょ、ちょっと一回離してくれ」

一回。

そんな事を言ってしまう辺り、僕も少しヤバイ。

そして、僕の声を聞き、月火はまた僕の首から唇を離し、口を開く。

月火「……お兄ちゃん」
282 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:16:14.53 ID:RL0wKrN60
うわ、目がめっちゃとろんってなってる。

ただでさえたれ目なのに、それがまた色々とヤバイ。

とにかくこう、ヤバイ。

さっきからヤバイばっかだな……まあ、でも事実なのだ。
283 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:16:45.29 ID:RL0wKrN60
月火「キスしよ、お兄ちゃん」

そんな顔で、月火は僕にそう言う。

月火が言うキスとは、つまりあれか。

首とかではなく、唇と唇。

マウストゥマウス。
284 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:18:09.12 ID:RL0wKrN60
暦「う、うん」

やべー。

いつもなんとなくで月火にはキスしている物の、こんな雰囲気でするのは初めてだ。

こんな緊張する物なのか……?

雰囲気って大事なんだね。

で。

月火は僕の首に腕を回し、顔を近づけてくる。
285 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:18:48.51 ID:RL0wKrN60
僕は月火の頭を手で支え、顔を近づける。

後何センチだろうか。

数秒後には、月火に触れられそうなそんな距離。

月火は目を閉じる。

さっきまでの目が見れないのは少し悔しくもあるが、仕方ないか。

僕も目を閉じ、月火と更に距離を縮める。

お互いの息と息がかかる様な、そんな距離感。
286 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:19:59.98 ID:RL0wKrN60
が。

こういう時に限り、邪魔が入る物である。

まるで火憐と歯磨きをした時と同じ様に、良い所で。

火憐「おーい、そろそろご飯だってさ……って何してんだー!!」

火憐「あたしも混ぜろ!!」

いやはや、ツッコミがすげえおかしいが、元気いいなぁ。

……てか。

マジで、危ない。
287 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:20:41.57 ID:RL0wKrN60
僕は妹と何やってんだよ!!

火憐とのあのやり取りから、自分の事ながら何も成長してねえ!!

本当に、さっきまでの感情は丸っきり消え去り、正気に戻るという事を理解する僕がそこに居た。

暦「うわあああああああああぶねええええええええええ!!」

いや、そもそもあそこまでやった時点で、アウトと思えなくもないが、まだギリギリ兄妹のスキンシップとも考えられなくも無いか?
288 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:21:38.55 ID:RL0wKrN60
セーフ、アウト。

よし、セーフだ。

今決めた。 僕が決めた。 これはセーフであると。

月火「むう」

月火はどこか悔しそうに、そう呟く。

お前も早く正気に戻れ!
289 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:22:45.86 ID:RL0wKrN60
そして恐らく、火憐の言葉から察するに両親も帰ってきているのだろう。

火憐にご飯が作れるとは思えないし。

うわー。 何分経ってるんだよ、これ。

で、結局僕の首にキスマークが一つ増えただけで、何にもならなかったではないか。

しかも、月火の首にも付いてるし。

ああ、でもそれが彼氏に見つかれば、多分別れる事になるのだろう。

兄として、見つかる事を切実に願っておくとする。
290 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:23:35.40 ID:RL0wKrN60
火憐「まー、あたしは先に下行ってるから、月火ちゃんも兄ちゃんも早く来いよー」

火憐「いちゃつくんじゃねえぞ!?」

暦「いちゃつかねえよ! いいからさっさと行けや!」

火憐「んじゃ、また後でー」

火憐はそう言い残し、部屋を後にする。
291 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:24:11.19 ID:RL0wKrN60
月火と違い、あっさりしてる辺りがまたなんとも、格好良い。

違う言い方をすれば、台風みたいな奴だ。

僕はその後、火憐が去った扉から視線をずらし、月火の方を見る。

月火は未だにベッドの上から動かず、目はまだ少しだけ、とろんとしていた。

暦「おい、月火ちゃん。 正気に戻れ」

顔をぺちぺちと叩くと、ようやく月火は正気に戻った様であり、いつものたれ目となり、叫ぶ。
292 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:24:38.87 ID:RL0wKrN60
月火「うわあああああああああぶねえええええええ!!」

うわ、僕と同じリアクションだ。 面白いなこいつ。

月火「てか! どうするのこれ! どうするの!?」

月火はそう言い、自分の首を指差す。

暦「いや、元はと言えば月火ちゃんから始まった事だしな。 自分で蒔いた種だぜ」

月火「うう……しばらく蝋燭沢君と会えないよ……」
293 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:25:07.31 ID:RL0wKrN60
暦「ははは、ざまあみろ!」

そう思うだけの筈だったのだが、ついつい嬉しくて言葉に出してしまったではないか。

月火「いつか、いつか絶対この恨みは返してやる!」

マジか。 逆恨みじゃね?

暦「おし、んじゃあとりあえずご飯を食べよう」

月火「私の話はまだ終わっていない!」
294 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:25:34.48 ID:RL0wKrN60
暦「いいや、終わりだ。 これから先に話す事なんて無い!」

月火「違うよ。 これから先、約一時間に渡る私の説教が始まるんだよ!」

暦「僕は全力で拒否してやる」

暦「てか、月火ちゃんが「ほれ、どうぞ」とか言うからだろ? あんな事を言わなければ、月火ちゃんの首はそんな悲惨な事にならなかったんだぜ」

月火「自分でやっておいて、よく悲惨な事とか言えたね……」
295 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/02(木) 23:26:04.23 ID:RL0wKrN60
暦「んで、今更だけど今回はどんなつもりで「ほれ、どうぞ」って言ったんだよ」

月火「いや? 他意は無いよ?」

それはそれで驚きだけれどもさ! それならキレるんじゃねえよ!

暦「……まあ、行くか」

月火と話しても終わりが見えなさそうなので、僕はご飯に行くとの名目を使い、強制的に話を終わらせるという暴挙に出るのだった。



第七話へ 続く
302 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:47:46.68 ID:V1WH9trB0
火憐「んで、兄ちゃん。 考えといたか?」

暦「ん? 何を?」

暦「んで、月火ちゃん。 考えといたか?」

月火「ん? 何を?」

僕と火憐と月火は今、相も変わらずソファーに並んで座っている。
303 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:48:35.17 ID:V1WH9trB0
暦「何を? だってさ、火憐ちゃん」

左隣に座っている火憐に向けて。

火憐「決まってるだろ! 今日の夜、何をして遊ぶかだ!」

暦「らしいぜ、月火ちゃん」

右隣に座っている月火に向けて。
304 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:49:08.59 ID:V1WH9trB0
月火「んー。 そういえばそんな話もあったね」

暦「と言っているけど、火憐ちゃん」

火憐「ええ、考えてないの?」

暦「だとよ、月火ちゃん」

月火「私はこれでも忙しいからね。 そんな暇はありませんでした!」

暦「との事だ、火憐ちゃん」
305 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:49:35.63 ID:V1WH9trB0
暦「なあ、これって別に、僕が中継しなくてもいいよな」

なんだか成り行きだったが、三回目くらいからすげえ面倒臭かった。

僕って流されやすい性格なのかな。

火憐「えー。 じゃあどうするんだよ。 肩パンでもするか?」

だからその発想はやめろって! やるなら自分の肩でも殴ってろ。
306 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:50:14.80 ID:V1WH9trB0
暦「それはやらねえ! お前どれだけ僕と月火ちゃんをいじめたいんだよ!」

てか、火憐だからこういう流れになったのだけれど、恐らくこれが月火だったら、先程の「そんな暇はありませんでした!」に対して「お兄ちゃんとキスする時間はあったのに?」みたいな、突付かれると痛いツッコミがあったのだろう。

まあ、月火がこちら側の人間だったのは運が良い。

月火「じゃー、トランプ?」

暦「トランプで何すんの?」

月火「トランプタワーに決まってるでしょ」
307 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:50:56.82 ID:V1WH9trB0
暦「嫌だ、やらない」

月火と年齢が一緒の千石と遊ぶ時だって、トランプをやる事になっても、あいつはトランプタワーをやろうなんて事、言った事無いんだよな。

僕がこの前、トランプで遊ぶと聞いた時に「トランプタワーか?」と聞いたら千石は「暦お兄ちゃん、トランプタワーは一人でやる物だよ」と少々真剣に心配させてしまった事もあるし。

月火「我侭だなあ」

暦「お前ら言っとくけどな、トランプタワーは「トランプで遊ぼう」ってなって、思い付く範囲じゃねえからな?」

暦「そんなのに付き合ってやるのは、多分……羽川くらいだろうな」
308 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:51:26.74 ID:V1WH9trB0
月火「ふうん」

うわー。 興味なさそうな目だなおい。

僕は何故か、それには自信を持って言えるんだけどな。 何故か。

火憐「じゃあ仕方ない、じゃんけんでもするか」

暦「お前、僕が朝に言った事全部忘れてるよな!? じゃんけんは遊ぼうって言ってする遊びじゃねえんだよ!」

むしろ、遊びをする過程でする物だろうが。
309 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:51:54.15 ID:V1WH9trB0
月火「それじゃあどうするの? 恋バナでもする?」

暦「妹と恋バナとか嫌だ……」

月火「でも、お兄ちゃん。 朝、お風呂で私の彼氏の事聞いてきたじゃん」

暦「いや、あれは違うぜ月火ちゃん」

月火「と、言いますと?」

暦「あれは月火ちゃんの彼氏じゃない。 月火ちゃんのストーカーの話だ」
310 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:52:24.04 ID:V1WH9trB0
月火「……うわあ」

すげえ引いてる。 得意のオーバーリアクションって奴だ。

いや、つうかだな。

当初は僕も認めようと努力したんだぜ?

ただ、それを諦めたってだけだ。 諦めも肝心だろうし。
311 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:52:53.34 ID:V1WH9trB0
火憐「おっし! じゃあ三人で走るか!」

暦「火憐ちゃん、頼むから前後の話を繋げてくれないか。 僕には何がどうなって走る話になったのか、全く理解できない」

って言っても、何にもする事ねえよな、こう考えると。

月火「もう、お兄ちゃんさっきから否定してばっかじゃん! お兄ちゃんは何か案とかないの?」

月火の言う事はもっともである。
312 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:53:27.94 ID:V1WH9trB0
でも、僕に考えろって言われてもなぁ。

暦「おいおい月火ちゃん、僕が複数人でする遊びをこれまでやってきたと思うのか? そこら辺、しっかりと頭に入れておいてくれよ。 頼むぜ、ファイヤーシスターズの参謀さん」

月火「とても上から目線だけどさ、お兄ちゃん。 それ、とても悲しい台詞だよ」

うるさい。 悲しい台詞だなんて事、僕はとっくに承知しているんだよ……
313 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:54:00.23 ID:V1WH9trB0
月火「はあ、もう仕方ないなぁ」

月火「それじゃあ良い事考えた。 月火ちゃん閃いちゃったよ」

暦「ん? 何だそれ、トランプ関係ではないよな」

月火「違うよ。 一人一人、面白い話をしていくってのはどうかな。 面白くなかったら罰ゲームで」

面白い話か。

僕、あんまそういうのは持ってないんだよなぁ。
314 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:54:54.89 ID:V1WH9trB0
内容自体はまあいいけどさ、罰ゲームって単語を月火が使うと物凄く怖いんだけれど。

火憐「面白い話かぁ……あたし、あんまそういうのは持ってないんだよなぁ」

うわ、僕の思っている事と火憐の台詞が被ってる。 最悪だ。

つうか、嘘付け、お前の生き方その物が既に面白さに溢れてるじゃねえかよ。
315 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:55:22.11 ID:V1WH9trB0
暦「ま、とりあえずはそれをやってみるか。 言いだしっぺだし、月火ちゃんからでいいよな?」

月火「え? ほんとにいいの? 私から話したら、後で話をする火憐ちゃんやお兄ちゃんが不憫でならないよ」

暦「ほお、言ってろ言ってろ。 僕の話を聞いたら、お前ら明日腹筋が筋肉痛になってるぜ」

自分で自分のハードルを上げている気しかしないが、まいいや。

適当に布団が吹っ飛んだとか言っとけばこいつら笑うだろ。

火憐「面白い話ねぇ……」

と、こうして各自の持っている面白話をする事となったのだけれど。
316 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:55:54.75 ID:V1WH9trB0
時間経過。

暦「で、どうするんだよ」

月火「どうするって、何を?」

暦「このすげえ白けた空気をだ」

火憐「あっはっは。 今の兄ちゃんの発言が、今日一番面白かったな」

本気で言っているのか、こいつは。 僕の発言のどこに面白要素があったんだろう。
317 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:56:31.31 ID:V1WH9trB0
で。

結論から言うと、結局の所、全員が全員大して面白い話を持っていなかった。

話し終わっても「ああ、うん」とか「え? へえ」とか。

まあ、要するに盛り上がらなかった訳である。

月火「うーん。 本当にする事が無いね」

火憐「平和だしなぁ。 どっかで事件でも起きてくれねーかな」

今なんて言ったこいつ。 とても正義の味方の発言とは思えねえぞ、それ。
318 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:57:00.33 ID:V1WH9trB0
暦「まあ、そんなしょっちゅう事件ばっか起きてたら、僕達は今頃、こんなくだらない話を出来ていないんだけどな」

火憐「平和が一番って訳か! その通りだな!」

爽やかな笑顔だなぁ。

けどこいつ、つい数秒前に言った自分の台詞さえ忘れているんじゃねえかな。

誰に似たのだろうか?
319 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:57:30.32 ID:V1WH9trB0
月火「じゃあさ。 私、一つだけ聞きたい話があるんだけど、お兄ちゃんに」

暦「僕に? 何の話だよ、一体」

月火「ずばり、お兄ちゃんの彼女についてだよ!」

おい、その話はやめろ。

火憐「おいおい月火ちゃん何言ってるんだよ兄ちゃんに彼女なんていねえぞそれは妄想だ」

言葉を区切る事もせず、火憐は機械の様にそう言う。
320 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:57:56.92 ID:V1WH9trB0
月火「もー。 火憐ちゃんもそこら辺はしっかり認めてあげないと。 いつかは別れる訳だしさ、今くらいは認めてあげなよ」

暦「なんで別れるの前提なんだよ!!」

全くもう。 である。

暦「つうか、この話はマジでやめようぜ。 また昼過ぎくらいの展開になったら大変だ」

火憐「そうだそうだ。 月火ちゃん、この話は終わりだぜ」
321 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/03(金) 23:58:39.71 ID:V1WH9trB0
月火「えー」

暦「そうだな。 仮にするとしても、まずは月火ちゃんや火憐ちゃんのストーカーの話から聞かないと、僕は自分の彼女の話をする気にならねえな」

月火「それもそれで凄い話だね……ストーカーの話を聞いた後に、彼女の話をするって」

月火「まあ、いいけどさー」

え、すんの?
322 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:03:56.08 ID:z2lqseFh0
月火「それじゃあ、どうしよっか?」

ああ、びっくりした。 てっきりストーカー野郎の話をするのかと思ったじゃねえか。

実際、話を聞いたらしてやるとか言ったけれど、そんな事をしたら僕は今からそのストーカー野郎の家に殴りこみに行ってただろうし。

火憐「おし! じゃあ兄ちゃんの部屋を探索しようぜ」

暦「何で僕の部屋なんだよ! 探索するならお前らの部屋だ!」
323 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:04:43.55 ID:z2lqseFh0
月火「女子の部屋を探索するって、さいてーだよお兄ちゃん」

火憐「そうだぜ兄ちゃん。 さいてーだ」

くそ、ぴったりと息を合わせやがって。 厄介極まりない。

で。

火憐と月火の押しにより、僕は渋々それを承諾する。

そもそも二対一では些か分が悪く、僕が負けるのは明白だったのだけれど。

けど、部屋に移動するからと言って、部屋の探索を承諾した訳では無い事だけは理解して頂きたい。
324 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:05:48.97 ID:z2lqseFh0
時間経過。

月火「片付けた後だったかぁ。 目ぼしい物が何も無いよ」

暦「当たり前だ。 そんな物はもう所持していないからな」

月火「へえ。 ふうん。 まあ、お兄ちゃんの部屋には無いって事だね」

暦「あ? だから持ってないって言ってるだろ」

月火「そうだね。 お兄ちゃんの部屋には無いみたいだ」

……こいつ、もしかして僕が自分の部屋以外に隠してるの知ってるんじゃね?
325 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:06:52.91 ID:z2lqseFh0
暦「あ、ああ。 そうだ、その通り」

月火「ふふふ」

月火の笑顔が少しばかり恐ろしい。

火憐「……ねみー」

と呟くのは、僕のベッドに寝転がる地球外生命体である。
326 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:07:40.12 ID:z2lqseFh0
ああいや、僕の妹だった。

ついつい間違えるんだよな。 地球外生命体と火憐。

暦「眠いなら部屋に戻れ。 僕のベッドで寝るんじゃねえぞ」

月火「手遅れだよ、お兄ちゃん。 もう火憐ちゃん寝てる」

ほんとだ、はええよ。 寝ようと思ってすぐ寝れるのは凄いけどさ。
327 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:08:29.58 ID:z2lqseFh0
月火「それじゃ、私はちょっと出かけてくるよー」

唐突に月火がそんな事を言い出す。

こいつも結構、思い付き発言があるよなぁ。

その辺りはやはり、火憐の妹って感じ。
328 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:09:27.57 ID:z2lqseFh0
暦「ん? こんな時間にか?」

月火「うん。 ハンドクリームが切れちゃってて、無いと困るからさぁ」

ふうん。

暦「そうかそうか。 んじゃあ今日はこれで解散だな。 お疲れさん」

月火「ほいほい。 おやすみなさい、お兄ちゃん」

月火はそう言い、僕にやる気無さそうに手を振ると、部屋から出て行った。
329 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:09:59.23 ID:z2lqseFh0
後日談というか、今回のオチ。

オチと言えるかは分からないけれど、とりあえずは一件落着と言った所だろう。

今回のは完全に僕の杞憂であったし、月火の様子も特に変わった事が無いのは事実だ。

今まで通りの月火で、今まで通りの日常だ。
330 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:11:08.53 ID:z2lqseFh0
まあ。

それでもオチを付けるとしたら、その日、僕は結局火憐と添い寝という形になってしまったのは、オチと呼べるのかもしれない。

まさか火憐のベッドで寝る訳にも行かず、渋々だったのだけれど。

しかし、横で幸せそうに寝ている火憐を見ていると、僕は今回、些か空回りだったのかもしれないな、等と思ってしまう。

つうか、こいつ涎垂らしてるんじゃねえよ! 汚ねえな!
331 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:12:01.95 ID:z2lqseFh0
はあ。

夏休みも残す所は僅かだし、僕もまた勉強しなければなるまい。

明日は多分、あいつらは揃って起こしにくるのだろう。

いや、火憐は横で寝ている訳だから月火だけで来るのか。

……月火はこの状況をみたら、また怒りそうだなぁ。
332 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:12:33.45 ID:z2lqseFh0
とにかく、明日の朝は大変な事になりそうである。

そして。

これにて、僕と妹達との物語は終わりだ。

少し前の火憐との話は、僕に大事な事を教えてくれた。

そして、こんな馬鹿なこいつでも、真剣に考えている事もあるのだと教えてくれた。

それに、僕の馬鹿っぷりも、教えてくれた。
333 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:13:06.15 ID:z2lqseFh0
これは、僕だけが覚えていれば良い話。

忍野と忍も、いつかは忘れてしまうだろう。

けど、僕だけは絶対に忘れない。

そんな話だ。
334 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:13:33.45 ID:z2lqseFh0
思えば本当に、夢みたいな三日間ではあったな。

火憐があの時、どの様に考えていて、どの様な気持ちになっていたのかは、今では本人が忘れてしまっているので、もう分からない。

だけども、僕の事を想ってくれた火憐の気持ちは、本物なのだろう。

僕はそう信じているし、火憐もきっと、そうだったのだから。
335 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:14:05.62 ID:z2lqseFh0
そして、もう一つの話。

月火の件でも、学んだ事はあるだろう。

いくら怪異と言っても、それは所詮、そこにあると思ってるからある物だ。

火憐の話を聞いて、僕は月火が怪異に巻き込まれているのでは? と思い込んだ。

結局、それは何でもない、ただの勘違いだった訳だけれど。
336 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:14:45.60 ID:z2lqseFh0
現にこうして、月火の様子に変わった所も無ければ、悩んでいる事も無いらしい。

なら、僕が無理に原因を作ろうとしているだけで、最初からそこには何も無かった。

無。

だが、僕はそれを後悔はしていない。

少し体力を使っただけで、それ以外に悪い事なんてのは起きていないのだから。
337 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:15:48.30 ID:z2lqseFh0
まあ。

こんな事もあるのだろうと。

そう思って、僕も今日は寝ることにしよう。

なんだか考え事をしている間に、時計の針は十二を指している。

明日はとりあえず、勉強だな。

火憐の事や月火の事で、最近全然できていなかったし。
338 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:16:39.42 ID:z2lqseFh0
月火は未だに帰って来ていないが、あいつは朝大丈夫なのかなぁ。

ま、いいや。

さて。

そろそろ纏めるとしよう。
339 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:17:17.50 ID:z2lqseFh0
纏める。

何を?

何か、おかしくないか?

何かなんて、曖昧では無い。

明らかに、おかしくないだろうか?
340 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:17:44.11 ID:z2lqseFh0
何故、僕は物語を終わりだと思った?

違う、はっきりとそうだとは思えないけれど、違うんだ。

この物語はまだ『続いている』。

終わってなんて、いない。

続いているのなら、まとめられる訳も無い。
341 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:18:19.29 ID:z2lqseFh0
僕は起き上がり、火憐を起こさない様、ベッドの上へと座る。

目を瞑り、思考。

どこから、おかしかったのだろうか。

今日、忍野と会ってからか?

家に帰ってからか?

それとも、夜ご飯を食べた後?

いや、風呂に火憐と入った時からか?

月火と、夕方に妙な空気になった時から?
342 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:18:51.00 ID:z2lqseFh0
違う。

おかしかったのは---------------------------最初からだ。

まず、そうだ。

月火は何故『一人で出掛けた』んだ?

火憐の服のセンスが無いのは、僕から見ても明らかだ。

連れて行かないと言う理由には『納得』できる。

しかし、火憐の方は何故それで『納得』した?
343 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:19:43.01 ID:z2lqseFh0
いつもならそれはありえない事だ。

あいつの性格から言って、無理にでも付いて行こうとした筈。

火憐と月火は常に一緒に行動をしていると言っても過言では無い。

別々で行動する。 イコール『何か問題が起きている』時。

最初の最初。

つまりはこの物語が始まった瞬間から、異変は起きていた。
344 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:20:09.24 ID:z2lqseFh0
火憐と月火が別行動をするのは『明らかな異変』である。

そして、僕や火憐はそれを自然と『受け入れて』いた。

更に、まだおかしい事はある。

むしろ、それ以外を探す方が難しい程に。

くそ。

繰り返しかよ、結局。
345 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:21:08.64 ID:z2lqseFh0
しかし、何だろうか。

まるでそれが当たり前の様な、そんな感覚があった。

月火の行動や、異変が当たり前の様な、そんな感覚。

ああ、そうか、もしかして。

忍野があの時言っていた「阿良々木くんなら問題無いさ」と言う言葉。

僕ならこうして、異変に気付けると判断したのか?
346 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:21:35.80 ID:z2lqseFh0
って事は、あいつは多分、知っている。 今回の怪異……恐らくは、ドッペルゲンガー。

それが現れている事を。

僕が話した際に、忍野は既に気付いていたのだろう。

あのアロハのおっさん……騙すなと言ったのに。

まあ、でも騙すってのは言い過ぎか。 あいつは言わなかっただけなのかもしれないし、まだその時……忍野と僕が話した時は確定していなかったのかもしれない。
347 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:22:10.72 ID:z2lqseFh0
だが、それにしてもさっきの電話は引っ掛かる。

あいつは何故、僕に月火は怪異に関わっていないと伝えたのだろう。

現状を考える限り、それはありえない。 ほぼ確実に、関わってしまっている。

僕を安心させる為、なのか?
348 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:22:41.47 ID:z2lqseFh0
いや、それよりも。

今、最優先でするべき事が僕にはある。

時刻は夜中、十二時半か。

そうだな。 これもまた、僕は自然と『受け入れて』いた事だ。

何故、この時間になっても『月火が帰ってこない』んだ?
349 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:23:09.81 ID:z2lqseFh0
そもそも、月火が出かけると言った時間は既に十時を回っていた筈。

僕は大して気にする事もせず、それを見送ったのだ。

普段ならありえない。

中学二年生の妹をこんな夜遅くに一人で外に出すなんて、僕ならありえない。
350 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:23:36.33 ID:z2lqseFh0
とにかく。

考えていても仕方ない。

厄介な事に巻き込まれているであろう月火。

彼女を探しに行かなければ。

それが僕の今取るべき行動だ。

……手遅れになっていなければ良いが。
351 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 01:24:05.53 ID:z2lqseFh0
僕は結論を出し、火憐を起こさない様に着替え、なるべく音を立てずに外へ出る。

まずは、連絡。

忍野に報告だ。 それに、聞きたいこともあるし。

と、僕はそう思って携帯を開いたのだけれど。

その時丁度、忍野からの着信があった。


第八話へ 続く
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/04(土) 03:14:46.35 ID:NX7oxkiI0
おっつ
ハラハラするぜ
359 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:38:01.81 ID:z2lqseFh0
「やあ、阿良々木くん。 夜遅くにごめんね」

忍野は電話が繋がった直後、そんな事を言った。

暦「丁度良かった。 忍野、異変だ」

「だと思ったよ。 けど、まず最初に阿良々木くんには謝らないとね」

「騙していたって訳じゃないんだけどさ。 前回と同じで、阿良々木くんにそう行動して貰うのが一番良かった」
360 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:38:31.30 ID:z2lqseFh0
今までの忍野の言動から薄々気付いてはいたが、やはりそうだったか。

大体、そんな所だろうとは思ったけどさ。

暦「ああ、大体そんな物だとは思ったよ。 って事はさ、忍野」

暦「今、この状況になっているのが最善だって事か?」
361 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:38:57.89 ID:z2lqseFh0
僕がそう聞くと、少しの間を開けて忍野は言う。

「……そうとは言えない」

だろうな。

それもまた、何となくは分かっていた事だ。
362 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:39:29.40 ID:z2lqseFh0
暦「そうか」

「ごめん、阿良々木くん。 これは僕のミスだ」

「その所為で、阿良々木くんが気付くのに遅れたって可能性も、無い訳じゃないし」

暦「んな事ねえよ。 忍野にだって失敗する時はあるだろうし。 そんな事より、とりあえずは月火ちゃんを探さないと」

「はは、そう言って貰えると助かるよ」

「まあ、その心配している妹ちゃんなんだけど」

ん?
363 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:39:56.02 ID:z2lqseFh0

「神社。 北白蛇神社に来てくれ。 僕は今そこに居る」




--------------------------阿良々木くんの、妹ちゃんもね
364 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:40:21.40 ID:z2lqseFh0
暦「忍、起きてるか?」

自転車を漕ぎながら、僕の影に向けて問いかける。

忍「お前様の動揺のおかげでな、とてもじゃないが寝れんしの」

暦「そうか、それは悪かったよ」

忍「構わん。 起こしてもよいと、言ったじゃろ」
365 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:40:47.18 ID:z2lqseFh0
忍野と月火は今、一緒に居る。

それはどういう意味を持つのか、なんとなくだが、分かってしまう。

暦「忍」

暦「一応、忍の意見も聞きたいんだけど」

忍「儂の意見か。 まあ、よい」

忍「……月が綺麗じゃな」

忍は自転車の籠に入りながら、夜空に浮かぶ月を眺めながら、独り呟く。
366 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:41:20.01 ID:z2lqseFh0
そして、月から僕の方へと視線を移し、続けた。

忍「恐らくは、お前様の妹御がドッペルゲンガーと入れ替わっておる」

忍「あのアロハ小僧の言葉から察するに、そういう意味じゃろうて」

やっぱりか。

つっても、一体それはいつからなんだ?
367 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:42:00.28 ID:z2lqseFh0
まさかとは思うが、僕が火憐の問題とぶつかっていた時から?

いや、今日の朝に出かけた時か?

どちらにしても、もしそうだとしたら、本当の月火は今どこに?

暦「忍に、いつから入れ替わっていたとかは分かるのか?」
368 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:42:30.28 ID:z2lqseFh0
忍「分からん。 言ったじゃろ? 儂には区別が付けられん。 奴はそういう怪異じゃからな」

暦「けど、人間としては区別が付くって言っていたよな? 匂いを二つ感じるって」

忍「言った。 が、儂もお前様同様、あの妹御の行動を不思議に思わんかった」

忍「無論、妹御の匂いが二つある事も、不思議に思わんかった」

不思議に思わなかった……

僕や火憐と同様に、って事か。
369 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:43:36.55 ID:z2lqseFh0
忍「ドッペルゲンガーには様々な都市伝説があるじゃろ? お前様がこの前言っていた様に、出会ったら死ぬと言うのも、その一つじゃ」

忍「そして、他にもある」

忍「ドッペルゲンガーの元となった人間と入れ替わり、本人に成りすます。 それもまた、都市伝説の一つじゃ」

忍「恐らくは、その特性もあるのじゃろうな。 そのおかげで儂もお前様も巨大な妹御も、極少の妹御の行動を自然と受け入れてしまった」
370 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:44:04.24 ID:z2lqseFh0
って事は、結構危ない所だったのだろうか。

半分程は受け入れてしまっていたし、あのまま行っていたら、誰も気付く事無く、月火は入れ替わっていたのだろう。

いや、まだ『だろう』なんて言葉は使えない。

今、この状態をなんとかしなければ、恐らくはそうなってしまう。
371 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:44:32.44 ID:z2lqseFh0
忍「落ち着かんか。 我が主様よ」

忍の声で、思考を一度止める。

暦「あ、ああ。 悪い。 頭がどうにかなっちまいそうだよ、全くさ」

忍「お前様の妹御なら……本物の方じゃがな、生きておると儂は思う」

本物か。

なんだか、笑えてくる話だよな。

偽物の、更に偽物だなんてさ。
372 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:45:02.35 ID:z2lqseFh0
暦「なんでそう思う? 気休めで言ってるのなら、さすがに怒るぞ」

忍「……全く。 お前様は本当に馬鹿じゃな」

滅茶苦茶呆れた様に言われてもな。

それは分かってるけどさ。
373 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:45:37.78 ID:z2lqseFh0
忍「さっきも言ったじゃろ。 儂は妹御の匂いを二つ感じておる」

忍「お前様の妹御は、不如帰の怪異じゃ」

忍「不死性だけで言えば、吸血鬼である儂以上」

忍「二つ感じておる時点で、妹御が生きておるのは確定じゃろうて」

暦「それはつまり、無事って事だよな?」

籠で揺られている忍にそう聞くと、忍は顔を伏せ、言う。
374 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:46:10.05 ID:z2lqseFh0
忍「分からん。 無事かどうかは、判断する事はできん」

暦「……そうか」

忍「だが、先程も言ったが、お前様の極小の妹御は生きておる」

忍「もし、万が一にでも自分の正体に気付いたとしても、お前様なら何とか出来る」

暦「それは、気休めか? 忍」

忍「違う。 儂はな、お前様よ」

忍「お前様はそういう奴だと『信じて』いるんじゃよ」
375 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:46:41.11 ID:z2lqseFh0
暦「……はは。 そりゃ、良い事が聞けたよ」

忍「とにかく、今は急げ」

忍「お前様の妹御はまだ生きておる。 とっととドッペルゲンガーの方を始末して、迎えに行けばよい」

忍「あのアロハ小僧は神社に来いと言っておったし、お前様に話があると言う事じゃろ?」

忍「先に本物の方を助けた方が良いのなら、あの小僧ははっきりとそう言っておるよ」
376 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:47:07.43 ID:z2lqseFh0
そうか。

つまり、なるべく早く向かった方が良いって事だよな。

月火を後回しにするのは、それだけでもう気が気じゃないけれど、ここは抑えなければ。

忍野はしっかりとは言えないかもしれないが、役目をこなしてくれた。 なら、僕が僕の役目……それを放棄しては駄目だ。
377 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:47:35.41 ID:z2lqseFh0
暦「分かった。 なるべく急いで行く」

忍「じゃな。 それが今取るべき行動じゃ」

忍「……しかし」

忍は僕の方から視線を逸らし、とても言い辛そうにそう呟く。

そして、続ける。

忍「お前様は、戦えるのか?」
378 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:49:12.48 ID:z2lqseFh0
忍「お前様に害を与えるにしても、与えないにしても、どの道怪異じゃ」

忍「同じ人間が二人居てはならん。 あの小僧風に言うのならば、それだけでバランスが崩れるんじゃよ」

忍「つまりは、戦わなくてはならん」

戦えるのか。

言われなくとも、分かってる。
379 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:49:45.65 ID:z2lqseFh0
僕は今から月火のドッペルゲンガーを前にして、戦えるのか。

妹である、月火と。

忍野に頼れば、すぐに退治してくれるのだろうが。

僕は、目の前で起こるであろうそれを……ただ見ている事が出来るのだろうか。

それがドッペルゲンガーという、怪異だとしても。
380 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:50:17.79 ID:z2lqseFh0
暦「ドッペルゲンガーってのは、見た目だけじゃなくて、性格や考え方も一緒って言ってたよな」

忍「左様」

暦「……はは、せめて性格だけでも、あいつより捻くれていてくれたら、楽だったかもな」

僕は苦笑いをし、忍に向けて言う。

しかし、忍は表情を変えず、口を開く。

忍「回答を避けるな、我が主様」

忍「戦えるか? 自分の妹御と」
381 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:50:44.85 ID:z2lqseFh0
これは多分、忍の気遣いでもあるのだろう。

その辺りをはっきりとさせなければ、僕は何も出来ないだろうから。

忍はそう思い、今この場での回答を求めている。

僕は、戦えるのか。

頭ではドッペルゲンガーだと分かっていても、戦えるのか。

見た目も、性格も、考え方も。

月火その物のそいつと。
382 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:51:15.08 ID:z2lqseFh0
暦「……」

忍「我が主様よ。 儂が代わりにやってやらん事もないぞ」

忍「お前様に妹御を殺すなんて真似、させたくは無いと儂は思っておるしのう」

忍「決められんと言うならば、儂が殺す。 食らい尽くす」

暦「僕は」

暦「……僕は」
383 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:51:41.47 ID:z2lqseFh0
くそ、ここまで言われても僕はまだ、迷っている。

八九寺真宵よろしく、辿り着けない。

いくら考えても、恐らくこの問題に対する答えは、出ない。

しかし、出さなければ進めない。

戦うにしても、戦わないにしても、どちらを選ぶにしても、だ。

なら、僕が思う事を告げよう。
384 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:52:07.84 ID:z2lqseFh0
暦「ごめん、忍」

暦「僕にはドッペルゲンガーだとしても、殺す事はできないよ」

怪異だとしても、戦う事なんてできない。

紛れも無く、それもまた僕の妹なのだから。

妹。
385 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:54:21.83 ID:z2lqseFh0
忍「……そうか。 それもまた、当然の選択じゃよ」

忍「しかし、それではお前様の妹御は、本物の妹御はどうなる?」

本物の、月火。

怒りやすく。

ずる賢く。

流されやすく。

しかし、優しく。

僕の妹の月火。
386 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:55:18.55 ID:z2lqseFh0
暦「結局……選ばなければ駄目って事だよな」

忍「そうじゃ」

忍「しかし、戦わないと言うならば、儂が殺る」

暦「僕が止めたとしてもか?」

忍「うむ」

忍「それに、お前様に止められたとしても、あの小僧が殺るじゃろうな」
387 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:55:44.90 ID:z2lqseFh0
はったり、では無いな。

忍は僕が戦わないと言うならば、自分でやるつもりなのだろう。

それでも駄目ならば、忍野が。

暦「けど、僕には無理だ」

暦「忍はさ、僕がそれを出来る奴だと思うか?」
388 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:56:43.67 ID:z2lqseFh0
僕の質問に対し、忍は考える素振りも見せず、答える。

忍「思わん。 お主には妹御を殺す事は不可能じゃ」

暦「……なら、どうして聞いたんだ。 僕に戦えるかどうかって」

忍「分かっておらんと思ったからじゃよ。 お前様はこれから、何をするのか」

暦「忍野に、あいつに会いに行くって事は、そういう事ってのは分かってるさ」
389 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:57:29.05 ID:z2lqseFh0
分かっていた。

だけど、考えようとしなかった。

問題の後回し。

僕はその問題を後回しにする事で、何を得られるのだろうか。

いや、何を失うのだろうか。
390 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:57:55.56 ID:z2lqseFh0
そんなのは明白。 失うのは紛れも無く、僕の妹である月火。

あいつは、月火は面倒な事を先に片付けてしまうタイプである。

夏休みの宿題は初日にやる様な、そんな性格。

僕は最終日にやる様な、そんな性格だ。
391 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:58:22.14 ID:z2lqseFh0
もし、僕の立場に月火が居たならば、あいつはどう考えたのだろうか。

月火は頭の回転が早い。

ちゃちゃっと簡単に、答えに辿り着けるのかな。

けど、今はそんな事を考えても無駄だ。

問題を提示されているのが、月火ではなく、僕なのだから。
392 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:58:50.33 ID:z2lqseFh0
忍「だが」

忍「例え、戦うと言ったとしても、お前様が妹御を前にして同じ事が言えるとは思えん。 それがドッペルゲンガーだとしてもじゃ」

忍「何せ、性格も見た目も考え方も、一緒なのじゃから」

忍「願いを叶えるという、はっきりとした目的がある以外。 だがの」

忍の言葉を受け、僕は少し考える。
393 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:59:23.77 ID:z2lqseFh0
確かに僕が、今この場で戦うと忍に言ったとしてもだ。 いざ目の前にしたら、そんな決意は簡単に揺らぐのだろう。

そこは否定しない。

僕も、その通りだと思うから。

そして、次の言葉。

見た目も同一。 性格も同一。 考え方も同一。
394 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 18:59:50.37 ID:z2lqseFh0
その言葉に、僕は引っ掛かる物があった。

そいつは、月火その物だ。

月火と、同一。

同じ、考え方。

ちょっと、待てよ。 それならば。
395 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:00:48.87 ID:z2lqseFh0
暦「忍、一つだけ聞いてもいいか?」

忍「なんじゃ、我が主様」

暦「そいつは、そのドッペルゲンガーには『自分が怪異だという自覚』はあるのか?」

忍「人格があると言ったのは覚えておるか、我が主様」

忍「故に、自分を化物だと理解し、人間の真似事をしておる」

忍「そやつにもそやつの考え方があるにはあるが、主導権を握るのは化けた人間の性格やら人格じゃよ」

忍「願いの内容を叶えるという、大前提以外だがの」
396 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:01:16.86 ID:z2lqseFh0
そうか。

それなら、どうやら僕の答えは見つかった。

暦「ありがとう、忍」

暦「僕の答えは見つかったよ」

忍にそう言うと、忍は小さく笑い、問う。

忍「ほう? では聞こうか、お主が出したその答えを」
397 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:02:04.84 ID:z2lqseFh0
簡単な話だった。

今から僕が会うそいつは、もう一人の月火なのだ。

僕の妹の、月火。

そいつは月火の様に動き、月火の様に考え、月火の願いを叶える為にそこに居る。

なら、僕は。
398 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:02:43.07 ID:z2lqseFh0
暦「話し合う」

忍「……話し合う?」

暦「そうだ。 僕は月火ちゃんと話す」

暦「僕の妹の、月火ちゃんと話す」

忍「だが、それはお前様の妹御であって、妹御では無い。 ただのドッペルゲンガーじゃ」
399 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:03:13.23 ID:z2lqseFh0
暦「知ってるよ」

暦「でも、それは月火ちゃんだ」

忍「……そうか」

忍「それで、何が起きるのじゃ。 我が主様よ」

暦「全部が丸く収まるんだよ、忍」

僕がそう言うと、忍は怪訝な顔をして、口を開く。
400 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:03:40.21 ID:z2lqseFh0
忍「何故、そう思う?」

暦「僕の妹だからだよ」

暦「そいつが化物だとしても、月火ちゃんその物なんだろ?」

暦「なら、説得してやるさ」

忍「儂にはとても、上手く行くとは思えんぞ」

暦「僕にはとても、上手く行くと思う」
401 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:04:29.24 ID:z2lqseFh0
だって、そうだろ。

暦「僕はさ」

暦「月火ちゃんの事を信じているから。 月火ちゃんなら僕の言う事を聞いてくれるだろうさ」

忍「……くく、くくく」

忍はいつもとは違い、笑いが堪えきれないといった感じで、声を漏らした。

忍「くくくく。 面白い。 実に面白い。 乗ったぞ、我が主様」
402 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:05:15.80 ID:z2lqseFh0
忍「やはり、お前様とはいくら話しても飽きないのう」

暦「……そうかよ。 そりゃどうも」

忍「だが、一つだけ儂からも条件を出させて貰う」

暦「条件?」

忍「儂にお前様の血を吸わせろ。 それが最低条件じゃ」
403 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:06:23.96 ID:z2lqseFh0
暦「それには、どういう意味がある?」

忍「カカッ。 保険じゃよ。 あのアロハ小僧風に言うのなら」

忍「仮にも怪異じゃ。 万が一の為に備えての保険」

保険、か。

忍野と同じ様な事を言うんだな、こいつは。

それがまた、おかしくて、ついつい顔がにやけてしまう。
404 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/04(土) 19:06:51.81 ID:z2lqseFh0
暦「もし、僕がそれを断ったらどうなる?」

忍「どうにもならんよ。 儂の気持ちの問題じゃからな」

暦「気持ち、か」

暦「いいぜ。 分かった。 その条件は飲もう」

暦「僕も、我侭ばかりは言っていられないしな」

僕がそう告げると、忍はとても愉快そうに笑いながら、僕に向けて言う。

忍「何を今更」


第九話へ 続く
410 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:38:02.30 ID:kDGXaDju0
長い階段も登り終え、神社の鳥居が視界に入ってくる。

その鳥居の下。

柱に体を預ける形で、忍野は居た。

暦「忍野、来たぞ」

吸血鬼化していたのもあり、暗くとも忍野の顔はしっかりと見える。
411 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:38:39.51 ID:kDGXaDju0
忍野「や、阿良々木くん。 待ちくたびれたよ」

こんな状況であっても、忍野は変わらずいつも通りであった。

暦「それで、月火ちゃんは?」

忍野「居るよ。 ほら」

そう言い、忍野は柱の影から引っ張り出す。

まるで、物を扱うかの様に。
412 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:39:23.66 ID:kDGXaDju0
暦「……月火ちゃん」

見ると、月火は後ろ手に縛られ、口こそ塞がれて居ない物の、意識はある様だ。

月火「お、お兄ちゃん!」

声、仕草、見た目。

本当に全て月火と一緒で、まるでこいつがドッペルゲンガーだとは思えない。
413 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:40:02.24 ID:kDGXaDju0
月火「どういう事!? この人に誘拐されて、でもお兄ちゃんが来て、それで……お兄ちゃんとこの人は知り合いなの?」

演技。

全て分かっていて、やっているだけだ。

けど、それでも僕は月火の顔を見れなかった。

暦「忍野、月火ちゃんと話をさせてくれないか」

僕は忍野に向け、そう言う。
414 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:40:57.58 ID:kDGXaDju0
だけども、忍野は。

忍野「断る。 それは駄目だよ、阿良々木くん」

暦「何故だ。 話をするくらいなら、良いだろ?」

忍野「分かってないな。 こいつはドッペルゲンガーなんだぜ。 見た目も声も考え方も性格も」

忍野「そんなこいつと阿良々木くんが話したら、どうなるかくらいは想像付くさ」
415 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:41:41.17 ID:kDGXaDju0
暦「僕が、僕が騙されると思っているのか?」

忍野「そうだ、その通り」

確かに、それはあるかもしれない。

けど、話くらいなら、良いじゃねえかよ。
416 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:42:34.51 ID:kDGXaDju0
月火「違う! 訳分からないよ……お兄ちゃん、助けて……」

涙を流して、月火は言う。

くそ、流されるな。

こいつは月火であって、月火では無いんだ。

そんな事、分かっている。

分かっているだろうが!
417 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:44:00.96 ID:kDGXaDju0
忍野「全く、人の心を弄ぶなんて、随分と性質の悪い怪異だよ。 君はさ」

忍野はそう言い放つ、いつもの様に笑いながら。

そして、忍野は。

月火の腹を蹴り上げる。

月火「うっ!……うぇ」

僕の耳にも届くほどの勢いで、蹴り上げた。

当たり前だが、たまらず月火が声を漏らす。
418 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:44:35.51 ID:kDGXaDju0
僕はそれを見て。

何もしないなんて、やはりできない。

暦「忍野! やめろ、それ以上やったら、僕は」

忍野「どうするんだい? 阿良々木くん。 君の気持ちは分かるけどさ、こいつは君の妹じゃない」

忍野「ただの人の真似事をしている、化物さ。 人間じゃないんだよ」
419 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:45:31.58 ID:kDGXaDju0
暦「……だとしても、僕の妹だ」

僕がそう返すと、忍野は笑い、僕に言う。

忍野「はは、阿良々木くんには、このちっちゃい妹ちゃんが二人居るのかい?」

忍野「見た目も、考え方も、性格も一緒の妹がさ」

忍野「片方は化物で、片方は人間の。 唯一の違いって言ったら、それだけだぜ」

忍野「ああ、でもあれだね。 もう片方の方も、ある意味では化物だけどさ」
420 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:46:11.24 ID:kDGXaDju0
暦「……それ以上は、やめろよ」

忍野「そうだったね。 今のは言い過ぎた。 謝るよ」

言葉とは裏腹に、忍野には悪びれた様子は感じられない。

忍野「けどさ、阿良々木くん」

忍野「阿良々木くんのそういった優しさが、更に人を傷付けるんだぜ」
421 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:46:52.22 ID:kDGXaDju0
忍野「前に言っただろ? 「優しさが人を傷付ける事もある」ってさ」

忍野「その意味が分からない阿良々木くんでも、無いよね」

分かっている。

忍野の言う事は、分かっているさ。

けど、そういう問題じゃねえだろ。
422 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:47:20.16 ID:kDGXaDju0
暦「だから、話をさせてくれないか」

暦「必ず、良い結末にしてやるから」

とは言っても。

そんな言葉には、説得力も無ければ信憑性も無い。

忍野もそれは、分かっているのだろう。
423 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:48:17.29 ID:kDGXaDju0
忍野「そうかい」

忍野「残念だけど阿良々木くん、それはお断りだ」

忍野はそう言うと、蹲る月火の腹を再度、蹴り飛ばす。

一回、二回、三回。

月火「……お、おにい……ちゃん」

僕の方を見ながら、手を伸ばし、月火は言う。

月火「た……すけ、て」
424 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:48:59.90 ID:kDGXaDju0
その声で、全てが吹っ切れてしまった。

ただ見ているだけの僕に向けて言ったその言葉。

未だに月火は僕の事を信じている。

ああ、駄目だ。

これが全て罠だったとしても、駄目だ。
425 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:49:28.68 ID:kDGXaDju0
僕は、視線を下に落とし、影に向けて呟く。

もう、どうでもいい。

例え、これで全てが悪い方向に行ったとしても。

分かっている。 忍野のしている事は正しい事だと。

けど……それもまた、そういう問題じゃ無いんだ。
426 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:49:56.50 ID:kDGXaDju0
暦「忍、悪い」

自分の声が震えているのが分かる。

ん。

そうだ。

これは『憤怒』って奴だろう。

暦「僕はどうやら、我慢できそうにない」
427 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:50:47.92 ID:kDGXaDju0
影からの声は無く、僕も返答は求めていなかった。

ただ、それだけは伝えておきたかっただけだ。

顔を上げ、忍野を視界に捉える。

暦「悪い、忍野」

忍野「おいおい、そんな敵対心剥き出しで見つめられても、返答に困るぜ」
428 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:52:00.20 ID:kDGXaDju0
暦「僕は、僕の思うようにやらせてもらう。 今は」

暦「お前をぶっ飛ばす事だ」

月火は意識を失ったのか、ぐったりと倒れている。

そんな状態であっても、口は動いていた。

小さくではあるが、今の僕にははっきりと見える。

お兄ちゃん、お兄ちゃんと。 月火はそう言っている。
429 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:52:44.69 ID:kDGXaDju0
もし、それが僕を騙そうとしているだけの物であったとしても。

それならそれで、構わない。

騙されても、別に良いさ。

ただ蹴られる妹を見ているだけなんて真似は、とてもじゃないが出来ない。

それが本物か偽物かなんて、些細な違いじゃねえかよ。

今僕の目の前に居るのは、月火だ。
430 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:53:25.43 ID:kDGXaDju0
忍野「全く。 まあ、こうなる事も予想は出来たけどさ」

忍野「阿良々木くんと殴りあうってのは、気が引けちゃうね」

そんな事を言いながらも、忍野は構える。

けど、良かった。

無抵抗の相手を殴るほど、気分が悪い事も無いのだから。
431 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:54:18.41 ID:kDGXaDju0
忍野との距離は十メートル程か、今の状態ならば、すぐに縮められる。

暦「僕もだよ。 けど、それで僕は良いと思う。 だからお前と戦うしかない」

言った直後、僕は地面を蹴る。

忍野は笑みを消さず、僕を迎え撃つべく構えたまま。

距離は近づいて行き、後二メートル程。

数秒後にはぶつかり合っているだろう距離で、僕の足を唯一止められる声が聞こえた。
432 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:54:58.72 ID:kDGXaDju0
月火「……やめて、お兄ちゃん」

月火?

意識を失っていなかったのか?

いや、それよりも。

やめてとは、どういう意味だ?

一瞬戸惑い、足を止める。
433 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:55:33.21 ID:kDGXaDju0
忍野との距離は、一メートルと少し程。

忍野にはその声が聞こえていなかったのか、僕の方を怪訝そうな眼差しで見つめる。

月火「やっぱり、これは私が、私が悪かったんだよ」

月火「……私が、あのお化けに願わなければ、こんな事にはならなかったのに」

月火「全部……全部私の責任だよ。 ごめん、お兄ちゃん」
434 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:56:12.49 ID:kDGXaDju0
お化けに、願わなければ?

何を言っているんだ? 月火は。

自分をドッペルゲンガーだと、認めている?

いや、それにしては言い方がおかしい。

僕の目の前に横たわる、こいつは誰だ?
435 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:56:46.50 ID:kDGXaDju0
暦「月火、ちゃん?」

忍野は僕の声で、ようやく状況を理解したのか、月火の方に視線を移した。

忍野「おいおい、阿良々木くん。 この期に及んでまだ、この化物の戯言に気を取られているのかい」

そんな言葉を僕に向けて言う。

けど、だけど。
436 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:57:36.02 ID:kDGXaDju0
何か、おかしい。

そうだ。 そうだよ。

月火はどうして『意識が回復している』んだ?

それに、どうして忍野に蹴られた部分の『傷が回復』している?

ドッペルゲンガーには、そんな特性なんて、無い。
437 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:58:03.66 ID:kDGXaDju0
いくら都市伝説だと言っても、そんな都市伝説は聞いた事が無い。

傷が回復していくなんて、まるでそれは。

吸血鬼。

それに、不如帰。
438 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:58:38.24 ID:kDGXaDju0
そして、思い出す。

忍野の言葉。

あいつは確か、さっき電話した時に言っていた。

『そう言って貰えると助かるよ』と。

おかしい。

忍野が、言うだろうか?

あいつが使う言葉だろうか?
439 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:59:09.83 ID:kDGXaDju0
そこまで考えた所で、月火が再び口を開く。

月火「……私は、会ったんだよ。 私自身に」

私自身。 それはつまり。

ドッペルゲンガー。

しかし、それをドッペルゲンガー自身が、言う筈が無い。

って事は、今僕の目の前に居るこいつは。
440 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 18:59:55.60 ID:kDGXaDju0
忍野「……ちっ」

忍野が舌打ちをし、月火の腕を目掛け、足を降ろす。

あまりにも一瞬の事で、僕はそれに反応できない。

目の前に広がる光景。

月火の腕は、根元から吹き飛んだ。
441 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:00:46.12 ID:kDGXaDju0
暦「て、てめぇええええええ!!」

僕の妹に何をしているんだよ。 てめえ。

条件反射と言ってもいい。

そのくらいの速度で、僕は忍野に飛び掛る。

しかし、そんな僕よりも早く、動く奴が居た。
442 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:01:28.38 ID:kDGXaDju0
忍「お前様! その妹御を連れて離れろ!」

暦「し、忍!?」

忍は忍野に飛び掛り、動きを封じる。

僕が、取るべき行動は何だ?

忍に加勢して、忍野を倒す?

いや、それよりも優先すべき事がある。

月火を連れて、距離を取る。
443 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:02:02.08 ID:kDGXaDju0
暦「月火ちゃん!」

月火は未だ、意識を失っていない。

月火「……お兄ちゃん」

腕は既に、再生を終えている。 その辺りはさすが、不死鳥と言った所なのだろう。

幸いにも月火の意識は朦朧としていて、自分の状況を理解できていない。

腕も一瞬で消し飛ばされたので、痛みも感じていないかもしれない。

恐らくは自身の再生能力には、気付いていないだろう。
444 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:03:03.46 ID:kDGXaDju0
それでも、僕は妹を守れなかった。

月火を抱きかかえ、忍野からなるべく距離を取る。

くそ、僕の理解力じゃ全然追いつかねえな。

つまりは、この月火は本物って事なのだろうか。

それは恐らく、そうだ。

忍が忍野に飛び掛ったのも、それが分かったからだろう。
445 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:04:04.33 ID:kDGXaDju0
そうだ、忍は?

思うと同時、忍がこちらに向けて飛んでくる。

暦「忍!」

僕はそれを受け止め、後ろに倒れ込む。

さすがに二人を一緒に抱き抱えるのには、少しばかり無理がある。

もうちょっと鍛えておけば良かったな、みっともねえ。
446 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:04:37.49 ID:kDGXaDju0
暦「おい! 大丈夫か!?」

忍「くっ……儂を心配する前に、この状況をどうにかする方法を考えんか。 実際、絶望的じゃぞ」

忍はそう言い、立ち上がる。

月火「お、お兄ちゃん。 これ、どういう……」

月火は大分、混乱している様子である。

まあ、無理もねえか。

こんな状況、理解出来る方が恐ろしいし。
447 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:05:04.11 ID:kDGXaDju0
暦「後で説明する。 だから待っててくれるか、月火ちゃん」

月火「……うん」

二つ返事かよ。

全く、お前ら姉妹はどこまで僕の事を信頼しているんだか。

悪い気分はしねえけどさ。

月火を寝かせ、僕は忍の横に立つ。
448 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:05:43.78 ID:kDGXaDju0
暦「忍、戦えるか」

忍「儂を誰だと思っとるんじゃ、我が主様よ」

忍「とは言ってものう……儂とお前様が協力した所で、状況は変わらない」

暦「だろうな、相手は忍野な訳だし」

忍「カカッ。 正確に言えば、アロハ小僧の姿を真似た化物じゃよ」
449 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:06:09.23 ID:kDGXaDju0
やっぱ、そうか。

月火にも後で聞かなければならない事もあるし、本物の忍野にも聞かなければならない事はある。

とにかく今は、目の前のこいつをなんとかしなければ。

それに約束したしな、月火と。

後で説明する為にも、ここで死ぬ訳にはいかない。
450 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:06:39.94 ID:kDGXaDju0
何より。

妹の前で死ぬ兄貴なんて、最悪じゃねえかよ。

だったら僕は、生きるしかない。

「ははは。 全く、阿良々木くん。 君が僕に勝てると思うかい?」

目の前のそいつは、忍野と同じ様に、同じ雰囲気を出しながら、言う。
451 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:08:02.64 ID:kDGXaDju0
暦「さあな。 分からねえよ、そんな事」

「やってみなきゃ? けどさ、僕は阿良々木くんが取りそうな行動なんて、大体予想が付くんだぜ」

「本当なら、そこに寝てる妹ちゃんで君を釣って、殺すつもりだったんだけど、少しばかり面倒な事になっちゃったね」

「まあ、その妹ちゃんを使ったのも、暇潰しと言えば暇潰しなんだけどさ」

「予想外だったのは、妹ちゃんも化物だったって事だよ。 まさか不如帰だなんて」

「それが無ければ、妹ちゃんも話す事なんて出来ず、阿良々木くんは今頃無様に死んでいただろうに」
452 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:08:29.96 ID:kDGXaDju0
ん? 記憶は忍野と一緒の筈だが、不如帰の怪異と言う事を知らなかったのか?

それも少し引っ掛かるけれど、今はそんな事気にしている場合じゃねえな。

暦「そうだったとしても、それだけじゃない」

暦「月火ちゃんが僕に伝えてくれなければ、分からなかった事だ」

暦「それに、お前じゃどう頑張っても忍野にはなれねえよ」

暦「あの電話の時から、既にお前は居たんだろ?」
453 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:09:05.37 ID:kDGXaDju0
「うん、そうだよ。 こんな性格の僕が携帯を持つって事自体が、おかしな話さ」

暦「だろうな。 けどな、忍野は絶対に言わないんだ」

「言わない? 何をだい?」

暦「「そう言って貰えると助かる」なんて言葉、あいつは絶対に言わない」

「ああ、そうだね。 その通りだ。 僕は絶対にそんな事は言わない」

「そうやって小さいヒントを与えている辺り、僕も阿良々木くんが言うお人好しって事なのかな?」
454 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:09:52.61 ID:kDGXaDju0
暦「馬鹿言ってんじゃねえよ。 お前はそんなんじゃない」

「へえ。 ま、もう良いよ。 僕も所詮は化物さ」

暦「……そうかよ」

「それよりさ、阿良々木くん。 化物って言葉で思い出したんだけど」

「知ってるかい?」

「この忍野って奴は、君の妹ちゃんの事を人間だと認識していたんだぜ」

「笑っちゃうよ。 この専門家は、僕と同様の怪異を人間だと思っていたなんてさ」
455 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:10:24.04 ID:kDGXaDju0
忍野の口調、忍野の姿のまま、忍野じゃないそいつはそう言った。

なるほど、そういう事か。 納得だな。

暦「そうか、そりゃ良い事を聞けた」

「はっ。 良い事?」

暦「そうだ。 忍野は内心でもそう思っていてくれたなんて、良い事を聞けた」

記憶としても、考え方としても、忍野はそう思っていてくれた。

分かったろ、忍。

人間が心の奥底で想っている事が、汚いばかりの事じゃないって。
456 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:10:49.90 ID:kDGXaDju0
「そうかいそうかい。 それなら僕に殺されても、問題は無い訳だ」

暦「いいや、あるね」

「へえ。 大体予想は付くけど、一応聞いておこうか」

暦「お前は忍野の真似をしている、ただの化物だ」

「はははは! 言うと思ったよ、阿良々木くん」

「けどさ、それは自分に言っている様にも聞こえるぜ?」

「人間の真似をしている阿良々木くん」
457 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:27:15.81 ID:kDGXaDju0
暦「はっ。 そんな事、分かっているさ。 僕はただの化物だよ」

「その言葉もまた、予想通りだ。 じゃあさ、そろそろ始めようか」

「いい加減、待ちくたびれたからね」

暦「おいおい忍野、元気が良いな」

暦「何か良い事でも、あったのかよ」

僕は皮肉たっぷりに、そう言ってやる。
458 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:27:43.12 ID:kDGXaDju0
忍野の姿をしたそいつは笑い、動く。

来るか、と思ったが。

動いたと認識したその瞬間には、忍野は目の前に居た。

暦「っ!」

忍野は僕目掛け、拳を振り下ろす。
459 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:28:08.42 ID:kDGXaDju0
反応できなくは無いが、なんだよ今のは。

動きが速いとか、そういう問題ではない。

気付いたら、そこに居た。

その飛んでくる拳を僕は体を後ろに引っぱり、なんとか避ける。
460 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:28:35.38 ID:kDGXaDju0
「はは、やるじゃないか。 阿良々木くん」

「てっきり今ので終わるのかと思ったんだけど、君も成長しているって事なのかな」

暦「うるせえ。 お前に褒められたって嬉しくはねえよ」

つっても、どうする。

避けるだけでも、精一杯じゃねえか。
461 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:29:04.52 ID:kDGXaDju0
忍「お前様。 儂が足止めをする。 その間に逃げろ」

忍野には聞こえない様、忍がそう呟く。

暦「何格好良い事言ってるんだ。 お前を置いて逃げられるか」

暦「それに、どうせ僕達はリンクされているんだ。 離れようと思っても、離れられない」

忍「多少ならば離れても大丈夫じゃ。 ある程度儂も戻っておるしな」

暦「だとしても、僕は逃げない」
462 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:29:32.02 ID:kDGXaDju0
忍「お前様、分かっておるのか」

忍「あの小僧。 全盛期の儂と同等とまでは行かんが、かなり危険じゃ」

忍「あの時の儂でも、まともにはやりたくない相手じゃな」

おいおい、マジかよ。

全盛期の忍から見ても、危険ってレベルなのか?

本当にそれこそ化物じゃねえか。

伊達に、忍の心臓を気付かれない内に奪っただけあるな。
463 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:30:22.93 ID:kDGXaDju0
暦「……そうだとしても、逃げない」

暦「妹の前で戦ってるんだ。 僕は見栄っ張りだからさ。 格好悪い所は見せられねえや」

忍「……ったく。 まあよい」

「さて、そろそろいいかな? 待っている僕の身にもなって欲しい物だけれど」

暦「ああ、いいぜ。 丁度話は纏まった所だ」

「そうかい」
464 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:30:51.59 ID:kDGXaDju0
瞬間、忍野が再び目の前に現れる。

くそ、訳分からない速度だ、本当に。

けど、もう後ろに避ける事はできない。

僕の後ろには月火が居るから、それは無理だ。

なら、取るべき行動は防御。
465 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:31:19.15 ID:kDGXaDju0
顔を狙い、振り下ろされる忍野の拳を防御すべく、僕は顔の前で腕を構える。

が。

まるで、その腕をすり抜けるように、忍野の拳は僕の顔面に突き刺さった。

暦「がはっ!」

あ? 何が起きた?
466 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:31:47.41 ID:kDGXaDju0
なんだ、今のは。

僕がどの様に防御して、どの速度でその態勢が出来上がるのか、分かっていたのか?

そして、その防御の合い間を縫って、攻撃してきた?

今まで戦ってきた奴とは、種類が違う。
467 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:32:14.17 ID:kDGXaDju0
あの詐欺師、貝木泥舟は戦わず、勝ちもしなければ負けもしない。

暴力陰陽師、影縫余弦は防御を上から破壊し、攻撃する。

そうだとするならば、忍野は。

相手の行動を全て読み、攻撃する。
468 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:32:43.54 ID:kDGXaDju0
僕は後ろに吹っ飛ばされる事は無く、忍野はそのまま拳を地面に打ち付ける。

ミシミシと。

ミシミシっつうよりは、メキメキ。

とにかく、骨が粉々になっていくのが、感覚として伝わる。

多分、骨を直に攻撃されなければ、分からない感触だ。

体の内部から音がして、骨が折れているというのが分かる。
469 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:33:12.01 ID:kDGXaDju0
あー。

つうか、月火の奴、これ見てるんだよな。

僕が化物みたいな状態ってのはまあ、別にばれても仕方ない。

それについては、一応考えてあった事だし。

それよりも問題は、あれだ。

月火はああ見えて、ホラーが苦手なのだ。

そんな月火にこんなグロ映像を見せてしまったのが、まず失敗である。
470 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:33:44.97 ID:kDGXaDju0
暦「ぐっ……」

忍野は僕を地面に叩きつけた事で満足したのか、距離を取る気配がした。

もっとも、今は顔が潰れてしまって何も見えないから、そう感じているだけなのだが。

アンパンマンか、僕は。

「大丈夫かい。 阿良々木くん」

耳までは潰れていなかったらしく、忍野の声が聞こえる。
471 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:34:12.50 ID:kDGXaDju0
「はは、とても大丈夫じゃないか。 ごめんごめん」

忍はどうしているのだろうか。

そう考えた直後。

破壊音が聞こえる。

僕のすぐ傍で。

「忍ちゃんも、随分と性格が変わっちゃったよね」

台詞と音からするに、忍もやられたのだろう。

揃いも揃って、惨めなペアだよな。
472 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:34:39.35 ID:kDGXaDju0
「まあ、こっちは阿良々木くんよりも厄介なんだけれどさ。 はは、どうでもいい事か」

「それはそうと、阿良々木くん」

忍野は僕の方に近づき、耳元で囁くように、言う。

「君はそこの妹ちゃんが、何を願ったか知っているかい?」

月火ちゃんが、願った事?
473 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:35:14.76 ID:kDGXaDju0
「阿良々木くんには、想像が付かないだろうね」

「ま、ちょっと複雑なんだけどさ」

「僕は知っているし、知らないって事にもなるんだけども」

どういう、意味だ?

それなら、どうして、忍野の姿をしたこいつはここに居る?

それは、ドッペルゲンガーとして願いを叶える為なんじゃないか?
474 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:35:45.62 ID:kDGXaDju0
「それは今はいいか。 とにかく、僕が頼まれた願いは」

「阿良々木暦を殺してくれって願いだったんだよ」

……僕を殺せと、願ったのか?

月火が、そう願ったのか?

心の奥底で、そう想っていたのか?
475 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:36:33.53 ID:kDGXaDju0
「阿良々木くんは勘違いしやすいからね。 はっきり言っておかないと」

「僕が願いを二つ叶える怪異だって事は、さすがに知っているだろうから省略するよ」

「まず一つ。 深層心理での願い」

「これは想像が付くだろ? 想像したくは無いだろうけど」

「さっきも言った様に、阿良々木暦を殺してくれ。 そういう願いだった訳だよ」

言いたい事は山ほどあったが、口が開かない。

それすらも意に返さず、忍野の姿をした奴は、続ける。
476 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 19:37:28.97 ID:kDGXaDju0
「そしてもう一つ。 表面上の願い」

「こっちの方が、阿良々木くんにとってはショックかもしれないなぁ」

「僕にとっては、面白い話なんだけど」

「阿良々木くん。 僕が頼まれたもう一つの願い」

「一緒なんだぜ。 深層心理の願いと」

「阿良々木暦を殺してくれって、そう願われたんだよ」


第十話へ 続く
484 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:23:29.90 ID:kDGXaDju0
月火が、僕を殺してくれと頼んだ?

自らの口で、ドッペルゲンガーにそう頼んだって言うのか?

そんなの、絶対に。

「ありえないって? 僕はそう思わないけどなぁ」

「だってそうだろ。 阿良々木くん」
485 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:24:05.16 ID:kDGXaDju0
「君はもう一人の妹ちゃんの事だって、何一つ分かっていなかったじゃないか」

言い返せない。

いや、元より今の状態では言葉を発せられないので言い返すも何も無いのだが、その言い返す言葉すら、浮かんで来なかったのだ。

「そんな阿良々木くんがだよ? そこに居る妹ちゃんの気持ちを理解できたのかい? 考えている事を分かってやれたのかい?」

その通りだ。
486 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:25:09.49 ID:kDGXaDju0
「僕は分かってやれた。 だから君を殺す為に、こうやって色々と面倒な事をしている訳だけどさ」

いくら反省しても、後悔したとしても、僕は変わらない。

変われない。

「で、どうするんだい。 阿良々木くん」

どうするって、何が。
487 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:25:37.42 ID:kDGXaDju0
「このまま僕に大人しく殺されるか。 せめて最後まで妹ちゃんの為に戦って死ぬか」

「とは言っても、その妹ちゃんは君が殺されるのを望んでいる訳だから、どの道死ぬべきなんだろうけどさ」

僕は、何をしていたのだろうか。

月火の為にやっていたと思った事が、ただの空回り。

月火が救われると思ってやっていた事が、全て無駄。

月火と一緒に過ごしたいと思っていた事が、僕のエゴ。

それなら、僕は。
488 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:26:27.75 ID:kDGXaDju0
暦「……僕、は」

ようやく、忍野の破壊に回復が追いついてきた。

目が見えるようになるまでにはまだ時間が掛かりそうだが、それでも言葉はなんとか発せられる。

「っと」

忍野がそう言い、僕と距離を取る。

何故だ? 今、この状況で忍野は何故、僕と距離を取った?
489 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:27:02.10 ID:kDGXaDju0
「おいおい、これは面白い展開だね」

「はは、なんのつもりだい?」

誰に言っている?

少なくとも、僕はずっと地面に倒れ込んでいるし、僕に対して言った言葉ではない。

忍も未だ、僕と同じ状態だろう。

リンクされているおかげもあり、忍の状態は僕に大体伝わってくるから。

なら、第三者。

今この場で言う、それは。
490 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:27:42.32 ID:kDGXaDju0
視力がようやく、回復する。

僕の目に入ってきた光景は、先程僕が出した『答え』を言うのには、十分な光景だった。

月火「お兄ちゃんに、手を出さないでくれるかな」

月火「これ以上、私のお兄ちゃんの顔を不細工にしてどうするつもり?」

何言ってるんだよ、こいつは。
491 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:28:16.39 ID:kDGXaDju0
第一、僕はそこまで不細工じゃねえし。

つか、お前、足とかめっちゃプルプル震えてるじゃねえか。

馬鹿が、何頑張れもしないくせに頑張ってるんだよ。

それに、さっき僕は言っただろうが。

待っててくれって、言っただろ。

僕の言う事が聞けない奴なんて、後でお仕置きが必要だぜ。
492 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:28:42.95 ID:kDGXaDju0
そうだなぁ。 まずは一緒に帰って、たっぷりと抱き締めてやる。

とりあえずは、そんな所か。

むしろ、それだけでいいか。

じゃあ、お仕置きも決まった訳だし、いつまでも寝転がっている訳にもいかねえよな。

帰るとしよう。 僕と月火の家に。
493 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:29:14.53 ID:kDGXaDju0
暦「……月火ちゃん、僕は大丈夫だ」

立ち上がり、月火の肩に手を置く。

月火「嘘だよ。 全然そうは見えないじゃん」

月火は僕の方に顔を向け、いつもの様に笑う。

暦「僕が嘘を付いた事があるか?」

月火「……うん。 そうだったね。 お兄ちゃん」
494 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:29:40.20 ID:kDGXaDju0
いつに無く素直だな。

まあ、素直でも素直じゃなくても。

僕の、妹だ。

暦「それと、家に帰ったら僕との約束を守らなかった罰を与えてやる。 覚悟しとけよ」

月火「はいはい。 分かったよ、お兄ちゃん。 楽しみにしておくね」

何が楽しみにだよ。

僕の罰は、お前のよりよっぽどこええんだぞ、月火。
495 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:30:08.21 ID:kDGXaDju0
暦「ああ。 僕はもう心配いらない。 後ろに下がってろ」

一度頷き、月火は僕に笑顔を向け、後ろに下がる。

それを背中で感じながら、目の前に立つ忍野を見据えた。

暦「おい、忍野の姿をした化物野郎」

「なんだい。 人間の真似をした化物くん」
496 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:30:46.71 ID:kDGXaDju0
暦「僕は、妹の為に戦うよ」

暦「例え月火ちゃんがどう想って、どう考えていたとしても、関係無い」

暦「月火ちゃんには今日の朝に言ったんだけどさ」

暦「そんな事で阿良々木暦は諦めないんだ」

暦「僕は、月火ちゃんにどれだけ避けられても、拒否られても、突き放されても、あいつの兄で居る事は諦めない」
497 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:31:13.24 ID:kDGXaDju0
本心でそう想っているかと問われれば、分からないと言うのが正しいけれども。

あくまでも優先すべきは、僕の気持ちより月火の気持ちなのだから。

だが、僕はまだあいつの……月火の口からは何も聞いちゃいない。

暦「お前になんか頼らなくても、あいつがそれを望むなら、僕は受け入れてやるさ」

暦「てめえの力なんか、いらねえよ」

だから、僕は自分に言い聞かせる様に、言う。
498 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:31:46.18 ID:kDGXaDju0
「……そうかい」

「じゃあ、もうお話は良いかな。 これじゃあいくら言い合いをしても平行線だ」

「そろそろ終わりにしようか。 阿良々木くん」

暦「だな。 あんまり帰りが遅いと、火憐ちゃんにも怒られちまう」

つっても、あいつは多分、まだ寝ているんだろうなぁ。

呑気な奴だよ、僕と月火がこんな馬鹿みてえな状況になってるって言うのに。

……あいつも帰ったらお仕置きする事にした。 今決めた。 連帯責任だ!
499 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:32:31.27 ID:kDGXaDju0
「それじゃあ、死んでくれ」

忍野は再び距離を詰め、今度は蹴りを繰り出す。

僕の肩の辺りを狙った横からの攻撃。

食らったら恐らく、根こそぎ吹っ飛ぶのだろう。

なら、食らったら終わりだ。
500 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:32:58.10 ID:kDGXaDju0
既に一発だけだが攻撃を打ち込まれていたのもあり、幾分か先程よりも目は追いつく。

そのおかげもあり、初撃には辛うじで反応できた。

しゃがみ込む姿勢で、頭の上すれすれを忍野の足が通過していくのが見える。

風を切る音が、はっきりと僕の耳にも聞こえた。

すげえ音だな……

まるで戦闘機か何かが通過したみたいな感じだぞ。 どんだけだよ。
501 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:33:24.95 ID:kDGXaDju0
けれども、動作をしっかりと見ていれば、避けられなくも無い。

とは言っても、本当にギリギリ、コンマ一秒でも反応が遅ければ、僕の上半身は跡形もなく消し飛んでいただろう。

暦「忍! 起きてるか!?」

そのまま一度後ろに退き、忍に声を掛ける。

反応は……無しか。
502 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:33:50.59 ID:kDGXaDju0
それもまた、無理はない。

もう少し血を吸わせておけば良かったのかもしれないが、今更後悔しても仕方ないだろう。

とりあえずは、反撃をしなければ。

防戦一方では、勝ち目なんて無い。
503 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:34:16.93 ID:kDGXaDju0
暦「おらっ!」

距離を縮め、忍野の足を目掛け、右足を振る。

しかし、それは失敗だった。

忍野の身体能力を僕は侮っていたのだ。

こいつは恐らく……あの影縫さんよりも、強い。
504 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:34:44.79 ID:kDGXaDju0
「それじゃあいつまで経っても、僕には勝てないよ」

言葉通り。

忍野は繰り出された僕の足を踏み潰した。

まるで、そうするのは朝飯前とは言わんばかりの、軽い動作で。

バキバキと言うよりは、グチャグチャ。

そんな音と同時に、激痛。
505 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:35:12.74 ID:kDGXaDju0
暦「ぐぁあああああっ!!」

畜生、さすがにいてえぞ。

それにしても顔を潰したり、足を潰したり、性格わりいな、忍野の奴め。

「僕もそろそろ飽きてきた事だし、終わりにしよう」

暦「はぁ……はぁ……」

暦「……はっ! 自殺でもしてくれるのか?」
506 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:35:47.09 ID:kDGXaDju0
「まさか。 死んでもらうのは阿良々木くんだよ」

暦「……生憎だが、僕は死んでも死なないんだ」

負けを認めては駄目だ。

死ぬにしても、最後まで。

「そうかい。 ま、いいや」

忍野は興味が無さそうにそう言い、僕の方へ一歩一歩近づく。
507 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:36:12.60 ID:kDGXaDju0
駄目だ。

勝てない。

しかし、諦めるってのだけはしてはいけない。

なら、どうする。 この状況。

忍野はゆっくりとした動作で、けれども確実に一歩ずつ、僕の方へと歩いてくる。
508 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:36:39.49 ID:kDGXaDju0
僕が死ぬのは恐らく確定。 これは避けられない。

ってなると、あいつらにお仕置きするのも、どうやら出来そうにない。

あー、心残りだな、それは。

で、その後だ。

こいつは僕を殺した後、どうするのだろうか。
509 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:37:08.79 ID:kDGXaDju0
目的自体は僕を殺す事なのだから、それが終われば消えるのか?

いや、そう決め付けるのは少し、危ない。

万が一。

万が一にでも月火が狙われたなら、僕は後悔しても後悔しきれないだろう。

可能性は低いが、無くもない。

なら、まずは月火を逃がす事。
510 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:37:42.37 ID:kDGXaDju0
忍には悪いが、一緒に死んでもらうしか、無いだろうな。

とりあえず、今やるべき事は。

暦「月火ちゃん! 今すぐ逃げ」

後ろを振り向きながら、言う。

いや、言い掛けた。
511 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:38:09.23 ID:kDGXaDju0
つまりは、最後まで言う前に、予想外の事が起きた。

僕が言う予想外とは、単純な事。

階段を上ってくる、人影。

それは、この状況を恐らくは知っている人物。
512 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:38:36.88 ID:kDGXaDju0
忍野「やあ、お待たせ。 待ちくたびれたかい?」

なんて。

そんな場違いな事を言う、本物の、忍野メメ。

暦「お、忍野!」

忍野「はは、なんだいこれは。 阿良々木くん、随分と面白い姿になってるじゃないか」

暦「お前、どうして……いや、んな事どうでもいいんだよ! 月火ちゃんを連れて逃げてくれ!」
513 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:39:04.72 ID:kDGXaDju0

忍野「断る。 僕はその為に来た訳じゃないし」

忍野「バランスが悪すぎるよ。 今のこれは」

忍野「君もそれは分かっているんじゃないかな。 もう一人の僕」

忍野はそう言い放つ、ドッペルゲンガーに。
514 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:39:33.17 ID:kDGXaDju0
「それもそうかもしれないけど、僕には目的があるからね。 阿良々木くんが死んでくれれば、僕は素直に消え去るよ」

忍野「そうかい。 でもそれは困るんだよ。 彼には色々と貸しがあるからさ」

「はは、知っているさ。 僕と君は一緒だろ?」

忍野「そうだ。 だからここは、条件を出させて貰う」

忍野「一旦退け。 今この場で戦いを継続するのは、お互いにとって不利益だ」
515 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:39:58.92 ID:kDGXaDju0
「……なるほど」

「確かに、そうかもしれない。 僕と君は同じ実力だ。 三対一ではお互いに不利益が生じる」

「僕の目的は阿良々木くんを殺す事。 君たちの目的は僕を殺す事」

忍野「その通り。 が、今この場で戦いを続ければ君は目的を達成できない」

忍野「それは僕も然り。 君と戦えば、いくら三対一と言っても、この場に居る誰かは死ぬだろうしね」
516 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:40:45.01 ID:kDGXaDju0
「お互いにデメリットしか無いって事か。 まあ、そうだろうけどさ」

「僕が一旦引いた所で、一緒じゃないか?」

忍野「そうでもないさ。 君がここで引いてくれれば、僕は次から手を出さない」

忍野「次は思う存分、阿良々木くんと殺りあってくれ」

忍野「その条件で、どうだろう?」
517 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:41:48.62 ID:kDGXaDju0
「……はは。 分かった。 それならお互いにとんとんって所だろうしね」

「その条件、飲もう」

「一応、二日間だけ待つ。 それで良いかい? 阿良々木くん」

暦「あ、ああ。 僕は、大丈夫だ」

忍野と忍野が会話していると言うだけで、もうそれは凄い光景なのだが。

その会話の内容が、全く理解できない。

冷静さを僕が欠いているってのもあるかもしれないが、お互いがお互いを理解しているからこそ、成り立った会話。 そんな空気を感じた。
518 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:42:15.43 ID:kDGXaDju0
「それじゃあ、今日の所は大人しく引き下がるよ」

「二日後、場所と時間は同じくらいでいいかな。 ここで待っているからさ」

「精々、それまでにはなんとか腕を上げておいてくれよ。 一方的ってのはあんまり好きじゃないんだ」

ドッペルゲンガーはそう言い、姿を消す。

文字通り、前触れも無く、唐突に。
519 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:42:42.17 ID:kDGXaDju0
そして。

忍野「それじゃあ阿良々木くん。 お疲れ様。 またね」

忍野は倒れている僕に向け、それだけを言い立ち去ろうとする。

暦「いやいやいや! ちょっと待てよ忍野!」

何帰ろうとしてるんだよ!

せめて状況くらい説明しやがれ!
520 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:43:16.12 ID:kDGXaDju0
暦「全く状況が分からないし、僕はどうすればいいんだ!」

忍野「今話しても良いんだけど、さすがに僕も疲れたよ」

忍野「こう見えて、色々と面倒な事を片付けてきた後なんだからさ。 年寄りには優しくしてくれなきゃ」

忍野「それに、妹ちゃんもとりあえずは休ませてあげてくれよ。 今日は色々とあり過ぎた」

忍野「明日、詳しい事は説明するよ。 適当な時間にあの廃墟へ来てくれ」
521 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:43:42.63 ID:kDGXaDju0
忍野「どうしても今すぐって言うのなら、そこで狸寝入りをしている忍ちゃんにでも聞いてみれば良いと思うよ」

忍野はそれだけ言い残し、階段を下りる。

暦「お、おい! あいつが、あのドッペルゲンガーがまた現れたらどうするんだ!」

忍野「大丈夫だよ、阿良々木くん」

忍野「あいつは『二日後』と言っていただろ? なら二日後にしか現れない」
522 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:44:11.99 ID:kDGXaDju0
忍野「僕が考える事くらい、分かるさ」

暦「け、けど」

忍野「それじゃあ、また明日」

一方的に、言い返す暇も与えず、忍野はやがて姿を消した。
523 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:44:59.63 ID:kDGXaDju0
暦「おい、忍」

忍「なんじゃ、我が主様」

こいつ、本当に狸寝入りしてやがった。

すくっと立ち上がり、僕の足を自らの血で忍は治癒する。

忍「儂も最初は分からんかったよ。 あそこに居る小娘が、ドッペルゲンガーだと思っておった」

忍「……まあ、途中で気付いた訳じゃが。 詳しい事は帰ってからにするべきではないか?」
524 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:45:32.20 ID:kDGXaDju0
それも、そうか。

僕も月火も忍も、少し、疲れた。

暦「分かった。 しっかり説明しろよ」

忍「儂も全てが分かっておる訳じゃない。 気付いた事は話す」

暦「ああ、それで十分だ。 宜しく頼む」

僕がそう言うと、忍は影の中へと入る。
525 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:46:07.81 ID:kDGXaDju0
さて。

暦「月火ちゃん、待たせたな。 帰るぞ」

後ろに居る月火に声を掛ける。

先程の恐怖からなのか、地面に座り込んでいて、折角の浴衣は少々汚れてしまっていた。

いや、元々あの野郎に蹴られたりした所為もあるので、汚れていない方が無理もあるか。
526 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:46:58.01 ID:kDGXaDju0
暦「起き上がれるか?」

僕はそんな月火に、手を差し伸べる。

月火「はいはい。 お疲れ様、お兄ちゃん」

言葉ではそう言ってはいる物の、こいつは何を想っているのだろう。
527 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:47:25.87 ID:kDGXaDju0
……今、考える事でもないか。

さっきの化物と戦う為に、僕は自分に言い聞かせたのだが。

それも多分、いつまでも続けるのは無理だろう。

こいつとも、しっかりと話さないと駄目だ。
528 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:47:56.00 ID:kDGXaDju0
暦「掴まれよ」

と言い。

月火「大丈夫だよ」

と返される。

しっかし。

こいつも僕に似て、見栄っ張りだなぁ。
529 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:48:28.81 ID:kDGXaDju0
しっかり立ててねえじゃん。

すげえふらふらしてるし、まだ震えてるじゃねえかよ。

暦「ほら」

僕は言い、月火の前に背中を向けてしゃがみ込む。

月火「悪いね、お兄ちゃん」

月火もそれを拒否する事はせず、僕におぶられる形となる。
530 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:49:00.11 ID:kDGXaDju0
暦「んじゃ、帰るか」

月火「うん。 出発だー」

僕はお前の乗り物か何かか。

まあ、別に良いんだけどさ。

もう多分、夜も大分遅い時間。

まだ問題が片付いたとは、到底言えないが。

まずは一旦、家に帰ろう。
531 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:49:32.90 ID:kDGXaDju0
あいつとの対戦は二日後。 この場所だ。

忍野には何かしらの策があるのだろうか?

僕があのドッペルゲンガーに勝てるとは、とてもじゃないが思えない。

しかも、次は忍野抜き。

あの場で忍野が現れなければ、間違い無く僕は死んでいた。

そして、こうも思ってしまうのだ。
532 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:50:12.23 ID:kDGXaDju0
僕は今、生きていて良かったのだろうか?

なんて。

そんな事を思いながら、月火の方を見る。

月火も多分疲れているのだろう、目を閉じ、僕に体を預けている。

多分、じゃないよな。

いくら月火が、さっきの化物が言っていた様に願っていたとしても、こんな事になるなんて予想は出来なかっただろうし。
533 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:50:42.42 ID:kDGXaDju0
化物に、願った……か。

本当に、月火は僕を殺してくれと頼んだのだろうか。

月火は僕の勘違いでなければ、僕が生きている今の状況に安堵している様にも見える。

しかし、あのドッペルゲンガーは、はっきりと言っていた。

両方の願いで、僕を殺す様に頼まれたと。

それに、そうじゃなければあいつは、ドッペルゲンガーは僕を狙う必要なんて無い。
534 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:51:10.20 ID:kDGXaDju0
やめよう。

暦「……ふう」

深呼吸。

今はそんな事、考えないでおこう。

とにかく、月火が無事で良かった。

今は、それだけを思う事にしよう。
535 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:51:41.20 ID:kDGXaDju0
背中に月火の体温を感じる。

それだけあれば、家までの道のりで体力が尽きる事も無いだろう。

そういや、僕は自転車で来たんだっけかな。

ま、月火の状態が状態だし、仕方ねえけど歩いて帰るか。
536 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:52:12.44 ID:kDGXaDju0
暦「何時だろうな、今」

階段を降りながら。

別に独り言だった訳では無かったのだけれど、背中に居る月火からの返答は無い。

あれ、こいつはもう寝てるのか?

はは、寝息を立ててるし。 火憐並みの寝付きの良さだなぁ……

安心して寝た、とも考えられるけど。
537 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:53:07.57 ID:kDGXaDju0
再び背中に居る月火に顔を向ける。

僕にはやはり、月火は幸せそうに寝ている様にしか見えなかい。

ったく、僕がどれだけ死んだと思ってるんだよ。

まあ。
538 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/05(日) 23:53:34.04 ID:kDGXaDju0
それも別に良いけどさ。

僕は月火から三度視線を外し、空を見上げる。

周りに灯りが殆ど無いおかげか、綺麗な星空。

そして、所々で輝く星の中、いつもは煌々と輝いている筈の月は、何故だかどこか霞んでいる気がした。


第十一話へ 続く
544 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:44:42.22 ID:wNDvju8Z0
さすがにあの神社から家まではかなりの距離があり、それに加え熱帯夜と言う事もあり、汗だらけ。

家に着くと僕は一度シャワーを浴び、着替え、リビングで寝かせていた月火を再びおぶる。

勿論、月火の方も体を拭いて着替えさせたのだが、こいつも良く起きないな……

僕はそのまま火憐と月火の部屋へ入り、背中で眠っている月火をベッドの上に寝かせる事にした。

相部屋と言っても、今その相方は僕の部屋で寝ているので、今この部屋に居るのは僕と月火だけだ。

そして、ベッドに月火を寝かせて、僕は一度ベッドの端に座った所で。
545 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:45:08.03 ID:wNDvju8Z0
月火「……ありがと、お兄ちゃん」

暦「ああ、悪い。 起こしたか」

月火「ううん。 実はずっと起きてた」

暦「んだよ。 謝り損だ」

月火「ふふん。 でも返してはあげないんだ」

暦「そうかよ」
546 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:45:35.09 ID:wNDvju8Z0
月火「そういえばお兄ちゃん、火憐ちゃんは?」

暦「火憐ちゃんなら、僕のベッドで寝ている」

月火「ふうん。 変な事しないようにね」

暦「する訳無いだろ、寝込みを襲うなんて真似」

月火「良くそれが言えたね。 私が寝ている時にキスした癖に」
547 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:46:05.74 ID:wNDvju8Z0
暦「何の事だか、記憶がねえな」

月火「あんな事をしておいて……」

暦「それに、僕がそんな事をすると思うか?」

月火「いやいや、お兄ちゃんだから分からない。 というかしてたじゃん」
548 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:46:37.39 ID:wNDvju8Z0
暦「それはお前の記憶違いだ。 お前は僕を何だと思っているんだ」

月火「ただの変態なお兄ちゃんだよ」

暦「うるせえ。 僕が変態ならお前は変人だ」

月火「私は美人?」

暦「一言も言っていない」
549 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:47:06.17 ID:wNDvju8Z0
月火「良いじゃん別に」

暦「良くねえ」

月火「なんで?」

暦「何でもだ」

月火「そう」
550 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:47:37.09 ID:wNDvju8Z0
暦「……何にも、良くは無い」

月火「何にもかぁ」

暦「全部だよ。 全部良くない」

月火「全部?」

暦「ああ、全部だ」

月火「……そうかな?」

暦「違うって?」
551 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:48:03.48 ID:wNDvju8Z0
月火「うん」

暦「何が、どう違うのか教えてくれるか」

月火「何もかも、だよ」

暦「何もかもが違う、って事か?」

月火「うん、その通り」

暦「どうだかな」
552 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:48:29.74 ID:wNDvju8Z0
月火「可愛い妹の言う言葉が信じられない?」

暦「可愛いは余計だ」

月火「素直じゃないんだから」

暦「僕は、いつだって素直だよ」

月火「そうだっけ?」

暦「そうだよ」

月火「お兄ちゃん」

暦「ん、どうした」
553 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:49:06.36 ID:wNDvju8Z0
月火「……来てくれて、ありがと」

暦「別に、お礼を言われる事は無い」

月火「どうして?」

暦「それが正しいか分からないからだ」

月火「正しいよ」

暦「どうして?」

月火「お兄ちゃんのする事は、いつも正しいから」
554 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:49:34.12 ID:wNDvju8Z0
暦「僕はお前らじゃねえんだよ、間違いだらけだ」

月火「言い方を変えようかな」

暦「ん?」

月火「お兄ちゃんのする事は、私にとっていつも正しいから」

暦「……そっか」

月火「お兄ちゃんは、私のヒーローだから」
555 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:50:02.77 ID:wNDvju8Z0
暦「それは、違う」

月火「なんで、違うのかな?」

暦「僕は、ヒーローにはなれない」

月火「そう? お兄ちゃんは優しいじゃん」

暦「優しいだけじゃ、ヒーローにはなれないんだ」
556 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:50:29.61 ID:wNDvju8Z0
月火「そうなんだ」

暦「そうだ」

月火「でも、それなら何て言えば良いんだろう」

暦「ヒーロー以外に?」

月火「うん」

暦「お兄ちゃんで良いよ」

月火「そっか」
557 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:50:56.77 ID:wNDvju8Z0
暦「僕にはそれだけで十分だ」

月火「本当に?」

暦「本当に」

月火「そうだね」

暦「なあ、仮に僕がヒーローだとしたら」

月火「うん?」

暦「お前は、なんだろうな」
558 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:51:23.73 ID:wNDvju8Z0
月火「そりゃ勿論、お姫様かな」

暦「馬鹿か」

月火「もう、良いじゃん別に」

暦「良くねえ」

月火「ケチ」

暦「僕に千円すら寄越さない奴が、何言ってんだか」
559 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:51:50.87 ID:wNDvju8Z0
月火「覚えてたんだ」

暦「お小遣い半額だしな」

月火「恨み深いね」

暦「思い出深いだけだよ」

月火「でもさ、やっぱり」

暦「やっぱり?」

月火「私は、お兄ちゃんの妹ならそれでいいかな」
560 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:52:17.73 ID:wNDvju8Z0
暦「なんだ、お姫様は諦めたのか?」

月火「お兄ちゃんの妹でも、似た様な物だし」

暦「……どこが?」

月火「全部かな」

暦「全部か」

月火「うん、全部」

暦「やけに断言するんだな」
561 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:52:45.70 ID:wNDvju8Z0
月火「そりゃ、私はそう確信してるからじゃない?」

暦「はは、こんな時はお礼を言えばいいのか?」

月火「うーん。 そうじゃないよ」

暦「なら、なんて言えば良いんだよ」

月火「名前を言えば良いと思う」

暦「名前を?」

月火「うん、名前を」
562 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:53:14.11 ID:wNDvju8Z0
暦「そっか、それなら良い事を考えたぜ」

月火「良い事?」

暦「ああ」

月火「聞こうかな、その良い事を」

暦「火憐ちゃん」

月火「お兄ちゃん、それ私じゃない」

暦「そうだった。 悪い、間違えた」
563 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:53:50.58 ID:wNDvju8Z0
月火「どうやったら間違えるのさ」

暦「だって、似てるからさ」

月火「間違える程に?」

暦「間違える程に。 でも、だけど」

月火「うん」

暦「似てるけど、全然違う」
564 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:54:17.67 ID:wNDvju8Z0
月火「おお」

暦「ん?」

月火「いや、同じ事を考えてたから」

暦「似てるけど、違うって?」

月火「うん」

暦「最近、僕はよく思い知らされたよ」

月火「忙しそうだったしね」

暦「僕が?」

月火「お兄ちゃんが」
565 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:54:48.48 ID:wNDvju8Z0
暦「そう見えてたか」

月火「火憐ちゃんと、何かあったんでしょ」

暦「気付いてたのか?」

月火「そりゃ、当然だよ」

暦「当然……ね」

月火「何があったのかは知らないけどね」

暦「そっか」

月火「別に良いけどさ」
566 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:55:16.42 ID:wNDvju8Z0
暦「お前とも、色々あったよ」

月火「色々あったね」

暦「聞かないのか?」

月火「何を?」

暦「僕の体の事とか、化物の事とか」

月火「聞かないよ」

暦「……どうして?」

月火「聞いても聞かなくても、一緒だから」
567 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:55:41.47 ID:wNDvju8Z0
暦「一緒では無いだろ」

月火「一緒だよ」

暦「何がどう、一緒なんだ?」

月火「全部が一緒」

暦「全部?」

月火「お兄ちゃんの体がどうとか、そんなのどうでもいいよ」
568 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:56:13.54 ID:wNDvju8Z0
暦「酷い言い方だな」

月火「それでも、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから」

暦「……そうか」

月火「逆に、お兄ちゃんは聞かないの?」

暦「それは、お前が化物に願った事か?」

月火「うん」

暦「聞かないよ、今は」
569 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:56:40.67 ID:wNDvju8Z0
月火「今はって事は、後から聞くんだね」

暦「僕はお前程、頭が良くないからな」

月火「それは知っているよ」

暦「うっせ。 まあ、だから、口で直接言われなきゃ分からねえや」

月火「それも、知ってる」

暦「そっか。 だけど、今はいいや」

月火「そう……」
570 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:57:07.68 ID:wNDvju8Z0
暦「今はお前が無事ってだけで、僕は良い」

月火「一緒だね」

暦「えっと、何が?」

月火「私も、お兄ちゃんが無事ならそれで良いんだ」

暦「……そっか」

月火「お兄ちゃんは、私が願った事を聞くんだよね?」

暦「ん、ああ。 いつかは分からないけどな。 少なくとも今日は何も聞かない」
571 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:57:35.19 ID:wNDvju8Z0
月火「そっか。 じゃあ、全部が終わったら私も聞こうかな」

暦「ん? 僕の事をか?」

月火「うん」

暦「……了解、全部話すよ」

月火「えっと……お兄ちゃん、自分で気付いてる?」

暦「あ? 何を?」
572 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:58:03.57 ID:wNDvju8Z0
月火「ううん、やっぱり良いや」

暦「……良く分からない奴だな」

月火「だから良いって、お兄ちゃんがそれで良いなら」

暦「何が言いたいんだか、さっぱりだ」

月火「お兄ちゃんが決めた事なら、私は何も言わないよ」
573 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:58:32.56 ID:wNDvju8Z0
暦「意味が分からねえけど……なら、それで良いのかな」

月火「うん、それで良いんだよ」

暦「……そっか」

月火「ところでさ、話がちょっと変わるけど」

暦「いいぜ、付いて行く」
574 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:59:00.68 ID:wNDvju8Z0
月火「火憐ちゃん」

暦「ん?」

月火「私、多分」

暦「うん?」

月火「嫉妬してたのかな、火憐ちゃんに」

暦「お前が? どうして」

月火「お兄ちゃんと仲良くしているのに、嫉妬してた」
575 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:59:31.95 ID:wNDvju8Z0
暦「想像できねえな」

月火「そりゃー、表には出さないし」

暦「だろうな」

月火「ねえ、お兄ちゃん」

暦「何だよ」

月火「キスして欲しいな」
576 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 19:59:58.49 ID:wNDvju8Z0
暦「嫌だ」

月火「ケチ」

暦「僕は火憐ちゃんとしかキスしない」

月火「……ふうん」

暦「冗談だよ」

月火「ふん」

暦「あからさまに顔を逸らして、不貞腐れるなよ」
577 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:00:26.16 ID:wNDvju8Z0
月火「……」

暦「ああ、そうだ、ちょっと見て欲しい物があったんだ」

月火「見て欲しい物?」

暦「うん。 これなんだけどさ」

月火「ん? ……ちょ、ちょっと! いきなりキスしないでよ」
578 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:00:59.52 ID:wNDvju8Z0
暦「んだよ、してくれって言ったのはお前だぞ」

月火「……騙したな、意地悪」

暦「お前のお兄ちゃんだしな」

月火「私は意地悪じゃない」

暦「どこがだ」

月火「見れば分かるでしょ」
579 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:01:27.04 ID:wNDvju8Z0
暦「全くわからねぇ」

月火「本当は知っている癖に」

暦「本当に知らない」

月火「ま、いいけどさ」

暦「いいなら最初からそんな事言うなや」

月火「それもそうだね」

暦「うむ」
580 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:01:53.15 ID:wNDvju8Z0
月火「あれ? ねえお兄ちゃん、あれ何?」

暦「あれって、窓の外か?」

月火「うん、そう」

暦「よく見えないけど」

月火「もうちょっと覗き込めば見えると思うよ」

暦「こうか?」

月火「そうそう」

暦「……見えないけど」
581 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:02:22.17 ID:wNDvju8Z0
月火「そっか、じゃあ何でもない」

暦「はあ? 意味わからねえ……って、おい」

月火「仕返しのキスだ」

暦「ったく」

月火「お兄ちゃん、騙されやすいよね」

暦「かもしれない。 お前と似たような物だよ」

月火「かもね」

暦「兄妹だしな」
582 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:02:52.21 ID:wNDvju8Z0
月火「ところでさ、あれは何?」

暦「もう騙されねえぞ」

月火「そっかぁ、残念だ」

暦「二度は騙されない」

月火「なら、良いよ」

暦「良いよって、どういう意味だよ」

月火「さあ?」
583 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:03:20.79 ID:wNDvju8Z0
暦「嫌な予感がするんだけど……って、おい」

月火「私は何でも二倍返しなんだよ」

暦「だからって正面からキスすんなや」

月火「なんで? 恥ずかしかった?」

暦「別に、妹とのキスなんざ何回でもしてやるよ」

月火「大サービスだね」

暦「罰ゲームだろ」
584 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:03:48.08 ID:wNDvju8Z0
月火「そうかも」

暦「なあ」

月火「何?」

暦「お前は、僕の妹だ」

月火「えへへ」

暦「何笑ってるんだよ」

月火「何でも無い」
585 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:04:15.06 ID:wNDvju8Z0
暦「聞かないと次に進めねえぞ」

月火「そっか、なら仕方ないかぁ」

暦「ああ、さっさと吐け」

月火「なんとなく、お兄ちゃんの妹ってのが誇らしくて」

暦「……んだよ、それ」

月火「なんとなくだよ、なんとなく」
586 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:04:40.34 ID:wNDvju8Z0
暦「僕なんて、誇りにならねえだろ」

月火「なるよ。 お兄ちゃんは私の誇りだよ」

暦「……ま、いいか」

月火「うん、続きをどうぞ」

暦「で、僕はお前の兄だ」

月火「うん」

暦「それだけで、良かった」
587 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:05:10.30 ID:wNDvju8Z0
月火「へ?」

暦「それだけで、僕には十分過ぎて」

月火「うん」

暦「少し、辛い」

月火「辛いんだ」

暦「お前達は、優しすぎるよ」
588 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:05:45.02 ID:wNDvju8Z0
月火「そんな事は無いよ」

暦「あるさ。 優しすぎて、僕には辛い」

月火「そっか。 でも、私は逆だと思うな」

暦「逆?」

月火「逆ってのも少し違うかも」

暦「どういう事だ?」
589 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:06:36.80 ID:wNDvju8Z0
月火「私達が優しいんじゃなくて、お兄ちゃんが優しいんだよ」

暦「僕は、そんな奴じゃねえよ」

月火「そんな奴だよ。 お兄ちゃんは」

暦「……なのかな」

月火「うん」

暦「前に、言われた事があるんだ」

月火「優しいって?」
590 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:07:11.08 ID:wNDvju8Z0
暦「ああ、それと」

月火「それと?」

暦「優しさが人を傷付ける事もあるって、言われた」

月火「……うん。 それは分かるかな」

暦「なら、僕は誰かを傷付けているのかな」

月火「私は誰も傷付けていないと思うけど……でも、やっぱり一人は傷付けていると思う」
591 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:08:32.76 ID:wNDvju8Z0
暦「一人? どうしてそう思う?」

月火「簡単な話じゃないかな。 お兄ちゃんは、自分自身を傷付けているんだよ」

暦「……僕自身を?」

月火「そ。 お兄ちゃん自身を傷付けているんだ」

暦「それなら、別に僕は良いかな」

月火「お兄ちゃんは良いかもね」
592 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:09:06.80 ID:wNDvju8Z0
暦「うん。 それだけで済むなら、別に良いさ」

月火「私は良くないよ」

暦「……お前がそう想っているのなら、僕はお前を傷付ける事になっちまうよ」

月火「そう? お兄ちゃんならなんとか出来るって」

暦「買いかぶり過ぎだな」

月火「そうかな」

暦「僕は、そんな器用な人間じゃねえからさ」
593 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:10:22.94 ID:wNDvju8Z0
月火「弱音を吐くなんて、お兄ちゃんらしくないね」

暦「弱音なんて、いつも吐いてるよ。 けど」

月火「けど?」

暦「……こんな事言えるのは、お前の前だけかもしれない」

月火「そうなんだ」

暦「僕はさ、本当にお前らの兄なのかな」
594 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:10:50.30 ID:wNDvju8Z0
月火「何を言ってるの?」

暦「資格があるのかなって話だよ」

月火「無いでしょ」

暦「即答って、ひでえな」

月火「そんなのに資格はいらない。 なんて在り来たりな台詞は言わないけど」

暦「うん」

月火「私がお兄ちゃん以外はお兄ちゃんと認めない」
595 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:11:19.66 ID:wNDvju8Z0
暦「はは、あははははは!」

月火「どうしたの、急に笑っちゃって」

暦「……悪い悪い、何でもないさ。 こっちの話だよ」

月火「ふうん。 変なお兄ちゃん」

暦「ああ、僕は変なんだ。 だから構わず続けてくれ」
596 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:11:50.95 ID:wNDvju8Z0
月火「……それで、だから、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんで居ないと駄目だよ」

暦「……そうだな」

月火「お兄ちゃんは今日の朝、言っていたよね」

暦「なんて?」

月火「私の兄でいる事を諦めないって」

暦「それは、お前らが拒絶すれば違うんだよ」

月火「私が、お兄ちゃんを?」
597 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:12:17.29 ID:wNDvju8Z0
暦「ああ、そうだ」

月火「私がいつ、拒絶したのかな」

暦「年がら年中じゃねえのか」

月火「あれは拒否だよ」

暦「一緒じゃん」

月火「一緒じゃないよ」
598 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:12:43.30 ID:wNDvju8Z0
暦「自分に、そう言い聞かせてたけど」

月火「けど?」

暦「でも、そうだとしても僕は……」

月火「いつになく落ち込んでるね」

暦「……そう見えるか」

月火「一目見れば分かるよ」

暦「はは……そうだったな。 それで?」
599 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:13:11.79 ID:wNDvju8Z0
月火「私も、同じなんだ」

暦「同じって言うと?」

月火「一緒って事」

暦「一緒?」

月火「阿良々木月火も、お兄ちゃんの妹でいる事を諦めない」

暦「そっか……」

月火「だったら、それでいいじゃん」
600 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:13:47.64 ID:wNDvju8Z0
暦「そう、なのかな」

月火「むしろ、それで駄目ならどうするのさ」

暦「どうしようもないな」

月火「なら、今はどうしようもあるね」

暦「それも……そうだな」
601 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:14:13.14 ID:wNDvju8Z0
月火「何だか、そろそろ眠くなってきちゃった」

暦「気が合うな。 僕もだよ」

月火「火憐ちゃんに内緒で、一緒に寝ちゃう?」

暦「明日、一緒に火憐ちゃんからの説教を受けてくれるなら」

月火「お安い御用だね」

暦「そうかよ」

月火「ほれ、どうぞ」
602 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:14:39.40 ID:wNDvju8Z0
暦「ああ」

月火「お兄ちゃんと一緒に寝るのって、何年振りだろ」

暦「さあな、すげえ前以来じゃねえのかな」

月火「そうかもね」

暦「そうだろ」

月火「そういえばさ、お兄ちゃん」

暦「ん?」
603 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:15:19.93 ID:wNDvju8Z0
月火「さっき言っていた、良い事って何だったの?」

暦「ああ、それか」

月火「そう、それ」

暦「別に、ただ僕が言いたい事と、お前が言われたい事を一緒に出来る言葉ってだけだ」

月火「ふうん、それで、その言葉って?」
604 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:15:56.84 ID:wNDvju8Z0





「月火ちゃん、ありがとう」





605 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/06(月) 20:16:31.31 ID:wNDvju8Z0
僕を兄だと言ってくれて。

僕を誇りだと思ってくれて。

僕を受け入れてくれて。

僕の妹で居てくれて。

ありがとう。

今はただ、それだけを伝えたかった。


第十二話へ 続く
612 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:17:05.82 ID:QHBQVLzQ0
月火とベッドの上で会話をする少し前の話。

僕が忍野の姿をした化物と戦った後、家に帰り、風呂に入っている数十分の間の出来事。

以下、回想。
613 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:17:40.66 ID:QHBQVLzQ0
暦「で、忍。 話を聞かせてくれるか」

忍「仕方ないのう」

忍はそう言い、僕の影から姿を現す。

忍「さて、どこから説明した物か……ふむ。 まずはお前様の妹御の話からでよいか?」

暦「ああ。 僕も最初にそれを聞きたいからな」

忍「そうか。 では話すとしよう」

湯船の淵に座り、忍は天井を見つめながら語る。
614 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:18:12.57 ID:QHBQVLzQ0
忍「お前様も、先程連れて帰ってきた妹御が、本物の妹御とは理解しているじゃろ?」

暦「うん。 それは分かるよ」

忍「そして、あのアロハ小僧の姿をした奴がドッペルゲンガーだという事も、分かっておるな」

暦「気持ち悪いくらい、そっくりだったけどな」

忍「うむ。 儂も気分が悪かったわい」

うわ、すげえ嫌そうな顔だ……

本当にこいつは、忍野が嫌いなんだなぁ。
615 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:18:42.20 ID:QHBQVLzQ0
忍「そして、あやつが言っていた言葉は覚えておるか?」

あいつが言っていた言葉。

月火が、僕を殺してくれと願った事。 だろうな、この場合。

暦「忘れられる訳がねえだろ」

忍「じゃろうな」

忍「だが、お前様にとって、これは良い情報じゃよ」

暦「良い情報? その願いが……って、そういう事では無いみたいだな」

僕も一応は、忍の性格を理解しているつもりだ。

ここで、この場面で、そんな捻くれた事を言う奴では無い。
616 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:19:22.95 ID:QHBQVLzQ0
忍「あやつが言っていた事は、半分は本物で半分は偽物じゃ」

暦「……どういう意味だ?」

忍「つまり、結論から言うと」

忍「ドッペルゲンガーは二体おるんじゃよ」

ドッペルゲンガーが、二体?

暦「ちょ、ちょっと待ってくれ忍。 それなら、月火ちゃん以外にも願い事をした奴が居るって事か?」

忍「それもまた、本当であり本当では無い」

忍「儂が言っていた事を覚えておるか? 儂はお前様の妹御の血の匂いを、感じておったんじゃよ」
617 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:19:52.47 ID:QHBQVLzQ0
そうだ。

そうだよ。 忍はあの時確かに言っていたんだ。

匂いを二つ感じている。 そう、言っていた。

それはつまり、月火の匂いだ。

って事は、どういう事だ?

ええっと。

月火のドッペルゲンガーは間違い無く居て、そして忍野のドッペルゲンガーも間違い無く居る。

そういう、事になる。
618 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:20:35.74 ID:QHBQVLzQ0
暦「つまり……月火ちゃんのドッペルゲンガーと、忍野のドッペルゲンガーが居る。 って事……だよな?」

忍「左様。 じゃが今は違う」

忍「片方は既に始末されておる。 どっちかは、言わずとも分かるじゃろ?」

忍野の姿をしたドッペルゲンガーは、二日後にまた現れる。

それはとても、始末されたとは言えない。

つまりは。

暦「月火ちゃんのドッペルゲンガーが、消えた?」

忍「そうじゃ。 お前様があの小僧と戦っておる最中、じゃな」

忍「それまで二つあった匂いの内、片方が消えた」
619 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:21:02.09 ID:QHBQVLzQ0
……そうか。

恐らく、それをやったのは忍野だろう。

だからあいつは、あんなにも疲れていたのか。

一応は怪異。

それに、忍野が人間だと認めていた月火。

忍野にとっても多分、楽な仕事では無かっただろう。

そしてその現場に僕を来させなかったのも、あいつなりに考えた結果なのだろう。

なら僕は、それについては文句なんて言えない。
620 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:23:16.09 ID:QHBQVLzQ0
忍「これで情報は十分じゃろ。 ここからは儂の推測になるが、良いか?」

暦「ああ、頼む」

そうして、忍は語る。

忍が予測した、今回の一連の流れについて。
621 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:24:24.59 ID:QHBQVLzQ0
忍「まず、お前様の妹御は悩みを抱えておった。 そうでなければ、ドッペルゲンガーに会う事すら適わんじゃろうからな」

忍「そして、出会ったのじゃ。 ドッペルゲンガーと」

忍「いつ出会ったのかは分からん。 儂も匂いを二つ感じ始めた時期が分からんからのう」

忍「今日の朝、妹御が出掛けた時かもしれんし、或いはそれより前かもしれん」

忍「これはあの小僧か妹御に聞く以外、方法は無いじゃろうな」

忍「まあ、とにかく出会ったのじゃ。 怪異と。 加えて言うならば、あやつらが最初、どの様な姿形をしているのかは儂でも想像が付かん。 会った事も無いしの」

忍「そうして出会ったドッペルゲンガーに、妹御は願いをした」
622 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:25:04.89 ID:QHBQVLzQ0
忍「一つ目の願いは残念ながら、分からん。 だが、最初の願いを聞いた時、妹御の姿に変わった所を考えると……妹御の姿になるのが一番叶えやすかったのじゃろうな」

忍「そして、二つ目の願いじゃが……こちらは大体の想像を付ける事が可能」

忍「恐らくは、お前様と離れたい。 それか、お前様と距離を取りたい。 との感じじゃろうな」

僕と、離れたい?

暦「ちょっと待てよ、忍」

忍「なんじゃ」

暦「なんでそう断言できる? そうとは限らないだろ?」
623 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:25:53.36 ID:QHBQVLzQ0
忍「かもしれん。 しかし、あの極小の妹御が家という場所自体を避けていたのは明白じゃ」

忍「巨大な妹御とは不仲には見えんかったし、お前様を避けていると言っておったじゃろ?」

忍「ならその可能性が一番あるんじゃよ。 我が主様」

暦「僕には全く分からないぞ。 つうか、なんで家を避けていたって話になってるんだよ」

忍「おいおい。 お前様よ。 まさか忘れておるのか?」

忍「朝、極小の妹御と風呂に入った時、話しておったじゃろうが」

暦「話してるけど、それがなんだよ?」
624 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:28:30.64 ID:QHBQVLzQ0
忍「……はあ」

まさに溜息って言葉をそのまま表現した様な、そんな溜息だ。

忍「思い出せ。 あの妹御は怪異を見ておるじゃろ?」

怪異を見ている……ああ、八九寺の事か。

僕も一緒に見られているけどもな。 ばれてはいなかったけど。

暦「それがどうかしたのか?」

忍「蝸牛」
625 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:29:09.23 ID:QHBQVLzQ0
言われ、気付く。

八九寺は、怪異だ。

家に帰りたくない人を迷わせる、蝸牛の怪異。

そして、そう思っている奴にだけしか見えない、怪異。

月火が八九寺を見ているという事は、つまりはそういう事だ。

忍「分かったか、我が主様よ」

暦「……ああ、そうだな。 忍の言う通りだ」

おいおい。 僕は一体何をやっていたんだ。

あんな始めに、月火の想いに気付くチャンスはあったじゃねえかよ。
626 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:29:42.17 ID:QHBQVLzQ0
忍「話を戻す」

忍は言い、続ける。

忍「何故、そんな事を想っていたのかも分からん。 それもまた、妹御に直接聞かねば分かるまい」

忍「そして、一人目のドッペルゲンガーはそれを汲み取った」

忍「覚えておるか? あやつらは願いを叶える時、手段を問わんと」

忍「二つ目の願いを叶える際、手段を問わず一番手っ取り早い方法」

忍「お前様を殺すと言う事じゃ」
627 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:30:20.51 ID:QHBQVLzQ0
忍「しかし、困った事に姿は妹御。 その姿で願いを叶えるには少し、難しい物があるじゃろうな」

忍「腕力も無ければ、体力も無い、ただの小娘なのじゃから」

忍「無論、あのアロハ小僧に姿を変える事は出来た筈なのじゃが……それをしなかった」

忍「恐らくこれは、一つ目の願いが関係しているのかもしれん」

忍「そして、ドッペルゲンガーは一つの方法を導き出す」

忍「つまり、自らと同じ怪異に願いをすると言う事じゃよ」

忍「会うのは簡単だったと思うのう。 なんせ、同じ種類なのじゃから」
628 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:30:51.66 ID:QHBQVLzQ0
忍「そして出会い、また願った」

忍「妹御の姿で、一つ目の願い」

忍「お前様を殺してくれ。 また二つ目の願い」

忍「こちらも同様、お前様を殺してくれ」

忍「そうして、あの小僧の姿をしたドッペルゲンガーが生まれた」

忍「お前様を殺す為に」

なるほど。

納得だ。 全てに辻褄が合う。

月火が何故、僕と一緒に居たくなかったのかは分からないが。

これは、本人に聞いて良いのだろうか。

聞いてしまっても、良いのだろうか。
629 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:31:31.43 ID:QHBQVLzQ0
忍「じゃが、気になる事もあるのう」

暦「気になる事?」

忍「一つ目の願いじゃよ。 これはもう、アロハ小僧に聞くしか無いが」

忍「一つ目と二つ目、どちらが先に叶うのか。 と言う事じゃ」

忍「一つ目の願いは妹御の姿でするのが一番よいと判断した。 二つ目から叶えるとすれば、そこでもう一匹のドッペルゲンガーに頼む事も無かった筈」

忍「故に」

忍「優先順位は、一つ目の方かのう?」

忍「まあ、儂が考える限り、もう一つの可能性もあるにはあるが」
630 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:32:15.58 ID:QHBQVLzQ0
暦「もう一つの可能性、ってのは?」

忍「今話しても仕方あるまい。 違う可能性もまた、同じくらいあるのじゃからな」

忍「この事も含めて、あの小僧に聞くのが一番手っ取り早いじゃろうて」

暦「まあ、そうだな」

確かに……忍の言っていた優先順位、それによってはあのドッペルゲンガーを倒したとしても、問題が解決しない可能性もある。

一つ目の願いが叶っていて、それが他のドッペルゲンガーを呼び寄せないとも言い切れない。

願いの内容は、やはり月火に聞くしか無いか。

優先順位の事は明日、忍が言っていた様に忍野に聞くとしよう。 他にも、あの化物野郎との戦い方も聞かないといけないし。
631 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:32:45.40 ID:QHBQVLzQ0
暦「大体の流れは理解できたよ、ありがとう。 忍」

忍「礼には及ばん」

暦「けど、やっぱり大事な部分は欠けている感じだな。 もっとも、あくまでも忍の推測だから当たり前なのかもしれないけど」

忍「とにかく、一度話す必要はありそうじゃ」

忍「あの小僧とも、お前様の妹御とも」

暦「だな」

暦「まあ、それも明日……聞くとしよう」
632 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:33:31.81 ID:QHBQVLzQ0
忍「儂的には、今から妹御を叩き起こしてでも聞くべきだとは思うが?」

暦「今日は良いさ。 色々ありすぎたんだから、疲れているだろ」

忍「カカッ。 お前様の方が、よっぽど疲れているだろうに」

忍「何回死んだと思っておるんじゃ」

暦「数えてねえよ。 てか、よくそんな事が言えたな。 狸寝入りしやがって」

忍「儂のは作戦じゃよ。 隙を伺っておったんじゃがのう」

その言葉に、偽りは無い。

僕にはそう思えた。
633 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:33:57.40 ID:QHBQVLzQ0
忍「お前様よ……あやつはかなり強いぞ。 隙は皆無じゃ」

暦「だと思った。 訳分からねえからな、ほんと」

忍「一つだけ助言じゃ。 聞くか? 我が主様」

暦「……頼む。 お前の方が場数なんて物、僕とじゃ比べ物にならないだろうし」

忍「良い話では無いが、それでもか?」

なんだよ、まどろっこしいな。

暦「それでもだ。 火憐ちゃんの蜂の時と一緒だよ。 方法があるなら試すべきだろ」

忍「承知した、我が主様」

笑みを消し、忍は僕に顔を向け、続ける。
634 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:34:23.76 ID:QHBQVLzQ0
忍「今までの様に戦っていては、勝つ事は不可能」

忍「お前様の考えを捨てない限り、勝てんよ」

僕の、考えを捨てる?

暦「どういう意味だよ、忍」

忍「後は自分で考える事じゃ。 儂から言えるのはここまで」

これ以上は、とてもじゃないが言えん。

と、忍は小さく付け加える。

暦「……そっか。 良く考えておく」
635 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:34:57.24 ID:QHBQVLzQ0
暦「まあ、でも。 とりあえずは忍野からの話も聞かないとな」

忍「うむ。 今日の所はゆっくり休め。 明日もまた、忙しい日になるじゃろうし」

暦「それもそうだけど、あんま時間は無いと思うけどな……」

とは言っても。

なんか、全身から力が抜けちまうな。

暦「ふううううう……」

忍「なんじゃ、突然緩みきった顔をしおって」

暦「いや、ちょっと安心したってだけだよ」
636 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:35:34.31 ID:QHBQVLzQ0
忍「安心、とは?」

暦「月火ちゃんが、心の奥底で僕の事を殺そうと想っていなかった事にだよ」

忍「そんな事は、少し考えれば分かる事じゃろ」

暦「勿論、考えたさ」

暦「でも、少し考えちゃったらさ……余計な事も、考えてちゃうんだよな」

忍「カカッ。 無理も無いとは、思うがのう」

暦「まあ、それでも」

暦「月火ちゃんが僕と離れたいと想っている事には、変わりは無いんだけどな」

忍「ふむ」

忍「恐らくじゃが、理由があると儂は思うぞ」
637 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:36:05.88 ID:QHBQVLzQ0
暦「それは、気休めか?」

忍「うむ。 気休めじゃ」

はっきり言いやがって。

せめて嘘でも良いから、気休めじゃないと言ってくれよ。

暦「理由、ねえ」

暦「やっぱり僕には、思い付かねえや」

忍「ま、それも妹御と話すしか無かろうて」

全くその通りだな。

話さない事には何も進みやしないし、変わりもしない。

それに、見えてこない。

暦「だけどさ、それも僕は」
638 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:36:36.93 ID:QHBQVLzQ0
裏切りなのだと、思う。

一応、僕は月火の事は信用していると思っている。

けど、多分。

心のどこかで月火の事を信用していなかったからこその、今僕が感じている安心感。

暦「いや、やっぱり良いや。 忍も今日は休んどけ」

忍「ふむ? お前様が言うのなら、遠慮無くそうさせてもらうかの」

そう言い残すと、忍は影の中へと消えて行く。
639 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:37:05.10 ID:QHBQVLzQ0
しっかし。

とにかく今は休む。 か。

全く以ってその通り、だな。

二日後までに、なんとかしないといけないんだ。

今の状態は、ただの後回し。

問題の後回し。

僕はその行為自体は嫌いな方では無いのだが、月火は違うんだろうな。

あいつはやはり、面倒な事をさっさと済ませてしまうのだから。

その辺りは兄妹と言っても、全然違う。
640 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:37:31.51 ID:QHBQVLzQ0
ん? ちょっと待てよ。

考えすぎだろうか?

いやいや、これは『傲慢』に値するだろう。

だけど、そうだとするならば、欠けた部分も補える……のか?

違うな。

これは、僕が答えを出す事じゃない。

忍野に話を聞いて、月火に話を聞いて。

それで初めて、答えが出る問題だ。

まずは明日。
641 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:38:01.31 ID:QHBQVLzQ0
廃墟へ行くのには、月火を連れて行くべきだろうか。

……一旦は家に居させよう。 これだけの事があって、気が動転しない方がおかしいし、そんな状態の月火を連れ出す訳には行かないし。

万が一にも、あのドッペルゲンガーが襲ってくる事もあるが、ここは忍野が言っていた「大丈夫」との言葉を信じてみるしかない。

それに、あのドッペルゲンガーの狙いは僕な訳だし、連れて歩いたらそれこそ危険だ。

まあ、それを言ったら僕はとっととこの家から出るべきなのだが、それでは何も解決出来ない。

今回の事を解決するのには、月火の力は間違いなく必要なのだから。
642 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:38:27.61 ID:QHBQVLzQ0
一番の問題はやはり、二日後。

僕がどうやって、あの忍野に勝つかって事だろう。

さっきも忍が言っていたが、僕の考え方を捨てるという言葉。

その意味は分からないが、それが重要な何かなのかもしれない。

とにかく。

月火をベッドに移したら、ゆっくり休むとしよう。

僕もベッドで寝たいのだけれど、今更僕の部屋で寝ている火憐の元に潜り込むのもあれだしなぁ。

火憐のベッドもさすがに使う訳にはいかないし。

仕方ねえか、今日はソファーで寝るとしよう。
643 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:39:06.39 ID:QHBQVLzQ0
そして今……月火は、僕の事をどう思っているのだろうか。

僕と離れたい。

それは、良い意味には聞こえない言葉だ。

勿論、僕に原因があるのだろう。

今まで月火がそんな事を思っていたなんて事は、考えすらした事が無い。

それだけに、月火という僕の妹である筈の人間が、少し分からなくなってしまう。

いや、更に分からなくなってしまう。

僕は本当に、兄なのだろうか。 あいつらの兄で居る資格が、僕にはあるのだろうか。

そんな事を考えてしまう。
644 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:40:02.70 ID:QHBQVLzQ0
火憐が聞いたら、迷わず殴り掛かってきそうな考え。

そんな火憐なら多分。

「何言ってるんだよ、兄ちゃん。 馬鹿にでもなったのか?」

うるせえ、やかましいわ。

想像なのだけれど、火憐に馬鹿って言われるとすげえむかつくな。

んで、月火なら多分。

多分、何だろう。
645 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:40:39.26 ID:QHBQVLzQ0
「私がお兄ちゃん以外をお兄ちゃんとは認めない」

こんな感じだろうか。

そんな言葉を本当に言われれば、僕はどれだけ救われる事か。

いつか火憐に言われた、分かっている振り。

今、それを実践してみたのだけれども、僕にはどうも難しい。

まあ、所詮は想像。 妄想だ。
646 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/07(火) 13:41:31.59 ID:QHBQVLzQ0
何度目かのとりあえず。

まずは月火をベッドに移してやるとするか。

そして、僕はすっかりと忘れていた。

火憐がその時、一緒に言っていた言葉。

分かっている振りをしていれば、それは分かっているに変わる。

それが、兄妹だと。

僕がそれを思い出すのは、今から何十分か経った後の話である。


第十三話へ 続く
652 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 12:58:13.86 ID:a0ZAlFEm0
翌日。

僕は現在、あの廃墟へと来ている。

理由は勿論、昨日の出来事を忍野に聞く為だ。

あれから再び考えたのだけれど、月火は一旦家で待機させる事にした。

やはり、いつどこであの化物が出てくるか分からないし、月火も月火でゆっくりと考える事があるだろうし。

絶対に、外には一歩も出ない様に言い付けて。

月火の話は後ほど聞く予定だが、先に忍野とも話す必要はありそうだ。

僕も一応、この一件については考えている事もあるので、最終的には月火をここに連れて来なければならないのだけれど。
653 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 12:59:05.30 ID:a0ZAlFEm0
忍野「や。 待ちくたびれたよ」

暦「その台詞も少し飽きてきたな。 で、早速だけど忍野。 昨日の事について聞きたい」

忍野「せっかちだねぇ。 まあ、それくらいしか話す事も無いし、良いんだけどね」

だったら最初から文句言うんじゃねえよ……

忍野「忍ちゃんからも聞いているだろ?」

暦「ああ。 大体はな」

忍野「なら僕から改めて言う事も無いかなぁ」

暦「いや、必要だろ!」

忍野「ええ、はあ。 分かったよ、説明しよう」

すっげえ面倒臭そうだなぁ。
654 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:00:46.72 ID:a0ZAlFEm0
忍野「まず、阿良々木くんの妹ちゃんがいつ入れ替わっていたのかってのは、分かるかい?」

暦「……それが分かれば、僕も苦労しねえよ」

忍野「じゃあ、質問を変えよう」

忍野「阿良々木くんは、いつ入れ替わっていたと思う?」

暦「いつ入れ替わっていた……か」

いつ、だろうか?

今思うに様子がおかしいと思ったのは、朝。

昨日の朝の事だ。

月火が一人で出掛けると言った、その時。
655 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:01:22.42 ID:a0ZAlFEm0
暦「僕も記憶を辿り辿りだから、正確な事は言えないかもしれないけど」

忍野「いいさ。 構わないよ」

暦「多分、昨日の朝からじゃないかな」

忍野「……なるほどね」

暦「今思い出して、明らかに変って言えるのがその時なんだ」

忍野「ハズレだよ、阿良々木くん」

んだよ、もうちょっとタメを作ってから言って欲しい物だ。 どこかのクイズ番組よろしく。

暦「だとすると」
656 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:01:49.83 ID:a0ZAlFEm0
それなら、いつからだろうか。

ああ……てか、ちょっと考えれば分かるけれど、朝出掛けた時だ。

その時に入れ替わっていたってのが、一番可能性としてはあるよな。

夕方には、なんだか月火の様子がおかしかったし。

……僕の部屋での月火とか。

いやいや、別にあれが記憶に強く残っているって訳じゃねえよ?

まあでも、目がとろんとした月火は可愛かったけどもさ。

もう一回やってくれないかな、あいつ。
657 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:02:48.59 ID:a0ZAlFEm0
暦「月火ちゃんが出掛けている時に入れ替わって、ドッペルゲンガーとしての月火ちゃんが帰ってきた?」

忍野「残念だけど、それもハズレだ」

忍野「阿良々木くんはさ、物事を一点だけしか見てないんだよ。 もうちょっと平面的に捉えれば、すぐに分かる事だよ」

忍野「僕のこの質問の意味だとか、考えてみなよ」

忍野の質問の意味?

なんだよ、ただの嫌がらせじゃなかったのか。

それにしても、改めて考えてみて、この質問に意味なんてあるのだろうか?

忍野「正解を言おうか、阿良々木くん」

暦「……なんか負けた気分で嫌だけどな」
658 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:03:15.42 ID:a0ZAlFEm0
忍野「はは。 単純に考えればすぐ分かる事さ」

忍野は煙草を咥えながら、僕に向けて言う。

忍野「君はさ」

忍野「どうして、入れ替わっているという前提で物事を考えているんだい?」

何?

入れ替わっているという、前提?

暦「ちょ、ちょっと待ってくれ、忍野」

暦「それは必要な前提だろ? それに、それならどうして忍野はそんな質問をしたんだよ」

忍野「だから、阿良々木くんは勘違いしやすいからねぇ」

うわ、昨日のあいつと台詞が被ってる。

まあ無理もねえか、忍野その物って訳だしな。
659 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:03:42.86 ID:a0ZAlFEm0
忍野「ちっちゃい妹ちゃんは入れ替わっていないんだよ」

忍野「阿良々木くんが変だと感じた妹ちゃんは、紛れも無く君の本当の妹ちゃんだよ」

は?

月火が、入れ替わっていない?

最初からずっと、月火は月火のままだって?

暦「いや、それならおかしくねえか?」

だって、そうだろ。

ならどうして、僕は変だと思わなかったんだよ。 ドッペルゲンガーの特性で、そうなったんだろ。

僕も、忍も、火憐も。
660 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:04:10.35 ID:a0ZAlFEm0
忍野「忍ちゃんは判断基準が違うからだよ。 分かるだろ?」

忍が変だと思ったのは、匂い。

月火の匂いが二つある事を変だと思わなかった。

片方がドッペルゲンガーの匂い故に。

忍野「でっかい方の妹ちゃんは、それが変だとは思わなかったからじゃないかな?」

あん?

火憐が、それを変だと思わなかった?

暦「だから、それはドッペルゲンガーの特性でなったんだろ?」

忍野「残念ながら、阿良々木くん」

忍野「ドッペルゲンガーが入れ替わっていなかった以上、その特性は殆ど出てないんだ」

忍野「さっき言ったじゃないか。 物事を平面的に捉えろってね」

忍野「でっかい方の妹ちゃんは、それを変だと思わなかった」

忍野「それだけの事さ」
661 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:04:45.65 ID:a0ZAlFEm0
忍野「怪異の所為でも無い。 ただ単純に、そう思っただけの事だよ」

暦「いや、それがありえないんだって言ってるんだよ、忍野」

暦「火憐ちゃんが、あの状態の月火ちゃんを放って置く訳がねえだろ?」

暦「だって、火憐ちゃんは」

僕より、月火の事を理解している。

そう、か。

それならば、火憐が月火の行動を受け入れていたのも、納得ができる。 出来てしまう。

何故なら、火憐は僕よりも月火の事を理解しているから。

そして、本当に火憐が月火の事を変だと感じたのは、その前。

月火が僕を避けているという、その一点だけだ。

けど、それもまた怪異の所為では無い。
662 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:05:18.94 ID:a0ZAlFEm0
単純に火憐は月火の様子がおかしいと、怪異の所為でも何でも無く、普通にそう感じただけなのだ。

そしてその様子がおかしいというのが、火憐曰く「兄ちゃんを避けている」って事だ。

そうだとするならば。

それが、月火の悩みでもあるのだろう。

そうすれば繋がる。 全部。

月火は何かしらの僕に関係する事で悩んでいて、それが原因でドッペルゲンガーに出会った。

そして、その願いは僕と離れたいとの事なのだろう。

それが心の奥底で想っていた事、なのだろう。
663 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:06:09.81 ID:a0ZAlFEm0
暦「……そうか」

忍野「分かったかい。 阿良々木くん」

忍野「ちっちゃい妹ちゃんは、ドッペルゲンガーと入れ替わっていない。 これは確定しているんだ」

暦「分かったよ。 忍野」

暦「月火ちゃんの行動を僕はいつも通りだと思っていた。 そういう事だろ」

忍野「さあ。 それは阿良々木くん自身が考える事さ」

そうだろうな。

僕は月火の行動を変だと思わなかった。

一人で出掛けるのも、僕の部屋で妙な雰囲気だったのも、夜に一人で出掛けたのも。

心のどこかで、それは普段の月火だと。 そう思っていたから、僕は月火の行動を受け入れていたのだろう。
664 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:06:40.08 ID:a0ZAlFEm0
それは、火憐の想いとは全然違う。 方向性は、完全に違う。

火憐は月火の事を理解していたから、受け入れた。

あの時火憐は寝ていたけれど。

恐らく起きていたら、夜出掛けると月火が言った時に間違い無く、あいつは止めた筈だ。

そこが、僕との違い。

僕は月火の事を理解していなかったから、受け入れた。

だから、夜出掛けると言った時に僕は止めなかった。

その行動すらも、僕は受け入れた。
665 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:07:11.47 ID:a0ZAlFEm0
暦「……でも、忍野」

忍野「ん? なんだい」

暦「僕はどうして、月火ちゃんの行動が変だと思えたんだ? そうじゃなかったら、今頃僕は家で、未だにゆっくりしているかもしれないんだぞ」

忍野「簡単な話さ。 とは言っても、気付かせてあげた忍ちゃんは寝ている訳だから、証人は居ないんだけどね」

暦「……忍が、僕に気付かせたって言うのか?」

忍野「そうだよ。 君がこの物語を終わらせようとした所で、忍ちゃんはおかしいと思ったんだろうね」

忍野「だから、君の心に動揺を与えた。 それで阿良々木くんは気付けたんだよ」

そうだったのか。

……僕の周りはお人好しだらけかよ、ほんとに。

後で、あいつにはお礼を言わないとな。
666 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:07:37.86 ID:a0ZAlFEm0
暦「僕は、何にも分かっていなかったんだな」

忍野「そういう事だ。 物事を見る時はもう少し、視野を広く持つべきだね」

暦「……最低だな」

忍野「はは。 おいおい、阿良々木くん」

忍野「僕は別に、君を責めている訳でも無いし、悪いと言っている訳でも無いんだぜ」

忍野「それは当たり前の事だよ。 でっかい妹ちゃんは、ちっちゃい妹ちゃんと仲が良いんだろ? ならそうであって当然だ」

忍野「僕が言いたいのは、阿良々木くんは視野が狭いからもう少し広く見ようってだけさ。 それが」

忍野「今回のあいつを殺す鍵にも、なるんだからさ」
667 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:08:15.95 ID:a0ZAlFEm0
そうだった。

今は、ぐだぐだ悩んでなんていられねえんだ。

まさか忍野に慰められるとは思わなかったけれど、こいつの言う通りかもしれない。

仲が良い奴が理解していて当たり前。

それなら僕は、これから月火と仲良くなれば良いだけの、それだけの話。

深く考える必要は無い。

ただ、それだけの事。

考える必要は無いけれど、話す必要はある。

それで少しでも月火の事が理解できるのなら、僕はいくらでも歩み寄る。

あいつは多分引くだろうが、その分寄って行けば良いだけの事。
668 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:08:47.93 ID:a0ZAlFEm0
暦「忍野、教えてくれ」

暦「あの化物、お前の姿をした化物を殺すには、どうすればいいか」

僕がそう言うと、忍野は笑い、答える。

忍野「オッケー。 それじゃあ本題に入ろう」

忍野「あの格好良い化物をどうやって殺すか、だ」

前半がうまく聞こえなかったけれど、多分すげえどうでも良い事だ。 聞き返さないでおこう。

忍野「あの格好良い化物を殺す方法なんだけど」

暦「なあ、忍野」

忍野「ん? どうしたんだい」

暦「化物の前に余計な物が付いているから、省いてくれ。 鬱陶しい」

ツッコミをせずにはいられなかった。 僕は案外我慢強く無いのかもしれない。
669 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:09:47.48 ID:a0ZAlFEm0
忍野「はは、良いね。 そのツッコミ待ちだったんだよ。 ようやくいつもの阿良々木くんだ」

そうかよ。

僕には好きで付けている様にしか聞こえなかったけどな。

忍野「それで、その化物だけど」

忍野「忍ちゃんにも軽く聞いているとは思うよ。 結論から言うと」

忍野「阿良々木くんが絶対にやらない方法で、殺す」

暦「僕が、絶対にやらない方法?」

忍野「そうだ」

忍野「阿良々木くんが取りそうな方法は、全部ばれていると考えた方が良い」

忍野「なんと言っても、この僕自身だしね」

忍野「だから、正確に言うと」

忍野「僕が「阿良々木くんなら絶対にこの方法は取らないだろうな」って方法で、殺すしかない」
670 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:11:08.38 ID:a0ZAlFEm0
忍野「言って置くけど、チャンスは一度だけだよ」

暦「忍野が考える、僕が取らない方法か」

忍野「失敗したら、次は無い。 同じ方法は勿論使えないし、その後に他の方法を考えても、可能性があると感じた時点で僕は対策を取るだろうね」

忍野「だからその方法を考えて、それに加えてチャンスは一回のみ」

忍野「失敗したら、僕達の負けさ」

って言われてもな。

僕が絶対に取らない方法って、何だ?
671 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:11:35.54 ID:a0ZAlFEm0
暦「忍野には見当が付くか? 僕が取らない方法」

忍野「おいおい、僕に見当が付いたらそれは取る方法だろ?」

全く以ってその通り。 ぐうの音も出ない。

暦「考えなきゃいけないな……明日までに」

残されている時間は、多いとは言えない。

忍野「それは完全に阿良々木くん任せだよ。 僕はこれ以上何もアドバイスは出来ない」

全く、とんだ賭けだな。

けど、なんとかしないといけない。

月火は僕が死ぬのを望んでいないから、死ぬ訳にはいかない。
672 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:12:03.50 ID:a0ZAlFEm0
忍野「ところで阿良々木くん。 話が変わるんだけど」

忍野「妹ちゃんには、阿良々木くんの体の事とか、その辺りの話はしたのかな?」

暦「いや、それはまだしていないよ」

忍野「そうかい」

暦「なあ、そういえば忍野は昨日、月火ちゃんのドッペルゲンガーと会っているんだよな?」

忍野「うん。 そうだけど、それがどうかしたのかい?」

暦「そいつは、何か言っていたか?」

忍野「いいや、特には何も言っていなかったかな」

暦「そうか……」
673 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:12:48.94 ID:a0ZAlFEm0
暦「でも、そのドッペルゲンガーが僕を殺してくれと、忍野のドッペルゲンガーに願ったんだよな?」

忍野「そうみたいだね。 そうじゃなければ、僕の偽物は出てこなかっただろうし」

暦「やっぱり、分からないんだよなぁ……」

忍野「君の妹ちゃんが、どうして阿良々木くんを避けているか。 かな」

暦「ああ。 一つだけ、思い当たる事はあったんだけどさ、それは多分自意識過剰っつうか」

暦「『傲慢』だと思うんだよ」

忍野「はは。 『傲慢』ね。 それを阿良々木くんは悪い事だと思っていると」

暦「だってそうだろ。 七つの大罪とか言うくらいだし」
674 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:13:24.45 ID:a0ZAlFEm0
忍野「何度も言うけど、それが物事を一点しか見れていないって事なんだよ」

忍野「阿良々木くんの言い方から察するに、多分こんな事を言われたんじゃないかな」

忍野「君の優しさは、自分自身を傷付けている。 って」

こえー。

僕の言い方のどこからそう思ったんだよ、こいつは。

羽川の比じゃねえよな。 あいつが尊敬しているだけあるよ。

暦「言われたよ。 全く同じ事を妹に」

忍野「はは、やっぱりか」
675 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:14:00.21 ID:a0ZAlFEm0
忍野「そうだねぇ」

忍野は少しだけ考える素振りを見せ、僕に向けて再び口を開く。

忍野「阿良々木暦は、頭が悪い。 そして、他人の為なら自分に命を何とも思っていない」

忍野「見ず知らずの他人でも、助けを求められれば迷わず手を指し伸ばすだろう。 それで自分が死ぬ事になろうとも」

暦「忍野? 何言ってるんだ、急に」

暦「つうか、いくら僕でも見ず知らずの他人にほいほいと手は出さねえよ」

忍野「忍ちゃんの事は?」

それは。

そうかもしれないけどさ。

でも、僕は……今忍野が言っていた様な、そんな奴では無いんだ。
676 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:14:28.56 ID:a0ZAlFEm0
忍野「分かるかい、阿良々木くん」

忍野「これは僕が阿良々木くんに対して『傲慢』になったとして、だよ」

忍野「僕も一応は、阿良々木くんの性格は理解しているつもりだ。 だからさっき言った様に思いはしない」

暦「……ああ」

忍野「良い気分では無いだろ?」

暦「まあ、そうだな。 だからこそ、僕はその思い当たる事を前提とは出来ないんだよ」

忍野「はは」

忍野「それは違うよ」

忍野「僕と阿良々木くんは他人だ。 そんな他人に見透かされても、嫌な気分だろうさ」

いつも見透かした様な事ばかり言う癖に、良く言うよ。
677 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:15:51.42 ID:a0ZAlFEm0
忍野「しかし、それ以前に君と妹ちゃんは家族だろ?」

忍野「家族に対しては『傲慢』で居ても、僕は良いと思うけどね」

それが、家族だろ? と、忍野。

確かに、確かにそれはありなのかもしれない。

以前、影縫さんに僕が言った様に。

家族には迷惑も掛ける、借りを作る事もある、秘密を持つ事もある、恩を返せない事もある。

しかし、家族に対して『傲慢』ってのはありなのだろうか。

僕は月火に対して『傲慢』でいて、良いのか。
678 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:16:34.76 ID:a0ZAlFEm0
忍野「一つだけ言わせて貰おう、結構酷い事だけど良いかな」

暦「酷い事なら言われ慣れてるから、心配いらねえ」

忍野「阿良々木くんは多分、こう考えているんだろうさ」

忍野「僕はあいつらの事をちっとも理解出来ていない。 そんな僕があいつらに分かった様な口を聞いても、良いのだろうか」

忍野「なんてね」

忍野「ああ、これも『傲慢』に値するのかな。 阿良々木くん」

暦「……いや、その通りだよ。 僕はそう考えている」

忍野「それは良かった。 んで、それは僕から言わせると」

忍野「その行動、考え方は、君が理解しようとしていないからなんだ」
679 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:17:27.93 ID:a0ZAlFEm0
忍野「簡単に言うと、自分から距離を作っているのさ。 いや、その場から動こうとしていないってのが、正しいかな」

動こうとしていない。

理解しようとしていない。

忍野「別に僕も、君達兄妹の関係にぐだぐだ言うつもりは無いけど」

忍野「阿良々木くんは自分の優先順位を下位にし過ぎだ。 人類皆平等なんて事は言わないけどさ」

忍野「家族ってのは、もっと思った事を言える仲だと思うぜ」
680 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:18:26.56 ID:a0ZAlFEm0
暦「……それも、仕方ないだろ」

暦「こんな言い方をするのもあれだけど、あいつらは怪異なんて物には関わりが全然無かった」

暦「なら、一番関わりがある僕が、気を使わないと駄目じゃねえか」

忍野「そういう考えもありだけど、それは君の気持ちかい?」

暦「そうだ。 最初から関わるべきじゃないだろ、怪異なんて」

忍野「……なるほどね。 まあそんな考えもありなのかな」

忍野「ま、僕が言いたいのはこの位だよ。 後は経験して学べばいい」
681 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:19:24.06 ID:a0ZAlFEm0
忍野「とりあえず一度、阿良々木くんが言う「思い当たる事」ってのを妹ちゃんに話してみると良いよ」

忍野「君の体の事とか、怪異の事とかもどうせ話すんだろ?」

暦「ああ。 そうは伝えてある」

一応、伝えてある。

その時の月火の反応。

もしかしたら、あいつは。

いや、考えるだけ無駄か。 月火は良いと言っていたから、僕はそれを受け止めるだけだ。
682 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:19:55.74 ID:a0ZAlFEm0
暦「優先順位で思い出したんだけどさ」

忍野「ん? 何かな」

暦「忍野。 月火ちゃんの一つ目の願いってのは、結局何だったんだ?」

暦「それと、昨日忍とも話したんだけど。 願い事の優先順位ってのはどうなっているんだ?」

忍野「一つ目の質問については、分からない。 いや、答えは知っているけどさ」

忍野「それは僕の口から言うべき事じゃない。 分かるだろ?」

まあ、そうするべきだとは思うけど。
683 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:20:28.68 ID:a0ZAlFEm0
忍野「んで、二つ目の質問だ」

忍野「優先順位は一番目の願い事からだよ」

なるほど。

だからこそ、月火のドッペルゲンガーは二番目の願い事を叶えている……いや、正確には叶えようとしている。

それをしているという事は、既に一番目は達成されているって訳だよな。

忍野「ただし、これには例外があるんだよ」

暦「例外?」

忍野「うん。 そして、その例外が起きた場合だけ順序は逆になる」
684 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:20:58.08 ID:a0ZAlFEm0
忍野「けど、その例外を言ったら一番目の答えになっちゃうからなぁ」

忍野「伝えられるだけの情報を教えておくと」

忍野「あの妹ちゃんの姿をしたドッペルゲンガーは、一番目の願い事を叶えていなかった」

忍野「その例外が起きて、順序が逆になっていたからさ」

ええっと。

つまりは、月火の一番目の願い。 それが何かって事だよな。

そしてそれが、例外に関係しているって事だ。

考えても僕には分からないし、知る為には月火に聞くしかないか、やっぱり。
685 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:21:35.90 ID:a0ZAlFEm0
忍野「それだけだよ。 今言える事は」

暦「けど、忍野の姿に変わる事も出来ただろ? そうすれば別に、もう一匹のドッペルゲンガーに願わなくても済んだだろ?」

忍野「うーん。 まあ、そうなんだけどさ」

忍野「あのドッペルゲンガーは、卑怯だったね」

卑怯? どういう事だ。

忍野「願いを叶えなければならない。 けど、自分の手は汚したく無かったんだろう」

忍野「もしかしたら、あのドッペルゲンガーは全て分かっていたのかもしれないね」
686 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:22:04.17 ID:a0ZAlFEm0
暦「……全て分かっていた?」

忍野「こっちの話さ。 そうそう、あの怪異はひと言、最後に言っていた」

忍野「お兄ちゃんを宜しくお願いしますって、丁寧に頭を下げてね」

暦「なんだよ、それ」

忍野「さあ? 本心では阿良々木くんを殺したく無かったんじゃないかな」

暦「けどな、忍野。 仮に、もしそうだとしたら、もう一匹のドッペルゲンガーに頼む事も無かっただろ?」

忍野「かもしれない」
687 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:23:02.27 ID:a0ZAlFEm0
忍野「けど、こうも考えられる。 物事を平面的に捉えれば」

忍野「あの怪異は、今のこの状況になる事が分かっていたんじゃないか? 阿良々木くんが本当の妹ちゃんの気持ちを察して、問題を解決するんじゃないかと」

暦「僕と月火ちゃんの関係を正す為に、そうしたって言うのか?」

忍野「それはなんとも言えないよ。 怪異は出会ったら出会いやすくなる。 それもあいつは分かっていた」

忍野「だからこそ、じゃないかな」

だからこそ、月火のドッペルゲンガーは願ったのか。

これから先、月火を僕が導いて行ける様に。

けど、それは少し僕の考えと違う。 違ってしまう。

この考えが正しいのかは分からないけれど、うまくやれば全部が『無かった事』になる。

それは何よりも、望まれている事なのではないだろうか。
688 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/08(水) 13:23:38.61 ID:a0ZAlFEm0
忍野「ま、僕達がいくら話しても、本当の所を知る奴はもう居ない。 考えても無駄な話だ」

忍野「んで、話を戻すけど阿良々木くん」

忍野「いつ、君の事は話すつもりなんだい?」

暦「ああ、一応全部が終わったら話すとは言ってあるんだけど」

忍野「だけど?」

暦「……忍野、一つ頼みがあるんだ」


第十四話へ 続く
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/09(木) 04:05:38.99 ID:pj/g+ktqo
入れ替わるとか気付かせるとか、いまいちよくわかんね
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/09(木) 09:17:13.44 ID:1U/KnEli0
まとめてみた

・怪異→ドッペルゲンガー
願い事を二つ叶える。 一つ目は直接頼んだ願い、二つ目は心の奥で願っている事
月火の姿をしたドッペルゲンガーと忍野の姿をしたドッペルゲンガーが存在
月火の方のドッペルゲンガーは忍野によって始末済み。 忍野の方のドッペルゲンガーはアララギくんを殺す為に待機中
願い事の優先順位は一つ目→二つ目 正し例外があった場合は変わるとの事

・月火
怪異に関わった
一つ目の願い事は不明。 二つ目はアララギくんと離れたいとの事

・アララギ君
月火が怪異に関わっている事を知る
月火には自身が吸血鬼となった事を話すと言っているが、それについては何かしら考えてあるらしい


入れ替わるっていうのは単純にミスリードかと思った
アララギ君が月火ちゃんの事を理解できていなかったから、一日の中での異常な行動を変だと思わなかったってだけじゃね?
結局気付けたのは忍のオカゲってだけで
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/09(木) 12:27:09.26 ID:GxryjW1q0
気付かせるってのはそんな深い意味は無いかと
693が言ってる様に忍のおかげで気付けたって事が分かってればいいと思う
>>1が来るまでなんともいえんがw
695 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:11:31.25 ID:EhK+UTCD0
こんにちは。

>>692
文章が若干ぐちゃってるので、分かり辛いかもしれないです。 申し訳ない。
>>694さんが言っている様に、忍が気付かせたには特に意味は無いです。
そのまま、なんとなくで受け取って頂ければと思います。

>>693
まとめありがとうございます。
大体はそんな感じです。
入れ替わるについては、仰るとおりミスリードになってます。 とは言っても中途半端な形ですが。


それでは第十四話、投下致します。
696 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:12:28.55 ID:EhK+UTCD0
廃墟からの帰り道。

ポケットの中で、携帯が揺れているのに気付いた。

誰だ? あまり時間があるとは言えない状況だってのに。

携帯を開き、画面を確認。

どうやら電話では無く、メールか。

僕のアドレス自体、知っている奴は多くは無いけれど。

From 小妹
Sub 神社で待ってる

おいおい。

おいおいおいおい。

家から出ている時点で僕の言い付けは既に守られていないじゃねえか!
697 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:13:08.14 ID:EhK+UTCD0
ああ、そうだ。 そうだった。

あいつはそうだ。

『言う事を聞くけど守らない奴』だった。

つうか、神社って事は……昨日の場所だよな?

呼ぶにしても、何でそんな場所を選ぶんだよ、あの馬鹿。

まあ、でも。

どの道、自転車は置きっぱなしな訳だし、寄って行く予定ではあったんだけどさ。

にしても、縁起が悪いな。

いや、神社に対して縁起が悪いって言うのは、なんかしらの悪い事がこの身に起こりそうな感じがする。

言い換えよう。 縁起が良い。

うーん。

良くねえよやっぱり!
698 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:14:17.39 ID:EhK+UTCD0
時間経過。

暦「お前な、なんでよりによってこんな場所を指定するんだ……」

息を整えながら、文句。

階段の終わり。 一番上の段に、月火は座っていた。

月火「良いじゃん別に。 あのお化けは今日は出ないんでしょ?」

暦「つってもだな。 絶対に出ないとも言い切れないだろ」

月火「大丈夫だよ」

暦「何を根拠に言ってやがる!」

月火「私に何かあっても、お兄ちゃんは駆けつけてくれるし」
699 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:15:28.24 ID:EhK+UTCD0
うぐ。

その笑顔でその台詞は反則だろ。

暦「……まあ、良いか」

若干の恥ずかしさから、顔を逸らしながら僕は言う。

暦「ところで、何で月火ちゃんは制服を着ているんだ?」

月火「なんとなく?」

暦「んだよそれ。 つうか、この場面を第三者に見られたら、僕はどう思われるんだろうな……」

月火「安心して、お兄ちゃん。 私がしっかり言ってあげるから」

暦「何て?」

月火「この人変質者です。 助けてくださいって」

暦「捕まるじゃねえか!」
700 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:16:10.25 ID:EhK+UTCD0
月火「あはは」

はあ。

前よりなんだか素直というか、毒気が抜けたというか、そう思っていたのだけれど。

案外、そうでもないかもしれない。

暦「で、呼び出したって事は話があるんだろ?」

月火の隣に僕は腰を掛け、溜息混じりにそう言う。

月火「うん。 その通り」

月火「お兄ちゃんは聞きたいんでしょ、私の願い事」

暦「……ああ。 聞かないといけないとは、思ってる」

月火がどう想い、どう考えているのか。

その辺りはきちんと話して、すっきりとした気持ちであの化物とは戦いたい。
701 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:16:36.04 ID:EhK+UTCD0
月火「おっけー。 じゃあ話すよ」

暦「おう、でもちょっと待ってくれ」

月火「むう。 折角話す気分だったのに」

暦「悪い悪い。 一応僕も、月火ちゃんが何を願ったのか考えてみたんだよ」
702 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:17:02.29 ID:EhK+UTCD0
一つだけの思い当たる事。

それを言わない事には、多分僕は進めない。

忍野に言われたからってのも勿論あるけれど。

これを言う事によって、月火との関係がどうなるって訳でもないのだ。

少し考えれば分かる、簡単な話だったんだ。

身を引いていたのは、僕の方。

これを言ったら月火は嫌な気分になるだとか、そんな事を延々と考えていたから。

それはやはり、僕の思い込みでもあるのだろうな。

見る人から見れば、卑怯という事になるのだろう。

なら、まずは一歩。

月火に対して少しだけ『傲慢』になってみよう。
703 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:18:07.36 ID:EhK+UTCD0
月火「ふうん。 お兄ちゃんに当てられるとは思わないけど……」

暦「かもな。 まあ予想なんだけどさ」

暦「あの化物が、願いを二つ叶えるってのは知ってるよな?」

月火「うん。 知ってるよ」

月火「最初に会った時、そう言っていたからね」

月火「一個目が、そのまま伝えた事」

月火「二個目が、心の奥で願っている事」

月火「だったよね?」

暦「そう。 その通りだ」
704 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:18:40.10 ID:EhK+UTCD0
暦「で、一個目の願いってのはさすがに分からないんだけど」

暦「二個目の願いは、僕と距離を置きたい。 みたいな感じだったんだろ?」

僕がそう言うと、月火は顔を下に向け、小さく頷く。

月火「だと思うよ。 そう想ってたのは確かだし」

暦「そっか」

月火「でも、これだけは言って置くけど、お兄ちゃん」

月火が顔を僕の方へと向ける。

その顔を見て、何を言おうとしているかは分かった。

暦「僕の事が嫌いな訳じゃない」

暦「か?」

月火「あははは。 さっすがはお兄ちゃん」

暦「偶然だよ。 なんとなくってだけだ」
705 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:19:27.25 ID:EhK+UTCD0
月火「へえ、そっか。 で、続きは?」

暦「ああ」

暦「で、そうだとすると一つ思い当たるんだ」

暦「なあ、月火ちゃん」

暦「月火ちゃんは僕と離れるのが嫌で、それをさっさと済ませたいから、そう想っていたんじゃないか?」

それが、唯一思い当たる事だった。

月火の性格からして。

嫌な事を、先に済ませようと思って。

月火「うーん」

苦笑いと言うよりかは、半笑い。 そんな顔をしながら、月火は言う。
706 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:19:57.11 ID:EhK+UTCD0
月火「前言撤回。 過小評価してたよ」

月火「やっぱ、お兄ちゃんには適わないや」

月火「これなら、私がわざわざ説明する必要も無いんじゃないかな?」

暦「あるさ。 月火ちゃんの口からは、まだ何も聞いちゃいないから」

とは言った物の。

内心、凄く安心していた。

思い当たる事が本当だったから。

しかし、この安心感は結局、僕が勝手に生み出しているだけなのだろう。
707 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:20:49.68 ID:EhK+UTCD0
月火「お兄ちゃんと一緒に居たい」

暦「あん? どうした、急に」

月火「それが一つ目の願いなんだよ。 言いたく無かったけどさぁ」

月火「言って置くけど、お兄ちゃんが大好きって訳じゃないからね。 ただ、最初に思い浮かんだのがそれだったってだけ」

月火「火憐ちゃんとお兄ちゃんが妙に仲良かったし、そう願ったんだろうね」

いやいや、それはつまり僕の事が大好きって訳じゃねえか?

まあ、言ったら言ったでこいつは怒るだろうし、言わないけどさ。

暦「そうか。 それが一つ目か」

月火「でもさ、不思議なんだよね」
708 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:21:20.77 ID:EhK+UTCD0
暦「不思議って、何が?」

月火「一つ目と二つ目、矛盾しているでしょ?」

矛盾している? 一つ目と二つ目。

僕と一緒に居たい。

僕と離れたい。

暦「……ああ、本当だ」

そういう事かよ、忍野。

これがあいつの言っていた例外って奴か。

暦「なるほど。 それが、どうやら例外らしいな」

月火「例外……って?」
709 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:21:52.37 ID:EhK+UTCD0
暦「願いを叶える順番が逆になるんだとさ。 つまりは二番目から叶えられる」

暦「僕と離れたいって願いの方から叶えられるんだよ」

月火「なるほどー。 でもさ、こうして今もお兄ちゃんと一緒に居られてる訳だし、案外一つ目も叶っているかもね」

僕もそうであって欲しいとは思う。 まあ別に、そんな願いなんて関係無く、そうしてやる。

暦「だと良いけどな」

月火「……ふうん」

暦「何だよ、人の顔をジロジロ見るな」

月火「なんかさぁ。 お兄ちゃんも性格変わったよね」

暦「僕が? 何でそう思うんだよ」

月火「いやいや、だって絶対に言わないじゃん。 私がさっきみたいな事を言った時に「だと良いな」なんて」
710 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:22:48.39 ID:EhK+UTCD0
暦「そうだっけ?」

月火「そうだよ。 昔のお兄ちゃんだったら「うるせえボケ」くらい言っていたよ」

暦「僕ってそんな酷い事を言う奴だったのかよ!」

月火「言うだけでは済まないね。 おまけで「顔貸せよ、暇だから殴る」とも言っていた筈だよ」

暦「月火ちゃんから見た僕って最低だな! 気持ち良いくらいの最低っぷりじゃねえか!」

月火「そして、私は泣く泣く顔を差し出すんだよ……泣く泣くね」

月火「ごめんなさい、お兄ちゃん。 お兄ちゃんの拳を痛めて申し訳ありませんって」

暦「僕はとっとと警察に捕まるべきだ!」

月火「それが今までのお兄ちゃんだよ。 これが事実なんだよ!」

暦「……そろそろ止めようぜ。 ありもしない事実で自分が嫌いになりそうだ」

月火「全て現実なんだよ。 受け止めないと」

暦「そんな現実いらねえ!」
711 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:23:33.57 ID:EhK+UTCD0
閑話休題。

月火「でも、お兄ちゃんの性格が前より素直になったって言うのは本当だよ?」

暦「そうか? 僕自身、全然分からないけどなぁ」

月火「そうなんだ。 でも、火憐ちゃんも「兄ちゃんは変わった」って良く言ってる位だし」

ふうん。

暦「けど、そう言うけどさ。 月火ちゃんも変わったよな?」

月火「私が? どういう風に?」

暦「なんつうんだろ、前よりこう……丸くなった?」
712 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:24:40.67 ID:EhK+UTCD0
月火「え、それはもしかして、太ったって言いたいの?」

暦「太ったって言うよりは、丸くなっただな。 丸くなった」

月火「太ったって意味じゃねえか!」

月火の貫手が、脇腹に突き刺さる。

月火も月火で本気で攻撃してきた訳では無いので、痛いというよりかはくすぐったいって感じだが。

暦「いやいや、月火ちゃんは痩せてるよ」

月火「ほ、ほんとに?」

暦「うん。 枯れ草みたいだ」

月火「それ、どう考えても貶してるよね」

暦「ごめん、間違えた。 正しくは骨と皮だけみたいだ」
713 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:25:06.33 ID:EhK+UTCD0
月火「やっぱり貶してるじゃん!」

二度目の貫手。

多分来るだろうとは思っていたので、回避。

暦「落ち着け、月火ちゃん」

月火「それをお兄ちゃんが言うのか……」

暦「僕はいつだって、どんな時でも月火ちゃんの味方だぜ」

月火「台詞は凄く格好良いけれど、今までの言動の所為で台無しだね」

暦「今までの台詞から急に格好良い事を言う事によっての、ギャップ狙いだよ。 分かるだろ」

月火「それを自分で言っている時点で、ただの最低野郎だけどね」
714 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:25:45.22 ID:EhK+UTCD0
閑話休題。

いやはや、月火と話すとマジで話が進まない。

そろそろ僕は話を進めたいのだけれど。

暦「んで、真面目な話だけどさ」

暦「性格が丸くなったって話だよ。 僕が言いたいのは」

月火「私の性格が? 前々から、もうこれ以上無いってくらい球体だったと思うけど」

どこがだよ。 モヤッとボール並に刺々しかった気がするんだけど。

暦「まあ、誰でも変わるって事だろうな。 性格なんて」

月火「基本の部分は変わらないと思うけどね。 変わるのは良い事なのかな?」

暦「さあ。 それもまた、周りの人だとか、生き方に寄るんじゃねえのかな」
715 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:27:41.29 ID:EhK+UTCD0
月火「へえ。 だったら、私の変化は良い変化だよ」

暦「はは、ならそれは僕のおかげだな」

半分以上。 八割方は冗談でそう言ったのだけど。

月火「だろうね」

なんて。

いつもの様に月火は言う。

暦「へえ。 じゃあ、僕の変化も良い変化かもな」

月火「それって、私のおかげかな?」

暦「だろうな」
716 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:28:12.85 ID:EhK+UTCD0
僕が月火と同じ様に言うと、月火は嬉しそうに言う。

月火「真似しちゃって。 ま、良いんだけどね」

それに答える僕も、多分嬉しかったんだと思う。

暦「なら最初から言うな」

暦「ま、なんつうかさ」

暦「とにかく、月火ちゃんの話が聞けて良かったよ」

月火「そう? あれ、もしかしてお兄ちゃん。 私に嫌われてるとか悩んでた?」

暦「無い無い。 そんなんで一々悩んでねえよ」

月火「ふうん。 へえ」

んだよ、こっち見るんじゃねえよ。
717 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:28:53.01 ID:EhK+UTCD0
月火「けどさ」

月火「まさか、こんな事になっちゃうなんて、さすがの月火ちゃんでも想像できなかったなぁ」

月火「あのお化け、お兄ちゃんを殺すだとか、言っていたよね」

月火「そんな事、願ってなんていないのにさ」

暦「捻くれた化物なんだろ。 月火ちゃんと一緒で」

月火「何か言った?」

暦「素直な月火ちゃんの願いを捻くれた受け取り方をして許せないって言った」

月火「せめて文脈は同じ様にしようよ」

暦「……無理だろ」

月火「そう? 私なら出来るよ」

暦「ほう。 やってみ」
718 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:29:26.93 ID:EhK+UTCD0
月火「捻くれた化物なんだろ。 月火ちゃんと違って」

確かに同じ様な感じではあるけど、もっと捻って欲しいな。

暦「捻くれた化物なんだろ。 僕と違って」

月火「捻くれた化物なんだろ。 僕と一緒で?」

やかましいわ。

暦「……つうか、何だこれ。 何の会話だよ」

月火「さあ? わっからない」

月火はそう言うと、楽しそうに笑う。

釣られて僕も、ついつい顔が綻ぶ。
719 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:30:41.06 ID:EhK+UTCD0
暦「僕は」

暦「月火ちゃんの事も、火憐ちゃんの事も、大好きだぜ」

月火「急に何言ってるのさ。 そんなの知ってるよー」

暦「はは、そうだったな」

暦「だから、もっと一緒に居たいし、死にたくは無い」

暦「でも、いつかは離れる事にはなるだろうけどな」

月火「うん。 分かってる」

月火「そりゃ、いつかは皆ばらばらだよ。 そんなの分かってる筈だったんだ」

月火「けど、何で願っちゃったんだろうね。 お兄ちゃんと一緒に居たい。 だなんて」

月火「お兄ちゃんと離れるのが嫌で、その嫌な事を先に済ませたくてさ」

月火「なのに、そんな想っている事とは違う事を願っちゃってた」

両手を地面に付け、空を見上げながら。
720 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:31:16.29 ID:EhK+UTCD0
月火「弱い所、見せちゃったなぁ」

空を見上げていた顔を僕の方を向け、最後にひと言。

月火「でも、やっぱりまだお兄ちゃんとは離れたく無い」

僕と離れるのが嫌で、けれどもその嫌な事を先に済ませたい。

僕と一緒に居たいけれど、居たくない。

表面上の願いと、深層心理の願い。

どっちがより重要で、どっちがより大切なのか。

それは答えが出ない問題だ。 それに価値を付けられる物でも無いのだ。

月火の矛盾した願いを叶える方法は、無いと思う。

月火自身も分かっているだろう。

いつかは僕も、火憐も、月火もあの家から出て行く訳だし。

けど、はっきりと言ってくれた。

まだ離れたく無いと。

だったら僕は、その頼みを引き受けるだけだ。
721 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:32:10.04 ID:EhK+UTCD0
暦「僕に任せとけ」

僕が月火にそう言うと、月火は笑い。

月火「うん。 任せた!」

と言いながら、僕の脇腹に貫手。

なんでだよ。 空気読めよ。

暦「……もうちょっと空気読もうぜ、月火ちゃん」

月火「いやいや、こういう重い空気ってのは、どうも苦手なんだよね」

暦「それには同意だけどさ。 なんつうかなぁ」

月火「だから私はいっつも火憐ちゃんと居るんだよ」

暦「ああ、そうなのか。 って結構酷い事言ってるぞ、それ」

月火「冗談冗談」

と、さぞ愉快そうに笑いながら月火は言うのだった。
722 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:32:37.64 ID:EhK+UTCD0
月火「けど、任せたとは言った物の」

月火「勝てるの? あのお化けに」

月火「昨日も嫌々見てたけど、ぼこぼこだったよね」

こうストレートに言われると、なんか情けなくなってしまうじゃないか。

間違ってはいないんだけどさ、もっとオブラートに包んで欲しい物だ。

暦「なんとかするしか、無いだろうな」

暦「忍野……あのアロハのおっさんが言うには、僕が絶対に取らない方法を使えって言うんだけど」

暦「わっかんねえよなぁ。 そんな事言われても」

月火「お兄ちゃんが絶対に取らない方法かぁ……」
723 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:33:10.56 ID:EhK+UTCD0
指を唇に当て、月火は考える。

ふむ。

なんだか、そんな姿を見ていたら悪さをしたくなってくる。

いや、悪って言葉を使うのはあれなので、良って言葉を使おう。 よいさ。

響きが格好悪い。 やっぱ悪さでいいか。

暦「おら」

月火の脇腹をつまんでみた。

月火「ひっ! な、なにすんの!?」

暦「おお、良い反応だな。 弱点か」

月火「真面目に考えてたって言うのに……」

暦「月火ちゃんが真面目に考えていると、脇腹をつまみたくなる病気なんだよ、僕は」
724 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:33:38.43 ID:EhK+UTCD0
月火「それは深刻だね、病院に行った方が良いよ」

暦「そんな症状を治してくれる病院はあるのか?」

月火「あるよ。 聞きたい?」

暦「ああ、是非とも」

月火「私が知っている所だと、真っ白なお部屋に」

暦「あれ、治ったかもしれない」

月火「そう? 私にはそうは見えないけど」

暦「いや、大丈夫。 本当に」

月火「そっかぁ。 残念だ」

何が残念だよ! 恐ろしい奴だ。
725 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:34:16.71 ID:EhK+UTCD0
閑話休題。

月火「それで、真面目な話だけどさ」

月火「私の方でもその方法、考えておくね」

暦「期待してるぜ、参謀さん」

軽く言って見た物の、実際僕よりも月火の方が良い方法を考えそうではある。

そう思えてしまう程に、こいつは頭の回転が良いから。

まあ、良すぎるってのもあるけれど。

月火「任せといて、お兄ちゃん」

暦「おう」

暦「さて、それじゃあ帰るか」

月火「だね。 今日もおんぶかな?」

暦「しねえよ。 自分で歩け」
726 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:34:45.17 ID:EhK+UTCD0
月火「むう」

暦「つうか、お前スカート短いんだよ。 そんな状態でおんぶしたら、ワカメちゃん状態になるぞ」

月火「……改めて聞くと嫌な状態だね、それ」

月火「こういう時は、火憐ちゃんのジャージが羨ましくなるよ」

嫌な羨ましがられ方だな、それ。

暦「あーそうだ」

暦「自転車だ、僕」

危ねえ。 すっかり忘れる所だった。

月火「なら二人乗りだね。 それならスカートでもギリ大丈夫だ!」

そうなのだろうか。 女子のスカート事情については詳しくは分からないので、なんとも言えないけれど。

今度戦場ヶ原にでも聞いてみるか。

暦「ったく、仕方ねえなぁ」
727 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:35:13.32 ID:EhK+UTCD0
時間経過。

暦「おい、フラフラしてるぞ」

月火「いや、そんな事言われても!」

二人乗りで妹に自転車を漕がせる兄がそこに居た。 僕だ。

月火「なんでこうなるの! 普通逆でしょ!」

必死に漕ぎながら、怒る月火。 実にプリティー。

暦「じゃんけんの結果だろ。 男女平等主義者なんだよ、僕は」

月火「そんな主義いらない!」

いやあ、しかし。

周りの視線が冷たい。 冷たいというか、痛い。
728 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:36:12.43 ID:EhK+UTCD0
暦「そんなんじゃ家に着く前に日が暮れるぞ」

けど、そんなのはお構いなしだ。 家から離れた場所だし。

家の近くまで行ったら、兄らしく「そろそろ代わろうか、疲れただろ?」なんて声を掛けてから僕が漕ぎ、近所で悪い噂が広まらないよう作戦は立ててあるのだ。

月火「正に悪って感じだね……お兄ちゃん。 今度火憐ちゃんに成敗してもらわないと」

暦「はっはっはっは」

月火「むかつく笑い方だ!」

で。

そんな僕の高笑いも、あまり続かなかった。

「お? 兄ちゃんに月火ちゃん。 何してんだよ」

と、横から声が掛かったからである。
729 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:36:43.03 ID:EhK+UTCD0
火憐「見た限り、兄ちゃんが月火ちゃんに自転車を漕がせて、高笑いしている様に見えたんだけど」

やべえ、成敗される。

月火「火憐ちゃん! このお兄ちゃんは悪いお兄ちゃんだよ。 成敗して!」

火憐「マジかよ! 分かったぜ、月火ちゃん」

暦「待て! これにはちゃんとした理由があるんだ!」

火憐「言い訳は聞かねえ!」

成敗された。
730 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:37:50.52 ID:EhK+UTCD0
時間経過。

暦「で、火憐ちゃんはどうしてこんな所に?」

火憐「ん? ああ、ジョギングの途中だよ。 最近走るのが楽しくてさ」

僕にはとても理解できる感情じゃないな、それ。

月火「暇があれば走ってるもんね、火憐ちゃん」

暦「この馬鹿みたいな暑さの中、元気だなぁ」

火憐「暑さくらい問題にならねえよ。 燃える女だしな」

そうかよ。

火憐「で、兄ちゃんと月火ちゃんは何してるんだ?」

暦「あー。 ええっとだな」

月火「自分探しの旅って感じかな。 まあ、私はお兄ちゃんのそれに付き合ってあげてる感じなんだけど」

月火「ね?」
731 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:38:23.19 ID:EhK+UTCD0
暦「お、おう。 その通り」

説明に困っている所だったし、正直助かった。

けど、自分探しの旅って。 春休みの事もあるし、僕がそれを趣味にしているみたいじゃねえか。

火憐「ふうん。 まいいや」

火憐「兄ちゃんも月火ちゃんも、帰る所だったんだろ? 一緒に帰ろうぜー」

暦「なんだ、ジョギングはもう良いのか?」

火憐「うん。 丁度あたしも帰る所だったし」

暦「そっか。 じゃあこっからは自転車は押して行くか」

火憐「いや、それには及ばないな」

あ? 何言ってんだ、こいつ。

火憐「兄ちゃんと月火ちゃんは後ろに乗ってくれ、あたしが漕いでやるよ」
732 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:38:55.04 ID:EhK+UTCD0
との事で、再出発。 自転車の三人乗り。

一番前に火憐。 次に僕。 一番後ろに月火。

法令に引っ掛かっている所の話では無いと思うが、楽には楽である。

この並び順に関しては、月火の「私、一番後ろが良いな」との言葉による物なのだけれど、ついでに月火はこんな事を言っていた。

火憐には聞こえない様に、小さな声で「火憐ちゃん、汗臭そうだし」と。

それもそうだ。 走っていたのだから。

で、僕もマジでそれを聞いてから一番後ろにしたかったのだけれど、まさか当人の前で「どうぞどうぞ」なんてやる訳にも行かず、渋々この並び順って訳だ。
733 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:40:34.87 ID:EhK+UTCD0
暦「しかし、速いなぁ」

火憐「日頃から鍛えてるからな。 兄ちゃんが後十人増えても行けるぜ」

それは多分、自転車が持たないと思うけどな。

火憐「そうだ。 帰ったら遊ぼうぜ」

暦「また急だな……」

月火「良いじゃん良いじゃん。 賛成ー」

暦「って言われてもな。 僕はちょっと忙しいんだよ」

火憐「んだよ、ノリ悪いなぁ」

月火「大丈夫だって、お兄ちゃん。 私も手伝ってあげるんだし」
734 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:41:01.66 ID:EhK+UTCD0
火憐「ん? 何の話?」

月火「こっちの話ー! 何でも無いよー」

火憐「ふうん? ま、良いや」

火憐「で、兄ちゃん。 良いだろー?」

月火「良いでしょ? お兄ちゃん」

やはりあれだ、二対一では分が悪い。

暦「あーもう。 分かった分かった。 遊んでやるよ」

結局、僕はこんな感じで流されてしまうのであった。


第十五話へ 続く
735 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/09(木) 13:44:10.30 ID:EhK+UTCD0
以上で第十四話、終わりとなります。
説明不足もあると思いますので「これってどういう事やねん」というのがありましたら、質問お願いします。
答えられる範囲、答えられない範囲はありますが、出来る限り答えます。

乙ありがとうございました。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/09(木) 14:32:34.82 ID:GYKL44WAo
俺にこの二人みたいな妹がいないのはどういうことやねん
737 : ◆XiAeHcQvXg [sage]:2013/05/09(木) 18:50:41.61 ID:EhK+UTCD0
>>736
名前を暦に改名すれば或いは……
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/09(木) 18:52:50.86 ID:It26ggESo
俺が親に貰った名前を捨てる瞬間であった
741 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:01:19.61 ID:edH4LBuP0
夜。

ソファーで並んで座ったり、僕の部屋だったりでは無く、今日は火憐と月火の部屋。

暦「それで、何して遊ぶんだよ」

結局はそれだ。

遊ぶ遊ぶと言っても、その遊ぶ内容を考える所から僕達兄妹の遊びは始まるのだ。

火憐「さあ? 何して遊ぶ?」

言い出したのは火憐なのだから、せめて一つくらいは考えて欲しい。

だけど、火憐だからまあしょうがねえか。
742 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:01:50.80 ID:edH4LBuP0
月火「それについては、今日は月火ちゃんが考えておきました」

暦「前回はそれで失敗してるけどな」

月火「同じ失敗を踏まないんだよ、私は」

はいはい。 で、何だろうか。

月火「ずばりね。 普通の会話にある制限を付けようかと思うんだ」

暦「制限?」

火憐「って言うと、何々を言ったら駄目。 みたいな感じ?」

ゴロゴロと転がりながら、火憐が言う。
743 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:02:25.72 ID:edH4LBuP0
月火「うん。 けど、ただ単純に禁止ワードを作るのもあれだから」

月火「私はお兄ちゃんの事を兄ちゃんって呼んで、火憐ちゃんの事は月火ちゃんって呼ぶ」

月火「同じ様に、それぞれの呼び方を変えるんだよ」

はー。

って事は、僕は月火を火憐と呼んで、火憐を月火って呼べばいいのか。

火憐「あたしは兄ちゃんの事をお兄ちゃん、月火ちゃんの事を火憐ちゃんって呼べばいいんだな」

火憐「……なんか、自分の名前を呼ぶってのは気持ち悪いな」

月火「だからこそだよ。 あ、勿論間違えたら罰ゲームね」

満面の笑み。

罰ゲームって言葉を言う時、凄い楽しそうだなぁ。 こいつ。
744 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:02:59.24 ID:edH4LBuP0
暦「一応聞いておくけどさ、罰ゲームの内容は?」

月火「しっぺで良いんじゃない?」

ふむ。 ってなると、怖いのは火憐に対して間違えた時か。

月火のしっぺは何回か受けた事があるのだけれど、正直言って可愛い物だし。

暦「ま、良いか。 んじゃあやろうぜ」

火憐「おし、じゃあ月火ちゃん。 合図してくれ」

月火「ほいほい。 じゃあ、スタート」

こうして、良く分からないゲームは始まった。
745 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:03:29.28 ID:edH4LBuP0
暦「そういや、夏休みの宿題とかどうなってるんだ?」

火憐「……」

月火「……」

暦「あー」

暦「やってないんだったら、しっかりやっておけよ。 僕みたいになっちまうからな」

火憐「……」

月火「……」

暦「あはは」

火憐「……」

月火「……」

あのさぁ。
746 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:04:02.35 ID:edH4LBuP0
暦「なんか喋れよ! なんで僕が演説しているみたいになってんだよ! 新学期の校長先生か!」

火憐「って、言われてもなぁ」

月火「うん。 黙ってれば安全だし」

暦「ゲームにならねえだろうが!」

月火「いやいや、一人で喋ってるのを見ているのも楽しいから、大丈夫だよ。 お」

月火「お、面白いから」

惜しい。 上手く回避しやがった。

暦「つっても無表情じゃねえか、お前ら」

お? この「お前ら」っての便利だな。
747 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:04:36.80 ID:edH4LBuP0
火憐「無駄な考えはしない様に努めているからな。 そうなるのも当然だよ」

暦「そんな事に努めなくて良い! お前は仙人か!」

月火「はあ……よし、分かった。 潔く会話に参加するよ。 仕方ないなぁ」

いやいや、そんな渋々言われてもな……そうするのは当たり前じゃねえのか。

月火「でもさ、ちょっと気になったんだけど」

暦「ん?」

月火「あー。 ええっと」

月火「……兄ちゃんが言っている「お前ら」っての、ずるくない?」

おお。

月火が僕の事を兄ちゃんと呼んでいる。

どちらかというと可愛い系の月火が、火憐の様に僕の事を呼ぶと、なんか新鮮だ。
748 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:05:03.74 ID:edH4LBuP0
暦「そうか? んじゃあ。 火憐ちゃんに月火ちゃん」

月火「同じじゃん!」

火憐「おいおい兄ちゃん、それは卑怯だぜ」

暦「んだよ。 分かった分かった。 二人同時に呼ばなければ良いんだろ?」

火憐「おう」

月火「いや、普通に会話してるけどアウトだよ。 アウト」

暦「ん?」

思考。

そういや、火憐の奴普通に僕の事を呼んでいたな……

自然過ぎて、気付かなかった。
749 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:05:36.99 ID:edH4LBuP0
月火「って事で、月火ちゃんアウトー」

ん?

暦「あれ。 アウトになっている間も、呼び方間違えちゃ駄目なのか?」

月火「勿論。 だから兄ちゃんも気を付けてね」

暦「……承知した」

怖い怖い。 そんな落とし穴があったなんて。

つうか、完璧に後付けのルールだよな。 恐ろしい奴だ。

暦「あーつうかさ、この場合は僕がかれ……月火ちゃんにしっぺをすれば良いのか?」

月火「うん。 そうだね」

おし。
750 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:06:13.74 ID:edH4LBuP0
暦「オッケー。 じゃあ、腕捲くれよ」

火憐「うう、お手柔らかに頼むぜ」

暦「言っておくが、僕のしっぺはかなり痛いぜ。 歯食いしばれ」

前置きをして、構える。

月火「いけいけー」

そして野次を飛ばす月火。 後でどうなっても知らないぞ、お前。

んで。

パチン、という軽快な音と共に、火憐の腕にしっぺ。

火憐「いっ!」

火憐「くっそ、覚えとけよ……に、に」

火憐「……お兄ちゃん」
751 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:06:45.05 ID:edH4LBuP0
あれれ。

やべぇ。

可愛い。

いつもは男勝りな火憐が「お兄ちゃん」って言うだけで結構な物があるのだけれど、それに加えて恥ずかしそうに言う物だから、ぶっちゃけて言うと可愛い。

これがギャップ萌えって奴だろうか。 僕も見習わないとな。

月火「それじゃあ、気を取り直して再開再開!」

暦「おし、じゃあ何かお題を決めて話そうぜ。 そっちの方が面白そうだし」

火憐「お題かぁ。 んじゃあさ」

火憐「兄ちゃんは何故、朝起きないのかって事について話そうぜ」

さすがの僕も見逃さない。 本日二度目のしっぺ。
752 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:07:10.91 ID:edH4LBuP0
火憐「……うう」

月火「もう、月火ちゃんしっかりしないと駄目だよ。 話が進まないよ」

暦「全くだ。 つっても、火憐」

言ってから気付く。

火憐ちゃんには難しいかもなぁ。 なんて言おうとしたのだけれど。

せめて、言い切れば良かったのだ。

変な所で止めた所為で、月火に勘付かれてしまった。

いや、そもそも言い切ったとしても、月火なら気付いていたのだろうが。
753 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:07:50.81 ID:edH4LBuP0
月火「どうしたの? ねえ」

暦「いや、あー。 ははは」

月火「そうだ。 良い言葉を教えてあげる」

暦「ん? 何だよいきなり」

あれ、気付かれてないのか?

月火「諦めも肝心」

ばれてた。
754 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:08:23.83 ID:edH4LBuP0
で。

火憐「うおらっ!」

物凄く気合いの入った掛け声と共に、火憐からのしっぺを受ける。

月火のしっぺが「ぺちん」だとすると、僕のしっぺは「パチン」だ。

そして、火憐のしっぺはと言うと、ドゴン。

いやいや、冗談とかでは決して無い。 マジで腕折れたかと思ったもん。

暦「いてえ……」

暦「なあ、つき、火憐ちゃん、この罰ゲームやっぱり不公平だろ」

月火「そう? 間違えなければ良いだけだよ。 『兄ちゃん』」
755 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:09:18.73 ID:edH4LBuP0
月火「後さ、さっきから何回か言い掛けてるけど、それを見逃してあげてるのは感謝してね」

って言われてもな。 お前くらいだよ、そんな器用なのは。

暦「僕のしっぺが三だとして、お前のは一だ。 んで火憐ちゃんのは百くらいあるだろ」

月火「いや、五十くらいじゃない?」

火憐「あたしを何だと思ってるんだよ! 盛っても五くらいしかねえよ」

いやいや、それは逆の意味で盛りすぎだ。

月火「よし、それじゃあ兄ちゃん、もう一回しっぺだ」

暦「は? おい、何でそうなるんだ」

月火「読み直せば分かるよ」

……文字として残るって不便だなぁ!
756 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:09:45.49 ID:edH4LBuP0
火憐「へへへ。 まあ何回もやって、骨折ってのも悪いしな。 デコピンでも良いか? かっれんちゃん」

言い掛けたんだな、月火って。

つうか、しっぺで人を骨折させられるのってそうそう居ねえぞ。

この分で行くと、デコピンで頭蓋骨に穴が開いたりしそうで怖い。

月火「うん。 良いよー」

火憐「おし、ってな訳で行くぜ。 お兄ちゃん」

暦「……ああ」

死刑される瞬間の人ってのは、こんな気分なんだろうなぁ。
757 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:10:12.02 ID:edH4LBuP0
暦「そろそろ、火憐ちゃんにも罰ゲームを与えたいな」

火憐「あん? あたしはさっきから受けてるぞ」

こいつ、マジで大丈夫かよ。 ルールその物すら忘れているんじゃねえだろうな。

暦「いや、だから逆だよ逆。 火憐ちゃんであって火憐ちゃんじゃねえだろ?」

火憐「は? 意味分からないんだけど、何言ってるんだよ」

うわあ、めんどくせー。

月火「そうだよ、何言ってるの?」

で、月火も月火で乗ってくるし。
758 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:10:41.53 ID:edH4LBuP0
暦「だから! 僕が言ってるのは今はゲーム中だろうが! つまり火憐ちゃんであってそれは火憐ちゃんじゃねえんだよ! 分かるだろ!?」

火憐「いやいや、ゲーム中ってのは知ってるけどさ。 火憐ちゃんであって火憐ちゃんじゃないってどういう事だって聞いてるんだよ」

暦「お前じゃねえよ! 僕が言ってるのは火憐ちゃんじゃないんだ!」

火憐「じゃあ、誰の事?」

暦「……火憐ちゃんの事だ」

火憐「やっぱりあたしじゃん!」

殴って良いかな、こいつ。

月火「ちょ、ちょっとごめん。 面白すぎる」

こいつもこいつで、笑いを堪えられて無いし。
759 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:11:09.18 ID:edH4LBuP0
暦「ああ、分かった! 畜生! 僕が言ってるのは月火ちゃんの事だ! お前じゃねえんだよ!」

火憐「アウトだアウト」

月火「アウトだね」

こいつら、マジで覚えとけよ。
760 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:11:59.35 ID:edH4LBuP0
時間経過。

結局あれから、僕と火憐が罰ゲームを受けるだけで、一向に月火に間違える空気も感じられなかった為、兄と姉の権限によってゲームは中止となった。

こう言うと、僕と火憐が月火より上の立場に居る事が分かりやすいだろう。

月火「それにしてもお兄ちゃんに火憐ちゃん。 良い土下座だったね」

まあ、土下座したんだけれど。

物は言いようって奴だ。

火憐「あれだな。 慣れない事はするもんじゃねえや」

暦「ああ、珍しく同意見だ」

月火「そうかな?」
761 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:12:26.16 ID:edH4LBuP0
暦「僕も火憐ちゃんも、そういうのには向いてないって事が良く分かった」

暦「つっても、火憐ちゃんは僕の事を嵌めたけどな」

火憐「そんな怒るなって。 月火ちゃんのしっぺなんて、大した事無いだろ?」

月火「そうだよ。 私は蟻も殺せない女子なんだよ?」

暦「うるせえ。 折り紙をしっぺ用に用意してる奴が何言ってるんだ」

月火「たまたまだよ。 偶然そこにあっただけ」

偶然そこにあるってのが、もう訳が分からない。
762 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:12:54.14 ID:edH4LBuP0
暦「で、この後はどうするんだ?」

月火「うーん」

月火「とりあえず、お兄ちゃんの部屋に移動かな」

何だよ、そのとりあえずって。

暦「別に良いけどさ、僕の部屋はお前らの部屋以上に何もねえぞ」

火憐「確かになぁ。 けど、居心地が良いんだよ。 兄ちゃんの部屋」

火憐にとっては、どこでも居心地が良いのでは無いだろうか。

道路脇とかでも「居心地良いな、ここ」とか言い出しそうだし。

……さすがにそれは無いか。 いや、そうであって欲しくは無い。 我が妹が将来ホームレスにでもなりそうで。
763 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:13:25.50 ID:edH4LBuP0
で、僕の部屋に移動したのだけれど。

火憐「……ううん」

暦「なんでこいつは寝てるんだ。 しかも僕のベッドだぞ」

月火「火憐ちゃん、寝付き良いからねぇ」

いやいや、そういう問題じゃねえだろ。

暦「こいつ、僕のベッドを自分のだと勘違いしてるんじゃねえだろうな」

月火「いや、そう思ってると思うよ」

月火「だってこの前「なんで兄ちゃんがあたしのベッドで寝てるんだよ」って言ってたし。 朝寝てるお兄ちゃんを見て」

暦「……はは」
764 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:13:51.84 ID:edH4LBuP0
ついに阿良々木家の兄妹間にも弱肉強食の時代がやってきたか。

僕の私物は多分、根こそぎ無くなるのだろう。

暦「つうか、僕は今日どこで寝れば良いんだ。 また月火ちゃんと添い寝?」

月火「それでも別に良いけど。 三人で一緒に寝ない?」

それでも別に良いって、月火も随分と棘が無くなった物だ。

やっぱり丸くなったよなぁ。 こいつも。

暦「いや、三人で寝るって言っても無理だろ。 火憐ちゃんが一人で占領してるし」

月火「大丈夫だよ。 隅に押せば大丈夫」

お前、火憐の事を何だと思ってるんだ。

とか考えている間にも、月火は火憐の体をぐいぐいと隅に押す。
765 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:14:19.59 ID:edH4LBuP0
月火「ほら」

暦「ほらって言われても……」

しばし眺める。

一番奥に火憐。 横に月火。

……無理だ!

色々と、無理だこれ!

暦「やっぱり、僕はソファーで寝てくる。 二人で仲良く寝とけ」

月火「良いじゃん良いじゃん。 兄妹仲良く寝ようよ」

暦「狭いだろうが。 僕は広々と寝たい気分なんだよ」

月火「じゃあほら、私は火憐ちゃんの上に重なって寝るから。 それなら大丈夫でしょ?」

いや、どう考えても大丈夫じゃないだろ、それ。
766 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:15:11.91 ID:edH4LBuP0
暦「そこまでしなくても良いだろ。 てか、何で今日に限ってそんなしつこいんだよ」

僕がそう言うと、月火は窓の外に視線を移し、口を開く。

月火「そりゃ、そうだよ」

月火「明日、もしお兄ちゃんが殺されたらって思うと、そうなるよ」

ああ、そっか、そうだよな。

月火は、そういう奴だ。
767 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:15:50.92 ID:edH4LBuP0
暦「馬鹿言ってるな。 お前のお兄ちゃんは不死身なんだよ。 月火ちゃんも見てるだろ?」

月火「……分かってるけどさ。 でも」

あー。

全く。 こうなってしまったら、僕も断るのが気が引けるじゃねえか。

暦「ったく、分かった分かった。 今日は三人で寝よう。 それで良いだろ?」

月火「うむ、よろしい」

何様だ。

で、結局流されるままに流されて、僕と火憐と月火の三人で寝る事となった。
768 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:16:23.74 ID:edH4LBuP0
時間経過。

暦「月火ちゃん、起きてるか?」

月火「起きてるけど、何?」

暦「さっきは、ああ言ったけどさ」

暦「もし、僕が死んだら火憐ちゃんの事頼むぜ」

月火「嫌だ」

暦「……最後の頼みになるかもしれないんだから、そこは頷いとけよ」

月火「例え頷いたとしても、私は守らないよ? 知ってるでしょ、お兄ちゃん」

暦「そうだったな。 それもそうだ」
769 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:16:50.35 ID:edH4LBuP0
横に居る月火は僕の方へ顔を向け。

月火「お兄ちゃんが死んだら、私も死ぬ」

聞く人が聞けば、すげえヤンデレだな、これ。

いや、殺して死ぬって言ってる訳では無いから、そうでもないか?

月火「ついでに、その時は火憐ちゃんも連れて行ってあげるね」

ヤンデレだ。

一番被害を受けているのは、間違い無く火憐だ。
770 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:17:17.54 ID:edH4LBuP0
月火「ってのは冗談だとしてさ」

月火「……死なないでよね、お兄ちゃん」

と言われても、約束は出来無いよな。

それこそ、本当に死ぬかもしれないんだから、簡単に引き受ける事は出来無い。

暦「まあ、努力するさ」

月火「そっか。 頑張ってよね」

暦「お前らは心配だしなぁ。 やっぱり僕が死んだらお前らも死んでくれよ」

月火「恐ろしい提案だね……」

暦「いや、僕が死ななくても死んでくれよ」

月火「むしろ私が殺してあげるよ!」

暦「声でかいぞ、火憐ちゃんが起きたらどうするんだよ、全く」

月火「……誰の所為だと思っているんだろ」
771 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:17:48.65 ID:edH4LBuP0
まあ、冗談はそこそこにして。

暦「僕がもし死んだらさ、泣くか?」

月火「泣くよ。 当たり前じゃん」

即答。

暦「……そっか。 なら、悪い事したよ」

月火「悪い事?」

暦「こっちの話だ。 気にするな」

春休みの事を思い出す。

あんな簡単に命を投げ出して、僕は何をしていたんだか。

あれから随分と時間は経っているけれど、火憐と月火は今も昔も、僕が死んだら泣いてくれたのだろう。

そう思うと、自分が無性に情けなくなり、どうしようも無く、この妹達に謝りたくなってしまう。
772 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:18:15.62 ID:edH4LBuP0
月火「ま、良いや。 それよりお兄ちゃん」

月火が声を出さなければ、考えるに考えて、暗い気持ちになって僕は泣き出していたかもしれない。

兄が突然泣き出したら何だか心配させてしまうだろうし、月火が話し掛けてくれたのは幸いである。

月火「お昼に言っていた「お兄ちゃんが絶対に取らない方法」って、思い付いた?」

暦「あー。 そういや、全然考えて無かったな」

月火「だと思った。 実はさ」

月火「私、良い方法思い付いたよ」

遊んでいる最中でも、考えていてくれたのか。

僕は禁止ワードを言わない事に必死だったというのに。 いや、それでも言っちゃったんだけどね。
773 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:18:42.17 ID:edH4LBuP0
暦「本当か? さすがはファイヤーシスターズの参謀さんだな」

月火「私を侮らないでよね、お兄ちゃん」

まあ、その内容自体にはあまり期待してないんだけれど。

月火「それで、その方法なんだけど」

そして月火は語る。

月火の考えた、僕が絶対に取らない方法を。

それを聞き、僕は。

暦「……はは、確かにそりゃ、僕が絶対に取らない方法だな」
774 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:19:12.66 ID:edH4LBuP0
月火「でしょ?」

暦「それに、今月火ちゃんが言った方法の成功率を上げる物も、ある」

暦「だけど、それ以外の方法を取りたいってのが、正直な所かな」

月火「お兄ちゃんはそう言うと思ったよ。 でも、それ位しか無いと思うよ。 私は」

暦「かもしれない」

暦「……ふう。 分かった。 月火ちゃん、明日一緒にその方法を忍野に話してみよう」

月火「やけに素直に受け入れるんだね。 それは意外だなぁ」

暦「まあ、僕も成長してるって事じゃねえか?」

月火「いやいや、どうせ身長も私に抜かれるんだし、止まってるよ」

暦「身長の話なんかしてねえ!」
775 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:20:35.09 ID:edH4LBuP0
そうだ。

その方法は、確かに納得できない物だ。

けど、僕には月火にも話していない方法。 最低の方法がある。

それを考えれば……今、月火が提示した案は最有力と言った所か。

月火「お兄ちゃん。 静かにしないと、火憐ちゃん起きちゃうよ」

暦「あ、ああ。 悪い悪い」

さて。

そうなってくると、月火も明日、あの廃墟へと連れて行くことになる。

結局連れて行くつもりではあったが、僕の予定では全てが終わった後の話だったんだけど。

いや、全てが終わる前、か。

まあ、大して状況は変わらないだろう。 どちらにしても。
776 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/10(金) 13:21:11.52 ID:edH4LBuP0
……そういえば。

忍野は僕が考えた方法について、珍しく猛反対と言った感じだった。

反対していると言うよりは、怒っているって言った方が近いのか?

けど、僕が折れないと分かったのか、最終的には承諾してくれたのだけれど。

暦「んじゃ、そろそろ寝るか」

月火「うん。 おやすみ」

暦「ああ、おやすみ」

そして、その日がやって来る。


第十六話へ 続く
783 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:21:21.44 ID:NyxZy9W70
忍野「良いね。 それは確実に僕が予想出来ない方法だ」

開口一番。 珍しく静かに聞いていた忍野は、月火が出した案に賛成した。

忍野「しかし、兄妹でここまで違うと、どこで何を間違えたんだろうね? 阿良々木くん」

暦「うるせえ」

全く以って余計なひと言もあったのだが。
784 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:21:49.62 ID:NyxZy9W70
月火「あの、忍野さん……で良いんですよね? 一つ、気になる事があって」

忍野「ほらー、阿良々木くんと違って、目上に対して言葉遣いもしっかりしてるし」

暦「僕に似たんだろうな」

可能性の一つを提示する僕。

月火「お兄ちゃんには似てない」

反対意見を唱える月火。

忍野「うんうん。 僕もそう思うよ、妹ちゃん」

賛同する忍野。

なんだこれ、僕帰って良いかな。
785 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:22:15.51 ID:NyxZy9W70
てか、言葉遣いを言うのなら火憐もだろうが。 何で僕だけ責めるんだよ。

忍野「で、ええっと。 何かな?」

月火「あ、はい。 えっと、私の案を採用してくれるのは良いんですけど、大丈夫かなって」

忍野「……そう思うのも無理は無いか。 心配しているのは、成功するかどうかって事だよね」

月火「はい。 こんな私が出した案ですし」

こんな私って。

お前、絶対に何があっても地球の自転が止まったとしても、そんな事思ってねえだろ。

普段なら絶対に言わないであろう月火の言葉に思わず噴出しそうになってしまったが、なんとか堪える。
786 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:22:41.22 ID:NyxZy9W70
忍野「確かに、そのままだと成功率は限りなく低い。 低いって言うか、ゼロだね」

月火「ゼロって、なら不採用?」

あー。

月火の奴、イライラしてるなこれ。

さっきまでの口調と、随分と変わった。

まあ、忍野の話し方にイライラしない方が無理か。

忍野「いやいや、そういう訳じゃない」

忍野「言っただろ。 そのままだとってね」

忍野「つまりはそこから、成功率を引き上げて行けばいい」

忍野「その辺りは僕が考えるよ」

忍野が考える。 いや、それってありなのか?
787 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:23:54.68 ID:NyxZy9W70
暦「ちょっと待てよ、忍野」

忍野「ん?」

暦「忍野が考えたら、駄目じゃないか? それは予想されるんじゃねえのか?」

忍野「心配は要らないよ、阿良々木くん」

忍野「作戦の軸になっているのが、僕の思い付かない方法だろ? ならそこを変えない限り、あいつには予想できない」

忍野「まあ、予想は出来なくても予測はしているかもね。 けれど、この方法ならその予測を立てたとしても、本当に取ってくるとは思わないだろう」

ふむ。 なるほど。 確かに筋は通っているのかな。
788 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:24:22.06 ID:NyxZy9W70
忍野「ところで、今の時間は……ええっと、何時だい?」

腕時計に目をやり、確認。

暦「十八時を少し回った所だな。 時間まで後七時間くらいか」

忍野「そうかい。 それだけあれば、なんとかなりそうだ」

忍野「妹ちゃん、僕は阿良々木くんと二人で話したい事があるからさ。 少し席を外して貰っても良いかい?」

忍野「隣に空いてる部屋があるから、そこで待っててくれ」

月火「……はい、分かりました」

月火さん、月火さん。 台詞と顔が噛み合って無いです。

そんな露骨に嫌そうな顔するなよ。 人見知りかお前は。

が、さすがの月火も断る事はせず、鞄を持ち、隣の部屋へと移動する。
789 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:24:47.68 ID:NyxZy9W70
そんな月火が部屋から去ったのを確認すると、忍野は再び口を開いた。

忍野「阿良々木くん。 昨日言っていた事、本当にやるのかい?」

僕が忍野に頼んだ事。 だろう。

暦「言っただろ、忍野。 僕は考えを変えないし、それが一番良いと思うんだ」

忍野「いつもの僕なら「それはやめた方が良い」とか「おすすめできない」って言うだろうけどさ」

忍野「今回に限ってはこう言うよ」

忍野「それはやめろ」
790 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:25:14.14 ID:NyxZy9W70
いつものふざけた感じは無く、僕の目を見て、忍野は言った。

それは恐らく、警告。

暦「そうは言ってもな、忍野。 僕がやろうとしている事は間違いかもしれない」

暦「けど、それであいつが救われるなら、僕はどんな事でもするつもりだ」

暦「それが何より、あいつの為だとも思うしな」

忍野「……そうかい」

忍野「まあ、良いよ。 ぶっちゃけた話、このまま阿良々木くんが意見を通すつもりなら、張り倒してでも止めたんだけどさ」

だから昨日はあんなに簡単に引いたのか。 確かに何か妙だとは思ったんだよ。

忍野「君の妹ちゃんと会って、話して、少し気が変わったよ」
791 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:25:39.28 ID:NyxZy9W70
暦「何だ? 賛成してくれるのか?」

忍野「賛成はしない。 むしろ反対ってのは変わらない」

忍野「阿良々木くんも、少し痛い目を見て学べば良いって考えに変わっただけさ」

忍野が言っている言葉の意味は、深くは分からない。

だけど、僕の案には協力をしてくれるのだろう。

忍野「ま、そう言う訳で用意はしておくよ」

暦「……分かった。 頼んだぞ」

忍野「ああ、嫌々だけどね」
792 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:26:09.26 ID:NyxZy9W70
忍野「ま、暗い話はやめよう。 阿良々木くんはこれから殺されるかもしれないんだし」

暦「縁起でも無い事を言うんじゃねえ」

忍野「ははは。 ま、妹ちゃんのおかげでなんとかなりそうだね」

忍野「少し考えを練るから、妹ちゃんと話してきなよ。 もしかしたら」

忍野「最後のお話になるかもしれないんだしさ」

だから、縁起でも無い事を言うんじゃねえって。 ったく。

そんな事を思いながら、いつもの様に笑う忍野に見送られ、部屋を後にした。
793 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:26:44.68 ID:NyxZy9W70
月火「お兄ちゃん」

月火「お話は終わったの?」

部屋に入るとすぐに、月火が声を掛けてくる。

暦「ああ、一応な」

暦「てか、お前何してるんだ?」

月火は椅子に座り、何やらテーブルの上にノートを広げている。

夏休みの宿題……じゃあねえよな。 こいつはもう終わらせているだろうし。

あれ、つうか僕、宿題何もやってないじゃん。 やっべえ。
794 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:27:12.58 ID:NyxZy9W70
月火「ずばり、作戦ノートだよ」

暦「作戦ノート?」

月火「そ。 あの化物に勝つ為、お兄ちゃんがどんな動きをすれば良いのかってのを書いてるんだ」

暦「へえ、どれどれ」

月火のノートを覗き込む。 うわ、何だコレ。

暦「月火ちゃんって、絵心無かったんだな」

月火「何か言った?」

暦「月火ちゃんって、絵心あったんだな」

月火「それもそれで、微妙に失礼だね……」

暦「月火ちゃんって、絵心ありまくりだな」

月火「馬鹿にしてるよね、それ」
795 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:27:43.80 ID:NyxZy9W70
暦「つうか、昨日と同じくだりじゃねえか? これ」

月火「確かに、なんか身に覚えがあるやり取りだったよ」

暦「まあ、少しは休んどけよ。 月火ちゃん頼みでもある訳だし」

月火「大丈夫だって。 そんな心配は無用だぜ」

暦「なんの真似だよ」

月火「火憐ちゃんの真似」

暦「……そう言われてみれば似ているかも」

月火「でしょ? 毎日練習してる甲斐があったよ」

毎日練習しているのかよ。 無駄な努力だな。 何の為にもならないじゃねえか。
796 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:28:13.12 ID:NyxZy9W70
暦「ん? って言うと、あれもその作戦ノートとやらか?」

月火の近くに置いてある鞄。

その中に、何冊も同じ様なノートが入っている。

月火「ああ、あれもその一部だね。 まあ、ボツ案なんだけどさ」

暦「へえ、見ていいか?」

月火「良いけど、全部お兄ちゃんが死ぬバッドエンドだよ?」

暦「見ないでおこう」

月火「それが良いね」

僕が死ぬエンドとか想像しないで欲しい。 せめてバッドエンドでも良いから、僕を生かしておけ。
797 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:29:09.29 ID:NyxZy9W70
月火「それにしても」

暦「ん?」

月火「なんか、未だに信じられないなぁ。 夢を見ている気分だよ」

暦「僕もそうだよ。 つうか、信じられない度で言ったら、僕がこの体になった時の方だけどな」

月火「ふうん。 ああ、そっか!」

暦「どうした?」

月火「お兄ちゃんが自分探しの旅って言って、春休みに居なかったのってその所為かぁ」

鋭いなぁ。 それだけに、僕の考えも見破られてそうで。

月火「ところでお兄ちゃん」

暦「あん? 今度はなんだよ」
798 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:29:41.13 ID:NyxZy9W70
月火は笑顔から一変、無表情で、僕に言う。

いつもの調子から、ガラリと変わって。

月火「話す気無いでしょ。 お兄ちゃんの体の事」

暦「……へ? なんつった、月火ちゃん」

月火「だから、お兄ちゃん。 私にその体の事、話す気は元々無かったでしょ?」

あ?

ばれていた?

いつからだ。

いや、それを考えるのはまだ早計か?

余計な事は考えるな。

それよりも先に確認しておくべき事、月火は『その先にある事にも気付いているか』だ。
799 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:30:10.42 ID:NyxZy9W70
暦「何言ってるんだよ、月火ちゃん。 僕はしっかりと」

月火「嘘だよ。 そんなの」

月火「お兄ちゃんの嘘ってさ、凄く分かりやすいんだよ。 だからすぐに分かる」

笑うというよりか、微笑むと言った方が正しいだろう。 そんな顔で、月火は言った。

暦「……そっか」

月火「それには、理由があるんだよね」

暦「ああ、そうだ」

僕の失敗だ。

月火の頭の良さを少し、侮っていた。
800 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:30:41.79 ID:NyxZy9W70
月火「言い辛い事?」

暦「……そうだ」

月火「そっか」

暦「悪い、月火ちゃん。 騙す気は、無かったんだよ」

月火「知ってるよ。 お兄ちゃんの考える事なんて、私から見れば全部分かるもん」

月火「どうせそれも、私の為なんでしょ?」

黙って、頷く。

怒るかな、こいつは。

月火「そっか、じゃあ良いや。 変な事言ってごめんね」

怒らない、か。
801 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:31:55.67 ID:NyxZy9W70
月火「でも、お兄ちゃん」

暦「……なんだ」

月火「ファイヤーシスターズの参謀を侮っていると、痛い目を見るからね」

月火「お兄ちゃんの秘密も、いつか暴いてあげよう!」

先程までの雰囲気に戻り、元気良く月火は言い放つ。

暦「はは、そうか。 用心しておくよ」

一昨日の夜、月火は僕に「お兄ちゃんの優しさは、自分自身を傷付けている」と言った。

そして、僕が「お前達は優しすぎる」と言った時には「優しいのはお兄ちゃんだよ」と言った。
802 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:32:31.61 ID:NyxZy9W70
とんでもない。

僕なんかよりもよっぽど、こいつは優しい。

僕の優しさと言う物が、誰かを傷付ける物だとすると。

月火の優しさは『誰かを癒す』優しさなのだろう。

だから、だからこそ。




僕は、月火を守りたいと思うのだ。
803 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:32:59.47 ID:NyxZy9W70
怪異なんかに、関わらせたくは無いと、思うのだ。

それが全てで、それ以上でも以下でも、無い。

月火「お兄ちゃん? 大丈夫?」

暦「うお! びっくりした……」

考えに集中しすぎて、月火に声を掛けられている事に全然気付かなかった。 悪い癖だなぁ。

月火「さっきのおっさん、私達の事呼んでるみたいだけど」

ん。 ああ、確かになんか声が聞こえる。 場所が分かってるんだから、歩いて呼びに来れば良いのに。

つうか、月火の奴も大概だな……

当人が居ない所で、おっさんって。

暦「おし、じゃあ行くか」

月火「ほいほい」
804 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:33:42.42 ID:NyxZy9W70
僕と月火は忍野の部屋に入ると同時、声を掛ける。

暦「わりい、待たせたなおっさん」

月火「すいません、おっさ」

月火に足を踏まれた。 こいつ、踵で踏む物だから結構痛いんだよ。

ていうか、最初に言い出したのはお前だからな。

忍野「遅いよ。 待ちくたびれたじゃないか」

忍野「しかし、何だろうね」

忍野は僕と月火が影で何て言ってるのか知らないんだろうなぁ。 実に機嫌が良さそうだ。
805 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:34:40.13 ID:NyxZy9W70
暦「ん?」

忍野「こう見ると、君達は兄妹って言うよりは、カップルって感じが近いよね」

馬鹿かこいつは。 何を言ってやがる。

月火「そ、そんな事無いですよ」

それで、何照れてるんだよ、お前は。

忍野「いやいや、だってさ。 身長とか似たような物だし」

忍野「妹ちゃんの方が、まあ小さいけどね。 阿良々木くんがいつもチビチビって言うだけはあるよ」
806 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:35:08.71 ID:NyxZy9W70
月火「……あん?」

僕の方を睨む月火。 やめてください。

暦「言ってねえだろ! 僕のありもしない話をするんじゃねえ!」

忍野「あれ? そうだったっけ。 んじゃあ、僕のイメージの話だったかもしれないなぁ」

月火「……ちっ」

こわ。 月火さん、その舌打ち多分忍野にも聞こえてますよ。

忍野「ははは。 冗談冗談」

忍野「それじゃ、本題に入ろうか」
807 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:35:43.29 ID:NyxZy9W70
忍野「さっきが十八時だったから、今は二十時くらいかな? 後五時間って所だね」

忍野「構想は殆ど出来ている。 後は君達が頭に入れて、うまくやれるかどうかだよ」

忍野「それじゃ、説明を始める」

忍野が考えた作戦は、とても単純な物であった。

単純であるが故に、それしか無いと思わせる方法。

要所要所で「頑張る」とか「なんとかする」って言葉が使われていたのには不安を覚えずには居られないが、事実そうするしかないので、僕も月火も首を縦に振るしかなかった。
808 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:36:13.29 ID:NyxZy9W70
そんな作戦を頭の中で整理し、記憶する。

月火も真剣に耳を傾け、内容を頭に押し込んでいる様に見えた。

この作戦の鍵、支柱は月火でもあるのだから、プレッシャーは結構な物だろう。

暦「大丈夫か? 月火ちゃん」

月火「私は大丈夫だよ。 それより心配なのはお兄ちゃんだ」

暦「ああ。 いつも心配ばかり掛けて悪いな」

月火「良いよ。 お互い様って事で」
809 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:36:40.76 ID:NyxZy9W70
それから、僕と月火は一度家に帰り、月火は部屋に荷物(多分、さっきの作戦ノートだろう。 結局何の役にも立たなかった)を置きに行く。

僕はというと、火憐と軽く話をして、出掛ける旨を伝えた。

火憐は「あたしも付いて行く。 問題事だろ?」と言っていたが、勿論連れて行く訳にもいかないので、その辺りはなんとか月火に宥めて貰ったのだけれど。

火憐と月火がどんな話をしたのかは、分からない。

あいつらなりに、納得のいく話し合いだったのは確かだとは思うが。

僕と月火が家を出る時には、火憐はすっかり気持ちが変わっている様で「兄ちゃん、月火ちゃん、いってらっしゃい」との言葉を贈ってくれた。
810 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:37:12.05 ID:NyxZy9W70
そして。

時刻は二十五時。

場所は北白蛇神社。

忍に血を吸わせ、吸血鬼化。

観客は忍野と忍と月火。

大勢居てもあれなので、丁度良いくらいだろう。

手に心渡は持たず、素手同士の対決。

今日は月も綺麗に見える。

故に、天気も良い。

やがて、その時がやってくる。
811 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/11(土) 13:37:38.04 ID:NyxZy9W70
暦「よう」

目の前の奴に向かい、声を掛け。

「お待たせ。 阿良々木くん」

そいつも、返事をする。

暦「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

僕はそいつにそう言い放ち。

「僕は時間にして四十八時間も待ってるんだぜ?」

そいつはそう返す。

暦「そりゃ、ご苦労様だな」

「ああ、構わないよ。 もう時間が来たんだし、過去の事なんて気にしないさ」

暦「そうか。 それじゃあ決着を付けよう」

「そうだね。 精々足掻いてくれよ、阿良々木くん」

それではそろそろ、化物同士のバトルパートと行こうか。


第十七話へ 続く
818 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:00:52.08 ID:wQ9l4oiC0
「なんだい。 今日は観客が大勢居るんだね」

暦「たった三人だぜ。 恥ずかしがり屋か?」

「まさか。 見物料でも請求しようかと思っただけだよ」

暦「はっ。 どっかの詐欺師みたいだな」

「懐かしいなぁ。 とは言っても、僕自身は会ってないんだけどね」

「彼だったら多分。 こう言うよ」

「阿良々木、実に勿体無い。 お前の今日の見世物は、一人一万は取れるぞ」

「何と言っても、化物同士の見世物なのだから」

「お前は何の為に、無駄に戦う? 金も貰えず、今日の戦いで得る物は何だ?」

「こんな感じかな?」
819 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:01:42.83 ID:wQ9l4oiC0
暦「言いそうな台詞だな」

まるで本人が目の前に居るかの様な、そんな錯覚を与えるほどに。

暦「で、何だっけ。 何の為に戦うかって?」

暦「決まってるだろ。 月火ちゃんの為だ」

「そうかい。 それは君に利益があるのかい?」

暦「ねえよ。 僕は多分」

暦「人の為じゃないと、戦えない」

「だろうね。 君はそんな奴さ」
820 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:02:12.64 ID:wQ9l4oiC0
「唯一自分の為に戦ったのは、あの春休みくらいかな?」

「とは言っても、あれも別視点から見れば、忍ちゃんの為の戦いだったのかもね」

暦「どうだかな。 少なくとも僕は、自分の為に戦ったと思っているよ」

だから、だからこそ。

僕はもう、自分の為に戦わない。 戦えない。
821 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:02:43.28 ID:wQ9l4oiC0
「この前、殴りあった時」

「あの時言っていた言葉の意味は、分かったみたいだね」

「僕が願われた事について」

暦「ああ、お前も随分と性格が悪い」

暦「まあ、忍野の性格だから、仕方ないんだろうけどさ」

「あんまそう言ってくれるなよ。 君の後ろで見ている彼が可哀想じゃないか」

暦「問題ねえよ。 あいつは一々そんなのは気にしない」

「はは、そうだったそうだった」

「けど、君が殺されそうになっている原因とかは、全部分かったんだろ?」

「紛れも無く、今君の後ろでのほほんと見ている彼女が原因なんだぜ?」
822 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:03:16.11 ID:wQ9l4oiC0
暦「いいや、違うな」

暦「原因は僕だよ。 僕の頭がもう少し良ければ、こんな事にはならなかった」

暦「火憐ちゃんの時も、月火ちゃんの時も、僕が気付くのが早ければ、もっと早めに対処出来ただろうさ」

暦「そりゃ、あいつらも自業自得の部分はあるだろうさ。 けどそれ以上に、僕の所為なんだよ」

暦「それだけの話だ」

「阿良々木くんは、どうやら自分を責めるのが趣味なのかな。 どんな時でも君は自分を責める」

「いつか壊れるぜ。 そのままだと」

「いつ如何なる時でも他人に責任を押し付けない。 自分を責め、それを肯定する」

「それはつまり、自分自身を否定する事だ」

「そして、それを続ければいつかは自分を保てなくなる」

「それでも君は、自分が悪いと言うのかい?」
823 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:03:54.49 ID:wQ9l4oiC0
暦「さあ? 難しい話は分からねえな。 けど、これだけは言える」

暦「家族や仲間を守らずに責任を押し付ける方が、よっぽど自分が保てなくなりそうだよ。 僕からしたら」

暦「それと、これから先の心配をしてくれるのか? お前の予定だと、僕は今日ここで死ぬんだろ? それとも何だよ、降参でもしてくれるのか?」

「はは、良い感じに狂ってるよ、君は」

「けれどまあ、悪い方の狂い方では無いと言えるかもね」
824 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:04:25.73 ID:wQ9l4oiC0
「二つ目の言葉については、僕の失言だ」

「言われてみればそうだね。 君の将来を心配する必要は皆無だった。 ごめんごめん」

暦「そうか。 それじゃあそろそろ、ぐだぐだ話し合いを続ける必要もねえな」

暦「あんまり無駄話を続けていると、観客も寝ちまうからさ」

「分かったよ、阿良々木くん。 それじゃあ」

----------------------------始めようか。
825 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:05:02.66 ID:wQ9l4oiC0
言葉と同時、空気が変わる。

どう来る?

正面から? それとも横から?

忍野は確か「足を見ろ」と言っていた。 とは言われても、足ばっか見てもいられない。

来るとしたら……

「ッ!」

化物は身を若干屈め、上に飛ぶ。

おいおい、上かよ!
826 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:05:38.32 ID:wQ9l4oiC0
足を見るもくそもねえな、けれども。

落ち着け。 相手は飛んでいる、上空では動きなんてまともに取れやしない。

それなら、まずは回避。 間違っても防御は駄目だ。

判断すると同時、その場から離れる。

そして、化物が地面に着地すると同時、蹴り。

暦「うおらっ!」

さすがの忍野でも、着地と同時には先日の様な真似は出来ず、回避行動。

当たれば万々歳だったのだけれども、さすがにそう上手くもいかねえか。
827 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:06:20.13 ID:wQ9l4oiC0
「なんだい。 前よりも多少は成長してるね」

「とは言っても、今のままじゃ僕に勝つのは不可能だよ。 阿良々木くん」

暦「一々喋らないと気が済まないのかよ。 けど、今のままじゃってのはそうかもな」

「大方「阿良々木くんが絶対に取らない方法」ってアドバイスでもあったんだろ? 僕に勝てる方法としたら、それ位しか無いしね」

やはり、ばれてるか。

暦「ああ、そうだよ。 でもだからといって、お前は結局それが予想できない。 そうだろ?」

「まあ、そうだね。 しかし可能性としては考えられるんだよ」

「例えば……阿良々木くんが実は応援を呼んでいて、今からここに他の専門家がやってくる」

「これは無いだろう。 君はそれは絶対にしない」
828 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:07:25.43 ID:wQ9l4oiC0
暦「はは、どうだろうな。 お前がそう思うから、敢えて僕はその選択を取っているかもしれない」

「かもね。 まあさ、何が言いたいかって言うと」

「ありとあらゆる可能性は考えてある。 君が僕に勝つのは無理だよ」

「って事だ」

そう言い捨て、化物は距離を詰めてくる。

暦「……っ!」

マズイ。 話に気を取られ過ぎていた。 初動に反応出来ていない。

つうか、忍野の奴はまだ準備が終わらないのかよ。 こんなんじゃ一秒先には死んでるかもしれないぞ、僕。

そして。

メキ。 なんて不快な音が耳に入る。
829 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:07:54.42 ID:wQ9l4oiC0
見ると胸のど真ん中に、化物の腕がめり込んでいた。

暦「がはっ……!」

くっそ、意識が飛びそうだ。

足元も安定しない。 たった一発のパンチで、視界まで揺れてやがる。

だけど、倒れる訳には行かない。

火憐風に言うのなら、つまりはベストコンディションって事だ。

いやはや、あいつすげえな……

「おいおい。 もう死にそうじゃないか。 大丈夫かい?」

化物は腕を引き抜き、少しだけ距離を取りながら言う。
830 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:08:23.64 ID:wQ9l4oiC0
暦「……ふう……ふう……はっ。 心配なんて、いらねえよ」

暦「……つうか。 それよりも、精々自分の心配をする事だな」

「減らず口だねぇ。 でもさ、そんな状態じゃあ次の攻撃も避けられないと思うけど、良いのかい?」

「こうして、君が回復するのを待っている僕の優しさも、少しは理解してもらいたいよ」

暦「んな物、いらねえっつってるんだ。 お前じゃ僕には勝てない」

「それは何かな。 守るべき物があれば、強くなれるとかそういう話かい?」

「確かに、妹ちゃんは守られているんだろうね。 本来の望みから掛け離れた願いを叶えられそうになっている訳だから、それを阻止しようとしている阿良々木くんにさ」

「まあ、僕が君の立場だったら、真っ先に原因たる妹ちゃんを排除してるよ」
831 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:09:14.25 ID:wQ9l4oiC0
暦「お前には分からないよ、一生な」

「はは、そうだろう。 だけどさ」

「だったら笑える話だと思わないか? 化物が守っている物が、金銀財宝では無く、ただの化物なんだから」

「阿良々木くんはそう思わないのかい? 君の妹は、化物なんだぜ」

暦「ちげえよ。 僕が守るのは、金銀財宝でも化物でもない……ただの妹だ」

暦「ぐだぐだ喋ってないで、さっさと来いよ。 そうすればどっちが強いかなんて、分かるだろ」

「そうかい。 じゃあ、遠慮無く」
832 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:09:44.18 ID:wQ9l4oiC0
本来なら、時間を稼ぐべきなのだ。

けれど、そうする事が出来なかった。

僕の事は、別に何と言われても良い。 それだけの事をしたのだから。

だが、僕の妹の事を化物だと言われて、黙っていられるほど僕の器は広くない。 それだけは、許せない。
833 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:10:13.15 ID:wQ9l4oiC0
そして、言葉通り、忍野の姿をしたそいつは目の前まで距離を詰める。

駄目だ、体が動かない。

立っているだけでも精一杯だ。 忍には限界すれすれまで血を吸わせたのだが、それでも回復が追いつかない。

そんな時。 次の瞬間には恐らく死んでいるであろうと思った時。

忍野「阿良々木くーん! 準備オッケーだぜー!」

なんて気の抜けた声が響く。

いやいや忍野。 合図を出すにしてもだな、もうちょっと格好良く決めようぜ、本当にさ。
834 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:10:39.78 ID:wQ9l4oiC0
「ん?」

と、化物の動きは一瞬だけ止まり、顔を忍野の方へと向けた。

今だ。

これを逃したら、チャンスは無い。

動け、動け、動け。

暦「うぉおおおおおおお!!」

化物の首に腕を回し、足までも絡ませる。

そしてそのまま、地面に倒れ込む。

「くっ……」

一瞬だけ焦りを見せたが、すぐにそれも消える。

「ははは。 おいおい、阿良々木くんはそういう趣味だったのかい? 意外だなぁ」
835 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:11:52.71 ID:wQ9l4oiC0
以前、余裕を見せる化物。

恐らく、こいつはこれすらも予想していた事なのだろう。

「この後は、あの専門家任せって訳か。 だけどさ、阿良々木くん」

「あいつがここに来るまでに、僕は君を殺して動けるまでにはなるんだぜ?」

暦「……そうかよ、それは驚きだ」

暦「けどよ、お前は一つ見落としてるぜ」

「見落としている? 何をだい?」
836 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:12:30.25 ID:wQ9l4oiC0
暦「確かに、これは僕が絶対に取らない方法だよ」

暦「そして、今この状況でも、絶対に取らない方法だ」

暦「だけどな、化物野郎」

暦「今までの事があって、今があるんだ。 だから僕はこの方法を取った」

暦「今しか見てないお前じゃ、僕達には勝てないんだ」

「なるほど。 その言い方からすると、そういう事なんだろう」

「当然、それも予想しているさ。 だけど僕はそれを絶対に取らないと思っている。 今こうして、この状況になってもだよ」

「……君はその後の事を考えているのかい。 今でも今まででも無く、先の事だ」

暦「考えてあるよ」

暦「僕は-------------」
837 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:14:08.43 ID:wQ9l4oiC0
小さな声で、目の前のこいつにしか聞こえない様に。

「ははは、おいおい。 それはやめた方が良いと思うぜ。 あそこに居る僕もそう言ってただろ?」

暦「言われたな。 どれが正しいのか、間違っているのかは分からない。 だけど」

暦「それであいつが救われるのなら、僕はどんな方法でも構わない」

「そうかい。 まあ良いさ」

「どうやら僕の、負けみたいだ」

暦「ああ。 じゃあな、化物野郎」

暦「それじゃあ」

暦「月火ちゃん、やってくれ」

背中に居る月火に、僕はそう声を掛け。

月火は無言のまま、心渡で僕もろとも、化物を突き刺す。

僕がそのまま意識を失う時。

「……精々、頑張れよ、阿良々木くん」

少しずつ消えていく意識の中、最後にドッペルゲンガーはそう言った。
838 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:14:49.52 ID:wQ9l4oiC0
以下、回想。

今日の夜、廃墟での会話。

「それじゃあ、作戦会議と行こうか」

「まず、大筋は妹ちゃんの作戦で大丈夫だと思う」

「阿良々木くんが動きを止めて、妹ちゃんが止めを刺すって方法だね」

「妹ちゃん自身の手を汚れさせるなんて、阿良々木くんなら確かに取らない方法だよ」

忍野は言い、僕に顔を向ける。

こいつは『その後の事』を知っている筈なのに、いやらしい性格だよな、全く。
839 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:15:16.26 ID:wQ9l4oiC0
「忍野。 その止めを刺す方法なんだけどさ」

「忍の刀、心渡を使おうかと思うんだ」

「……うん。 僕もそれでいこうかと思ってる。 あのブレードなら、一撃でも入れれば怪異その物であるあいつは死ぬだろうさ」

「だけど、それなりには阿良々木くんにもダメージはあるぜ? 多分意識はぶっ飛ぶだろうね」

「そうなのか? 前に体に仕込んだ時は、そうでもなかったけど」

「いやいや、別に怪異性があるからって話じゃないよ。 阿良々木くんなんて、殆ど人間なんだし」

「僕が言っているのは、単純にダメージの問題だ」

「それまでのやり取りで、それなりに負傷はしているだろ?」

ああ、そういう事か。
840 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:15:50.99 ID:wQ9l4oiC0
「別に成功していれば、僕は意識が吹っ飛ぼうと、腕が吹っ飛ぼうと構わない。 それで終わるんだったらな」

「そうかい。 妹ちゃんは、どう思う?」

「私は、お兄ちゃんがそれで良いって言うのなら、やります」

「はは、信頼されてるね。 暦お兄ちゃん」

「それは千石だ。 後お前がそんな呼び方しても寒気しかしないから、やめろ」

「なんだい。 弟キャラでいこうと思ったのに。 ノリが悪いなぁ」

どう頑張っても、お前はおっさんキャラにしかなれねえよ。

「私はどう? 暦お兄ちゃん」

「やめろ! 月火ちゃんにそんな呼ばれ方すると、なんか背中が痒くなる!」

「ひどいなぁ。 まいいけどさ」
841 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:16:21.28 ID:wQ9l4oiC0
「はいはい。 閑話休題。 話を戻そう」

忍野が手を叩き、再度話し始める。

「で、問題はタイミングだ」

「まあ、ばれない様に準備をするのは結構しんどいからね。 それまでは阿良々木くんには気合いでなんとか持ち堪えて貰わないと」

「気合いかよ……」

「一応、足運びを見ていれば良いと思うよ。 それで大体は動きが読めると思う」

「分かった。 なんとか頑張れって事だろ?」

「うん。 その通り」

「で、妹ちゃんに対する合図は僕が出す。 妹ちゃんが配置に付いたら、阿良々木くんの方にも僕が合図を出す」

「そうしたら、奴の動きを止めてくれ」
842 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:16:49.88 ID:wQ9l4oiC0
「動きを止めるって言われてもな……具体的には、どうやって?」

「うーん。 抱きついて押し倒せば良いんじゃない? 阿良々木くん、得意そうだし」

「僕を何だと思っているんだよ! それにおっさんにそんな事をする趣味は無い!」

「妹である私にはキスしたり、おっぱい揉んだりするのに? 同じく妹である火憐ちゃんの事を押し倒したり、歯磨いたりしてるのに?」

「あ、あはは」

「ま、とにかくそんな感じで行こう」

「他にもやる事はあるけど、それは僕の方でやっておくよ。 君達は今の事だけ、頭に入れておいてくれ」
843 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:17:17.16 ID:wQ9l4oiC0
回想終わり。

目が覚める。

ああ、やはり忍野の言う通り、意識を失っていたらしい。

辺りはまだ暗いし、時間はそれ程経っていないのだろうか?

まだはっきりとは見えないけれど。

突然。

ぽたり、と顔の上に雫。
844 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:17:45.56 ID:wQ9l4oiC0
月火「お、お兄ちゃああああああああああん!」

おいおい、キャラ崩壊してるぞ月火。

月火「し、死んだかと思った……私の所為で、もしそうだったら、私」

暦「……馬鹿言ってるな。 月火ちゃんに殺される程ヤワじゃねえんだよ」

月火「でも、でもさぁ……」

涙目月火。

ありっちゃありだな、これ。

僕がそんな新しい可能性を見出しているとは知らず。

それからしばらくの間、僕に抱き着き、月火はわんわんと泣いていた。
845 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:18:13.84 ID:wQ9l4oiC0
時間経過。

忍野「そろそろ帰ろうか。 まずは一旦、僕の家で良いかな?」

素直に廃墟って言えよ。 僕の家ってなぁ。

暦「そうだな。 月火ちゃん、歩けるか?」

月火「大丈夫だよ。 というか、その質問って私がお兄ちゃんにするべきじゃない?」

確かに、言われてみればその通り。

今日はどうやら月火も歩けそうではあるし、実際の所、僕はフラフラである。

まあ、けれども強がりたいのだ。 この妹の前では。
846 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/12(日) 17:18:46.65 ID:wQ9l4oiC0
暦「僕は大丈夫だよ。 それじゃ、行くか」

自然と、僕と月火は手を繋いで歩く。

月火の手は暖かく、僕の手は恐らく、冷たい。

そして、もうすぐで、この物語も終わりである。


第十八話へ 続く
853 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:01:34.66 ID:iFn+j3S00
現在は、忍野の家。

家というよりかは、廃墟。

いや、むしろ廃墟でしかない。 家という単語を使うのは、かなり違う。

忍野「妹ちゃんは?」

忍野がそう、僕に尋ねてくる。

暦「今は隣で休ませてるよ。 あいつも疲れただろうし」

忍野「そうかい」

忍野は言いながら、窓の外に視線を移す。
854 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:02:03.43 ID:iFn+j3S00
忍「しかし、我があるじ様よ」

忍「本当に、それをやるのか?」

忍は僕に向け、言う。

暦「ああ、やるよ」

忍「儂も賛成は出来んぞ。 そこのアロハ小僧同様、な」

暦「忍はそう言うと思った。 だけど、それで月火ちゃんが救われるなら、良いんだ」

一般的に見ても、間違っている事なのかもしれない。

だが、それで月火が怪異と関わらなくなるのなら、僕は迷わずやる。

暦「僕は」

暦「月火ちゃんの、記憶を消す」
855 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:02:32.31 ID:iFn+j3S00
忍「……お前様よ」

忍野「良いよ、忍ちゃん。 自分で経験しなきゃ分からない事もあるだろうさ」

忍野「ほら、阿良々木くん。 君に頼まれていた物だ」

そう言いながら、忍野が手渡してくるのは布に包まれた花粉。

火憐の時の、あの怪異が残した花粉。

忍野「下準備は済ませてある。 後はそれを口に当てて吸わせれば良い」

忍野「ここ数日の事は綺麗さっぱり忘れる筈だ。 だから、今回の怪異……ドッペルゲンガーに纏わる事は、全て忘れられるだろうね」
856 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:03:06.56 ID:iFn+j3S00
暦「悪いな、忍野」

怪異その物を忘れられれば、そこにあるという事にも気付かなくなる。

つまりは、関わらなくなれる。

それが月火にとっても、一番良い方法なのだ。

忍野「構わないよ。 それより一つ、聞いても良いかな?」

暦「ん? 何だよ」

忍野「まず、前回の怪異の時はでっかい方の妹ちゃんの記憶が消される事に、阿良々木くんは反対だったろ?」

暦「うん。 それは間違いないさ。 あの時は、そう思っていたから」

忍野「あの時は、か。 それで、今は違うと?」
857 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:03:53.00 ID:iFn+j3S00
暦「ああ。 怪異その物を忘れれば、もう関わらなくて済むかもしれない。 生涯ずっとって訳にはいかないかもしれないけどさ、少なくとも知ったままよりは、関わらなくて済むだろ」

暦「だから、忍野のあの時の選択は正しかったんだろうな」

忍野「どうだか。 あれはなるべくしてなったんだよ。 忘れるという事も、怪異の特性の一部だったからさ」

暦「でも結果的に、火憐ちゃんは怪異と関わらずに済んでいる。 それなら、同じ様に月火ちゃんもなるだろ?」

忍野「そうだろうね。 それは間違いない」

忍野「けどそれが、阿良々木くんが言う「妹達を守りたい」って事なのかい?」

暦「少し、違うかな。 守りたいって言うよりは、守りたいって思う状況を作りたくない。 が正しいのかもな」

忍野「そうか。 だからこその、今回の記憶を消すって事なんだね」
858 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:04:20.97 ID:iFn+j3S00
暦「そうだよ。 僕が思っているのは、それだけだ」

暦「……話は、もう良いか? あんまり待たせるのもあれだし」

忍野「うん。 もう止めはしない。 僕から言う事はそれくらいかな」

暦「分かった。 それじゃあ、ちょっと行って来るよ」

そのまま部屋を出ようとする僕に、後ろから声が掛かる。

忍野「ああ、一つだけ言い忘れていた事があった」

暦「ん? 何だよ」
859 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:04:47.26 ID:iFn+j3S00
忍野「どんな結末になったとしても、君はしっかりそれを受け入れるんだ。 自分の行動に、責任を持ってね」

暦「そんなの分かってるさ」

忍野「なら、良いよ。 行ってきな」
860 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:05:39.88 ID:iFn+j3S00
そして、僕は月火が居る部屋へと向かう。

ゆっくりと扉を開け、部屋に入るとすぐに、椅子に座る月火が目に入った。

暦「月火ちゃん」

月火「……お話は終わったの? って、これなんかデジャヴだ」

少しだけ眠そうに言う。 もう二時を回っているし、月火の年頃ではさすがにキツイか。

暦「僕の話、聞いてくれるか」

月火「うん。 良いけど、なんの話?」

暦「月火ちゃんは、気付いていたんだろ? 僕が何かを考えているって」
861 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:06:27.61 ID:iFn+j3S00
月火「……まあ、なんとなくはね」

言い辛そうに。 そして少しだけ悲しそうに、月火は言った。

暦「そっか。 さすがはファイヤーシスターズの参謀だな」

月火「そりゃそうだよ。 お兄ちゃんは参謀を侮りすぎだ」

暦「……だな」

そして、僕は告げる。 妹に。

暦「月火ちゃん」

暦「今から、月火ちゃんの記憶を消す」
862 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:06:56.47 ID:iFn+j3S00
この時、僕が予想していたのは、パニックになる月火だったのだけれど。

月火「そっか。 その手で来たかぁ」

月火「けど、良いよ」

月火は何でも無いように、そう言ったのだ。

あっさりと、僕の行為を肯定したのだ。

何でそうなる? おかしくねえか?

暦「なあ、もっと驚いたり、他のリアクションを取るべきだろ。 こんな事言われてさ」

月火「何で?」

暦「何でって、お前。 いきなりそんな事言われて、驚かないって方が無理もあると思うんだけど」
863 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:07:23.41 ID:iFn+j3S00
月火「いや、一応は驚いてるよ。 けど、別に良いかなって」

暦「記憶を消すんだぞ? 別に良いかなで済む問題かよ」

多分、僕は月火に怒って欲しかったのかもしれない。

そうすれば、多少は気が楽になると思うから。

妹の記憶を消すってのは、良い気分では無い。

いや、そもそもそんな事、誰が誰に対してでも進んでやりたい事では無いだろう。

だけども、月火は怒らない。 いつもはすげえ怒りやすいのに。
864 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:08:17.04 ID:iFn+j3S00
月火「それで済む問題だよ。 だって、お兄ちゃんが考えたんでしょ?」

暦「……そうだけど」

月火「なら、良いかなって思うんだよ。 前に言ったじゃん、お兄ちゃんのする事はいっつも正しいって」

暦「その時、僕は間違いだらけだって返したじゃねえか」

月火「なら私はこう返した。 私にとっていつも正しいからって」

暦「でも、他になんか言う事とか、無いのかよ」

月火「無いね。 皆無だよ」

月火「私はお兄ちゃんの言う通りにする。 それで良いでしょ?」
865 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:08:45.46 ID:iFn+j3S00
暦「……はは。 お前は、火憐ちゃん以上の従順さだな」

月火「かもしれないし、そうじゃないかもね」

暦「……そうか。 ごめんな、月火ちゃん。 約束を破って」

月火「お兄ちゃんが約束を破るなんていつもの事じゃん。 何今更謝ってるのさ」

月火「それにどっちかって言うと、私の方が約束破ってるし。 一々気にしてどうするの?」

暦「そうだったそうだった。 月火ちゃんはそういう奴だ」

月火「いやいや、自分で言っておいてあれだけど、そう決め付けられるとちょっとイラってするね」
866 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:09:23.02 ID:iFn+j3S00
暦「んだよ。 じゃあ言い方を変えてやる」

暦「月火ちゃんはそういう奴じゃないよな」

月火「なんか納得行かないなぁ……」

暦「じゃあどうしろって言うんだよ」

月火「うーん」

月火「どうもしなくて良いんじゃない? ていうか、やっぱり最初ので良いや」

なら最初から文句言うなって……
867 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:09:59.55 ID:iFn+j3S00
月火「それにしても、火憐ちゃんどうしてるんだろ?」

暦「寝てるんじゃねえのか?」

暦「あれ、そういや月火ちゃんさ、家出る時になんて言ったんだ? 火憐ちゃんと話してたみたいだけど」

月火「決まってるじゃん。 お兄ちゃんの自分探しの旅に、無理矢理付き合わされてるって言っておいたよ」

暦「それが本当だとすると、僕はこれから、また死ぬか生きるかの戦いをしないといけないみたいだな」

月火「嬉しい事に本当だよ。 頑張ってね、お兄ちゃん」

暦「まあ、なんとかするしかねえか」
868 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:11:40.57 ID:iFn+j3S00
月火「うんうん。 でもね、ただの自分探しの旅じゃないんだなぁ、これが」

暦「僕的には、自分探しの旅に種類がある方が驚きだよ」

月火「名付けて、最後の自分探しの旅」

暦「格好良いけどもな!」

つうかそれだと、その後僕は死にそうな予感がしてならない。

いや、これからあるだろう火憐の追求に、果たして僕は生き残れるのかまだ決まってはいないので、本当に亡き者になる可能性はあるのだが。
869 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:12:07.55 ID:iFn+j3S00
月火「けどさ、正直な話」

月火「火憐ちゃんは大丈夫でしょ。 抱き締めれば一発だよ」

暦「その方法は出来れば避けたい……」

月火「それじゃあ、土下座しかないね。 お兄ちゃんお得意の」

暦「一応伝えておくが、月火ちゃん。 お前の土下座も中々の物だぜ」

月火「何言ってるのさ。 私の土下座なんて、お兄ちゃんや火憐ちゃんに比べたらまだまだだよ」

月火「お兄ちゃんは、週二くらいでしょ? 火憐ちゃんは週一かな」

月火「で、私は月一だし。 熟練度が違うんだよ」

暦「すっげえ嫌な熟練度だな……それ」
870 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:12:38.74 ID:iFn+j3S00
月火「この前さー。 そんな話を友達としたんだよね」

え、お前土下座の話を友達としたの!?

月火「で、そうしたらこう言われちゃった」

月火「「いや、普通の家はそんな土下座祭りじゃないよ」って」

暦「いやいや、それは無いだろ」

月火「だよね?」

恐らく、月火の友達は恥ずかしがってるだけだろうな。

というか、僕達兄妹ですら少ない方だと思うし。

暦「でも、その土下座祭りってのは良い響きだ。 なんか知らんけど」

月火「おお、私もそう思ってる所だった。 今度やろうよ、土下座祭り」

一体どんな祭りになるのだろうか。 想像できない。
871 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:13:16.99 ID:iFn+j3S00
暦「月火ちゃんのチャレンジ精神には、時々驚愕するぜ」

月火「そうかな? 何でも試さないと、分からないでしょ?」

暦「いやまあ、そうかも知れないけどな」

月火「って事で、ほら。 ちゃっちゃと記憶消すのを済ませちゃおう」

暦「軽い感じで言うなよ。 僕も罪悪感はあるんだからさ」

月火「へえ。 私のおっぱいに触る時は、全然そんなの感じて無いみたいだったけど」

暦「そりゃお前、月火ちゃんの胸が僕の手を揉んだ訳だし」

月火「その言い訳、もはや逮捕されても不思議じゃないよ……」
872 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:14:34.69 ID:iFn+j3S00
暦「それに、僕に胸を揉まれる時って、月火ちゃん嬉しそうじゃん」

月火「私がいつそんな反応をした!!」

いやいや、だってさ。

暦「それじゃあこの前のキスの時は? 夕方、僕の部屋で二人の時」

月火「あ、あれは。 その」

何照れてるんだよこいつ。 言い出した僕が恥ずかしくなるじゃねえか。

月火「……その、流されて」

月火「ってそんな事はどうでも良い!」

月火「よし! じゃあ無駄話はここまでで、終わらせよっか」
873 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:15:05.88 ID:iFn+j3S00
暦「都合の悪い話を摩り替えやがったな」

月火「良いでしょ、別に」

暦「月火ちゃんが良いなら、僕は良いよ」

月火「お兄ちゃんはそうだよね。 私の事が大好きだもんね」

暦「……それ、同じ事を最近火憐ちゃんにも言われたなぁ」

月火「そうなんだ。 で、お兄ちゃんは何て返したの?」

暦「決まってるだろ。 同じ様に返すとだな」

暦「月火ちゃんの事は、超大好きだ」
874 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:15:33.88 ID:iFn+j3S00
月火「……うん。 だよね」

笑いながら、月火は続ける。

月火「それじゃー、そろそろ頼もうかな」

月火の言葉に、僕は頷き、近くに行く。

月火「……あ、でもちょっと待って。 最後にお願い一つ、良いかな」

月火「お願いというか、提案かなぁ」

暦「良いよ、何でも」

月火「そっか、じゃあお兄ちゃん」

月火「キス、しよっか」
875 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:16:11.50 ID:iFn+j3S00
月火は目を閉じ、僕に顔を近づける。

僕も黙って、そんな月火にキスをした。

月火「……さすがに恥ずかしいね」

暦「僕は別に平気だけどな」

月火「本当に?」

暦「多分」

月火「本当に多分?」

暦「……やっぱり少し、恥ずかしいかな」

月火「よろしい!」

だから、何様だって。
876 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:16:56.23 ID:iFn+j3S00
月火「それじゃー」

暦「ああ。 これを吸えば、ここ数日の事を忘れられる」

月火「了解了解」

月火「じゃあ、またね。 お兄ちゃん」

暦「またな」

そして、僕は布を月火の口へと当てる。

次第に、月火の体から力が抜けていき。

暦「月火ちゃん」

僕に名前を呼ばれ、月火は僅かに反応をした。
877 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:17:26.31 ID:iFn+j3S00
暦「……ありがとう」

その言葉は、届いていなかったのかもしれない。

僕がそう言った時には、月火は完全に意識を失っていたのだから。

けれども、そっちの方が良かったのだろう。

僕はとても、月火にお礼を言える立場になんて無い。
878 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:18:16.29 ID:iFn+j3S00
時間経過。

暦「終わったよ、忍野」

忍野「そうかい」

忍野「妹ちゃんはそんな長い間、意識を失っている訳じゃないからね。 それにきっかけがあれば思い出す可能性もある」

忍野「とは言っても、強烈な事が無ければ、思い出す事も無いさ」

忍野「もう一度怪異に会ったり、それくらい強烈な事がなきゃね」

暦「分かった。 迷惑掛けたな、忍野」

忍野「そんな事を言っている場合じゃないよ、阿良々木くん」

忍野「これから大変なのは、君自身なんだから」
879 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:18:45.25 ID:iFn+j3S00
忍野はいつもの様に笑う事はせず、無表情で僕にそう言った。

忍野「阿良々木くんは、軽く考え過ぎていると思う」

暦「軽くなんて、考えてねえよ」

忍野「違う違う」

忍野「今回の行動を取った時点で、僕にはそうとしか見えないって話さ」

暦「それがあいつの為にもなるんだよ。 怪異なんて、最初から関わらない方が良いって忍野も言ってただろ?」

忍野「言ったよ」

忍野「けど、自然に関わらないのと、無理矢理関わらなくするのは意味が違うんだよ。 阿良々木くん」
880 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:19:25.24 ID:iFn+j3S00
暦「んな事言ったら、この前の怪異だって」

忍野「さっき言ったじゃないか。 あいつは、忘れる事まで含めて怪異だ」

忍野「考えてみなよ、阿良々木くん」

忍野「前回はそうならざるを得なかった。 だが、今回は人為的な物だろ?」

忍野「阿良々木くんの意思で、記憶を消したんだ」

人為。

確かに、意思だ。 それは僕の意思。
881 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:20:07.45 ID:iFn+j3S00
忍野「それがどれ程の事か、分かるかい?」

暦「だけどな、僕は……月火ちゃんの為にも!」

忍野「それを妹ちゃんが望んだのか?」

月火は、それを望んでいたか。

暦「……それは、違うかもしれないけどさ。 今後起こる事を考えたら、そっちの方が幸せだろ?」

忍野「前に言ったじゃないか。 忘れたのかい、阿良々木くん」

忍野「物事を平面的に捉えろ。 ってね」

忍野「君の視点から見て、君の視点から考えただけじゃないか」
882 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:20:57.86 ID:iFn+j3S00
忍野「そして、今の君にはこうも言える」

忍野「そのくだらない価値観を人に押し付けるな。 なんてね」

暦「僕は、僕は月火ちゃんの事を考えてやってるんだよ。 忍野に言われる筋合いはねえぞ」

忍野「ああ、それもそうだ。 僕にそれを言う権利は無いんだろうさ」

忍野「それに、もうやってしまった事だ。 話しても結果は変わらない」

忍野「……いや、そうでもないかな」

忍野「まあ、とにかくだ」

忍野「阿良々木くん。 あんまり話していて妹ちゃんが起きても困るし、そろそろ帰りなよ」
883 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:21:28.96 ID:iFn+j3S00
暦「ああ。 そう……だな。 分かった」

暦「忍野、なんつうか」

暦「……悪かったよ。 僕は間違えたのかもな」

忍野「それは君が決める事だ。 僕の方こそ間違えているかもしれないし」

忍野「でも」

忍野「いや、これを言ったら元も子も無いか。 阿良々木くん」

暦「ん?」

忍野「君の周りは本当に、良い子だらけだよ。 もし、君がずっと一人ぼっちだったら」

忍野「君もここまで、優しくは無かったんだろうね」
884 : ◆XiAeHcQvXg [saga]:2013/05/13(月) 13:22:03.60 ID:iFn+j3S00
暦「……どっちにしても、僕は優しくねえよ」

忍野「はは、そうかいそうかい」

忍野「それでも、君の妹ちゃんは兄想いだよ。 それは分かるだろ?」

暦「そう、だな。 さすがにそれは……分かる」

忍野「それは多分、昔も今も『これから』も、だろうよ」

忍野「それじゃあ阿良々木くん、お疲れ様」